真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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皆様、お久しぶりです。
ハーメルンの感想欄やツイッター等々、読んで頂いたお声を多数頂いておりまして、本当にありがとうございます。

それと同時に、現在別の作品に手をつけておりますが、そちらの更新が中々捗っておらず、継続して読んでくださっている方には大変申し訳なく思っております。
こちらは今一度全体を見つめ直して、全体プロット書き上げてから再度着手する方針へと切り替えました。それが完了次第、また執筆を進めさせていただきます。


さてさて、今回は後日談的なものを書かないのか!?とこれまた感想欄、Twitterで多くのお声を頂きました。
クリスマスや新年など、タイミングがありましたが他作品の息抜きとして今頃着手してみました笑

楽しんでいただけると幸いです!!




SS:甘いお菓子に想いを込めて

 

「ばれんたいんでい?」

 

 

ある晴れた日のこと。

陳留の城にある東屋で、王蘭と夏侯淵が2人肩を並べて座っている。

お茶と簡単な茶菓子が広げられ、一息ついているようだった。

 

この日は2人とも非番なのだろう。仕事中のキリッとした雰囲気はなく、和やかな空気の中で会話をしている。

寒空に高く昇った午後の陽を受けながら、ゆっくりと茶を楽しんでいるようだった。

 

 

「はい。どうやら、天の国のとある記念日をその様に言うのだそうです。先日、北郷さんと雑談をしているときにその話を伺って。そろそろその日かぁなどと呟いていらっしゃったので、気になって聞いてみたんです。」

 

「ほう……天の国の記念日か。して、それは何を記念した日なのだ?」

 

「えっと……そもそもの起源は北郷さんも忘れてしまわれたそうなのですが、どうやらその起源よりもその日に行われる事に重きがあるようでして。」

 

「行われる事?」

 

「はい。その日は、想いを寄せる相手にお菓子を贈る日なのだとか。お菓子と一緒に、相手への恋慕をお伝えして恋仲になったり、ならなかったりするそうですよ。」

 

「ふぅむ……そういった恋路の後押しをしてくれる記念日が天の国には制定されているのか……なんとも珍妙な記念日だな。」

 

 

興味深そうに頷く夏侯淵。それから茶を一口すすり、ほぅっと息を吐く。

白く煌めく呼気を眺めながら、熱い茶が体を中からじんわりと温めてくれるのを感じる。

舌で味わい、口から鼻へと抜ける茶の香りが心地よい。隣の彼へと僅かに寄りかかりながら、両手でそっと茶器を握りしめていた。

 

王蘭もまた、自分の茶を啜る。それを飲み込むと、目の前に用意されたお茶請けへと手を伸ばしてパクリと口に入れた。

もぐもぐとゆっくりと咀嚼して味わい、それをごくりと飲み込んだ。また一口、茶を啜った。

自分のために焼かれた菓子と、それに合わせて淹れた茶、そして何より自身の左側に感じるぬくもりに日常の幸せを感じる。

 

 

「……えぇ。更に面白いと思ったのが、お菓子を贈る相手への感情は何も恋慕だけに限らないのだとか。親愛、友愛の類であってもそうしたお菓子に感謝を込めて贈るのだそうです。一応、恋心を伝えるお菓子を”本命ちょこ”、もう一方の親しみを込めて贈るのを”義理ちょこ”と言うそうです。」

 

「なるほど……私も以前北郷に天の国の話を聞いたことがあってな。天の国でも恋慕を表立って表現するのはあまり一般的ではないそうだ。どちらかと言うと恥ずかしくて隠してしまう方が多いのだとか。おそらく、その”義理ちょこ”なるものが生まれたのも、恋慕をひた隠すために生まれたのかも知れんな……。」

 

「なるほど……想いを周囲に知られないようにするためですか。それでも意中の相手には自分の特別な想いを感じてもらえると……。なんとも、天の国は健気と言えば良いのか、奥ゆかしいと言えば良いのか……。」

