真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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皆様ご無沙汰しております。如何お過ごしでしょうか。
恋姫の話を書きたい欲求が高まり過ぎたので、消化しにきました。


SS:春の春。その1

 

 

太陽が天高く燦々と輝き、大地を照らしている。

 

このところその太陽のせいなのか、()だるような暑い日が続き、街の人々は何もせずとも汗だくになりながら生活を送っていた。

そして城の中にもその暑さは等しく襲いかかり、仕事をしながら書類たちを汗で滲ませないように文官たちは苦労し、武官たちは水分を補給しながら鍛錬を続けている。

 

さて、そんな気の滅入る様な日の城内のとある部屋。

そこを覗いてみれば、なにやら机に座って何かを必死に書き起こしている者たちと、その様子を前に立ってじっと見つめている者がいる。

前に立っているのは黄緑色の猫耳フードを被った少女、荀彧だ。そして机に座って何かを書いているのは、身なりが綺麗な子どもたちだった。

 

 

「荀彧先生! ここが分からないです!」

 

「そんなに大きな声出さなくても聞こえてるわよ! 全く……どれ?」

 

 

子どものうちの1人が手を上げて、荀彧に教えを請うている。

どうやら、城内の一室を使って荀彧が塾を開いているようだ。

子どもたちの手元を見れば、孫子の兵法書の写しを書き起こしているのがわかる。

着物も然ることながら、小さな時分から孫子の兵法書を教科書にするなど、よっぽど育ちの良い子どもたちなのだろう。

 

 

「”勝者の民を戦わしむるや、積水を千仞(せんじん)谿(たに)に決するが(ごと)し者は形なり”……これこの間やったばかりじゃないの。何も覚えてないの?」

 

「えっと……ごめんなさい……」

 

 

子どもが指し示した一文を読み上げてみると、どうやら直近の授業でやった内容らしい。

子どもに呆れ顔を見せながらも、面倒見の良い荀彧は教壇に戻って机に座っている一同を見渡す。

基本的には城に勤める高位文官、武官の子どもたちを対象にしている塾のため、皆真剣な眼差しを彼女に向けている。

そしてその眼差しを受ける荀彧も、満更ではない様子が伺える。

 

だがそんな子どもたちの中に……1人、大人の姿が交ざっていた。

赤い服を身にまとい、艶々とした長い黒髪を後ろに流し、前髪からはピョコンと跳ねた一房が可愛らしく特徴的な……そう、夏侯惇だ。

どうやら彼女は主である曹操からの命令として、荀彧の授業を子どもたちと一緒に受けているらしい。

 

 

「そうね……じゃあせっかくだから我らが魏武の大剣、夏侯惇将軍に答えてもらいましょうか?」

 

「ふははははっ! なんだ桂花、先生をやっていながらこんな事もわからんのか! 良いか? 勝者は民たちと水の様に酒を飲んで勝利を祝いましょう、という意味だっ!!」

 

 

大きな胸を自信満々に張って、少年にそう答える我らが夏侯惇将軍。

周りからは「おぉー」という声とともに、パチパチと拍手が聞こえている。

 

 

「ちっがーうっ!! あんたもこの間一緒にこの内容勉強してたでしょうが!! どうしてそんなに記憶力が無いの!? その辺の猿だってもっとマシな答え出すわよ!!」

 

 

やはりと言うか。

その答えに対して荀彧の怒声が部屋中に響き渡る。

 

 

「ぐぬっ!? な、何が違うというのだ! 先日、お前がそう説明していたではないか!!」

 

「そんな事私が言うわけ無いでしょうが!! 全く……そうね、じゃあ小夜(さや)、あなたはどう?」

 

 

そして荀彧から次に指名されたのは、夏侯惇の横に座る青髪の少女。夏侯惇の妹、夏侯淵が娘の夏侯覇だ。

 

 

「はい。えっと……勝ち方を知っている人が兵を戦わせる時、溜めた水の堰を切った時の様に止められない勢い、状態を以てそれに当たる事を指しています。」

 

 

荀彧の指名にも臆する事なく、自身が理解するその内容をはっきりと口にする夏侯覇。

少し成長した彼女は、母親の様に理知的であり、父親の様に冷静な姿を見せていた。

 

 

「さすがは秋蘭の娘ね。そうよ……引いては、その積水が一所(ひとところ)に向かう様から、一つの目標に向かって兵を用いる事の大切さを意味しているの。つまり、自分たちの目的、役割が明確になっている隊、軍はその兵数以上の力を発揮できるということ。部隊管理と運用における重要な点も、ここから読み取ることができるわ。皆、目標が一致していることの大切さはここで説明しなくてもわかるわね?」

 

 

普段の様子と違って、正しく先生然とした態度で子どもたちに教鞭をとる荀彧。

どこか自分に酔いしれている様な気がしなくも無いが、授業としては特段問題が無いため誰もそこには触れないでいる。

夏侯惇もぐぬぬっと悔しそうな表情をしているが、主である曹操からの命に背くわけにもいかず、大人しく荀彧の解釈を書き記していく。

 

そうして、しばらくの間筆が走る音と荀彧の解釈とが交互に響き渡り授業が進んでいく。

 

 

「さて……それじゃ良い時間だし、そろそろ終わりにしましょうか。皆、今日やったところはしっかり復習しておきなさいよ。わかった?」

 

「「「はい!」」」

 

 

子どもたちの元気な返事が聞こえて、この日の授業は終了した様だ。

筆や墨を片付けて、子どもたちは部屋を出ていく。

 

