真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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今回ちょっと話詰め込んだせいか、長めです。


第九話

 

 

少女の振り下ろす鉄球を、幾度も防ぐ夏侯惇。

 

「くっ!こ、こやつ………なかなか………っ!」

 

相手が子どもで本気になれないとは言え、夏侯惇が押されている。

その状況を見ていた曹操たちだったが、夏侯惇も反撃しなければ苦しくなってきている。

 

 

「二人とも、そこまでよ!………剣を引きなさい!そこの娘も、春蘭も!」

 

 

武器を交わす2人に、曹操の声が響き渡る。

 

これぞ王の持つ覇気というのだろうか。

曹操の気迫にあてられ、少女は軽々と振り回していた鉄球を取り落とす。

 

 

「春蘭、この子の名は?」

 

「え、あ………。」

 

「き………許褚と言います。」

 

完全に曹操の気迫に飲まれてしまっている。

曹操たちが役人だと知って立ち向かった少女とは思えないほどだ。

 

「そう………。許褚、ごめんなさい。」

 

そう言って、許褚に頭を下げる曹操。

 

 

「………え?」

「曹操、さま………?」

「お、おい、華琳………。」

 

曹操の取った行動に、夏侯惇、荀彧、北郷がそれぞれ反応を見せる。

 

 

「名乗るのが遅れたわね。私は曹操、山向こうの陳留の街で、刺史をしている者よ。」

 

「山向こうの………?あ………それじゃっ!?ご、ごめんなさいっ!山向こうの街の噂は聞いてます!向こうの刺史さまはすごく立派な人で、悪いことはしないし、税金も安くなったし、盗賊もすごく少なくなったって!そんな人に、ボク………ボク………!」

 

 

曹操の名を聞いた途端、許褚は態度をすぐに改め謝罪の言葉を口にした。

この素直さは、彼女がまだ幼いがための美点だろうか。

 

 

「構わないわ。今の国が腐敗しているのは、刺史の私が一番よく知っているもの。官と聞いて許褚が憤るのも、当たり前の話だわ。だから許褚、あなたのその勇気と力、この曹操に貸してくれないかしら?」

 

「え………?ボクの、力を………?」

 

 

まさか曹操から誘いを受けるは思っておらず、戸惑いと驚きの表情を浮かべる許褚。

だが、大陸の王となることが自分の天命であると信じて疑わない、曹操の強い思いは確実に許褚の心を叩いていた。

 

 

 

曹操と許褚がやり取りをしている間に、北郷が放った斥候兵が王蘭の元に戻ってくる。

 

「ご報告します。盗賊らの拠点はここより半刻ほど進んだ先にある、山陰に隠れるように建つ砦の様です。また敵兵の数凡そ三千。」

 

「ご苦労さまです。少しの間ですが休んでください。………将軍、斥候兵が戻りました。」

 

この報告を受けた王蘭が夏侯淵に報告する。

 

「そうか、ご苦労だった。華琳様にお伝えしてくる故、進軍に備えておいてくれ。」

 

 

そう言って曹操の近くに寄った夏侯淵が、曹操と許褚の話に割って入る。

 

 

「華琳さま、偵察の兵が戻りました。盗賊団の本拠地は、すぐそこのようです。」

 

「わかったわ。………ねぇ、許褚。まず、あなたの邑を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずはそこだけでいい。あなたの力を貸してくれるかしら?」

 

「はい!それなら、いくらでも!」

 

「ふふっ、ありがとう………。春蘭、秋蘭。許褚はひとまず、あなた達の下に付ける。分からないことは教えてあげなさい。」

 

「はっ」

「了解です!」

 

 

「………では総員、行軍を再開するわ!騎乗!」

 

 

こうしてひとまず盗賊討伐戦に向け、許褚が陣営に加わる事に。

曹操の掛け声の元、軍隊は盗賊たちの本拠地へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

しばらく軍を進めると、山の陰に隠れるようにひっそりと立つ砦が見えてくる。盗賊たちの本拠地だ。

この辺り一帯には盗賊団は1つのみらしく、曹操が探している盗賊団と、許褚の邑を襲った盗賊団は同じなのだろう。

 

 

「敵の数は把握しているの?」

 

「はい。およそ三千との報告がありました。」

 

曹操の問いに、夏侯淵が斥候兵からの報告を返す。

 

出立前に王蘭が目標としていた、本拠地の調査と敵数についての報告がこの時点で達成された。

他領での実戦経験を詰めた事はとても大きく、部隊後方の輜重隊の中にいる王蘭の表情を見ると、戦闘前というのに少しホッとしているように見える。

 

 

曹操が状況の確認を終えると、荀彧から作戦の説明が行われる。

夏侯惇との一悶着はあったものの、作戦通り動くことが決定。

 

 

「では作戦を開始する!各員持ち場につけ!」

 

 

こうして賊討伐戦が開始された。

 

