速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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喧嘩と惚気は紙一重。

 翌日、俺と速水は珍しく塩見さんも交えてカフェに来ていた。

 目的は勉強。休日を利用して夏休みの課題を終わらせるということらしいが、生憎俺は終わってる。だから、正直なんで呼ばれたのか分からない状態だ。

 まぁ、どうせ暇潰し用なのは目に見えてるけど。とりあえず、俺の隣で速水と、そのお向かいに座る塩見さんは高速で指を動かしていた。

 が、速水はともかく、とても勉強が好きなタイプには見えない塩見さんはすぐにペンを投げた。

 

「あーもうっ、疲れた。終わんないよこんなのー」

 

 まだ夏休み始まったばっかなのに焦ってるのは、やはりアイドルだから忙しいからなのだろうか。

 まぁ、さっさと終わらせた俺は傍観決め込むに限るんですけどね!

 

「いやー、大変そうっすね」

「うー、他人事だとおもって」

 

 実際、他人事だしな。まぁ、その辺のやるやらないは俺が口を挟むことじゃない。

 一人でスマホをいじりながら飲み物を飲んでると、塩見さんから手が伸びて来て、俺の頬を引っ張り回した。

 

「いだだだ! あにふんふぁよ!」

 

 慌てて上半身を仰け反らせて頬を引き剥がした。

 

「なんかむかつく。高みの見物しちゃってさ」

「知らねーよ! ていうか、お前らが俺を呼んだんだろうが! 俺は家でぷそやってたかったのによ!」

「良いじゃん。奏ちゃんと河村くんが普段どんなことしてるのか知りたいなって思ったんよ」

「勉強会で話すことなんかないだろ……。分かんないとこあったら俺に分かる範囲で教えてやるから、さっさと片付けろ」

「あ、あたし年上なんだけどね……」

 

 ちなみに、pso2はめちゃくちゃ面白いけど難しい。中々火力が出せない。スキルの組み合わせが重要らしい。

 なんて考えてると、隣から頬を引っ張られた。

 

「いでっ、いでででっ!な、何すんだよお前まで!」

 

 なんで速水に抓られたの? 今のほんとわけわからんぞ。

 

「別に。ただ、周子と仲良いんだなって思って」

「は? 何が?」

「お、何々? 奏ちゃん嫉妬?」

「は? 違うけど。ただ、お邪魔なら私帰ろうかなって」

 

 え、何こいつ。むしろ俺が帰りたいくらいなんだけど。

 すると、何を思ったのか、塩見さんが俺になんかアイコンタクトして来た。いや、君とアイコンタクトが成立する程仲良くないんだけど……。

 まぁ、フォローしろってことなんだろうな。正直、怒った理由がわからないから何とも言えないんだけど……。

 

「速水、何キレてんの?」

「キレてないわよ別に」

「や、キレてんだろお前」

「キレてないしっ……」

 

 ……こいつ、面倒臭ぇな。

 なんか俺まで不快になって来てると、塩見さんが俺をとてもダメな男を見る目で見てきた後、微笑みながら速水に声をかけた。

 

「ちょっと疲れて来ちゃったし、休憩にしよっか。奏ちゃん」

「別に私は平気だし。二人で仲良く休憩してれば?」

「それだと奏ちゃんと河村くんのお話聞けないなー。二人から話聞きたいんだけどなー」

「……」

 

 や、嫌いな相手と自分の話なんかで釣れられるわけないでしょ……。

 

「……し、仕方ないわね……」

「釣れちゃうのかよ……」

 

 なんでだよ……。あ、目の前で嫌いな相手の愚痴を言えるからか。ほんとこの女の性格……。

 

「じゃ、まずは奏ちゃんからね。今年の夏休みは、奏ちゃんは何してたの?」

「私? 私は別に大したことしてないわよ。夏休み入ってからはー……あ、買い物に行ったわね。文香の浴衣を選びに行ったわね」

「へー。文香ちゃんのを?」

「ええ。そのついでに色々買いたかったんだけど……ああ、その時ね。買い物に行く途中、バッティングセンターに行ったんだけど、河村野球超下手で、私の方がたくさん打てたのよ!」