 

 

そんな会話をしている2人のもとへ、とてとてと1人の少女が駆け寄ってくる。

 

青い髪が冬の陽に照らされてキラキラと輝き、その髪にはいわゆる天使の輪が。

そんな綺麗な髪を肩口まで伸ばし、こめかみの辺りには母親がいつも大切にしている髪飾りによく似た飾りを付けている。

───ちなみにこの日の母親の髪には、その娘が憧れた髪飾りが同じ位置でどこか誇らしげにキラリと輝いているのだが。

服装も、母親の着物の意匠に近い子供用の服を着ており、ひと目で2人が親子であることがわかる出で立ち。

年はまだまだ幼く、5つにもなって居ないだろうか。そんな少女が、無邪気に笑いながら東屋へと駆け寄ってくる。

 

 

「おかあさまーーー!」

 

「ん? どうした、小夜(さや)。そんなに慌てて走っては、また転んでしまうぞ?」

 

「だいじょうぶだもんっ! あのね、ほんごうさまがね、小夜にね、おつかいなの!」

 

 

母の元までやってくると、眩しいくらいの笑顔を目一杯に母へと向ける少女。

愛する我が子の頭にポンポンと手を乗せながら、身を(かが)ませて少女と同じ目線の高さになる。

 

 

「北郷が小夜に、何かお使いを頼んだのか?」

 

「はいっ! あのね、これね、おかあさまと、おとうさまのね、にね、どうぞって!」

 

 

まだまだ言葉にすることが得意ではないのだろう。たどたどしくも、一生懸命にお使いの内容を説明する少女。

そしてそれを聞く母はそれを馬鹿にすることも、途中で遮って言葉の使い方を指摘することもなく、彼女の言葉を最後まで聞き届けている。

そんな2人の様子を微笑ましく横から眺める王蘭は、そっと自分の懐から手ぬぐいを取り出して母親へと手渡す。

彼女はそれを受け取ると、娘の額に浮かぶ汗を拭き取っていく。

 

少女はされるがままになりながらも、母へと手に持った包みを差し出している。

汗を拭き終えて手ぬぐいを王蘭へと返すと、夏侯淵はその包みをようやく受け取った。

 

 

「これでお使いは完了かな? 小夜、ありがとう。」

 

「はいっ!」

 

「小夜、お使いご苦労さまです。では、依頼主の北郷さんに任務完了の報告をしなければなりませんね。ついでに北郷さんにありがとうと、伝えて頂けますか?」

 

「はいっ! おとうさまっ!」

 

「良い返事です。報告が終わったらまたここにいらっしゃい。一緒にゆっくりしましょう。」

 

「はいっ! いってまいります!」

 

 

そう言うとくるりと向きを変えて、再び走り始める少女。

その後姿を、残された2人は優しい微笑みを浮かべながら見つめていた。

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

それから数日が経った頃。

 

 

「ただいま戻りました。」

 

 

王蘭と夏侯淵は結婚を機に、新たに一軒家を構えていた。

その玄関を開いて、帰宅を告げて中へと入る王蘭。

 

 

「おとうさまっ! おかえりなさい!」

 

「蒼慈……おかえり。」

 

 

その声に反応して、家の中からは愛する家族が出迎えてくれる。

日に日にその幸福感が薄れていくのではないかと危惧していたのだが、そんな事は全くなく毎日のこのやり取りが幸せを感じさせてくれる。

 

 

「秋蘭さん、小夜……ただいま戻りました。小夜、これをお願いできるかな?」

 

「はいっ!」

 

 

夏侯覇は王蘭の荷物を受け取ると、落とさないようにしっかりと抱えながら居間へと運んでいく。

王蘭が帰宅した際、持っている荷物を運ぶのは彼女の大切な仕事だった。

 

