速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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幼い子は怖いもの無し。

 そんなわけで、三人でデパートの中を回ることになった。横に並んでるわけだが、左から俺、小梅ちゃん、速水の順番。決して俺と速水は隣に立たなかった。

 

「で、何処にいて逸れたの?」

「え、えっと……映画館を出て、幸子ちゃんと走ってて……気が付いたら……」

「なら、映画館にはいないな。とりあえず小梅ちゃんの来た道をそのまま戻って、二人が逸れそうなポイントから洗おう」

「そうね。小梅、どういうルートから来たか分かる?」

「あ、うん。えっと……確か、映画館を出て、幸子ちゃんが怖がってから逃げてみて……」

 

 酷いことするなこの子……。見た目の割にお茶目な子なのか?

 

「えっと……エスカレーターを降りて、ゲームセンターを抜けて、フードコートを抜け……あ、フードコートでクレープ買って、食べながら歩いて……」

「なら、そこからだな」

「へっ?」

「そうね。クレープ買ってる間に近くにいたら声かけられるはずだもの。その辺りから既に幸子ちゃんは小梅ちゃんを見失っていたことになるわね」

「多分、迷子になるならゲーセンだろ。道は入り組んでるし、人にもよるがプライズに目を取られてる間に見失う事もある」

「一応、そこに行くまでの間も見て回りましょう」

「ああ、人は動くものだからな」

「……」

 

 二人してゲーセンに向かおうとすると、ポカンとした表情で小梅ちゃんは俺と速水を見ていた。

 

「どうかした?小梅」

「……い、いや……二人とも、頼りになり過ぎるなって……」

 

 中間試験平均92.5点は伊達じゃなかった。

 しかし、ここから先が平均17点になるのが俺達なわけで。

 

「は?全然こいつと俺じゃ比べ物にならないでしょ。理系の癖に満点取れない阿呆だぞこれ」

「いやいや、数学に特化し過ぎて他の科目そうでもないあんたに言われたくないわ。総合的にバランスが良い私の方が頼り甲斐があるわよ?」

「総合的にってことは特に特筆した得意科目がないってことだから。つまり、どれも応用がきかないって事だから。勉強が出来て雑学の無い頭の良いバカの典型だから」

「は?総合的に特筆したものがないから他の事において応用が利くんでしょ?バカじゃないの?」

「……上等だよ。どっちが賢いか教えてやらぁ」

「どっちが先に見つけられるか……」

「「競争!」」

「……本当に仲良しだなぁ……」

「「だから悪いってば!」」

 

 小梅ちゃんの呟きも聴き漏らさなかった。

 すると、小梅ちゃんはニコニコしたまま俺も速水の手を取った。

 

「……じゃあ、これから仲良しさんになろう?」

「……」

「……」

 

 普段なら「絶対無理」と即答する所だが、目の前の歳下の女の子にはお互いに弱いようで、つい黙り込んでしまう。

 二人してなんだかいづらくなって目を逸らすと、ゲーセンに到着した。

 というか、今更だけどお化けは大丈夫なんだろうな……。まぁ、小梅ちゃんがいてくれれば敵の位置情報を知れるから奇襲は問題ないんだけど……。

 

「で、いる?」

「てか、まずその幸子って子の写真見せてくんない?」

「ああ、そういえばあなたは見た事なかったわね。一応、その子アイドルなんだけど」

「は?」

「ちなみに、小梅もアイドルよ」

 

 やっすいなー、アイドル。東京の人口の半分はアイドルなんじゃねぇの?

 速水がスマホに入ってる写真を見せてくれた。灰色っぽい薄紫でショートヘアの中学生くらいの子だった。

 

「ふーん……」

「一人称は『ボク』だから案外声聞けばわかるかも」

「おk」

 

 そんな話をしてると、いつのまにか俺と速水の間から小梅ちゃんがいなくなってることに気づいた。

 オイオイ、迷子がさらに迷子になってどうすんだ?と思って辺りを見回すと、クレーンゲームに釘付けになってるのが見えた。

 

「……何してんだお前」

「っ、あ、ユイさん。あの……」

「?」

 

 景品を見ると、ディメンターのぬいぐるみだった。こんなもん絶対売れねえだろ……。

 

