各部隊の準備が整い、いよいよ出立の日となった。
軍が動くとあって、城内全体が慌ただしくバタバタしている状況なのだが、城壁の上を1人プラプラと歩く姿が見える。北郷一刀のようだ。
「………何度見ても、壮観だなぁ」
彼にとっては今回が初陣ということもあり、緊張しているのではないかと思うところだが、表情からはそれが伺えない。
むしろ、その口から出てくる言葉はどこか間の抜けたものであった。
「どうした、そんな間の抜けた顔をして。」
夏侯惇も同じ様に見えたのだろう。声をかけるつもりも無かった様だが、ついついかけてしまう。
「いや、こんなにたくさんの兵隊さんを見るのって、初めてだから。ちょっと感動したというか、驚いたというか………。」
「この程度でか?」
呆れながらも軽口を挟んでしまい、2人が話をしているうちに曹操が夏侯淵を連れてやってくる。
「………何を無駄話をしているの、2人とも?」
更に呆れた表情で声をかける曹操に、夏侯惇と北郷は更に騒ぎ始める始末。
「はぁ………春蘭。装備品と兵の確認の最終報告、受けていないわよ。数はちゃんと揃っているの?」
「は………はいっ。全て滞りなく済んでおります!北郷に声をかけられたため、報告が遅れました!」
「………その一刀には、糧食の最終点検の帳簿を受け取ってくるよう、言っておいたはずよね?」
「あ………。すまん!すぐ確認してくるっ!」
「早くなさい。あなたが遅れることで、全軍の出撃が遅れるわ。」
「ホントにごめん!」
見かねた夏侯淵が助け舟を出す。
「………北郷。監督官は、いま馬具の確認をしているはずだ。そちらへ行くといい。」
馬具が置いてある場所まで向かう北郷。
夏侯淵に教えてもらった場所にたどり着くと、出撃前とあってピリピリした空気を強く感じる。どうせ聞くならあまりそうなってない人に………という甘い考えで、近くに居る少女に声をかけてしまう。
「あ、ちょっと君!………ちょっと、そこの君!………聞こえてないのかな?おーい!」
「聞こえているわよ!さっきから何度も何度も何度も何度も………一体何のつもり!?」
こうして北郷と荀彧の初会合がなされたのだった。
その頃王蘭はというと、そこからすぐ近くで糧食の最終点検を実施していた。
「例の差分の件、誰にも感づかれる事なく用意頂けましたか?」
「はっ。布をかけてすぐに運び出せる状態になっています。」
「ありがとうございます。出立さえすれば最後尾に続く我々の荷車の中身など、輜重隊以外の者がいちいち気にすることもないでしょう。それまで秘匿に、よろしくお願いしますね。」
「はっ」
糧食の差分を、何とか荀彧に見つからずに用意することが出来た様だ。
いつも通りであれば、特に気をつけるでもなく難なくできたのだろうが、さすがは荀彧といったところか。細かく実施状況の確認にやってきては、余計な事をしていないか目を光らせていた。
幸いにも馬具に矢束、食料の確保等々と、管理する対象が多岐に渡っていたおかげで、王蘭たちは彼女の目を盗む事ができたようだったが。
荀彧からすれば、今回のこの一計が自身の命を左右するものである以上、失態を犯すわけにはいかない。
並々ならぬ決意をもって監督官の仕事にあたるのも、無理からぬ話である。
さて、荀彧から再点検の帳簿を手にした北郷だが、曹操の元に急いで駆けつけ帳簿を渡す。そこから荀彧を呼びつける事態に発展。
そしてこれを機として、荀彧が曹操麾下の軍師として登用される事なるのであった。
事の顛末を出立の間際に夏侯淵から聞いた王蘭は、ようやく荀彧の意図を理解した。
軍師として登用してもらうための彼女のその心胆、心意気はまさに称賛すべきものとして、尊敬の念を抱くと同時に、今回のこの討伐行が新設部隊の活躍の場でもあると、気合を入れ直した。
そう。王蘭の小隊は輜重隊としての任務と平行して、この行軍が斥候部隊としての初の活躍の場と捉えていた。
前線の部隊ではなく、後衛としての役割を与えてもらったのもこのためである。
今回の斥候隊としての目的は、今後のために実践経験を積むこと。
敵陣の中に忍び込むなどの危険を伴う作戦は考えておらず、敵の本拠地の場所やざっくりとした敵の人数など、本陣の作戦立案、実行に必要となる基本的な情報を持ち帰る事を目標としていた。
ちなみに糧食の追加用意分については、万が一としてそのまま持っていくことにしたようである。
そうして、いざ出立の時がやってきた。
軍はこれまでの討伐に比べて僅かに速い、くらいの速度で進軍する。
輜重隊として王蘭の小隊も遅れないようについていくが、隠した食料も運んでいるため、多少辛そうではある。
