――俺はおまえに願いを託す。
おまえは俺の希望だ。ひとを守れ。俺には無理だったが、おまえになら出来る。
この戦いに勝たなくてもいい。ただ生きたいと願う者のために戦ってくれ。
俺は、おまえの作る未来を信じる。
だから、走れ――。


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開設したホームページの宣伝も含めてこちらにも投稿しておきます。

https://www4.hp-ez.com/hp/dddoghouse/page6

小説版仮面ライダーのためだけのホームページをよしなに。



託した願い

 ――男はじっと息を潜める。

 これから辿ることとなる運命に想いを馳せ、青年は精神を統一させていた。

 自分に、残された時間は、あとわずか。

 この命を火に例えるのだとしたら、それは弱々しく消えかかった火ではなく、むしろ猛々しく燃え盛る炎だ。

 だがそれは、性急であり今にでも燃え尽きてしまいそうな危うい炎だ。

 

「だが……それでいいんだ」

 

 彼はひとりごちた。

 そうだ。

 命を削る、その恐怖もそれを危惧する意味はない。

 自分の体に鞭打ち、踏ん張る。

 

 ――そうしなければ、俺の希望は――俺の願う未来は、手に入らない。

 

 彼は、自分が両手で抱いている丸いヘルメット……否それは仮面である……に目を落とした。

 異形の造形。異形の顔。

 これを被ることになる戦士こそが、俺の希望だ。最後の希望だ。

 たとえそれが、自分勝手な押し付けなのだとしても。

 自分にできないことを託したい。

 

「時間だ」無線が入る。「予定より少し遅れてしまったが、いま私は〈ショッカー〉の基地内部から無線を送っている」

 

 その声を聞き、男は立ち上がった。

 

「すまない。君には……酷なことを強いてしまった」

「あはは。大丈夫だ、俺は」彼は努めて明るく振る舞った。「自分で志願したことだ。なにも苦痛じゃない」

「……すまない」

「だからー。そう心配すんなって。緑川博士。俺はあんたに、感謝しているんだ」

 

 無線越しに、緑川博士の動揺が伝わる。「感謝?」

 男は異様なスーツに身を包んでいく。「ああ。たしかに俺はダメだったが、博士、あんたはすぐに俺に夢を見せてくれた。たったひとつの望み。それをいま、俺は迎えに行こうとしている。だから、ありがとう」モスグリーンのグローブとブーツを身につける。あとは、この仮面を被るのみだ。

 

「……聞いてくれ」

「ん?」

「これは私の直感だ。だが、きっとそうなるのだと言う確信がある。私は許されないことをしてきた。あまりにも多くの罪を重ねた」

「……」

「私はこの作戦で生きて帰れるとは思わない。間違いなく、死ぬだろう」

「……博士、それは」

「いいんだ。私のことなど気にするな。むしろ、君は私を恨むべきなんだ」

 

 自責に駆られ、今にも泣きそうな声で緑川博士は語る。

 男はそれを否定も肯定もできずに耳を傾けた。

 手許の仮面と目が合った。

 仮面の一対の複眼に映り込む自分をまじまじと見つめた。

 自分のこの表情はどんな感情があってのものかはよくわからなかった。

 

「……君に、最後に、聞いておきたい」

「……」

「君がそうまでして、寿命と戦って……そうして望んだものとは、いったい、なんだ? これから助け出す男に、君はなにを見ているんだ? 答えてくれるか――ハヤト君」

 

 青年――ハヤトは顔を上げた。

 そして、口を開いた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 そのときの自分はまだ日本に来て間もなく、この国のことを軽く見ていた。

 俺はペルーの人間だ。生まれ育った故郷を愛して生きてきた。

 だが、だと言うのに自分は日本人であれに周りから言われてきた。

 なにが日本だ。

 祖父からの移民であるこの家系には、たしかに日本人の血が流れている。

 だが、それだけだ。

 それだけで、日本人であるというプライドを持つことなんて出来やしない。

 爺さんはそのプライドで辛苦を乗り越えだかもしれないが、日本のことなんてこれっぽっちも知らない俺には関係ないことだ。

 若かった俺は、過去のことをいつまでも引きずる家族が嫌だった。

 ペルーの人間と関わりを避け、同じ移民同士で固まろうとする家族が嫌だった。

 そんな家族だったが、それでも教えて貰ったことはたくさんあった。

 そうして成長した俺は、いちど日本へ行ってみることに決めた。

 そのことを聞いた爺さんたちは大喜びしたが、別に日本に興味があったわけでもなかった。

 ただ単に、爺さんたちの目を覚まそうと思っただけだ。

 この目で日本がどんな国か見極めて、さんざん悪いところを見つけてそれを突きつける。

 

