速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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ごっこ遊びはいくつになっても楽しいもの。

 夏祭りが終わった三日後の朝。俺は頬を引っ叩かれて目を覚ました。

 

「痛っ⁉︎」

「目が覚めた⁉︎ ようこそ、死んでたまるか戦線へ!」

 

 ……速水が目を爛々として俺の隣でスナイパーライフルのオモチャを構えて俺の隣に座っていた。

 

「……は?」

「唐突だけど、あなた入隊してくれないかしら?」

「本当に唐突だわ。つーか何言ってんだお前」

「あなた知らないの? Angel Beats!」

「知らねーよ。世間の常識みたいに言うな」

「とにかく! Angel Beats!ごっこしましょう!」

「お前ほんと何言ってんだ?」

「早く起きなさい! ほら、早く!」

 

 わけがわからないまま腕を引っ張られ、無理矢理ベッドから降ろされた。何なのこいつ朝から。

 

 ×××

 

 十分後。とりあえず朝飯を食いながら速水から話を聞いた。掻い摘んで説明すると、昨日こいつ文香さんとやらが体調崩したからお見舞いに行ったらしい。

 で、その時に「Angel Beats!」なるアニメを見て、その結果がこれのようだ。

 いい歳こいてアニメにハマるなんて情けない……と、心底呆れたものの、とりあえず文句を言うことにした。

 

「それ、俺顔引っ叩かれた意味ないよね。そもそも、お前どっから入って来たの?」

「あなた、不用心すぎるわよ?窓空いてたもの」

「危ない真似してんじゃねーよ……」

「あんたに言われたかないわ」

 

 まぁ、理由は分かった。そして何を言っても謝る気がさらさら無いのも分かった。ついでに、目の前の女の脳内偏差値が20くらい落ちたのも分かった。

 

「速水」

「かなっぺと呼びなさい」

「すかしっぺ」

「あんた今何つった?」

「とりあえず、俺の朝食が終わるまで待てるな?」

「ねぇ、聞いてる? あんたさっきなんて言った?」

「あと少しで食べ終わるから、それ終わったら行こうな」

「あの、会話する気ある? ていうか、行くって何処に? 死んでたまるか戦線?」

「病院」

「私にクリスマスだけ外に連れ出そうと思える妹はいないわよ」

 

 ダメだ、目の前の女が何を言わんとしてるのかまったくもって理解出来ない。こんなの初めてだ。

 まぁ、病院に連れて行くにしてもれんげにゃんぱす宣言に行くにしても、とりあえず俺の準備を終わらせないとな。

 

「ごっそさん」

 

 速水が作ってくれた朝飯を流しに戻すと顔を洗って歯磨きをして、髪を軽く整えて、この前もらったピアスを付けて、ポーチとスマホと財布と交通ICを持って、ソファーで寛いでる速水に声をかけた。

 

「速水、行くぞ」

「あさはかなり」

 

 なんだろ、もはや怖いんだけどこの子。

 

 ×××

 

 流石に外でスナイパーライフルを持つのは恥ずかしいのか、自分の部屋に置いて速水は表を歩いた。でも、外で使わなかったらそのオモチャ一生役に立たないよ。

 

「つまり、Angel Beats!は最後はみんな消えちゃうんだけど、そこがまた感動的で良いのよ! わかった?」

 

 と、速水は一人で意気揚々と聞いてもないAngel Beats!の内容を話す。

 これだけ楽しそうに語られると口を挟みにくいな……。まぁ、とりあえず聞きたいことを聞くか。

 

「えーっと……いくつか良いか?」

「何? 興味出た?」

「いや全然。とりあえず、それに出てくるキャラの天使っての。あれ、立華奏ってんだろ? 同じ名前なのにゆりっぺを名乗ってんのはなんで?」

「かなっぺよ。どっちも好きだから合体させてみました」

 

 ……あ、そう。アニメはよく分からないけど、オタクにはそういう現象がよく起こるものなのか……? そういうのはドラゴンボールの世界だけだと思ってた。

 

「で、とりあえず病院で良いのか?」

「なんでよ! とりあえず、あなたの銃を買いに行きましょう」

「なんで」

「銃が嫌なら長ドスとかハルバードでも良いのよ」

「んなもんどこに売ってんだ。てか、この歳でオモチャで遊ぶほど終わってねーよ」

「じゃあ銃で良いのね?」

「なぁ、頼むから少し落ち着け」

 

 正直、速水が怖い。割とマジで。金属バットやナイフ、木刀、鎖鎌を持った連中20人に囲まれても怖くないけど、目の前の女は怖かった。

 でも、なんか楽しそうにしてる速水を見てると「お前痛いよ」なんて言えない。

 ……仕方ない、付き合ってやるか。

 

「エアガンを買えば良いんだな」

「お、やる気になったのね?」

「全然。とりあえず、戦争ごっこに付き合えば良いんだろ」

「ごっこじゃないわ! 本気よ!」

 