「……何これ」

「……何回で取れるかなって」

「バカ、お前デパートのゲーセンなんてアームの力ウンコだから取れねーぞ」

「……そうなんだ。残念」

「……」

 

 そんなショボンとするな。なんか罪悪感が芽生えんだろうが。

 

「……はぁ、速水。お前とってやれよ」

「なんであんたが命令してんのよ。てか、私は無理よ。こういうのあんまやらないし。あんたが取ってあげれば良いじゃない」

 

 俺も無理。ゲーセンはよく行ってたが、絡んで来た奴らボコしてそのお金でやってたから無限コンティニューして取れてただけだし……。

 

「と、いうわけだ、諦めろ小梅ちゃん」

「……うん」

「……」

 

 ……だからなんだよ、この罪悪感。ごねられても面倒だけど素直でも面倒だな……。

 すると、速水が耳元で囁いてきた。

 

「……取ってあげなさいよ」

「気持ちは分かるが取れるか分からんぞ」

「……いや、私もそれは分かるけど。やるだけやってあげなさいよ」

「てかなんで俺にだけやらせようとしてんの?そう思うならお前がやれよ」

「私は本当に無理なの。半額出してあげるからやりなさい」

 

 ……まぁ、それならイーブンかな。小さくため息をついて後頭部をかきながら言った。

 

「……はぁ。数回試すだけだからな」

「! い、良いの?」

「だってスッゲェしょぼんとしてんだもん」

「……チョロいわねこの男」

「なんか言ったかどケチ」

 

 バカに一瞥してから百円玉を入れた。まぁ、さっきはアームが弱いとは言ったが、最近のゲーセンは片方のアームの力がやたら強いパターンが多いんだよな。

 さて、ここのはどういう奴か……。緊張気味にアームを動かし、手始めに正面から捉えてみた。

 ぬいぐるみの胴体を掴んだものの、やはりというかなんというか、右のアームの力が強過ぎて、少し持ち上げて転がってしまった。

 ぬいぐるみを落とす口も右側にあるため、これでは出口から遠ざかるばかりだ。

 

「ぷふっ……!」

 

 速水、テメェは取ってやりたいのかあげたくねーのかどっちだ。

 あからさまに睨んでやると、速水は「ごめんごめん」と言いながら百円玉を渡してきた。

 リトライ。しかし、今ので大体わかった。幸いにも、ディメンターの上半身は人型だ。なら、弱い方のアームを脇の下に挿せばいける。

 そう踏んで、クレーンを動かした。しかし、脇の下に入れるというのは中々に難しい。

 

「……」

「ぷっ……!ふふっ……!あんたヘタクソ過ぎ……!」

「テメェ一回やってみろやコラ」

「いいわよ、あんたよりは上手いもの」

「はい、百円」

「どうも」

 

 言われて速水がやってみた。

 が、こいつどういうわけか右のアームだけをぬいぐるみの端引っ掛けやがった。当然、転がるに決まっている。

 

「テメェ悪化させてどうすんだよ」

「……だから言ったじゃない、私は無理だって」

「お前が俺より上手いっつったんだろハゲ!」

「ハゲてないわよ!」

「あの……やっぱり……」

「「取ってあげるから安心して!」」

 

 で、まぁそこからは泥試合。まずは脇の下に入れる練習をして、ようやく入ったと思ったらそもそも作戦ミス。

 続いての狙いは右のアームでタグを引っ張るというもの。しかし、脇の下に入れるのに時間を食ってた奴がタグに入れるなんてのを簡単に出来るはずない。

 さらに時間がかかり、何とか入手出来た。

 

「……どうぞ、小梅ちゃん」

「……わあ、ありがとう……!」

 

 ふっ、この笑顔が見れただけでも良しとするか……!

 とはいっても今月マジでキツイな……。小遣いも減らされちゃうし、バイトでもするか?