 

 

………。

 

 

 

「逃げる者は逃げ道を無理に塞ぐな!後方から追撃を掛ける、放っておけ!」

 

荀彧の作戦が功を奏し、盗賊の討伐は大成功を収めたと言って良いだろう。

うまく行き過ぎたようだが。

 

戦闘もだいぶ落ち着きはじめ、合流した夏侯淵、荀彧へと労いの言葉を掛ける曹操。

 

 

「それと一刀。よく逃げなかったわね。関心したわ。初陣で恐怖に打ち勝てただけでも、大したものだわ。」

 

 

そして、戦争を知らない未来からやってきた北郷への称賛も。

人の生死を間近で感じ、戦争の恐怖に負ける事なく戦場を見つめ続けられただけでも、彼の強さが伺える。

 

 

「………ありがと。」

 

だが、その言葉を発した途端、北郷はフラッと倒れてしまう。

 

「ち、ちょっと、一刀っ!?」

 

「やれやれ………。緊張の糸が切れたようですな。」

 

倒れる北郷を心配する曹操だが、気を失っただけと分かると、安心したようで一息つく。

 

 

「………はぁ。この様子だとしばらく目を覚ましそうにないわね。起きるのも待っていられないから、落ちないように荷車にきつくしばっておきなさい。」

 

 

こうして、無事に盗賊の討伐を終えた曹操たちは、陳留へと軍の引き上げを開始するのだった。

 

 

 

 

 

そんな片付けをしている中、夏侯淵の居る陣営の前にあまり顔色の優れない王蘭が。

 

「………はぁ。糧食の件、将軍に報告せねばなりませんね。………将軍!少しだけお時間構いませんか。」

 

「ん?あぁ、王蘭。構わんぞ、どうした?」

 

「失礼します………。早速で恐縮なんですが、ご報告がありまして………。」

 

 

珍しく言い淀む王蘭を見て、何か問題があったのか?と勘ぐる夏侯淵。

 

 

「大変申し訳ありません。実は将軍や荀文若様に黙って、曹孟徳様が当初予定していた通りの糧食を用意をさせております。」

 

頭を下げ、謝罪を述べる王蘭に対して、夏侯淵は冷静に口を開く。

 

「………そうか、まずは理由を聞こうか。」

 

顔を上げ、夏侯淵の目を見て説明を始める王蘭。

 

「………はっ。万が一糧食の不足によって盗賊の討伐が出来なかった場合と、当初の予定通りの糧食を用意しそれを余らせた場合の損失を比べ、前者を解決する方を選択致しました。」

 

「続けろ。」

 

 

「今回の行軍の目的は”他領へ逃げ込んだ盗賊の討伐”にあります。わざわざ上役に承認を得てまでの遠征ですので、これが成されずに陳留へ戻る事は、今後の行く末を思うとあってはならぬ事。ですが現状の我が斥候隊の練度では、他領への情報収集活動には多少の不安が残ります。盗賊らの拠点が不明な以上、行軍に何日要するかも定かでは無い上に、更に糧食を減らしてしまうのは、余りに多くの危険を孕んでしまうと考えた次第です。」

 

「また………、こちらも申し上げにくいのですが、初対面での態度を鑑みると、荀文若様は恐らく私が理由をお伺いしても、お答えにならなかったのではないかと愚考しました。ですが、荀文若様を介さずに将軍に直接確認を実施すれば、荀文若様がお考えになっていた、軍師登用のための作戦も、意図する成果も生まれる事がなくなる………と考え、私の独断にて、内密に糧食を用意させました。」

 

「………ご報告は以上です。覚悟はできておりますので、いかようにでもご処罰くださいませ。」

 

そう言って再度頭を下げる王蘭。

夏侯淵は、その報告を聞いてじっと考え込む。

 

 

「………ふむ。上官の命令無視、報告と確認業務の怠惰、上官への虚偽報告、更には自己判断による勝手な公費の使用………か。」

 

 

じっとこちらを見る夏侯淵。

 

 

「なんともまぁ、一度にいろいろとやってくれたものだ。本来であれば、即刻打首にすることもできるのだが………、お前は運だけは良いらしいな。付いてまいれ、華琳さまの判断を仰ぐこととする。」

 

 

そうして曹操の元へ尋ねる夏侯淵と王蘭。

 

 

「華琳さま、秋蘭です。ご報告したい儀がございます。」

 

「入りなさい。」

 

「はっ。失礼します。」

 

夏侯淵に続けて陣営に入る王蘭。

 

「あら、あなた確か………王蘭、だったかしら?2人で何の用?」

 

「覚えていらっしゃいましたか。この王蘭が此度の輜重隊の長を務めたのですが、先程良い面と悪い面の両方を持った報告を聞きまして。華琳さまのご判断を仰ごうかと………。」

 

「何かしら?」

 