「……え、一緒にいたの?」

 

 言われて、速水はキョトンとした顔で言い返した。

 

「え、何言ってるのよ。決まってるじゃない」

「あ、決まってるんだ」

「それでね、その日に何でも言うことを聞く事を賭けてたの。だから、その日は河村は私の奴隷だったのよ」

「へ、へー……」

「るせーよ、テメェ本当によ……」

 

 あの時はまさか負けるとは思ってなかったんだよ……。というか、俺のスイングが思ったより速かった。

 

「で、その後はどうしたの?」

「その後はー……」

「ムカついたから肩にセミ乗せてやったんだよ」

「あんたあれホントやめなさいよね⁉︎ 本当にびっくりして腰抜けるかと思ったんだから! 大体、あんただってビビってたじゃない!」

「あれは脅かしたセミの顔を立ててやったんだよ!」

「意味分からないわよ!」

 

 なんてアホな言い争いをしてると、塩見さんが「まぁまぁ」と間に入って来た。

 

「なんか、仲良くなったんだね二人とも」

「「いや、なってないから」」

「……」

 

 揃って否定するも、塩見さんは頷いて無視した。

 

「で、その後は?」

「その後はー……アレね、水着屋さんに行ったわ。ほら、今度撮影会あるでしょ? その時の水着を見繕いに」

「向こうで用意されてるっつって、俺への嫌がらせのためだったけどな。小学生かテメェは」

「あんただってガキみたいにハナクソ擦りつけてきたじゃない!」

「人のDNAを受け取っておいてなに抜かしてんだテメェコラ」

「求めてないわよ!」

「あーもう分かったから次行って仲良しコンビ」

「「だから良くない!」」

「またぴったりだねー」

 

 塩見さんは相変わらずニコニコしてる。しかし、いつもの笑みじゃないな……。なんか嫌な予感してるんじゃねぇのこいつ。

 

「で、その後は?」

「ランジェ……じゃなくて」

「え、ら、ランジェリーショップ行ったの?」

 

 バカ、そこは言うなや……。

 

「え、本当に仲良過ぎないあんたら?」

「「だから悪いっての!」」

 

 ったく、こいつは……。

 

「大体、どこからどう見たら仲良く見えるんだよ」

「そうよ。その後だって、下着持ってるとこ勝手に写真撮って!」

「あー、あの送られて来た奴?」

「待ちなさい、あんたあれ周子に送ったの?」

「手が滑った」

「通りであっさり消したと思ったわよ!」

「ちなみにあの写真、それなりにみんなに出回ってるよ」

「み、みんなって……どこまで⁉︎」

「さぁ?」

「把握できてないわけ⁉︎」

 

 あ、さすがに顔の赤さを耳までに止める事は出来てない。

 真っ赤になった顔でキッと俺を睨むと、速水は大声で怒鳴り散らした。

 

「大体、あなたはいつもそう勝手なんだから! この前のプールでだって教えてあげるって言ってるのに帰ろうとして!」

「頼んでねーんだよ! お前が勝手に一人で張り切ってただけだろうが!」

「その割には素直に従ってたじゃない! 教わりながら人の胸をガン見してたわよねこのエロ男!」

「性欲は老若男女問わず存在するもんだろうが! 世の中の人間はみんな寝坊助でみんな食いしん坊でみんなどすけべなんだよ!」

「その中でも理性を持って抑えようとするのが人間でしょ! それなのにあんた、お祭りの時も私の着替え覗いてたじゃない! どう考えてもそれを超えてるわよ!」

「そもそも下着姿で化粧すんなや! しかも途中で止めて注意までしてやったのになんだその言い草は!」

「そこは見て見ぬ振りするのが優しさでしょ⁉︎」

「外でそういう事されたら心配だから言ってやったんだろうが!」

「外でやるわけないでしょ⁉︎ あなたお節介なのよ! 頼んでもないのに答え合わせ付き合ってくれたり!」

「それはお互い様だ!」

「お祭りの時だって逸れたからってわざわざ走って探し回ってくれて! 一人でお祭り回ってた私が薄情みたいじゃない!」

「薄情な奴がわざわざハンカチで傷口縛ってくれるかよ!」

「助けてくれたんだから当たり前でしょ⁉︎」

「助けてなんかねーし! 個人的にあのチャラチャラした頭の軽そうな大学生がムカついただけだっつの!」

 

