速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

13 / 65
なんか今回の話はやってたらアイドルあんま出なくなっちゃいました。
次の回からガンガン奏さん出すので許してください。


ジャンプのライバルは大体ツンデレ。

 六月の後半は梅雨が抜け、太陽さんが今までにないほどの本気を出し始める季節。それに従って学生服も夏服になり、暑さ対策である学校指定のポロシャツも販売されるようになった。それは女子も一緒だ。

 しかし、女子の制服はブレザー好きの俺としては、いくら薄着でも夏服など興味はない。

 そんな季節になったわけだが、俺と速水の日常は変わらなかった。

 いつも通り、何となく休日に出掛け、気分的にカラオケ行きたかったのでカラオケに行ったら速水とバッタリ出会し、空き部屋が一つしかないのでお知り合いであれば……と同じ部屋を案内されたり、

 何か映画でも借りて行こうかと思ってレンタルビデオ屋でテキトーな映画を手に取ったら手が重なり合い、口論の末に半額出し合って片方の家で一緒に見る事になったり、

 コンビニに立ち寄ったらまた遭遇して、速水はファッション雑誌、俺はジャンプを読んでると、速水がスマホをポケットから出そうとして落としてしまい俺の足元に転がり、それに気づかず踏んでしまって口論になり、コンビニ店員に「出てけ」と怒られるなどと、まぁ色々なことがあった。

 ……思い出しただけでムカつくなあいつ。

 で、現在は7月。期末試験が迫って来るに伴い、俺と速水は勉強に力を入れ始めた。相手より少しでも長く勉強してやろうという根性で、俺も速水も一心不乱に図書館に篭るなり登校中に教科書読み込むなりととにかく勉強していた。

 しかし、速水にはアイドルの仕事がある。勉強する時間は限られているのだ。だから、少しでも条件を五分にするために俺はバイトの指定休はほとんど入れなかった。 どの道、中間で点数を荒稼ぎした俺なら期末が多少悪かろうと成績には響かない。

 まぁ、今日はそのバイトはないんだけどね。図書館で速水と勉強中である。いや、約束はしてないが。

 

「……」

 

 速水は顎に手を当てて教科書とにらめっこしていた。なんだ、分からないとこでもあんのか?

 まぁ、こいつは人に頼るようなことだけはしないだろうし放っておくか。

 そう決めて、化学の問題をひたすら解いた。

 しばらくして、疲れが出たのかぼーっとして来たので、一度ペンを置いた。前みたいに少しでも長く勉強とかそういうのはしない。バイトもあるし、無理は禁物だからな。

 鞄の中から飲み物を出して一口飲んだ。やっぱ勉強中は甘いもんだわ。というか、いつでも甘いもんだわ。定期的に糖分取らないとやってられん。

 

「ふぅ……」

 

 速水もペンを置いた。……こいつ、すっごい疲れた顔してるけど大丈夫か?敵ながら不安になるんだけど。

 速水自身も疲れを察してるのか、持って来た飲み物を飲んだ。ふーっと一息つくと、ふと俺の方を見た。

 

「どう?勉強」

「あー、まぁそれなり」

「ふーん。私はもうほとんど出来てるけどね」

「や、俺もほとんどっつーか完璧だけど」

「いや私は完璧というか完全だけど」

「……」

「……」

 

 ……上等だよ本当に。お前今度こそ圧勝してやるからな。

 

「そういや、お前今日仕事は?」

「今日はオフよ。てか、あったらこんなとこいないわよ」

「あそう。つーか、仕事終わったらたまに俺の店来て買って行くのやめろよな」

「なんで?あなたがちゃんと働いてるか見に来てあげてるんじゃない」

「頼んでねーよ。しかも店長がお前のファンだから来ると舞い上がるんだよ」

「その分給料も上がってるんじゃないの?」

「嬉しくねーから。お前のお陰で給料上がるとか」

「あっそう」

「やっぱあれ?知らない人でも目の前にファンがいるって分かると嬉しいもん?」

「まぁ、そうね。あ、私もちゃんとアイドルなんだなって改めて自覚出来るもの」

「ふーん……」

 

 そういうもんなのかね。

 

「でもお前、今とてもファンには見せられない顔してるぞ。すっごい疲れてるっぽいし」

「え、嘘」

「鏡見て来いよ。トイレで」

「……別に良いわよ。周りに知り合いあんたしかいないし、あんたにならどう思われても良いし」

「や、そういう問題じゃなくて、周りにファンがいるかもしんないじゃん」

「……それもそうね。ちょっとお手洗い行ってくる」

 

 そう言って、速水はフラフラした足取りでトイレに向かった。

 ちょっと心配になったが、相手は前回、俺と全く同じ点数を取った相手。油断は禁物だ。

 勉強を一人再開してると、トイレから速水が戻って来た。さっきまでとは違い、スッキリした顔だ。

 

「……よし、再開っ」

 

 そう言いながら勉強を始めた。

 

 ×××

 

 試験一週間前になった。

 つまり、来週からは期末試験。多分、全部満点取れるわこれってレベルである。

 そんな日の朝、英単語帳を開きながら家を出ると、速水と出会わなかった。今日はあいつは仕事なのか?まぁ、どーでも良いが。

 学校に到着し、しばらく勉強していたが、隣の席に速水は来ない。そのまま朝のHRが始まってしまった。

 しかし、試験前に仕事があんのは珍しいな。中間試験前とかは学校休んでまでの仕事は無かったりしたのに。

 そんな事をボンヤリ考えてる間にHRが終わった。するとスマホが震えた。

 

 シューコ『奏ちゃん、風邪で休みだってー』

 

 ……あ、そうなんだ。通りで……。しかしなんでそんなこと俺に言うんだよ。

 

 河村優衣『なんで俺に言うの』

 シューコ『いや寂しがってるんじゃないかって思って』

 河村優衣『なわけねーだろ。つーか風邪とかあいつ軟弱過ぎるだろ』

 シューコ『そりゃ女の子だからね。今回こそバカ村に勝つって燃えてたから』

 

 ……え、これ俺の所為か?俺の所為なのか?俺と競ってるからこんな事になってんのか?