夏侯惇と夏侯覇もそれに習い、さっさと道具を片すと部屋を出て夏侯淵の部屋へと足を運んだ。

 

 

「おーい、しゅーらーん。入るぞー。」

 

 

夏侯淵の部屋の前に立ち夏侯惇がそう言うと、中からの返事も待たずに彼女はガチャリと扉を開けて中へと入っていく。

 

 

「……おや、姉者に小夜ではないか。桂花の塾は終わったのか?」

 

「はいっ、お母様! 今日も大変勉強になりました!」

 

 

部屋の中にある机に座って茶を啜る夏侯淵と、その横座っているのは王蘭。

2人とも午前中の仕事を終えて、夏侯惇と夏侯覇がやってくるのをここで待っていた様だ。

 

 

「春蘭様、小夜、お疲れ様です。さて、良い時間ですしお昼ご飯にしましょうか」

 

「うむっ! 今日は何を食べるのだ? 暑いし、うどんが良いのではないか? うむ、それが良い、是非ともそうしよう!!」

 

「ふふっ、姉者はすっかりうどんが好物になったようだな。蒼慈、小夜、2人ともそれで良いか?」

 

「はいっ! 小夜もおうどん、大好きです!」

 

「えぇ、私も構いません。それでは、我が家へ行きましょうか。」

 

 

そう言うと、一行は一路夏侯淵と王蘭宅へと向かう。ジリジリと日差しが刺す道を歩いているうちにもじんわりと汗をかいてしまう。

4人でワイワイと話ながら歩けばあっという間に目的地。

そして、もはや暑い時期には恒例になっているのであろう、それぞれが勝手知ったる様に食事の準備を進め、あっという間に冷やしうどんの用意が出来た。

 

 

「では、食べましょうか。小夜、挨拶してください。」

 

「はいっ! では、いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

 

ちゅるちゅると涼やかな音とともに、それぞれの喉を冷たいうどんが通っていく。

茹だる様な暑さの中で、ひんやりとした食感が心地よい。

 

 

「小夜、今日の塾はどんな事を学んだのだ?」

 

「おぉそうだ秋蘭、今日の小夜は凄かったぞ! 他の皆が分からない難題をスラスラと答えていたからな!」

 

「ほう……それは素晴らしい。小夜、良く学んでいる様ですね。」

 

「はい、お父様! 荀彧様からもお褒めの言葉を頂けて、嬉しいです!」

 

 

授業中の冷静で落ち着いた様子とは異なり、感情の全てを表情に隠すことなく浮かべている少女の様子が微笑ましい。

大好きな母と父、そしておばに褒めて貰えているのだから、当たり前のことではあるのだが。

 

ちゅるちゅるとうどんはそれぞれの口に運ばれ続け、あっという間に食べ終えてしまう。

食後の心地よい満腹感と怠惰感。

一息つこうと、湯を沸かした王蘭が茶を淹れて持ってくる。

 

 

「春蘭様は、午後の予定は何か?」

 

「ん? おぉ……仕事は片付いているので問題はないのだが、な……」

 

 

茶を啜りながら、夏侯惇の午後の予定を聞いてみるが、何やら歯切れが悪い返事が返ってくる。

いつもハキハキとする彼女らしくない態度に、夏侯淵も王蘭も、そして夏侯覇も訝しんでいる。

 

 

「姉者、何かあったのか?」

 

「んー……何かあるわけではないのだが、無いこともない……」

 

「それではよくわからんぞ。何か悩みでもあるのか?」

 

「悩みというわけではないのだが……そのぉ……」

 

「もしかしてですが……この後北郷さんと逢瀬ですか?」

 

「んなっ!? なんで蒼慈がそれを知っているのだ!?」

 

 

王蘭はやはり、と納得の表情を浮かべた。

午前中、やたら真面目に仕事をしている北郷の姿を見かけて珍しいこともあるものだ、と思っていたのだ。

 

 

「北郷さんの様子を見てなんとなく、ですかね……でも、今更逢瀬で何も恥ずかしがる間柄ではないでしょう。何か問題でも?」

 

「いや、その……ほ、北郷がな……いつもと違う服を着た私を見てみたい、などと言ってな……」

 

「なるほど。だから姉者はそうモジモジとしているわけか」

 

 

夏侯惇は普段自分の服装などまるで頓着がないのは城内では周知の事。

妹の夏侯淵はしっかりと自分の服装に合わせて髪飾りなどを変えてお洒落を楽しんでいるのだが、そうした楽しみを彼女は覚えていないのだ。

 

 

「しゅうらーん……私は何を着ていけば良いのだ? むしろあれか? 裸一貫で赴けば良いのか?」

 

 

本当に困っているのだろう。

泣き縋る様に夏侯淵の腕を掴む夏侯惇。

こんな姿がいじらしくもあるのだが、それを口にすべき人物はここにはいない。

 

 

「あぁ……姉者は可愛いなぁ。ふふっ、そうだ。久しぶりに私が見繕ってやろう。うむ、それが良い。蒼慈、お前も男目線で助言をしてくれるか?」

 

「えぇ、もちろんです。さぁ、早速春蘭様のお部屋に参りましょうか。小夜も一緒に参りましょう。秋蘭さんのお手伝いをしてあげてください」

 

「はいっ!」

 

 

こうして一同は再び城へと足を運び、春蘭の逢引を応援するため服を選ぶことになった。

 

 

 

 

 





ごめんなさい。長くなったので分けちゃいます。


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