出立の際、小隊の中から数人を選別し、目的地周辺の状況を探らせに向かわせていた。
特に問題もなく任務を果たせれば、賊の根城の位置に関する情報を持ち帰ってくる算段だ。
しばらくの後。
そろそろ斥候部隊の兵が報告に帰ってきても良さそうな………?と王蘭が考えていた時に、夏侯惇が北郷らを呼びに来る。
「おお、貴様ら、こんな所にいたか。」
「どうした、姉者。急ぎか。」
「うむ。前方に何やら大人数の集団がいるらしい。華琳さまがお呼びだ。すぐに来い。」
それぞれが返事を返す際、夏侯淵から王蘭に、お前も来いと目で合図が送られる。
斥候として先に行かせた兵には、緊急性の高いものが見つかった場合には、
王蘭や夏侯淵を通さずに曹操へ報告して構わない、と伝えてあった。
恐らく、その緊急性の高いものが見つかったのだと判断したためである。
夏侯淵の後ろに控えるように王蘭が立つ形で、曹操の元に着いた一同。
「………遅くなりました。」
「春蘭、皆の招集ご苦労さま。早速だけれど、この先行軍中の集団が見つかったわ。数は数十人。旗はなく、格好からして盗賊の集団ということよ。」
曹操のすぐそばに膝をついて控えていたのは、やはり王蘭小隊の斥候兵だった。
「桂花、私はどうすべきかしら?」
「はっ、もう一度偵察を出しましょう。夏侯惇、北郷、あなた達が指揮を執って。」
「おう」
「お、俺ぇ!?」
こうして夏侯惇と北郷が再度偵察隊として現場に向かうことに。
先に出しておいた斥候とは違い、戦闘を見据えての再偵察であるようだ。
その再偵察隊の中に、斥候兵を数人含めさせる王蘭の姿が。
「北郷さん、ちょっと良いですか?」
「ん?あぁ、徳仁さん。どうかしました?」
王蘭は北郷さん、北郷は字の徳仁さんと呼び合っているようだ。
「再度偵察に行かれるということなので、我が隊の斥候兵を数名お連れください。仮にその集団が盗賊で戦闘に入ったなれば、夏侯元譲将軍がいらっしゃるこちらの勝利は必至。ならば、賊らが逃亡する際に数人をわざと逃がし、我が隊の兵を使って追跡させてください。」
「………そっか!敵の拠点もそれで判明するかもってことですね。わかりました、ありがとうございます。」
………。
夏侯惇と北郷が再度偵察に向かってからすぐ、曹操たちも報告のあった場所へと急ぎ向かう。
「秋蘭、私達もなるべく急いで後を追うわよ。賊ならば春蘭なら迷わず戦闘に入るわ。敵は盗賊なのだから殲滅してしまえばよかろう!なんて言って深追いしてなければいいのだけれど………。」
「そうですね。姉者ならやりかねません。北郷が居ますが、まだ姉者を御しきれるかはわかりませんので………。なるべく急ぎましょう。総員!駆け足!!」
報告があった集団の元へと急ぐ。
途中に曹操の予想通り、夏侯惇隊が戦闘に入ったとの報告を受け、更に急いで歩を進める一同。
しばらくして、ようやくその場所と思わしきところまで軍を進めると、前方から北郷の声が聞こえてくる。
「おーい!華琳ーっ!」
こちらに向かって手を振る北郷が見えるが、その横には夏侯惇ともう1人、少女が立っているようだ。
本隊がようやく彼らの近くまで辿り着き、曹操が状況の確認をする。
「一刀。謎の集団とやらはどうしたの?戦闘があったという報告は聞いたけれど………。」
「やっこさんらは春蘭の勢いに負けて逃げてったよ。何人かに尾行してもらってるから、本拠地はすぐ見つかると思う。」
「あら、なかなか気が利くわね。」
「お褒めに預かり光栄の至り………ってね。実は秋蘭の………。」
北郷が状況の説明をしようと言葉を続けようとするが、近くに驚愕の表情を浮かべて立っていた少女が割り込む。
「あ、あなた………。」
それに気づいた曹操が、問いかける。
「ん?この子は?」
曹操の言葉を無視して、今度は夏侯惇に問いかける少女。
「お姉さん、もしかして、国の軍隊………っ!?」
「まあ、そうなるが………ぐっ!」
夏侯惇の言葉を聞いた少女が、持っていた巨大な鉄球を夏侯惇に向けて振り下ろした。
急な攻撃にもなんとか反応して防いだ夏侯惇だったが、別の兵士だったならば無事では済まないだろう。
「き、貴様、何をっ!」
夏侯惇の言葉に少女が答える。
「国の軍隊なんか信用できるもんか!ボク達を守ってもくれないクセに税金ばっかり持っていって!お前達なんかどっか行っちゃえええ!!てやああああああああああっ!!!!!」
少女が構えた鉄球が、再度振り下ろされるのだった。
あの子登場。わかりますね。
ドンドン話を進めて行ければと思います。
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