 

 シューコ『みんな「無理するな」って言ってたのに、あの子全然聞かないんだもん。そりゃ体調崩すよ』

 

 あいつバカかよ……。周りに迷惑かけてんじゃねーよ。

 ……しかし、俺の所為だとすると何だか申し訳なくなって来るな……。いや、速水にじゃなくて仕事の方々に。

 

「……仕方ねえな」

 

 そう呟くと、塩見さんに「了解」とだけ返事した。

 ま、隣のうるせー女がいないのなら気が楽だ。今日はのびのびしよう。

 

 ×××

 

 放課後。何とも言えない気分で学校が終わった。なんだろうな、その虚無感。なんつーか……こう、喧嘩友達をなくした感覚だ。

 消化不良というか、なんか物足りないというか……。つまらなかったんだよな、学校が。まあ、速水がいなかったら話す相手もいないし楽しいわけがないんだけど。

 ……おいバカ、なんだ今のは。流石に笑えねえんだけど。もしかして、速水がいた時は楽しかったとか思っちゃってんの?

 それはない、それはないだろ俺。あんな女の一人や二人いなくったって一人で楽しむくらいできるはずだ。どっか寄り道して行こう。

 そう思って、まずはゲーセンに入った。何をしようかと思ったが、最近のゲームはどれもICカード必須だ。どれも楽しめそうにない。

 ……いや、マリカとかなら必要ないんじゃね?よし、マリカにしよう。

 席に座って100円入れて運転した。CPU相手にほぼ独走状態で勝利したものの、別に面白くはない。いや、十分面白かったけど何となく楽しくなかった。

 

「……」

 

 つ、次のゲームやろう。勝ったってだけで景品がないから盛り上がらなかったんだ。プライズコーナーに行こう。

 そう決めて、クレーンゲームに来た。フィギュアに興味はないので、必然的にぬいぐるみとかスマホカバーの方に目がいく。

 ……なんでも良いから取ってみるか。小梅ちゃんにまた頼まれたりしたときのための練習だ。

 目に入ったのはアシレーヌのぬいぐるみが目に入った。アシマリの最終進化系である。

 これで良いや。何となく上半身だけ人型な所がディメンターっぽいし。

 とりあえず手始めに100円玉を入れた。試行錯誤の末に800円で取れた。割とリーズナブルじゃないこれ?

 

「……」

 

 なんだろう、でも楽しくない。別にこれいらねーからかな……。

 別のプライズを探してると、今なんか流行ってるポプテのスマホカバーがあった。吸盤でスマホを貼っつけ、開閉式のカバーでボタンで中指立ててる奴。

 あ、これは少し欲しいわ。これも取ろう。これ取れば楽しかったと思えるはずだ。

 100円玉を入れ、再び試行錯誤で700円で取れた。さっきよりも少ない金額で取れたはずなのに、これでも何故か楽しくない。

 

「……」

 

 前、ディメンターを取った時はすごく楽しかった記憶あるのに……。そういえば、あの時は速水も一緒にお金出して、小梅ちゃんと三人で色々試してたっけ……。

 ……複数人だったからか?やはり、一人だと何をしても楽しくないって事か……?

 そういえば、速水も同じなんじゃないだろうか。しかも、あいつの場合は一人でずっとベットの中だ。俺よりもつまらないんじゃねぇの。

 

「……」

 

 ……だーもう、仕方ねえな。ほんと、あいつも俺も仕方ない。本当、なんで嫌いな相手のためにこんなことしなきゃいけねーんだよ……。

 額に手を当て、大きくため息をついて心底自分に呆れながらゲーセンを出た。

 

 ×××

 

 家に到着し、自室に入ると窓を開けた。向かいの家の部屋の窓をトントンとノックすると、シャッとカーテンが開いた。

 額に冷えピタを貼り、若干顔を赤らめて、寝間着姿の速水が顔を出した。てか、こいつ本当エロい身体してんな。エリの隙間から胸の谷間見えてるし、なんならはち切れそうだわ。

 俺の顔を見てさらに不機嫌そうな顔になった速水は、窓を開けて口を開いた。

 

「……何よ、何の用?こっちそれどころじゃないんだけど」

「おら」

「っ⁉︎」

 

 速水の顔面にビニール袋を持たせたアシレーヌのぬいぐるみを投げた。

 ボフッと直撃し、速水は後ろにひっくり返った。ぬいぐるみを退かし、青筋を立てて怒鳴って来た。

 

「な、何すんのよあんた!病人に鞭打つとかどういう気⁉︎」

 

 チッ、ホント弱ってても可愛くねーなこの女。まぁ、今のは俺も悪いところあったし、そこについては触れないで、アシレーヌの持ってる袋を指差して言った。

 

「それ、やるよ。早く治せ。期末の勝負はなかったことにしてやるよ、バカ」

「は、はぁ?何言って……!」

「おやすみ」

 

 それだけ言って、窓を閉めた。

 袋の中にはポカリと今日の授業分のノートの写しが入ってる。まぁ、瀕死だった奴を叩きのめしても嬉しくねーからな。アシレーヌもあげたのは別に俺もいらねーから。というか、なんとなく速水に似ててマジマジ見てたらムカついて来たし。

 

「……勉強するか」

 

 とりあえず、期末の勝負は中止になった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。