速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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転校初日は落ち着かない。

 俺には人には言えない秘密がある。それは、元ヤンって事だ。いや元ヤンというのは語弊があるか、でも一般的に言えば元ヤンなのかな?売られた喧嘩は必ず買う主義だっただけだ。

 まぁ、とにかく今はもう喧嘩もやめたし、なるべく平穏に暮らしたいと思っている。

 で、今日は転校初日の朝。父親は仕事に出かけ、母親は多分まだ寝てる。この人も仕事探すとか言ってたんだけどな……。

 まぁ、とにかくそんなわけでボロは出せない。小さく深呼吸しながら鏡の前で髪型を整えていた。ワックスは校則で禁止されてるわけではないが、あまり良い印象は与えないだろうと思い自重した。

 制服に着替えて、朝飯を食いながらニュースを見ていた。この時間、ニュースくらいしかやってねぇんだもん。

 しかし、この前の女にはホントムカついたな。なんであんな態度でかいわけ?しかも人の行くところ行くところに現れやがってよ……。お陰でまた出会すのが怖くなって、GW中は表に出れなくなっちまった。

 ……なんかあそこまで一緒にいる事が多くなると、もしかして俺とあいつの思考って似通ってんのかって思っちまう。ハイパー良い迷惑だ。

 どうせならもっと、こう……幼馴染的な子と一緒が良かった。幼馴染なんていないけど。

 そんなことを考えながら朝食を終えた。テレビを消して食器を流しに戻してついでに洗い、歯磨きを済ませた。

 

「……行くか」

 

 鞄を持って家を出……ようとした所でドアノブを掴もうとする手が止まった。

 ……今出て行ったら、速水とかち合う。いい加減学習したぜ。なら、もう少し後に出よう。幸い、時間的にはあと10分以内に出れば間に合う。

 しばらくスマホでtwitterを覗いてる間に良い時間になったので部屋を出た。

 今日は朝から嫌な思いしなくて済むぞ、そう思いながら学校に向かおうとすると、家を出ようとしてる速水と目が合った。

 

「何なんだよお前は⁉︎毎度毎度タイミング良く現れやがって!友達になりたいのか⁉︎」

「それはこっちのセリフ!なんでかち合うと思って普段家出ようとするタイミングズラしたのにかち合うわけ⁉︎」

「畜生、深読みし過ぎたか!」

 

 やはり自分に素直になった方が良いようだ。

 ほんとは一緒に登校なんてしたかないが、同じ高校なので方向は一緒だ。遅刻しないギリギリまで時間を選んだからか、遠回りする選択肢はない。絶対に何も話さない覚悟で一緒に学校に向かった。

 ……しかし、まさか本当に高校二年生なんだな、速水って……。なんつーか、こう……ほんとに制服似合ってねぇ……。

 

「……ふふっ」

「ちょっとあんた何笑ってんの?」

 

 いや、本人も自分の外見を自覚してるからか、ネクタイを緩めてブラウスのボタンを第2まで開けて、と大人っぽくしようとしてるのが分かる。

 でも、その、なんだ。あれがセーラー服だったら完全にコスプレに見えるレベルだ。まぁ、容姿のことは言いたくないので下手な返しはやめておこう。

 

「や、何でもない。ただ、なんで俺OLと一緒に登校してるんだろって思っただけ」

「誰がOLよ!」

「や、別に速水の事なんて言ってないから」

「私以外に誰と登校してるのよ!」

 

 むう、確かに。

 

「いや、流石にOLは言い過ぎたわ。すまん」

「だからその件について私に謝らないで!大体、あんただって人のこと言えた口なわけ⁉︎中学生みたいな顔して!ほんとに高校生⁉︎」

「てめっ、人の容姿についてどうこう言うのは良くないんじゃないの⁉︎」

「あんたが言うな!」

 

 そんな言い争いをしてるうちに時間はどんどん過ぎて行く。ふと時計を見ると、遅刻まで残り5分となっていた。特に俺は職員室に行かなければならないので尚更だ。

 