「どうだ。想い出の中で美化してただけで、あんたらの言う祖国はこの程度じゃないか。日本なんて、こんなもんなんだ」

 

 俺はそう言ってやる。

 そう言ってやるつもりだった。

 

「……なんだ」

 

 日本は俺の予想をはるかに超えた国だった。

 

「いい国じゃないか。……日本は」

 

 内心で日本をこき下ろしていた自分が馬鹿みたいだった。

 なるほど。

 爺さんが忘れられないわけだ。こんな国、忘れようと思っても忘れられない。

 俺の祖国ペルーは政治も安定せずに内乱が続く国だ。

 だが日本はどうだ。

 まるで天国じゃないか。

 戦後の日本でも、時おり抗争が起きることもある。

 五所川原抗争事件、浜松事件、沖縄抗争……。

 だがそれでも、俺には日本っていう国は輝いて見えたんだ。

 日本は、日本人は強い。

 戦後復興に驚くほどのエネルギーで取り組み、国を立て直した。

 ひとびとは互いに支え合って一生懸命暮らしている。

 

 ――俺も、こんな国で暮らしたい。

 

 そう、心から思った。

 日本への愛着が強まり、自分に日本人の名前をつけた。

 それがハヤトという名前だった。

 ……日本での名前を決めたのは、本名を日本人に聞かせると、なんだかおかしく聞こえるというのもあるのだが。

 スペイン語は、日本人からしてみれば発音が変なのだと現地の女子に聞かせて知ったわけだが。

 そんなふうに、俺はすっかり日本に馴染んだ。

 だが、そうしているうち、故郷が恋しくなった。家族が恋しくなった。

 耳にたこができるほど、日本のことを教えてくれた家族。

 みんなへの恩義を感じた。

 だから、決めた。

 俺も家族のようにジャーナリストになる。

 だがペルーのためだけじゃない。

 まして日本のためだけでもない。さらに多くの国。世界中のひとびとのために、教えられることがある。知らくてはならない情報や真実を、俺が届ける。

 

 ――俺は世界中を飛び回った。

 

 現地のたくさんのひとと出会い、たくさんの文化を知り、たくさんの優しさに触れた。

 だが、ジャーナリストとして知り得るものはそんな綺麗なことばかりではなかった。

 俺が追いかけたのは軍部の腐敗。内戦。

 そこで知ったのは、忘れたくなるような……憤らずにいられない悪行や不正、汚職。

 それでも一心不乱に情報を求めた。

 俺の、俺が信じる、正義を届ける。俺の力で。

 そんな想いに駆られながら奔走していた俺は、とある組織の存在を知った。

 ――〈ショッカー〉。

 世界を裏から操る、秘密結社。

 俺は、こいつらの存在を暴き、世界中に知らせるのだ。

 この世界を脅かす真の悪が我々を常に嘲笑っていることを。

 そうすることが、正しいと思っていた。

 ……俺の情報は全てもみ消された。

 なにもなかったかのように、俺の記事は抹消された。

 誰も俺の相手はしなかった。

 いくら〈ショッカー〉の存在を糾弾しようと、誰もが哀れな男のつまらない妄想としてあしらう。

 今にして思えば、それはそうだとしか言いようがなかった。

〈ショッカー〉はこの世界そのもので、人類の真の指導者だ。

 その存在を晒そうにも、意味がない。

 単純なことだ。

 我々のような無辜の人間がその存在を知らない、知る機会がないだけだった。

 偉い人間、立場のある人間の間では〈ショッカー〉の存在など周知のことだ。

 むしろ、彼らは〈ショッカー〉の恩恵を色濃く受けているのだ。

 

 ……俺は絶望した。

 

 世界が〈ショッカー〉の存在と横暴を黙認していることに。

 だが、それだけならまだよかったのだと思う。

 それよりも愕然とし、人間に嫌気がさしたのは別にあった。

 人間は〈ショッカー〉の驚異的な技術力と権力を乗っ取ろうと画策していた。

 支配者の立場を手に入れようとする、欲に目がくらんだ人間の邪念。

 その事実を俺は突き止めてしまった。

 絶望に見舞われながら、俺は日本に〈ショッカー〉の大規模な基地が存在することを知った。

 俺は日本に飛んだ。

 まだ諦めない。まだ投げ出せない。

 正直、そのときの自分は自棄になっていたのかもしれない。

 そうすることでしか、自分のちっぽけな、砕けかかった正義感を満たせなかったんだ。

 

