速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

26 / 65
速水さんと喧嘩させ過ぎて面倒臭い子になってしまいました。まぁ、相手も面倒だし、別に良いですよね。


DOLL STORY2

 私はご主人のお守りとして選出され、スーツケースの中でご主人を見守りながら運ばれ、今は宿にいるわけだが……まぁ、ご主人も苦労しているようです。

 何がって、元ご主人以外にも色々と悩みがあるようで、まず今回のクローネのリーダーに選ばれたらしいのです。

 それだけでなく、今日いるバイトの方と鷺沢文香さんという方は恋仲のようで恋仲ではない、非リアの方でしたらノブナガから逃げる時の枚数分の壁を破壊するレベルで焦れったいもののようで、それのサポートもしているようです。

 何というか……大変そうで……。これは元ご主人との恋愛が上手く行かないのも少しは理解出来ます。まぁ、今は間接的理由で直接的理由は単純に両ご主人とも面倒なだけですが。

 まぁ、そんな話はともかく二人ともしばらく会わなければお互いに寂しさを自覚するでしょう。

 そう思って、とりあえず数日間はご主人の愚痴を……そう思って待機してると、バタンッと大きな音と共に宿の扉が開いた。

 

「ーッ……!」

 

 ……あ、ご主人激おこだ。これは何かあったのかな……?

 激おこのまま私の方に歩いてくると、突然私の頭を掴んで持ち上げると、ギューっと抱き締めた。

 

「あー! ムカつくムカつくムカつく! ホンッッットにムカつくわあの男! いつかデスノート拾ったら真っ先に殺してやるわ!」

 

 あの男って……バイトの方かカメラマンの方か…プロデューサーさんとやらでしょうか? まさか、元ご主人ではありませんよね?

 

「河村の奴! ここが死んでたまるか戦線だったら死ぬまで切り刻んでやってたのに!」

 

 すごいですね、元ご主人。空間を超えてご主人をここまで怒らせるなんて……。

 

「な、に、が! 立場は同じよ! バイトの男の一人や二人くらいいるでしょ⁉︎ そっちの方がおかしいじゃない! 友達の一人もできないくせにアイドルの知り合いばっかりザクみたいに量産しちゃってさ!」

 

 この人、今アイドルをザクと言いました?

 

「もう、ほんとにもうあいつ……!」

「あいつって誰のことなん?」

 

 ……あ、塩見様。

 しかし、塩見様に気付かずにご主人は吐き捨て続けた。

 

「私があいつって言う男なんて河村のバカ村以外にいないわよ!」

「お、何? とうとう、空間を超えての出会いに成功したん?」

「なわけないでしょ! 電話よ電話! もう電話もかけてやらないけどね!」

「あらー、それは大変。ちなみに何があったのか聞いても?」

「志希がいきなりプリクラ送って来たのよ! あいつとの!」

「へー、二人きりで?」

「そうよ! お陰でなんかイラっとして……」

 

 そこで突然、正気に戻ったのかご主人ははっと顔を上げた。塩見さんはそれでも動揺する事なく、微笑みながら小さく手を振った。

 

「荒れてるねー、どうしたのさ?」

「あ、あんた……いつのまに……?」

「や、鷹宮くんが奏ちゃんの様子が変だって言ってたから気になってね?」

 

 ほう、その鷹宮様とやらはそれなりに良い人みたいで安心しました。人のことをよく見てる。

 

「で、志希ちゃんと河村くんがラブラブなんだって?」

「そんな事言ってないわよ! 大体、あの二人がラブラブになるわけないでしょ!」

「奏ちゃんがラブラブになるから?」

 

 直後、ご主人から一瞬で手が伸びた。ほんのコンマ数秒レベルで塩見様のこめかみを掴むご主人。塩見様は反応すらできなかった。私でなければ見逃しちゃうね。

 

「……ごめんなさい」

「次はないわよ」

 

 あ、それでも許すんですね。やはり、なんだかんだ言ってご主人は優しい。

 

「でも、その二人のプリクラ見てイラっとしたんでしょ?」

「嫉妬してるみたいな言い方しないでくれる?」

「嫉妬じゃなきゃなんなん?」

「……」

 

 ……謝った割にガンガン行きますね、塩見様。

 

「……付き合いの長い私とはプリクラ撮ってないのに、志希とは撮るんだって少しムカついただけ。別に恋愛的な嫉妬じゃないわ」

「いや恋愛的なんて一言も言ってないけど」

「……」

 

 ……ご主人……。

 

「し、嫉妬と言われたら恋愛を思い浮かべるでしょ⁉︎」

「いや、他にも競技において実力の差に嫉妬したり、発育の差に嫉妬したりすると思うけど……」

「わ、私は映画好きだから、つい恋愛映画を……!」

「え、奏ちゃん恋愛映画苦手じゃなかった? 最近、見に行ったの?」

「……」

 

 ……ご、ご主人……。

 

「……」

「奏ちゃん、もう諦めよう? 寂しくて文香ちゃん達は旅行先でも一緒になっててつい羨ましくなってる中、志希ちゃんとのプリクラ送られて来て爆発しちゃったんだよね」

 

 ご主人……もう良いんだ休め……。

 大体、意地なんて張ってもいい事ありませんよ。張るべき意地と妥協すべき点を見誤ると損と後悔しか待っていません。

 

「……違うし」

「んー……割と強情だなぁ」

 

 私もそう思います。刑事ドラマの取り調べじゃないけど、さっさと認めた方が楽になれるのに。

 

「じゃあ、仮にあたしが河村くんにコクったら?」

「そんなのダメよ」

「なんでさ」

「なんでって……そ、そうよ。あんな奴と周子を付き合わせるわけにはいかないわよ!」

「あたしは気にしないなー。河村くん良い子だし」

「で、でもあいつ元ヤンよ⁉︎ この前なんて四人くらいに囲まれて全員ぶちのめしてたんだから!」

 

 ご、ご主人? それ秘密なのでは?

