速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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息のあったコンビにとって二人三脚なんて普段のランニングと変わらない。

 翌日の放課後。体育、早速体育祭の練習開始。考えてみれば、男女で一緒に体育受けるのは初めてだ。

 スタートダッシュを失敗した高校生活なので、俺は一人、グラウンドでボンヤリしてると、後ろから目を隠された。

 

「だ〜れ……」

「奏」

「……せめて問題出させなさいよ」

 

 俺に絡んでくる奴、って時点でお前しかいないんだよ。そのくらいわかれや。

 と思って振り向くと、奏の体操服姿が目に入った。下半身は短パンだが、上半身はジャージを羽織っている。なんつーか、エロいな……。ていうか、ジャージ閉めないとぶら透けてんぞ黒いのが……。

 

「黒、か……背伸びする年齢だもんな……」

「人の下着を見て失礼な感想を漏らすのはこの口かしら?」

「年相応が良いと思うぞ。外見的には相応だけど……」

「せんせー」

「ごめん、俺が悪かった」

 

 ……しかし、そうか。奏は黒もつけたりするのか……。周りの奴には知られたくないな。

 

「見られたくねーならチャック閉めろよ」

「……閉まらないのよ」

「噛んでんの?」

「違うわよ」

「じゃあなんで」

「察しなさいよ」

「はぁ? 言わなきゃわかんねーだろ。ニュータイプじゃねぇんだよ」

「〜〜〜っ!」

 

 言うと、奏は余計に怒って頬を膨らませた。

 え、何それ。言わなきゃわかんないだろ。お前がキレるとこじゃなくね?

 と、思ったら俺の耳たぶを摘んで、耳元でボソボソ呟いた。

 

「……む、胸が育ったから閉まらないのよ……!」

「……あ、そういう。え、そんな大きいの?」

「大きいのよ! 急に来て……さ、サイズを変える暇も無かったんだから……」

「……」

「ジッと見ないで」

「痛だだだ! 耳をひっぱるな!」

 

 耳と目だけは鍛えられないんだから!

 

「ったく……あんたは……」

「別に気にする事ないだろ。ていうか、前にお前胸のサイズ教えて来なかった? 今更そんな胸大きいとかで照れなくても……」

「……ふぅん、そう? あなたの中ではそういう認識なの」

 

 え、なんだ。怒らせちまったか? と、思った直後、奏は俺の腕に飛び付いた。胸を押しつけるように。

 

「っ、な、何……?」

「これで少しくらいは意識出来るかしら?」

「お、おう……滅茶苦茶柔らかいな……」

「っ、か、感想はいいのよ!」

「どうしろってんだよ!」

「どうなの⁉︎」

「だから柔らかいってば!」

「そうじゃなくて! もっと、こう……!」

「おい、バカップル」

 

 何処からか声が聞こえた。二人して振り向くと、いつのまにか来ていた体育教師が俺と奏に声を掛けた。

 

「不純異性交遊は体育倉庫でやれ」

 

 ……体育倉庫でもまずいだろ。

 二人して痛烈に恥ずかしい思いをしてしまったものの、とりあえず男女別に別れて準備体操をしてようやく体育祭の練習開始。

 早速、俺と奏は二人で練習を始めた。

 

「さて、やるか」

「ええ」

 

 とりあえず、肩を組んで足を結んで走ってみた。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 ……あれ? なんか、簡単過ぎね? 余裕で走れるんだけど。

 

「……これ、昨日の練習とか意味あったのか?」

「こう考えてみましょう? 昨日の練習があったから今日が楽なの」

「……なるほど」

 

 そうだな、昨日あれだけ苦労したのに成果なしとか思いたくないもんな。

 

「まぁ、油断大敵と言うし、私達もとりあえずこのまま一緒にいましょう」

「ボンヤリしてたらサボってるって思われるし、しばらく歩き回ってるか」

「そうね」

 

 そんなわけで、肩は組まずに足だけ結んだままでのんびり歩き始めた。まぁ、しばらくこうしてるしかないからな。

 

「そういえばさ、奏」

「何?」

「昨日の手錠は結局どうしたん?」

「ああ、あれは鍵付きの引き出しに封印したわ」

「はぁ? あんな目に遭って捨ててねーのか?」

「捨てるわけないじゃない。あなたと私を物理的に繋げていたものよ?」

「そういう『なんてね』って言うジョークいいから……」

「あら、冗談のつもりはなかったんだけど」

「えっ」

「なんてね、冗談よ。2980円もしたから捨てたくなかったのよ」

 

