秋といえばスポーツの秋、というわけで、体育祭の季節になった。まぁ、高校生にもなって本気で体育祭に勝ちたがる奴はいない。強いて言うなら、顧問にキレられるから部活対抗リレーがあるってくらいだ。
と、前に通っていた高校ならそうだったんだが、俺の引っ越し先の高校はどうもそうでもないらしい。
どうせやらなきゃいけないなら勝とうぜ、みたいな精神のようで、今は真剣に種目を選んでいる。
「じゃあ、まずは立候補してもらうか」
体育委員がそう言って黒板に文字を書き始めた。種目は選抜リレー、障害物競走、徒競走、二人三脚、玉入れ、借り物競走などとあり、その中で一人二種目選ばなければならない。
その他にも、クラス全体競技とか男女別競技とかもあるが、まぁそれは人任せで良いや。綱引きなんか俺が本気出したら勝っちゃうし。
ボンヤリ待機してると、奏が「ねぇ」と声を掛けてきた。
「何?」
「何に出る?」
「っ、あ、あー……」
なんだかこの前のお泊り以来、奏の事を直視出来なくて目を逸らした。
……あークソ、なんだろうな、奏が最近すごいグイグイくる。いや、奏の気持ちは俺はもう気付いているのだ。相当、奏がビッチじゃない限り、奏の好きな人というのは俺の事なんだろう。
しかし、だからこそだ。なんか恥ずかしくて最近、奏の事を避けてしまう。今朝も遅刻してまで奏とは別々で学校に行ったし。
「……あー、まぁなんでもいい」
「じゃあ、私と二人三脚出ない……?」
「えっ」
に、二人三脚……? それも、奏と……?
「……え、別に良いけど……」
「じゃ、決まりね?」
あ、やべっ。つい頭の中で答えを出す前に答えちまった。
しかし、そんな嬉しそうな顔しなくても……。二人三脚なんて上手くいかないとイライラしそうじゃん。俺と奏には合わない気が済んだが……まぁ良いか。
「……お、おう……」
「あの、優衣? 最近、何かあったの?」
「や、別に何もないけど……」
「嘘。だって最近よそよそしいじゃない」
っ……。ば。バレてやがったか……。
「まぁいいわ。その辺は後で問い詰めるから。とりあえず、二人三脚書いてくるわね」
「ん、おお」
さて、昼休みは逃げるか。いかに良いスタートダッシュを切れるかがポイントだな。
しばらく会議は進み、俺と奏は無事に二人三脚に決定した。他にも男子は棒倒しに強制参加となり、俺はしばらく手加減の練習が必要になりそうだ。
すると、授業終了のチャイムが鳴った。直後、開幕ダッシュで俺は教室を出た。
フハハハハ! 逃げたもん勝ちよ世の中! さて、とりあえず飯は諦めて、行き先を悟られないようにするために遠回りして屋上で身を隠そう!
そう思って走って階段を飛び降りて一階に降り、外に出ると壁をよじ登って屋上に到達した。奏が腕を組んで勝ち誇った笑みで俺を見ていた。
「ほら来た」
「っ⁉︎」
慌てて降りようとしたが、奏が慌てて俺の手首を掴んだ。
「っ、は、離せ!」
「離さないわよ?」
「じゃなくて! 危ないから!」
「そうね。でも離さないわよ? あなたが素直に投降しないと、私怪我しちゃうかも」
「……」
……それは卑怯だろ。仕方なく屋上に上がり、少し体力を使ったので屋上の入り口付近の壁にもたれ掛かると、奏が俺の横に手をつき、俺の胸ぐらを掴んだ。うおっ、壁ドン……。
奏は若干、涙の入り混じった目で俺を睨むと、かなり迫力のある声で俺を睨み付けて言った。
「あなたがどれだけ身体強いかなんて知らないけど、二度とこういう危ない真似しないで」
「えっ……」
「約束しなさい。私の心臓がもたないの。いいわね?」
「わーったよ……」
なんだ、まさかのそっちで怒ってたのか……。よし、じゃあ俺に用はないな。
さっさと教室に戻ろうとした時だ。
「待ちなさい」
デスヨネー。逃してもらえませんよねー……。ま、まあ逃走は諦めて大人しく尋問を受けるか……。
と、思ったら奏は俺に巾着袋を差し出した。
「? な、何?」
「お弁当よ。あなたに。どうせ学食だろうと思って」
仰る通りで。
「え、わざわざ俺のために?」
「そうよ。ありがたく思いなさい」
うお……マジか。わざわざありがたいな。
「……さんきゅ」
「一緒に食べましょう?」
「おお」
その場で座り、奏から弁当箱を受け取って食べ始めた。
「んー、美味っ」
「良かったわ。私、お弁当はあまり作らないから少し不安だったの」
「いやいや、美味いって。何このジュースィーな唐揚げ」
……俺もこれくらい作れるようになりたいもんだな。
しかし、何だろう。とうとう奏もお弁当を作ってくれるようになったか……。
やはり、こういうのは少し照れ臭い。今まで喧嘩ばかりで女とは無縁の生活をしていたからな……。
何より、怖がられてて親以外で俺に接してくれる人間はいなかったからなぁ。今では奏や塩見さん、小梅ちゃん、幸子ちゃん、バイト先の水ナントカさんとか増えたけど。
しかし、その中でもやはり奏と一緒にいるのが一番楽しいと思ってるのはどうなんだろうな。というか、俺の中で奏ってどういう存在なんだろう。
最近、どうにもこいつといると胸が痛くなる。心不全か新しい病気か何かか?