 

「いいじゃん。今は心入れ替えてるんだし、強い男の人の方が頼り甲斐あるし」

「っ、で、でもっ……!」

「何、あたしと河村くんが付き合って不都合でもあるの?」

「……」

 

 す、すごい……! 元ご主人に何を言われても必ず言い返すご主人が押されてる……! 塩見様、カッコ良い……。

 

「もうさ、ぶっちゃけるといつも聞かされてる愚痴、アレの時ですら奏ちゃん楽しそうだったからね?」

「なっ……⁉︎ そ、そんなはずは……!」

「や、ほんとに。美嘉ちゃんも同じこと言うと思うよ」

 

 美嘉? 城ヶ崎様のことでしょうか。以前、ご主人のお家に遊びに来ておりましたね。

 

「……とにかく、今日の問題はどちらかが素直にならないと解決しないと思うよ」

「へ、平気だもの。どうせ帰って来る頃にはあいつ、全部忘れてるでしょうし」

「……ま、奏ちゃんがそう言うならそれで良いけど」

 

 ちょ、ご主人! 素直になるならラストチャンスですよ! このままではせっかく相談に乗ってくれそうな方にも呆れられてしまいます!

 

「それより奏ちゃん、とりあえず今は一応、仕事中だから。早く行くよ」

「はいはい……」

 

 ……ご主人。そういえば、様子がおかしいとかでここに来たんでしたっけ……。

 先に戻った塩見様と、一人残ったご主人。相変わらず私を抱き締めたまま、ボンヤリした表情でゴロゴロと転がるご主人。

 

「……わかってるし、そんなの周子に言われなくても」

『……?』

 

 分かってる、んですか? 私の予想より遥かに素直な……。

 

「……でも、あれだけ喧嘩して、嫌いだの何だのと本人に悪口言いまくって……それでどのツラ下げて、好きだなんて言えば良いのか、分からないもの……」

『……』

 

 そういえば、出会った当初は相当嫌ってたみたいでしたね……。

 すると、参った表情でご主人は私の頭を撫でると、立ち上がった。

 

「ごめん、また後で聞いてね」

 

 それだけ言うと、私をスーツケースにしまって歩き始めた。

 ……なんだか、ご主人も色々大変みたいですね……。

 

 ×××

 

 翌日、勝手にスーツケースから抜け出した私は、窓の外から撮影の様子を見た。いつの間にか、自分の意思で身体を動かせるようになったな……。一体、何ストーリーなんでしょうか。

 しかし、ぬいぐるみなだけあってそんなに派手な動きは出来ない。あとハイドロポンプとかも撃てない。

 窓から見るご主人の様子はいつもと変わりない。しかし、やはり寂しそうな感じが背中を漂わせてるのは気の所為ではないだろう。

 誰にも相談できないのは、それはそれで辛いのでしょう。私としては、それもやはり意地を張っている事になると思うけど。

 しかし、ご主人がああして無理に笑顔を見せてるのを見るのはやはり辛い。何とかしてあげたいけど……。

 でも、私と意思の疎通は出来ない。どうにかしてご主人が悩みを誰かに打ち明ける気にならないだろうか?

 ……そういえば、ご主人はたまに鷺沢様の恋愛に関しても相談に乗っていましたね。ならば、鷺沢様に恋愛相談とかしやすいのでは?

 

『……』

 

 しかし、どのように鷺沢様に相談させる気にするか、でしょうか。意思疎通不可能な私にそれはどうにも厳しい気が……。

 ……いや、よくよく考えたら、私が何かする必要はないかもしれない。どの道、ご主人は自らが元ご主人を好んでる自覚はあるようですし、恋愛相談を受けてるうちにその気になるかもしれない。

 

『……』

 

 でも、何となく不安だなぁ。

 一応、ご主人と元ご主人の思い出としての役割くらい果たそう。

 そう決めると、ちょうど雨が降って来た。私はご主人の充電中のスマホの近くで待機した。

 しばらく待ってると、部屋の扉が開いた。雨で撮影が中止になったのだろう。

 

「はぁ……」

 

 ため息をつきながら入ってくるご主人。何があったか知らないけど、どうせ昨日のことを引き摺ってるのだろう。

 すると、ふと私の方を見た。

 

「……あら、しまい忘れたかしら」

 

 慌てた様子で歩いて来て、私の頭を掴もうと手を伸ばして来るご主人。すると、良いタイミングでスマホが震えた。

 元ご主人からのL○NEというわけでもないが、待ち受け画面は元ご主人の写真だ。

 その後に私を眺め、再びスマホに目を落とした。

 

「……」

 

 キュッと私を抱き締める力が強くなる。若干、顔が赤くなってるのがわかる。

 

「……今度、謝ろう」

 

 それだけ言うと、私をカバンの中にしまった。結局、誰かに相談する事はなかったが、ご主人の中で決心のようなものは固まったようだ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。