 めんどくせぇな、こいつ。

 

「まぁ本気でもモンキーでも良いけどよ、要は俺と撃ち合いたいんだろ」

 

 仕方なくため息をついて、俺はかなっぺと模型屋に行った。

 思えば、こんな所に来たのは初めてだわ。あまりオモチャとか興味なかったからなぁ。

 

「速水」

「かなっぺ」

「かなっぺ。オススメとか無いの? なるべく安い奴」

「や、私もカッコ良い奴テキトーに買っただけだし……」

「役立たずが」

「うるさいわよ。あなたがカッコ良いと思うの買えば良いじゃない」

 

 そう言われてもな……。俺は銃より拳派だし……そもそもそのAngel Beats!を見てないのに、いくら武器を買った所でAngel Beats!ごっこなんて出来んのか?

 ……まぁ、とりあえず速水が満足するようにテキトーなの選んでおくか。

 

「じゃあこれで」

 

 手に取ったのは銀色の拳銃だ。たまたま近くにあったから。あと他のに比べて比較的安いし。

 

「S&W645、日向くんの武器ね。あなたとは真逆の男の子だけど良いんじゃないかしら?」

「なんで見ただけで分かるんだよ……」

「じゃ、早く買って外出ましょう」

 

 との事で、購入した。エアガンって意外と高いのな……。

 予想外の出費に少しショックを受けてると、かなっぺが自分の鞄からエアガンを取り出した。俺と同じで銀色の銃だ。

 

「ちなみに、私のはベレッタM92FS、ゆりっぺの銃よ」

「俺のと一緒じゃん」

「全然違うわよ!」

 

 ええ〜……違いが分からないんだけど。まぁ興味ない人にとっては悟空超サイヤ人、ベジータ超サイヤ人、悟飯超サイヤ人2が同じに見えるらしいし、仕方ないっちゃあ仕方ないが。

 つーか、お前そもそもスナイパーライフル持ってたろうが。なんでいくつも買ってんだよ。

 

「で、こんなもん買ってどうすんだよ」

「そうね……まずは的に当てられるようになりましょうか」

「そこからやんのかよ……」

 

 まぁ、せっかく買った以上はそうなるんだろうけど……。

 しかし、正直オモチャで遊ぶのは気が進まない。速水は楽しそうだから良いけど、俺はかなり恥ずかしい。

 

「……なぁ、速水。せめて家の中でやらないか?」

「なんでよ」

「あー、ほら、外だと弾を外した時に他の人に当たるかもしれないだろ? だけど、部屋の中なら俺達しかいないじゃん」

「……確かに」

「だから、帰ろう」

「仕方ないわね。オペレーショントルネードはまた今度ね」

 

 なんだその物騒な名前のオペレーションは。そしてトルネードに銃が必要なのか……?

 とりあえず周りに見られることは回避出来たが、オモチャで遊ぶことに変わりはない。まぁ、その辺は速水を満足させるためだし、仕方ないだろう。

 良い感じの距離感だったので、とりあえず速水の部屋に入ると手を伸ばして俺の部屋の窓を開けた。

 

「よし、これなら跳ね返っても俺達に当たることもないだろ」

「そうね。でも、的はどうするの?」

「用意してくるから待ってて」

 

 言いながら、一度自分の部屋に戻った。窓を飛んで。

 とりあえず、机の上にジャンプを立てて置いた。もちろん、ガムテで固定して置いてある。これなら当たったかどうかわかるし、倒れないからオートマチックに使える。

 再び窓から戻り、買った箱を開けて銃を握った。

 

「よし、やろうか」

「ええ」

 

 と、いうわけで、二人で銃を握った。

 

 〜1時間後〜

 

 二人とも飽きてゴロゴロしていた。だって地味なんだもん。なんか距離間的にも大体2〜3メートルくらいしか無いし、簡単に当たっちまう。

 

「なんていうか……アレね。やっぱごっこ遊びは虚しくなるだけね」

「だろ?」

「付き合わせて悪かったわね……」

「分かれば良い」

 

 とりあえず、お互いに銃はインテリアと化しそうだ。

 

「でも、Angel Beats!は本当に面白いんだから」

「それは分かったよ。今度、時間があったら一緒に見てやる」

「本当⁉︎ 約束だからね!」

 

 ……こいつが何かにハマるとこうなるのか、ギャップ萌えで可愛いとか思っちゃってる俺はおかしいのかな。

 

「そういえば、この前のプレ4はどうしてんの?」

「使ってないわよ。なんだかよく分からなくて」

「そうなん? じゃあちょっと見てやるよ」

「あなた分かるの?」

「まぁ、一応うちにあるしな」

「そうだったの。ならさっさと頼めばよかったわ」

「ゲームとかは買ったのか?」

「買ってないわ。正直、私あまりゲームに興味ないもの」

 