初めの頃は今くらいの荷物でもよたよたと危なげだったのだが、それをしっかりと抱えながら運んでいく姿に娘の成長を感じる王蘭。

その頼もしくも小さな後ろ姿を見送ると、玄関まで迎えに来てくれた夏侯淵へと向き直る。

 

 

「今日もお出迎え、ありがとうございます。」

 

「うむ……まぁ私がしたくてしているだけだからな。小夜と一緒に蒼慈を出迎えるのは、これはこれで私の幸せでもあるのだぞ?」

 

「そうですか……その、ありがとうございます。」

 

「ふふっ、こちらこそ、だ。……さて、早速だが飯にしようか。構わないか?」

 

「えぇ。お願いします。」

 

 

こうして家族3人、机を囲んで夕食を摂った。

ご飯を食べながら今日の出来事を家族で共有する貴重な時間を、王蘭たちはゆっくりと噛み締めながら楽しんだ。

 

 

「……さて。小夜、そろそろ構わないのではないか?」

 

「ほんとうっ!? すぐ、もってきます!!」

 

 

食後に一息つこうかというところで、夏侯淵は娘の夏侯覇へと声を掛ける。

それに元気よく反応すると、夏侯覇はいそいそと別の部屋の方へと向かっていく。

 

 

「……? 何かあるのですか?」

 

「まぁな……お前はそのまま何も気にせずゆっくりしていてくれ。今、茶を淹れよう。」

 

「は、はぁ……。」

 

 

夏侯淵も席を立ち、茶の用意を始める。

1人食卓に残された王蘭。落ち着かずにそわそわしているのは、城では見られない珍しい光景かもしれない。

そこに、夏侯覇が戻ってくる。

 

 

「おかあさま、もどりましたっ! ……あ、あれ? おかあさまは……?」

 

「秋蘭さんは今厨房にお茶の用意をしにいってくれていますよ。」

 

「わかりましたっ! えっと、おとうさま、おしえてくれて、ありがとうございます!」

 

 

王蘭に内緒にしたまま、夏侯淵に手渡すものがあるのだろう。

姿の見えない夏侯淵の元に行くため、後ろ手に何かを隠しながら横歩きで厨房の方へと移動していく夏侯覇。

 

これを気付いて居ないかのようにやり過ごすのは、かなり大変なことではある。

だが、諜報部の長として感情を相手に読み取らせない経験が、思いもよらぬ場面で活かされてしまった。

 

ようやく夏侯覇が横歩きで厨房へとたどり着くと、そこで2人が何か話している事はわかるが、その内容までは聞こえてこない。

まぁ直ぐにわかるだろうと、食卓についたままその時を待つことにした。

 

ようやく秘密の打ち合わせが終わったのだろう、夏侯覇は夏侯淵と一緒に食卓の方へとやってくる。

後ろ手にまだ何かを隠したままで。

 

 

「あっ、あのっ! きょうは、おとうさまに、小夜から、おくりものが、ありますっ!」

 

「おや、贈り物ですか? それは嬉しいですね……何でしょうか。」

 

「こ、これを、うけとって、くだしゃいっ!」

 

 

噛みながらではあるが、そう言ってようやく隠していたものを見せて王蘭へと差し出してくる夏侯覇。

差し出されたのは、小さな包みだった。

 

そして、そこには夏侯覇が一生懸命に書いたことがわかる字で”ありがとう”と感謝の言葉が書かれていた。

 

 

「おとうさま、いつもおしごと、ありがとうございます! いつものかんしゃをこめて、小夜がいっしょうけんめい、つくりましたっ!」

 

 

包みと一緒に夏侯覇から温かい言葉をもらう王蘭。

じんわりと、胸の奥の方からぽかぽかとした温もりが溢れてくる。

 

 

「小夜、ありがとう。これは、小夜が作ったのかな?」

 

「は、はいっ! おかあさまに、そうそうさま、てんいさまにおしえていただきながら、しゅんらんおばさまたちと、いっしょに、つくりました!」

 