 

「……あんた、下手くそね」

「お前が言うな……」

「2300円も使っちゃったじゃない……」

「お互い様だ。てかてめーは金あんだろ?こっちはバイトもしてねー高校生だぞ」

 

 すると、速水は小梅ちゃんの頭に手を置いて、精神誠意を込めて言った。

 

「……小梅、大事にしなさい」

「……うん!」

 

 ……俺もそう思う。本当に大事にしろよ……。

 染み染みとそう思いつつも、なんか内心モヤモヤしていた。いや、嫌なことがあったとかではなく、何か忘れてるような気がして。なんだっけな。

 なんか、こう……クレーンゲームとかやってる場合じゃない根本的な事が……。

 しかし、そんな懸念も速水に頭を撫でられて嬉しそうな顔を浮かべる小梅を見てどうでもよくなってしまった。

 そんな時だ。

 

「こ〜う〜め〜さぁ〜ん……」

 

 お化けみたいな声が背後からして、慌てて三人で振り返った。そこには、泣きそうになってる写真で見せてもらった女の子が立っていた。

 

「……あ、幸子ちゃん」

「『……あ』ってなんですか!『……あ』って!完全に忘れてた人のセリフですよね⁉︎」

「……そ、そんな事ないよっ。取ってもらってから探そうと思ってたんだよ」

「だとしても優先順位!」

 

 ぐうの音も出ないほどの正論だった。

 

「そんなボクを捨て置いてなんですか!家族団欒みたいに奏さんと……な、なんかよく分からない人にぬいぐるみ取ってもらって!」

 

 直後、ピクッと俺と速水の耳が揺れた。

 

「自分は出来ないくせに文句ばかりのママに、スキルはない癖にプライドだけは一人前のパパの間に生まれたとは思えないほどおとなしい娘みたいな……こう、しっくり来るほどの家族でしたよ最早!」

「ねぇ、ちょっと待ってくれる幸子?」

 

 速水が微笑みながら間に入った。

 

「……家族って、誰と誰と誰のこと?」

「ですから、小梅さんと奏さんとこの人ですよ!」

「……誰が娘だって?」

「小梅さん」

「……誰がママ?」

「奏さんです!」

「…………で、誰がパパ?」

「この人ですよ!」

「あなた……!」

 

 キレそうになる速水の肩に手を置いた。

 

「まぁ待て、速水」

「は?何馴れ馴れしく触ってんの?殺すわよ?」

「テメェが死ね。幸子さんとやらもキレてるんだ。何せ、ほっとかれて遊ばれてたんだから。だから、まずは幸子さんのターンだ」

「っ……」

 

 俺の言わんとしてることを理解してくれたようで、速水は渋々引き下がった。

 

「小梅ちゃん、謝ろう。流石に小梅ちゃんが悪い」

「……うん。ごめんね、幸子ちゃん」

「……ま、まぁ、分かってくれれば良いんですが……!」

「お詫びに、後でクレープ奢ってあげる」

「い、良いんですかっ?しょうがないですね、優しくて可愛いボクに免じて許してあげます!」

 

 楽しみになってきてるとこ申し訳ないが、ここからはこっちのターンだ。

 

「で、幸子」

 

 我慢の限界だった速水の方から声をかけた。その声音に幸子は肩を震わせた。

 

「訂正しなさい。私達は家族じゃないから」

「え、なんでそんな怒って……」

「小梅が娘なのはこの際良いから。このアホンダラが夫というのは訂正しなさい」

「あ?テメェがアホだろオイ。大体、テメェがいなきゃもっと早くぬいぐるみ取れたんだよ」

「あんたが下手なのが悪いんでしょ?何人の所為にしてんの?男らしくない」

「余計な所で口挟むウザいとこ、テメェは女子っぽいなオイ」

「あら、ようやく対照的な所が出来たわね。あなたといると短所も長所になるから嬉しいわ」

「短所は短所でしかないから。何その告白紛いなセリフ、気色悪いからやめてくんない?」

「何恥ずかしい勘違いしてるの?それとも自意識過剰なの?なんにしても恥ずかしい男ねあなた」

 

 と、口喧嘩が続く中、横から会話が聞こえてきた。

 

「……え、本当なんなんですかこの人達」

「仲良しさんなんだよ」

「……よく言えますね、それ」

「……それより、クレープ食べに行こっか」

 

 口喧嘩が終わった頃には、二人の女子はいなくなっていた。

 

 

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