 なんで言い争いをしてる時だ。しれっと周子が口を挟んだ。

 

「本当に仲良しさんだねぇ、二人とも」

「「だから悪いってば!」」

「でも、もう少し周り見ようね、勉強どころじゃないから」

「「は?」」

 

 言われて辺りを見回すと、他の客の視線が俺と速水に集中していた。

 

「……」

「……」

「……店、変えよか」

「「……ごめん」」

 

 店を変えた。

 

 ×××

 

 しかし、店なんてそんな簡単に見つかるものではない。

 なので、探すのは早々と諦めてウチに来ることになった。基本的にうちの親は共働きなのでうちにはいない。その方が気を使わなくて済むと思ったし、俺以外に人がいればクーラーをつける許可はもらえる。

 我ながらベストな判断だと思った……のに、速水は何故か不機嫌そうにしていた。何なのこいつ。

 とりあえず、二人が俺の部屋で勉強してる間に、俺は一階からサイダーとお菓子を持って来た。

 ベッドを背もたれに使ってる速水とその向かいに座ってる塩見さんに差し出した。

 

「はい、これ」

「ありがと」

「じゃ、俺寝てるから。用あったら呼べよ」

「寝ちゃダメでーす! 分からないところあったら教えてもらいたいでーす!」

「あんた仮にも歳上ですよね……」

 

 何なんだよこの人。速水は速水でずっと不機嫌そうに勉強してるしよ……。まぁ、とりあえずのんびりするか。

 そう決めて、二人が勉強してるところをベッドの上で眺めた。

 ……なんか、こう……良いな、この立場。なんつーか、中間試験の監督になった気分だ。

 特に、塩見さんの方はかなり面倒臭そうにしてるのでとても楽しい。ニマニマしてると、速水に脛を殴られた。

 

「いだっ⁉︎ てめっ、何しやがんだ!」

「何ニヤニヤ気持ち悪い笑顔浮かべてんの? 死ねば?」

「死ねはないだろ! てか何、なんでそんなキレてんだお前?」

「……ふんっ、女ったらし。ほいほい女の子部屋に連れ込んで」

「あ、お前本当なんでキレてんの?」

 

 ……急に何? なんか塩見さんはヤケにニヤニヤしてるし……。

 

「……二人とも素直じゃないねぇ」

「どういう意味だよ」

「べっつにー?」

 

 ……なんか居心地悪ぃーな。片方は怒るし片方はからかってくるし。ったく、何なんですかねアイドルの女達ってのは。

 

「……はぁ、ちょっとトイレ」

 

 何でも良いから一度部屋を出たかった。用を足したいわけでもなくトイレに行くと、意外とおしっこ出た。

 戻って来ると、二人は俺のベッドの下に隠してあったエロ本を読んでいた。

 

「……え、何してんの?」

「あ、ダメだよ河村くん。ベッドの下なんて安直過ぎるよ」

 

 ……なんでダメ出しされてんだ俺は。

 しかし、文句は言えなかった。何故なら、速水が何故かすごい怒っていたからだ。

 

「……河村、何これ?」

「え、それは……」

「なんであんたこんなもの持ってるわけ?」

「ま、まぁ男子高校生だしそれくらい……」

「は? 口答えしないで」

「え、今の質問じゃないの?」

 

 ……答えなきゃダメな所じゃないの?

 

「このど変態」

「ど変態まで言うか⁉︎ この年ならエロ本の一冊や二冊買うだろ!」

「とにかく、この本没収……というか捨てるから。チリ紙交換辺りに出すから」

「待てよ! そんなマリオからキノコを奪うようなこと……!」

「……あなたのご両親に報告するのとどっちが良い?」

「……すみませんでした」

 

 ていうかお前ら勉強しろよ……。

 とりあえず、今度からはスマホ派に切り替えよう。

 

 


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