 日本に“帰国”した俺は、早速〈ショッカー〉を追った。

 追いかけ、追いかけ、少しずつ組織の根城に関する情報が集まっていった。

 

「ねぇお兄ちゃん」

「ん?」

「ペルーってどんなとこなの?」

 

 そんな中、俺はとある姉弟に出会った。

 

「そうだなぁ。住んでる人間はみんな優しいな。友だち思いでさ、みんなで協力して……毎日一生懸命生きてるよ」

「へぇ。じゃあお兄ちゃんがぼくに優しくしてくれるのも、ペルーの人間だから?」

「ああ、俺と浩二は友だちだからな」

 

 少年の名は浩二と言った。

 病気に犯されて、今はベッドで横になったまま動けずにいる。

 

「嬉しいな。あ、ペルーってなんかあるの? 東京タワーみたいなさ、でっかいのとか」

「んー、遺跡ならあるぞ。マチュピチュって言って、インカ帝国の文明が……」

「写真とかある?」

「そうだよな、話すより見た方がいいか。……ほら、これだよ、これがマチュピチュだ」

「すっげぇや。なんか浮いてるみたい」

「だろ? あとは、これとかどうだ? ナスカの地上絵って呼ばれてるんだが……」

 

 ハヤトが浩二に故郷の話を聞かせていると、病室に女性が入ってきた。

 浩二の姉だ。

 

「お姉ちゃん」

「浩二、具合はどう?」

「平気だよ。ハヤトお兄ちゃんが楽しい話をいっぱい聞かせてくれるからさ」

「そう。よかった。ハヤトさん、いつもすみません」

「いえいえ、順子さん。これは俺が好きでやってることなんで。それに、浩二の病気がよくなったら、ぜひペルーに連れて行ってあげたいもんで、ついつい話し込んじまうんだよなー」

「なー」

「ふふっ、仲良しですね」

 

 浩二の患っている病気、それは結核である。

 生まれつき体の弱かった彼は、その恐ろしい病魔に襲われ、医師から安静にするように厳しく言われている。

 ハヤトが姉弟と出会ったのはつい最近のことだ。

〈ショッカー〉の影を追っているうちに、この姉弟が組織との関わりがあると疑惑が持ち上がった。

 そして彼は順子と浩二の姉弟に接触を図った。

 だが、特にそれらしい手がかりもなく、今ではこうしてお見舞いをする関係に落ち着いた。

 誤情報だったか。そうに違いない。

 ハヤトは……俺は、そう思うようにしていた。

 

「さて。それじゃあ、俺はこれで。お邪魔しました」

「あっ、お兄ちゃん!」

「ん、どうした?」

「あのさ、頼みがあるんだ」

「なんだ? なんでも言ってみろよ」

「写真、撮りたいな」

「写真?」

「うん。三人で……ダメかな? 記念写真って訳でもないけど……」

「ハヤトさん、私からもお願いしていいですか? 私もみんなで写った写真が欲しいです」

「よし。任せろ!」

 

 そう言って準備すると、ハヤトと浩二、順子の三人での写真を撮影した。

 体を近づけて、家族写真のように三人は仲良くカメラに映りこんだ。

 

「はははっ、いい写真だな、こりゃ。今までで、いちばんの写真かもな」

 

 俺はその写真を大切に懐にしまって、〈ショッカー〉捜索を続けた。

 ――だが、俺は知らなかったんだ。

 そのときにはもう、すべてが手遅れだったことを。

 俺はなにも掴めなかった無力な男だったのだ。

 

「……浩二……順子」

 

 その翌日だった。

 いつものように病室に訪れた俺は、信じられない光景を目のあたりにした。

 

「なぜだ」

 

 死体が転がる。

 

「こんな、ことが。なぜだ?」

 

 ぴちゃり。

 俺の履いているブーツが水たまりを踏んで音を鳴らした。――赤い水たまりだ。

 

「なぜだ!」

 

 浩二と順子のふたりはぴくりとも動かない。

 顔は恐怖にひきつり、手を固く握りあって、こと切れている。

 

「……なぜなんだ」

 

 ポケットからはらりと先日撮った写真が零れた。

 三人の明るい、眩しい笑顔。

 笑っている。浩二も順子も、楽しそうに、幸せそうに。

 なのに……。

 

「なんで。もう笑えないんだ。ペルーに連れて行くって、言ったんだ。俺の故郷を紹介するんだ……そのつもりだったんだ!」

 

 病室に慟哭がきんと木霊した。

 

「いるんだろ、〈ショッカー〉! さんざん嗅ぎ回った俺にガセの情報を掴ませて、この仕打ちか! 俺ひとりを叩きのめすならいい。だが、こんな回りくどいやり方が許されるのか? なぜ、罪のないひとを簡単に殺せる? ひとを恐怖で支配するおまえたちのやり口。そのためならこんな残酷なことを平気で行える!

