本屋。そこで俺は一人で漫画を探しに来た。買いに来たのはドラゴンボール超の単行本。結構漫画版も面白いんだよ。
さて、さっさと買って帰ろう。じゃないと他の漫画も買いたくなっちまう。
漫画を持ってレジに並ぼうとしたところで、レジの前に「速水奏写真集」なるものを見つけた。
「……」
……あいつの写真集、か。そういや、今更だけどあいつアイドルだったな。
こう言う写真集って買った事ないけど、どういうの載ってるんだろうな。面白いもんなのか?
何となく気になって手に取って値段を見ると、二千いくらもする。
「たっけぇな……」
……ていうか、表紙の感じからしてこれ結構エロいもんじゃねぇの。なんつーか……アイドルのギリギリ限界まで見せちゃいましたーみたいな。
見えそうで見えないと言うエロスを売りにしてるみたいなもんか。エロ本は乳首やま☆こが見えてこそだろ。
そう思って、さっさとレジ通ろうとした時、後ろから見るからにヤバそうなオッさんが息を荒げて速水の写真集を買っていった。
「ふへっ、ふへへっ……。奏様、踏んで下さい……」
「……」
……速水のファンってヤバい奴が多いんじゃねぇのか。うちの店長然り。
仮にギリギリ見せちゃう系エロ本だとして、もっと見せろみたいになって襲われちまうんじゃないか……? 良くも悪くもこの街に速水は住んでるわけだし。
「……」
一人でもこれの購読者を減らしてやる。そう思って、写真集も持ってレジを通った。
購入を済ませ、本屋を出た。ちなみに、俺はこの写真集は読みません。家の中に封印する。親父に読ませてもどうなるか分からんし。
俺はほら、生速水をいつでも見れるわけだから。読む必要もないというか。
そんなことを考えながら帰宅してると、家の前で速水とばったり出会した。
「あっ」
「あら、もしかしてまたストーキング?」
「……」
ほんとにこれよ、このタイミング。だから写真集なんて必要ねえんだよ。
全力で嫌そうな顔してると、俺の表情に速水はイラっとしたのか、向こうもムッとした表情になって、おそらく文句を言おうとしたときに俺の手元の袋に手を向けた。
「何、本屋でまた懲りずにエロ本でも買ったの?」
……目をつけるのが早い。ていうか、ある意味エロ本より読まれたくないものなんですけど。
さて、どうしよう。このある意味ヤバいエロ本。逃げたいんだけど……しかし逃してもらえなさそう。前にエロ本の前科があるから尚更。
どうしようか悩んで無言になってると、怪しく思ったのか速水が歩み寄って来た。
「見せなさい」
「っ、ち、違う! エロ本じゃないから! ドラゴンボール超だから!」
「その割には袋が大きいじゃない!」
「あとジャンプだから!」
「木曜日にジャンプの発売はないわよ!」
「今週買い損ねた!」
「なら見せなさい!」
「やだ!」
「このっ……!」
襲い掛かってくる速水。だが、肉体言語で俺に勝てる奴は格闘競技のチャンピオンくらいだろう。ぬるっと回避して家に向かった。
「あ、待ちなさい!」
追いかけてくるが、俺は庭に移動して止めてある自転車の上にジャンプし、さらにそこから大きくジャンプして自分の部屋の窓の縁に掴まって、窓から家の中に侵入した。
「っ、ば、バケモノ……!」
そんな声が聞こえたが、無視して窓の鍵を閉めた。ふぅ、これで何とか助かった……。
念の為、カーテンも閉めてのんびりベッドの上で寝転がってると、俺の部屋のドアが開いた。普通に速水が入って来た。
「……え、なんで?」
「あなた、鍵落としてたわよ、ジャンプした時に」
……マジかよ。
完全に油断していたため、速水は相変わらず不機嫌そうな顔でツカツカと近寄って来て、本屋の袋を拾い上げた。
「さて、何を買ったのかしら?」
「あ、バカ……!」
中を見た直後、速水は固まった。で、徐々に頬を赤らめたと思ったら、その赤さを耳にとどめ、ニヤニヤしながら袋から本を出した。
「ねぇ?なぁにこれ?」
「……」
楽しそうな顔してんなー、自分だって照れてる癖に。
ま、残念だけど速水が好きだとかそんな感情で買ったものではない。
「あー……」
……にしても、どう説明すりゃ良いんだろうな。変なおっさんが買ってて危機感を感じたからとか言っても意味通じんだろうし……。
というか、なんで俺はこれを買ったんだ? そもそも、速水が街中で犯されると思ったからだが、そんなAVみたいな展開が現実あるはずもない。いいとこ、ストーキングされるとかそんなレベルの話だろう。
……まさか、色んな速水が見たかったから? いや、それはないってば。ぶっちゃけ、カーテンを閉めることを覚えないアホなJKの色んな姿を見る機会なんていくらでもあるし。
色々と考えてると、速水の方から手を突き出して言った。
「……いや、やっぱり言わなくていいわ」
「は?」
「っ……そ、その……なんか、恥ずかしい気がして来たから……」
聞いて来たくせに照れ始めたよこの子。速水じゃなきゃ超可愛いのに。
しかし、そんな反応を俺の前でしてしまっては逆効果である。俺は速水の手から写真集を奪うと、ビニールを剥がして開いた。
「ちょっ、何やってんのよあんた⁉︎」
「うお、一ページ目からいきますね速水さん」
「っ、や、やめなさいよ! ていうかやめてえ!」