勝手にドギマギしてると、奏が声をかけてきた。
「……で、優衣」
「な、なんでしょうか……」
「どうしてこの前のお泊まりからよそよそしいのよ」
「っ……」
「目も合わせてくれないじゃない」
……あーやっぱそうなるか……。しかし、俺の中でも明確な答えが出てるわけではないから、答えようがないんだが。
「……もしかして、私……優衣の嫌がる事、何かしちゃった…かしら……」
っ、そ、そんな不安な顔すんなよ……。別にそんなんじゃないから。
「や、違うよ。奏は悪くない」
「……じゃあ、何?」
……うーん、どうしよう。言って良いのかな。絶対ドン引きされると思うんだけど……。違ったら恥ずかしいし……。
「優衣!」
しかし、奏は俺を逃さない。胸ぐらを掴んで無理矢理自分の方に顔を向けさせた。
口調の割に表情はかなり不安そうだ。もしかして、俺に嫌われてるとか思ってんのか?
「……あー、言わなきゃダメ?」
「っ……べ、別に、言わなくても……良い、けど……。でも、あなたには嫌われたくない、し……」
「……」
そういうとこだっつの。とにかく、言っても通じないだろうし、テキトーに濁しておくか。
「じゃあ言わないけど……まぁ、安心して。別に奏に何かあるとかじゃないから」
「じゃあ何?」
「むしろ、その……何? こっちの問題だから」
「な、何? 優衣、何かあったの?」
クッ、何にしても食いついてくるのかこいつ……。どんだけ不安になってんだよこいつ。
せめて少し安心させてやった方が良いかもな……。
「まぁ、その……なんだ」
頭の中で文を作りながら、頬を掻きながら言った。
「その……奏が、最近変に距離詰めてきて……か、可愛っ……し、心臓に悪かったから……」
「……? ……ーっ!」
言うと、キョトンと数回瞬きした後、ようやく言葉を理解したのか頬を赤く染めた奏は、その場で俯いた。
「ーっ、そ、そう……」
「っ……」
だー、クソ。何だこの空気。こういうふわふわした空気は苦手なんだが……。
「……そ、そういえば二人三脚だなっ!」
「そ、そうね! 頑張らないとね!」
「まぁ、やるからには俺は勝ちに行くから」
「そりゃ私もよ。……というか、あなたは棒倒しとかやりすぎないようにね?」
「大丈夫、死ぬ一歩手前で止めとくから」
「……それかなり危ないわよね」
まぁ、危篤状態だな。ごめんそこまではやらんわ。
「ま、とりあえず次の体育から練習なんだから、その時に息合わせる練習をしておきましょう」
「ん」
そんな感じで昼休みの間は2人でのんびり食事をし、授業に遅刻した。
×××
放課後。今日は奏の部屋に集合、という予定だったのだが、奏は買い物に行きたいとか言い出して一人で出掛けてしまった。
俺は一足先に奏の部屋に向かい、しばらく一人で待機する事にした。部屋の中のぬいぐるみが、相変わらず抱きしめられた跡を残して並んでいる。大事にしてくれてるようで何よりだ。
そのぬいぐるみの隣に寝転がった。
……ふぅ、なんか眠くなって来たな……。奏の匂いがするし……。
「……んっ」
……寝ちゃおう。おやすみ。
×××
何時間経過したが分からないが、頬をムニムニされる感覚で目を覚ました。
薄目を開けると、奏がニコニコしながら俺の頬を突いていた。ガッツリ俺と目が合ってフリーズ。
「……何してんだオメー」
「……ごめんなさい。つい、可愛くて……。あなた、その人殺しの目つきがない寝顔は幼いのね」
「うるせーよ……」
顔赤くしといて憎まれ口叩いても照れ隠しにしか聞こえねーぞ。
とりあえず、体を起こして首をコキコキ鳴らしながら欠伸をした。
「ふわあ……で、何買ってきたの?」
「手出して?」
「何、なんかくれんの?」
ワクワクしながら手を出すと、手錠をかけられた。もう片方は奏の左手に繋がっている。
「え、何これ」
「ん? 二人三脚の練習に買って来たのよ。これでしばらく一緒にいましょう?」
「え、何そのバカな練習方法」
「こういうのも楽しそうでしょ?」
……楽しさ目的かよ。まぁ、もう何でも良いや。手錠しちまったし。
「けど、なんで手を繋いでんの? 普通足じゃね?」
「……あ、確かにそうかも」
腕は肩組むだけだろ。じゃあ外すのかな、と思って外しやすいように奏の胸前に俺の右手を挙げると、奏は俺と手を繋いで隣に座った。
「……まぁ、このままで良いんじゃない?」
「なんでだよ……。不便だろうが」
「ほら、なんか銀魂みたいで楽しいじゃない?」
ああ、あの話か……。まぁ、見てる分には面白いけど本人達的には割とたまったもんじゃない気もするんだが。
「……トイレに行きたくなったらどうすんだよ」
「大丈夫よ。その辺はちゃんとアニメと違って鍵を確保してあるんだから」
言いながら、奏はポケットの中を弄った。まぁ、鍵があるなら安心だな。ガキじゃあるまいし「あ、やべっ、失くした」なんて事もないだろうし……。
「……あら?」
「何してんの?」
「おかしいわね、鍵が……」
「や、鍵とかはこれの袋か箱の中にあるだろ」
「え? それかさばるから捨てちゃったわよ、公園のゴミ箱に」
「何で開けて帰ってくるんだよ! ガキかお前は!」
「だってそしたらあなたの隙を突いて手錠なんて出来ないでしょ⁉︎」
「どうすんだよこれ!」
「と、とりあえず探しに行きましょう!」
そう言って、二人で手錠したまま表に出た。