「それは凄い。早速開けても良いですか?」

 

「はいっ!」

 

 

王蘭の反応を見逃すまいと、ドキドキしながら夏侯覇はじっと見つめている。

王蘭はその視線を受けながら、包みに書かれた”ありがとう”の感謝の文字を指でなぞった後、ゆっくりと丁寧にその包みを開けていく。

 

そこにあったのは、少し形のくずれたクッキーだった。

 

 

「これは……もしかして天の国のお菓子ではありませんか? 小夜は凄いですね、まだこんなに小さいのに天の国のお菓子を作れるなんて。」

 

「はいっ! ほんごうさまに、おしえていただきました! きょうは、”ばれんたいんでい”なので、ありがとうを、おつたえする日です!」

 

「なんと、今日でしたか。……では確かに。小夜からの感謝の気持ち、しっかりと受け取りました。私からも小夜にありがとうをお伝えしますね。いつも良い子で居てくれて、ありがとう。」

 

「はいっ!」

 

 

満面の笑みで応えてくれる夏侯覇。

よしよしと綺麗な青髪の頭を撫でてから、せっかく貰ったそのクッキーを一つ口に含む。

 

 

「……うん、とても美味しいです。小夜はお菓子作りが上手ですね。」

 

「はいっ! えへへ……ありがとうございます!」

 

「ふふっ……小夜、よかったな。さぁ、そろそろ夜も遅くなってくる。寝支度をして、布団に入りなさい。」

 

「はーいっ! おとうさま、おやすみなさい!」

 

「はい、おやすみなさい。」

 

 

王蘭は手にもった小さな包みを大切そうに持ったまま、愛娘を見送った。

寝支度を整えて自分の布団に入ったことを確認すると、それと入れ替わるように夏侯淵が王蘭の隣へと腰掛ける。

 

 

「よかったな、蒼慈……小夜が頑張って作ったのだ。大切に食べてやってくれ。」

 

「もちろんですよ……こんな素敵なもの、大切にしないわけがありません。」

 

「ふふっ……だがそれ程までともなると、なんだか少し妬けてくるな。」

 

「顔が笑ったままですよ。」

 

「おや、そんな返しをしてくる様になったか……まぁ冗談は置いておいてだな。」

 

「……どうかしましたか?」

 

「いや、その……な?」

 

 

いつもの態度が変わったかと思えば、夏侯淵らしからぬどこかおどおどした様な態度を見せている。

目線が左右に泳ぎ、頬も僅かながらに赤みが差している。

 

 

「その……だな。実はお菓子を作ったのは小夜だけでなく、私も蒼慈のために作ってみたのだが……受け取ってくれるか?」

 

 

意を決して告げられた内容。

それを聞いた王蘭もまた、夏侯淵の様に頬を赤らめた。

 

 

「……はい、もちろんです。喜んで頂戴します。」

 

 

その返事を聞くと、夏侯淵も夏侯覇とおそろいの包みをそっと差し出した。

包みに文字が書いてあるところまで一緒。

 

 

「もちろん、お前だけの特別の”本命ちょこ”と思ってもらって構わんぞ?」

 

 

「そうでなくては困ってしまいますね……ありがとうございます。こんなに嬉しいことはありません。もちろん、私もですよ。」

 

 

そう言って、王蘭は頬を赤らめたままの愛する人をそっと抱き寄せた。

潤んだ瞳で見上げる彼女と見つめ合うと、彼女の柔らかな唇をそっと塞いだ。

 

 

 

部屋の灯が優しく揺れて、包みに書かれた文字を照らし出す。

 

”愛している”

 

 

 

 

 





如何でしたでしょうか。
久しぶりのシリーズ投稿で少し緊張していますが、楽しんで書き上げることができました。
また機会があれば書くかもしれないですね笑
チョコは本編での再現ストーリーはなかったと思うんですが、クッキーは出てきていたのでチョコと代用する形で考えてみましたよと。


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