 まぁ、確かに速水はそんな感じする。で、いざ始めたらどハマりしそう。

 

「で、プレ4は?」

「下よ。私の部屋にテレビないもの」

 

 まぁ、普通はないよな。俺の部屋にもないし。しかし、速水が何かオンゲ始めるなら俺もモニターとか買おうかな。

 そんなことを呑気に考えながら、速水の後に続いて部屋を出ようとした時、ふとベッドが目に入った。アシレーヌの隣にはサーナイトが待機している。

 交互に抱き枕にされてるのか、二匹とも抱かれた後のようなシワがついていた。

 ……なんか、俺があげたものが大事にされてると思うと少し嬉しいな。そんな事を考えてると、耳を横からグィーッと引っ張られた。

 

「いだだだだだだ! み、耳取れる、耳取れるって!」

「女の子の部屋をジロジロ見ないの……!」

「分かったよ! 悪かったよ!」

 

 ていうか、今更恥ずかしがることなんてないだろ。もうお互いに何度も部屋に入っちゃってるんだし。

 ……つーか、そもそもお互いに家に入っちゃってるけど、これ良いのかな。

 

「なぁ、速水。お前好きな人とかいないの?」

「うえっ⁉︎ な、何よ急に……」

「や、普通に一緒に速水の家にいちゃってるけど、好きな人とかいたら申し訳ないなって思って」

「……別に、気にしないで良いわよ」

「や、でも……」

「気にしなくて良いの」

 

 なんか少しイラつかせてしまったようで、速水の声音が鋭くなった。

 なんだよ、そんな怒るようなこと言ったか?

 一階に降りて、テレビの前のソファーに座った。一応、プレ4の設置はしてあるようで、テレビの裏はちゃんとHDMIが繋げられている。

 

「まずPSスポットってなんなの?」

「なるほど、そこからか……」

 

 まぁ、その辺はゲームやらない奴には分からんよな。特に、プレ4なんて今はゲーマーじゃないと持ってないんじゃないの?

 とりあえず、設定から始めて何とか使える状態にした。

 

「よし、これでいける」

「あら、もう良いの?」

「おお。とりあえず、これでインターネット使えるはずだから。無料のオンラインゲームならダウンロード出来るぞ」

「オンラインゲームなんて興味ないけどね。でも、せっかくだし何かやってみようかしら」

「何やんの?」

「あなたは何かやってないの?」

「俺? やってないけど」

「うーん……あ、じゃあ最近文香が始めたオンラインゲームあるんだけど、一緒にやらない?」

「何やんの?」

「pso2っていうゲーム」

 

 あ、聞いたことだけあるわ。

 

「……じゃ、やってみるか」

「そうね」

 

 まぁ、こういうオンラインゲームはダウンロードに時間が掛かる。俺も速水も準備を開始してしばらくソファーでのんびりした。

 ……そういや、俺速水の連絡先持ってないんだよな。や、だからどうという事は無いけど。

 

「そういえばさ、速水」

「何?」

「オンゲ一緒にやるのは良いけど、一応お互いに別々の場所でやらなきゃいけないじゃん? 会話とかどうするよ」

「あー……確かに。文香は通話とかしてるらしいわよ、L○NEで」

「ふーん……」

「……」

 

 黙り込む速水。こいつ、ほんと鈍感でムカつくな……。

 そんな意図の意図を察してか、ニヤリと微笑んだ。

 

「素直に連絡先くれって言えないのかしら?」

「……るせーな、今更欲しがるなんてなんか恥ずかしいだろ」

「そんなことないわよ。私も欲しいと思ってたし」

「……えっ、なん」

「精々、授業中にスタンプ連投してやるわ」

 

 ……ほんと、余計なことばっか言いやがってこのくそ女。

 

「じゃ、交換しましょうか。QRで良い?」

「おお」

 

 で、連絡先を交換するために、まずはお互いにスマホを取り出した。スマホの画面にパッとロック画面が映り、俺のスマホにはこの前の浴衣の速水、速水の方には水着の俺が映っていた。

 お互い、高速でスマホを隠すと、赤くなった顔でジロリと睨み合う。

 

「……テメェ、誰の許可を得て勝手に人の写真使ってんだ」

「……それはあんたもよ。そもそもいつ撮ったのよ勝手に」

「……バレないようにだよ。人の半裸姿撮りやがって……」

「……人のノーブラ姿撮ってるやつに言われたくないわよ」

「え、ノーブラだったの?」

「浴衣ってそういうものよ」

「じゃあパンツは?」

「殺して欲しいの?」

「いや真面目に。履いてたの?」

「履いてるに決まってるでしょ」

 

 だよね、びっくりした。しかし、これ以上言い合っても恥ずかしい暴露合戦になるだけな気がすんな……。

 

「……やめようか」

「……そうね」

 

 黙って連絡先を交換した。

 

 


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