「うほ、こんなところまで見せちゃうの⁉︎」
「やめなさいってば!」
からかわれると思ったら、しばらくからかえた。
×××
「ったく、あんたは……!」
怒った様子の速水は俺から自分の写真集を没収して腕を組んでいた。両手を上に掲げて写真集を読んでいたら、速水の脛蹴りが炸裂し、悶えた所を取られました。
「大体、なんでこんなもの買ってたのよ」
「や、何と無くだよ。速水のエロい姿が見たかっ」
直後、脳天に手刀。痛くはないが、それなりに衝撃は伝わる。
「……大体、あなた私の着替えシーンなら二度も見てるじゃない」
「そうそう、その時から思ってたんだけどさ、お前って黒の下着とかつけてそうなのに意外と可愛い色つけてるよな」
再びチョップが飛んで来た。ただし、今度は頬に。チョップを頬にって新しいな。小指の付け根の硬い所が上手く頬の痛いとこに当たってそれなりに効いたわ。
「……次は拳で行くから」
「悪かったよ……」
JK程度の拳じゃ俺には効かないが。
すると「まぁいいわ」と速水はため息をつくと、目を逸らして赤くなった頬を珍しく誤魔化そうとする事もなく、俺の顔色を伺うように聞いた。
「……それで、その……どうだったのよ」
「? 何が?」
「……その、感想、とか……」
……あー、写真集を見た感想な。一応、自分の写真集だし気になるには気になるのか。
「……まぁ、その、なんだ。良かったんじゃねぇの、エロくて」
「あんたそればっかなわけ⁉︎」
「し、仕方ねえだろ! こちとら男子高校生だし、お前おっぱいデケーんだよ!」
「あんた本人にそんな事言う⁉︎」
「本人以外に誰に言うんだよ!」
「そうじゃなくて! もっと、こう……他に褒める所があるでしょ!」
んなこといわれても……写真集なんて初めて買ったし分かんねーよ……。
改めて速水の手に持ってる表紙の速水と本人を見比べる。すると、再び目の前からチョップが飛んで来たので、慌ててそり身で回避した。
「あっぶねぇな!」
「人の写真集を見ないで!」
「どうしろと⁉︎」
理不尽にも程があるだろ……!
そう思いながらも写真集の方に目を逸らした。……あ、あったわ。褒めてるのか分からないけど、褒めに繋がるかもしれない事。
「……そういえば、撮影の時は化粧してるんだな、お前」
「え? え、ええ、そうよ?」
「その……褒めてるのか分からないし、仕事だからそうもいかないと思うけど……化粧はしない方が良いと思うぞ」
「? どうして」
「ほら、まだJKだし……俺は化粧がない方が良いかな、なんて……」
「……」
……途中で言ってる内容が恥ずかしくなって来て、徐々に声が小さくなった。俺は本人を目の前にして何を言ってるんですかね……。
それは速水も同じのようで、急に褒められてまた顔が赤くなる。最近、こいつ顔の赤さを抑えられてないな……。
「……い、いくらOLとはいえ……」
あまりの恥ずかしさに、口からいじりが漏れた。お陰で速水はハッとして俺を睨み、羞恥に怒気が加わる。
「だっ、誰がOLよ!」
「お、お前だよ! 社会人みてえな面しやがって!」
「少しでもあなたの褒め言葉に舞い上がった私がバカだったわ!」
そう言うと、速水は「帰る!」と怒鳴って写真集を持って部屋を出て行った。
……今のは俺が悪いな。今度、謝った方が良いかもしんない。
少し反省しながら、俺も部屋を出て一階でpso2を始めた。しばらくカチカチやってると、ヴーッとスマホが震え始めた。
シューコちゃん『また奏ちゃんと喧嘩したんだって?w』
なんだよ、その「w」は。めっちゃムカつくなオイ。
河村優衣『いつものことだ』
シューコちゃん『んー、でも今回は今日のうちに仲直りしてた方が良いかもよ?』
河村優衣『なんで』
大体、一日経てば普通に話してるんだけどな。
シューコちゃん『あれ、聞いてないん?』
シューコちゃん『奏ちゃん、明日から撮影でいないんよ』
は? 何それ、初耳なんだけど。
シューコちゃん『二人ともあまりL○NEとかしないみたいだし、このままじゃ喧嘩別れみたいになっちゃうんじゃない?』
……確かに。まぁ、喧嘩別れなんていつものことなんだけど……。
河村優衣『泊まり?』
シューコちゃん『そう』
なるほど……。まぁ、俺も速水に嫌われたいわけじゃないしな。
河村優衣『了解、サンキュー』
そう短く返事を返すと、俺は家を出てゲーセンに向かった。
30分後くらい、戻って来ると向かいの部屋の窓をコンコンとノックした。
5秒後くらいに不機嫌そうな顔の速水が顔を出した。窓を開けるなり「何?」とこれまた不機嫌そうな声音で質問してくる。
「少し良いか?」
「何よ、言っとくけど……むぎゅっ」
顔面にさっき取ったリーフィアのぬいぐるみを投げ付けた。
「っ、な、何するのよ⁉︎」
「悪かったな、さっきは」
「……へっ?」
謝ると、意外そうに瞬きする速水。それを無視してセリフを続けた。
「明日からまた泊まりで写真撮影なんだろ? その前に変な支障は解いておくべきだと思ってな」
「そ、そう、だけど……」
「だから、悪かった。明日から頑張れよ」
それだけ短く伝えると、窓を閉めて部屋を出た。これ以上の言葉はいらないだろう。
それよりも、明日からの暇潰しの方法を考えることにした。