……おまえたちはなんなんだ。世界を支配するおまえたちは、なぜこんな、人間をゴミのように扱える? おまえたちは人間じゃない別な存在なのか? 俺はおまえたちを絶対に許さない。俺はおまえたちに屈しない。俺は……!」

 

 そこで意識が飛んだ。

 最後に俺が見たのは、真っ黒な人間大の蜘蛛の怪物だった。

 

 ――ああ、そうか。

 本当に人間じゃないらしいな。おまえたちは。よく、わかったよ。

 

 次に意識がうっすらと戻ったとき、俺の体はいじくり回されているのが見えた。

 

 希望はどこにもなかった。

 なら、それでいい。

 俺が希望になってみせる。

 救えなかった命のために俺は戦おう。

 俺の仕事は、救いを待つひとびとを助けることなんだ。暗闇に取り残された人間を救い出すことなんだ。

 浩二。順子。

 ふたりはきっと最後まで助けを求めていた。

 それを助けられなかった俺の無力。許せない。

 

 だから、戦え、ハヤト。

 守りたいと思うひとをひとり、守りきる。

 そんな誰でもやっていることを、誰もができるわけじゃない。

 だから、俺が、それを為せ。

 俺はきっと、誰のためにも戦わない。戦えない。

 “誰がために”戦うのか?

 それを問い続けろ。

 守りたいと思う「誰か」を決めない限り、俺は……ハヤト、おまえは、誰のためにでも戦える。

 

 だから、俺は――。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「……緑川博士」

 

 ハヤトは仮面を被る。そして、ベルト横のスイッチを捻った。

 そのとき、自分が別のものに変わる感覚に襲われた。

 

「俺は、決意したんだ」

「……」

「大きな決意だ。覚悟だった。己の無力を嘆いた俺は、ひとをひとりでも多く守るために戦うと。だが、それも無理らしい。現実ってのは、神様ってのは薄情だよな」

「……ハヤト君」

「いや、博士を責めてるんじゃない。きっと、その決意も覚悟も、俺には釣り合わなかったんだ。どうやら失格らしい。ええと……なんて言うんだったか、日本語で。あぁそうだ。役不足、なんだな。だから……託すことに決めた」

「託す?」

「そうだ。俺にできないことを本郷猛という男に託す。そいつなら、俺よりうまくやれるんだ。本郷猛があんたの言う通りの心優しい人間なら、〈ショッカー〉との戦いに向いてないことなのはわかっている。だが、向いてなくても、その男は戦える。なんどでも立ち上がり続けられる。俺は確信している」

 

 ハヤトは乗り手のいない一台のバイクに視線を移した。

 俺は、これに乗らない。

 乗るべき人間は他にいる。

 これに乗り、助けを求める無辜のひとびとに駆けつけるのは、本郷猛ただひとりだ。

 

「博士。本郷猛は俺の希望だ。俺の願いを、彼に伝える。ひとを守って欲しい。その願いを伝える。……俺は助けられなかった。俺では無理だった。だが本郷猛、おまえならできる、と」

「……そうか。ハヤト君、私が保障しよう。本郷猛という青年は、君の抱いた決意をきっと無駄にはしないだろう。それに、私も信じている。彼が、なんどでも絶望を乗り越えることを」

「……ああ、そうさ。そうだよな!」

 

 ハヤトは声を張り上げた。明朗な、力強い声だ。そして、彼はあるものを手に取った。

 

「さて」

 

 赤いマフラー。その色は炎よりもずっと赤く情熱的だ。

 彼のまっすぐで強固な正義感を表すようなその布を彼は首に巻きつける。

 顔を異形に変えてもなお――彼はハヤトになった。

 

「待ってろよ、本郷猛」

 

 俺は最後まで生きる。

 かけるべき祈りがある。

 叶えるべき願いがある。

 俺は生きなければならない。

 だから彼は、暗闇から外へと足を踏み出した。

 

 風は、まだ吹かない――。




作中に出てくる姉弟の元ネタは仮面の世界に出てくる姉弟です。
弟さんは白血病でしたが、白血病って親から遺伝しないらしいそうなので、設定を変えて結核に。
書き終えて思いましたが別に変えなくてもよかったかも。

えーと。
まぁ、ハヤトの話を書きたかったから書きました。楽しかったー。

ホームページもよろしくお願いしますね(しつこく宣伝)

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