続きです。
区切った割にちょいと短かった気がするので、しばらくすると合体させるかもです。
夏侯惇の部屋。
女性の部屋になど、そうそう入るものではない。
意外と言っては夏侯惇に失礼だが、それでも意外と思ってしまうほどに部屋は片付いていた。
王蘭が夏侯淵と夫婦となる前、よく夏侯淵が彼女の部屋の片付けを行っていたと聞いたいたのだから、余計に意外だった。
「さて……早速だが姉者、持っている服を全て引っ張り出して並べてみてくれるか?」
「う、うむ……」
そう言って夏侯惇は箪笥から衣服を引っ張り出しては寝台に並べていく。
ざっと並べられた服たちを見ても、やはりその数が少なく感じてしまう。
「やはり……持っている服が少ないな、姉者。華琳さまのための服は大量に持っているのだろうが……確かにこれでは今日の逢引で困ってしまうな」
「ぬぅ……すまん……」
「ふふっ、責めているのではない。だが、これをきっかけに身なりに気を配ってみてはどうだ? さて……姉者としてはガラリと全体的に変えるか、部分的に変えるか、どちらが良い?」
「……秋蘭に任せる」
「ふむ……そうか。では、小夜。家から持ってきた私の服もそこに並べてくれるか?」
「はい、お母様」
夏侯淵はこうなることを見越して、自宅から自分の服を何点か持ってきていた。
体型が似ている姉妹だからこそ、互いの服を貸し借りできる利点がある。
「蒼慈……北郷の好みはどんなのか、わかるか?」
「んー、そうですね……正直に言って彼は何でも好きなんだと思います。秋蘭さんを除く魏の将全員が彼の対象だったわけですから。だとすれば、春蘭様らしさを活かしたままがよろしいのではないでしょうか?」
「ふむ……姉者らしさ、か。だとすれば、これと……小夜、それをとってくれ。うむ、ありがとう。これと……小夜、こちらとどちらが良いと思う? ……ふむ。では……よし。蒼慈、一度外で待機してくれるか?」
「はい、わかりました」
王蘭からの助言を元に、夏侯淵は夏侯覇と2人であっという間に服を見繕っていく。
魏にはお洒落番長の于禁がいるのだから、夏侯覇の様に若い頃からそうした身なりについては敏感なのだろう。
王蘭が部屋を出てパタリと扉を閉める。
そのまま部屋の前に立って待っていると、中からは早速姦しい声が聞こえてきた。
その全てを聞き取れるわけではないが、単語単語が漏れ聞こえてくる。
『そんな……フリフリ……りだっ!』
『……では……いざ……する……のだっ!』
『待て……馬鹿……3枚組……安……だぞ!?』
『いいから……我慢……今日は……いな!』
何やら激しく、特に姉妹で言い合っている様だ。
あまり聞き耳を立てるもんじゃないと思いつつも、王蘭はその場から離れられない事もあって可能な限り心を無にして待つ。
ようやく中から王蘭を呼ぶ声がして、扉を開いて中に入る。
そこには当たり前だが、夏侯惇、夏侯淵、夏侯覇の3人がいるのだが……。
「なんと……これは見違えました。大変よくお似合いですよ、春蘭様」
2人に挟まれる形で、落ち着かない様子で立っている夏侯惇。
彼女が身につけているのはいつもの赤い服によく似た上着に、少しふりふりとした可愛らしい真っ白なスカート。
そしてなにより、いつも全て後ろに流している彼女のきれいな髪が前に降ろされて、どことなく優しげな雰囲気を醸し出していた。
ガラリと雰囲気を変えつつも、いつもの彼女らしさも垣間見える仕上がりで、流石は夏侯淵母娘と言ったところ。
だが、身につけている当の本人は自信がないのだろうか、服の裾をギュッと掴んではそわそわと落ち着かないでいる。
「う、うむ……で、では行ってくる……が、やはりその、落ち着かないというか……秋蘭、やっぱりダメか……?」
「無論、ダメだ。ほら、背筋を伸ばして堂々としろ。姉者は誰がどう見たって可愛いんだ、北郷だってイチコロさ」
「可愛いとかどうとかじゃなくて……だな……」
「ほら、もう時間なのだろう? 北郷を待たせて良いのか?」
「うぐっ……で、では、行ってくる……」
「うむ、行って来い」