「はっ。先ほど華琳さま、姉者、桂花、私の四名で話していた懸念事項ですが、どうやら要らぬ心配となりそうです。」

 

「………それはどういう事?もっと詳しく話しなさいな。」

 

 

曹操と一緒に、王蘭も何の話をしているのかわからないと言った顔を浮かべている。

 

 

「この王蘭、どうやら当初華琳さまがご指示なさった分の糧食を用意してしまっていた様です。これによって先程お話しておりました、残存兵数が想定より大幅に残った事、季衣の食べる量を加味すると、不足すると思われた糧食不足の問題が解決する算段です。」

 

「………なるほど、そういうこと。糧食の用意に命令違反があったものの、今私達の目の前にある問題は、それのおかげで解決するってわけね。」

 

「はい………。今回の情報収集はこの王蘭の発案で設立した斥候部隊の活躍でもありますし、加えて当面の問題だった糧食についても解決します。ただ、命令無視などの軍規に違反する内容も無視するわけにもいかず………。」

 

「あら………。斥候もあなたの発案だったの。それは知らなかったわ。………ふぅん、それで私の元にね。………秋蘭、私が賞罰を決めて構わないのかしら?」

 

「華琳さまにお任せ致します。」

 

「では桂花もここへ呼んできなさい。2人同時に沙汰を言い渡した方がいいでしょう。」

 

 

荀彧が到着し、曹操の前に膝をつく2人。

荀彧に至っては、先程行われた軍議で糧食の不足を指摘されていたためだろう、若干顔色が優れない様子。

 

そして曹操の口が開かれる。

 

「桂花、先程の軍議の内容と最初にした約束、覚えているわよね?」

 

「………はい。」

 

「このままでは糧食が不足することは目に見えているわ。わかるわよね?」

 

「………はい。」

 

「作戦がうまく行き過ぎたこと、新しく加入した季衣が人の十倍は食べる量が多いこと。………いろいろ言いたい事はあるでしょうが、不足の事態が起こるのが戦場の常よ。それを言い訳にするのは、適切な予測ができない、無能者のすることよね?」

 

「で、ですが!………いえ、わかりました。首を刎ねるなり、思うままにしてくださいませ。」

 

「………とは言え、今回の遠征の功績を無視できないのもまた事実。それは王蘭、あなたにも言えること。………桂花、良かったわね。実はそこの王蘭が、最初に私が指示をした内容で糧食を用意していたそうよ?」

 

 

えっ、と言いたげな表情で横で膝を着く王蘭と曹操を見比べる荀彧。

 

 

「そ、そんな………。確かに最終点検では、私の指示通りだったはず………。」

 

「あなたに隠れて用意していたのだそうよ。そこは頂けない所なのだけれど。………さて、2人に沙汰を言い渡します。荀文若!あなたには死刑より減刑して、おしおきだけで許してあげるわ。」

 

「曹操さま………っ!」

 

「それから、私を華琳と呼ぶことを許しましょう。より一層、奮起して仕えるように。」

 

「あ………ありがとうございます!華琳さまっ!」

 

「次に王徳仁。斥候部隊の運用は確かに評価されるべき功績だわ。加えて糧食不足の解決も、まぁあなたの功としておいてあげましょう。でも、命令無視という重大な軍規違反は流石にそれら功を以てしても、打ち消すことはできないわ。よって城に戻ってから十日の間、現在の業務に加えて桂花の仕事の補佐をなさい。それで許してあげるわ。秋蘭も、それでいいわね?」

 

「御意。」

 

「ち、ちょっと、華琳さまっ!?お待ちください!!こんな穢らわしい男の助けなど、要りません!!」

 

「あら?あなたにも”おしおき”は与えると言ったはずよ?閨であなたの喜ぶことだけしても、それでは意味がないじゃないの。」

 

「あ、あうぅぅ………。華琳さまぁあ………。」

 

そう言って笑みを浮かべる曹操に、喜びと嫌悪とが入り混じった複雑な表情を浮かべる荀彧だった。

 

 

 

 

………。

 

 

 

無事城に戻った後、荀彧の執務室にて。

 

「薄汚い!勝手に触らないで!!近寄らないで!!!あぁ、もう………なんでこんなのと十日間も一緒に仕事しないといけないのよぉ………。」

 

「は………はぁ。あの、軍備補填の報告のまとめ、ここに置いておきますので、よろしくお願いしますね。」

 

「わかってるわよ!あぁもう!!うるさいうるさいうるさぁぁぁい!!!………王蘭とか言ったわね………。覚えてなさい、今にひどい目に合わせてあげるんだから………。」

 

 

こうしてめでたく、荀彧にも名前を覚えてもらう事ができたのでした。

 

 

 

 




荀彧さんにめでたく名前を覚えてもらえた王蘭さん。
軍師ーずとは、斥候隊として今後も絡んでいくはずなので、早いうちに仲良くなっておいてもらおうと考えました。

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