 チッ、この女……。まぁ、もうどっちでもいいけどな。

 

「……ねぇ、優衣」

「? 何?」

「あんたはさ、どんな女の子がタイプなの?」

「ん、どうした急に」

「何となく気になっただけよ」

 

 どんな、と言われてもな……。まぁ、好きな女のタイプくらい教えてやっても良いか。

 

「まず巨乳だろ?」

「まず胸なのね……」

「あと美人。ガキみたいなツラしてる奴よりも年上っぽい人が好き」

「実際に年上のが良いの?」

「や、年上っぽけりゃ年下でも良い」

「ふーん……。って、外見ばかりじゃない。性格は?」

「性格? あー……まぁ、特に好みがあるわけじゃないからな」

「何よ、面食いなの?」

「そうじゃなくて、過去に好みの女と出会った事なんてなかったから分からねーんだよ。どんな子が好みとか、どんな子にときめくかとか」

「……ふーん」

 

 いつのまにか真剣な顔になってる奏が「じゃあ」と質問を変えた。

 

「今はいないの? なんていうか、こう……心臓をドキドキさせるような女の子」

「今? 今はー……」

 

 この時、俺はあまり深く考えていなかった。1+1は? 質問された時と同じくらい条件反射気味に答えていた。

 

「お前とか?」

「……へっ?」

 

 言ってから後悔した。うわ、やべっ、奏もキョトンとしたのちに顔を赤くし……あ、いや平静を装ってる。

 コホンと咳払いしてから引きつった笑みで聞いてきた。

 

「なぁにそれ? もしかして、さっきの仕返しのつもり?」

「え? あ、いや……」

 

 やべぇ、言い訳しないと……と思った直後、先生から声が掛かった。

 

「次、団体競技の練習に入る!」

 

 その直後、俺も奏も気が付けば立ち上がっていた。まるで逃げ道が見つかったようにサクサク歩き、無言のまま集合場所に到着した。

 

 ×××

 

 体育が終わり、俺はクラスの連中に押し付けられて棒倒しの棒を体育倉庫に片付けに行った。

 あいつらさ、普通こういうのって体育委員が片付けるもんだろ……。

 まぁ、友達いない奴はクラスにおいて最底辺だからな。暴力で支配するのはダメだし。

 棒倒しの棒なんて体育祭でしか使わないので、しまう場所は奥の方にある。

 他にも片付けを押し付けられたメンバーはいて、そいつらの中でも俺は一番後ろに俺は並んでいた。

 すると、さらに俺の後ろに女子が一人並んだ。女子は着替えの時間があるから少し早めに終わってるはずなんだが……と思ったら、奏が棒引きの棒を持って並んでいた。

 

「あっ」

「へっ? あっ」

 

 目が合う俺と奏。だが、お互いにサボるわけにはいかない。しばらくそのまま立ち止まった。

 待機してると俺達の番になり、棒を持って体育倉庫の奥に向かった。まずは俺の棒を奥に立てかけると、そのまま奏に手を伸ばした。

 

「おらっ」

「へっ?」

「寄越せ」

「……っ、べ、別に良いわよ。自分でしまうから……」

 

 そう言って、奏は俺の前を通ろうとした。だが、襟の部分が前の玉入れの伸縮ネジの部位に引っかかった。

 

「ちょっ、かなっ……」

「へっ?」

 

 そう言った時には遅かった。玉入れの籠が倒れてきた。

 

「ちょっ、マジ……⁉︎」

 

 慌てて奏の上から覆い被さった。背中に玉入れの籠が強打したが、まぁこのくらい効かない。

 

「っぶねぇ……」

「っ、ご、ごめんなさい……」

「ほんとだよテメェ……。ちょっと動くなよ」

 

 言うと、奏はシュンとしてしまった。あ、ヤベェ……言い過ぎたかな。何かフォローしないと、と思った時だ。

 

「もう誰もいないな?」

「えっ」

 

 背後から扉の閉められる音がした。え、ちょっ、嘘でしょ? や、確かに体育倉庫の奥だからぱっと見は見えないかもしんないけど、ちゃんと見て行けよ。

 

「……奏、とりあえず下から退けるか?」

「え、ええ……何とか」

「じゃあ出口の方に行ってくんね? 棒は俺がやっとくから」

「……ありがと」

 

 そう言うと、奏は従ってくれた。奏が下からいなくなったのを確認すると、まずは背中の玉入れの籠を退かして、続いて棒引きの棒を立て掛けた。

 一仕事終えたつもりで肩を回しながら奏と合流した。

 