「やべっ、あと五分じゃん」

「は、はぁ⁉︎もう、あんたの所為だからね!」

「なんでも人の所為にすんな!高校入ったら自分の行動には自分で責任持ちなさい!」

「どのスタンスで言ってるのよそれ⁉︎それならあんたこの前の覗きの件素直に謝りなさいよ!」

「いつまで根に持ってんだテメェは!少しは大人になりやがれ!」

「あんたが言うな!」

 

 なんて怒鳴り合いをしながら学校まで走った。

 昇降口まで走り、そこからは別行動。俺は職員室に来て先生に挨拶した。

 

「す、すみません、遅れました」

「ギリギリだよ、転校初日から」

 

 グッ、怒られた。怒るな俺、これは俺が悪いんだから。ここで怒っては若気の至りの学生と同じだ。

 

「すみません……」

「まぁ良いけど、走って来たみたいだし。さ、行くぞ。もうホームルームだ」

「は、はい……」

 

 先生はそう言うと立ち上がって職員室内を歩き始め、俺もその後に続いた。

 職員室から廊下に出て階段を上がってると声を掛けてきた。

 

「えっと、河村は……」

「あ、はい」

「転校は初めて?」

「はい。だからこういうの少し憧れてたんですよ」

 

 前の高校では恐れられてたからなぁ。だから絶対に元ヤンの事は隠さなきゃいけない。

 

「へぇー、じゃあ何か振ってあげるから一発芸とかやれよ」

「いや、いいです」

「ハッキリ断るなお前……。じゃあ特技披露とか」

「だからいいです」

 

 なんで何かやらせたがるんだよ。

 連続で拒否ったら先生は不服だったのか、ジト目で俺を睨みながら言った。

 

「お前な、最初でしくじると友達出来ないぞ」

「や、とりあえずそういうのはいいです。なるべく静かに暮らしたいので」

「……まぁ、河村がそう言うならそれで良いけどよ……」

 

 転校に憧れてはいたが、別にチヤホヤされたいわけじゃない。友達作りは自分から行くさ。先生のその心遣いには感謝したいけど。

 

「あ、そういえば一つ良いか?」

「何ですか?」

「うちのクラスにアイドルがいるんだ、一人」

「は?」

 

 アイドルって、歌って踊れる可愛い顔したあの集団?

 何言ってんだこいつ、みたいな顔をしてると先生は真顔で答えた。

 

「いや本当に。知らないの?」

「知らないですよ。俺、アイドルに興味ないし」

「ふーん。まぁ、良いけど。で、まぁアイドルだからか元々の雰囲気からか、少しそいつ孤立しちゃってるんだよね」

「はぁ」

「だから、転校してきたばかりの河村なら少し打ち解けられるかもしれないから、無理にとは言わないけど仲良くしてやってくれ」

「良いですけど……。そいつの名前聞いても良いですか?」

 

 すると、先生は何故か得意げな顔をして答えた。アイドルが教え子って事で少し嬉しそうにしてるのかもしれない。

 

「速水奏だよ」

「嘘だ」

「ふっふーん、嘘だと思うだろ?でも本当だ。ぶっちゃけ、先生もファンだ」

 

 いや?そういうんじゃねぇよ。あんなムカつくアイドルがいるかっつんだ。てか、あんなのがアイドルであって良いはずがない。

 

「待て待て。え?マジ?あれがアイドル?」

「そうだよ。ま、よろしく頼む」

「嫌です、他をあたってください」

「いやいや、先生経験者だから分かるけど、ゴールデンウィークが終わった辺りってのはクラス内でもグループができちゃって友達出来にくいんだよ」

「先生、高校の時に友達いなかったんですか?」

「だけど、そこに新しいクラスメートが入れば速水にも友達が出来ると思うんだ。……まぁ、アイドルで忙しいからあんま遊べないとは思うけどな」

「おい、無視ですか?」

「だから、まぁ河村には河村の学生生活があるし無理とは言わないけど、出来れば少しは仲良くしてやってくれ」

 