「いってらっしゃいませ! 春蘭様!」
「いってらっしゃいませ。どうぞ楽しんできてください」
夏侯淵、夏侯覇、王蘭に見送られて、ちょこちょこと歩きながら北郷のもとへ向かう夏侯惇。
普段見慣れない彼女の姿を見れて、残された3人は少しほっこりした気持ちになる。
「そう言えば秋蘭さん……中で何をもめていたんですか?」
「ん? あぁそれは……女だけの秘密だ。な? 小夜」
「はいっ! でも、あんなに素敵になられたのですから、きっと成功します!」
何やら夏侯淵と夏侯覇が仕込んだ切り札があるようだが……。
──────────
所変わって、夏侯惇たちの元。
彼女が目的地にたどり着くと、そこにはすでに北郷の姿があった。
「すまん……待たせた」
「いや、俺もいま来たとこ……ろ……」
声がした方にパッと北郷が振り向くと、照れた様に頬を赤く染め、もじもじとしている夏侯惇が視界に飛び込んできた。
確かにいつもと違う彼女を見たいと言ったものの、実現しないだろうなぁ、なんて考えていた北郷にとって、それは正しく不意打ちの一手。
「春蘭……凄く、似合ってる。可愛い」
囁くような声でこぼれ出た言葉。
だからこそ。
夏侯惇にとってもそれが北郷からの純粋な気持ちであることが良く良く理解できてしまう。
「んぐっ……う、うむ。ありがとう……」
尻すぼみに声が小さくなっていく夏侯惇の様子が、更にいじらしく感じさせてしまう。
普段であれば勝ち気でいつも自信満々な彼女が、こうも静々としていればつい北郷もテンションが上がってしまう様で。
「いやっ、うん。凄く似合ってる! うわぁ、すげぇよ春蘭! 可愛いよ! 春蘭もそんな可愛らしい服着る事もあるんだな! めちゃくちゃ似合ってて可愛いよ!」
褒める言葉と一緒に、ついポロッと不必要な言葉まで零してしまう。
あっ、と気づいた時にはすでに遅く、言った言葉は返ってこない。
ついいつもの癖で、咄嗟に腕で防御態勢を取る北郷。
「……あれ?」
恐る恐る目を開けてみれば、北郷を
豊かな胸の前で両腕を組み、じっと北郷を見つめている。
「……お前が私の事をどう思っているのか、よぉ~っく分かった。ふんっ、お前が違う私を見てみたいと言ったのではないか……」
いつもの鉄拳制裁が飛んでこないことで、逆に北郷は心を抉られている様な気分になる。
でもだからこそ、彼女の今日の様子が気になって仕方ない。
「すまん、今のは悪かった。……なぁ春蘭、今のは本当に悪かったって思ってるんだけど、それより今日はその……どうしたの?」
「どうした、とは何がだ?」
「何がって……その、いつもと様子が違うから。何かあった?」
「べ、別に何もないっ! ほら、さっさと行くぞ馬鹿者!」
そう言うとくるりと向きを変えて歩きはじめる夏侯惇。
左右の手でスカートを抑えながらちょこちょこ歩く彼女がどこか可愛らしく、北郷はクスリと笑みを零した。
「待ってくれよ春蘭。一緒に行こう」
夏侯惇のもとへ駆け寄って、夏侯惇の手をとる北郷。そして2人並んで歩いて街なかの雑踏へと溶け込んでいく。
先程の北郷の過言は流してもらえたらしく、傍から見れば仲睦まじい様子がなんとも微笑ましいものに見えた。
──────────
その日の夜、北郷の部屋。
「ば、ばかものっ! しょんなまじまじと見るなぁ……っ!」
「春蘭……この下着……っ!」
「こっ、これはだなっ、しゅ、秋蘭が、秋蘭と小夜が無理やりぃ~~~!!」
「……だから今日はずっとスカートの裾を抑えてたんだね。落ち着かない様子だったのも納得したよ」
「ず、ずっとスースーするし、恥ずかしかったんだからな……」
クスクスと笑う北郷と、何かを必死に隠そうとする夏侯惇の姿があったとか、なかったとか。
「……それでは、いただきます。」
陳留の夜は、この日もアツい様です。
恋姫作成欲、無事消化できました笑
春蘭さんで、とご要望があったので乗っかってみました。
また欲求が高まったら落としに来ます。
ではまたその時まで!
Twitterやってます。気軽にフォローしてくださいまし。
@blue_greeeeeen