「奏、一応聞くけど開いてたか?」

「いえ、閉められたわ。閉じ込められた、と言うべきかしら」

「あーあ……力づくでこじ開けられるか……?」

「流石に無理よ」

 

 マジかよ……まぁ、授業サボれると思えば良いか。幸い、今の所どの授業も分からない場所はないからな。

 おそらく高飛び用のマットの上に二人で腰を下ろし、ホッと一息ついた。現在は二時間目の終わり。つまり、三か四に体育の授業があるクラスがなければ俺達は少なくとも放課後まではずっとこのままというわけだ。

 暇なのでそのまま寝転がると、奏から申し訳なさそうな震え声が聞こえてきた。

 

「……ごめんなさい」

「は?」

「私の所為、よね……。あなたと会話するのが気まず過ぎて、さっさと更衣室に帰ろうとした私のミスよ」

「や、そんな気にしなくて良いよ。どうあっても閉められてたと思うし」

「でも……そういえば、あなた背中は平気なの?」

「あの程度で痛がってたら元ヤンなんてやってられねーよ」

 

 俺は実力派エリートだからな。

 

「とにかく、気にするな。100%誰の所為でもないから。強いて言うなら閉めやがった体育委員だか体育教師の所為だから」

「……ええ」

 

 ふむ、困ったな。言っても効かないかこれは? しかし、奏がショボンとしてるのは俺としてはあまり良い気はしない。

 

「それより奏、お前これジャージ破れてない?」

「えっ、う、嘘⁉︎」

「嘘」

「う……⁉︎ ゆ、優衣!」

「ていうかお前、さっき棒引きの時、棒を掴み損ねて尻餅ついてたろ」

「っ、み、見てたの⁉︎」

「あれはダサかったわ。相手どころか味方もぷふって吹き出してたよ」

「う、うるさいわよ! あんただって棒倒しの時、防御しようとした相手チームの子の手応えなさ過ぎて前に転がってたじゃない!」

「あれは俺の所為じゃねぇだろ! てか、あれでも手加減してたわ!」

「どうかしらね? あのまま押し倒しちゃって。あなたホモなの?」

 

 この女……人を攻める時だけ元気になりやがって……! や、まぁそういう手段を選んだのは俺なんだがな。

 

「ったくお前は……減らず口は相変わらずかよ」

「あんたに減らず口とか言われたくないわよ」

「はいはい、そーですねー」

「何よ、その返事! ……まったく、一々回りくどいやり方選ぶんだから……」

 

 言いながら、俺の隣に寝転がる奏。強い口調の割に、表情は穏やかだった。

 いつもの男を挑発するような笑みを浮かべて、俺の方を向くように寝返りを打った。

 

「なんだよ」

「別に? やっぱり、優衣ってツンデレなんだなって思って」

「お前に言われたくねーんだよ」

「私はもう、ツンデレじゃないもの」

 

 言いながら、寝転がったまま頬をツンツンと突いてくる奏。

 

「ね、優衣」

「何?」

「さっきの話だけど……優衣、私と一緒にいてドキドキとか……する、の?」

「あー……」

 

 その話、戻すのかー。せっかく空気を戻したのに……。そのことに気づかない奏じゃないし、そんなに俺がどう思ってるかが大事なのか?

 

「……まぁ、最近の奏は……こう、仕草とか言動が随分と……何? か、可愛かったから……」

「っ、そ、そう……。ちゃんと、効いてたのね。……ふふっ」

 

 嬉しそうだな……。もうこいつも自分の気持ちを隠すつもりはないんだろう。

 残りは俺の中で答えを出す所だが……これがやはりハッキリしない。俺は……どうなんだろうな、奏の事が好きなのかな。

 その辺は……やはりもうしばらく奏と一緒にいないとハッキリとは出ないものなんだろう。

 だが、奏にいつまでも片想いさせるのはどうにも気が引ける。だからと言って、今すぐに付き合おうと答えるのも、明確な答えが出ていないのに奏に失礼だ。

 とにかく、自分の中で答えを出すにしても期限は設けるべきだろう。

 

「……なぁ、奏」

「? 何?」

「体育祭終わったらさ、デートしない?」

「……へっ?」

「デート」

 

 ……え、何? その反応。予想外、みたいな。

 

「え、ダメ?」

「っ、だ、ダメじゃ……ない、けど……」

「じゃあ、その日によろしく」

「……うん」

 

 そう約束し、俺と奏はそのまま寝転がり続けた。

 

 ×××

 

 四時間目の始めに体育倉庫が開き、二人揃ってお昼寝をしてた俺と奏は無事に生徒指導室に連行された。

 

 

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