 ……そっか、先生友達いなかったんだな。しかし、だからこそ生徒の気持ちが分かるのかもしれない。

 

「……でもお断りします」

「なんでさ……。捉え方変えればアイドルと仲良くなれるんだぞオイ」

「アレと友達になるのは一生無理な気がするんで」

 

 それをお願いされるには奴と仲悪くなり過ぎた。

 しかし、何だか速水は速水で大変みたいだな。仲良くはなれないだろうけど、少し同情はしちゃう。何故なら気持ちは分かるからだ。

 前の高校では売られた喧嘩は全部買ってたら、クラスの連中には敬遠され始めてたからなぁ。

 だからこそ、この高校では絶対失敗しない。

 そうこうしてるうちに教室に到着した。

 

「じゃ、先に俺が入って事情を説明するから」

「うい」

 

 先生が教室の中に入り、俺はしばらく待機した。あーこういうのほんと憧れてたわ。憧れてたっつーか、こういう風に転校前にここで待機するのは初めての経験だからワクワクしてる感じ?

 待ってると、教室から「おーい、入って来い!」と声が聞こえてきたので、扉に手をかけた。

 クラスメートが俺に注目する中、先生は俺に言った。

 

「河村、自己紹介しろ」

「今、河村って言っちゃったね」

 

 そこをツッコンでから自己紹介した。

 

「河村優衣です」

「……」

 

 自己紹介したが、誰も何も言わない。え、ダメ?自己紹介って名前言えば良いんじゃないの?

 勝手に狼狽えてると、先生がツッコむように言った。

 

「他になんか言えよ」

「え、なんかって……野口英世?」

「そんなこと言ってどうすんだよ……。まぁ良いわ、みんな分からないことあると思うから、仲良くしてやれ」

 

 確かになんて野口英世とか言い出したんだ俺は。

 グダグダな自己紹介の後に散発的な拍手が出た。一部の女子からは「微妙にイケメン?」「ちょっと目つき悪いけど……」「私は好みじゃないわ」とか聞こえてきた。喜んで良いのか微妙だなおい……。

 

「席はー……そうだな、速水の隣で」

 

 先生が指差す先は速水の席がある。隣の席は確かに空いていた。ほんとは死ぬほど嫌なんだが……まぁ良いか。

 隣に座って鞄を置いた。とりあえずペンケースを机の上に置いて教科書を机の中にしまうと、速水が声をかけてきた。

 

「……ほんとに同じ高校なのね」

「るせーな、悪いかよ」

「別に。ただ運命が憎たらしいだけよ」

「憎たらしいのはお前だ」

「は?あんたの方が憎いんだけど?この覗……」

「オイバカ教室でそれを言うな。転校初日から浮きたくねぇんだよ」

「いやいや、もう浮いてるから。何?野口英世って」

「うるせーな、咄嗟に何も浮かばなかったんだよ。てか、浮いてんの?アレで?嘘でしょ?」

「いや知らないけど」

「テメェ変に不安にさせんじゃねぇよ」

「あなたが勝手に不安になっただけでしょ」

「お前が不安を煽るようなこと言うからだろうが。そんなんだからボッチなんだろ」

「ぼ、ボッチじゃないわよ……!友達いるし。てかなんで知ってるのよ」

「今、ボッチって認めたね」

「認めてないから。てか、あんたもボッチじゃない」

「転校したてのやつと張り合っちゃう辺りがもうね」

「オイ、そこの二人」

 

 先生が声を掛けてきた。気が付けば、クラスメート全員が俺と速水の方を見ていた。

 

「転校早々仲良いのは良いけど、今はホームルーム中だ」

「「いや仲良くはないです」」

「息ぴったりだな」

 

 気が付けば、周りもザワザワとなんか俺と速水を見てざわつき始めている。

 否定したかったが、俺も速水も追求されるのは嫌だったので二人揃って目を逸らした。

 ……なんか、前途多難な気がしてきた。

 

 

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