体育祭当日。俺はいつもの時間に目を覚まし、特に何も思うことなく朝の準備を済ませた。
ま、別に奏と一緒に二人三脚に出るというだけで特別、何かあるわけでもないからな。いや、男女で二人三脚の時点で特別じゃないって事はないか。
むしろ、明日のデートの方が緊張する。明日、奏に告白するし。まぁ
上手くいくことは分かってるんだけどな。相手は仮にもアイドルだし体育祭で告白するわけにもいかんだろ。
そう決めて、とりあえず家を出た。今日の服装は学校に行く時から体操着でも良いそうだ。
うちの高校のジャージは別にダサくないので表で着る分には全然恥ずかしくないので、ジャージで行くことにした。ズボンは体操服だが。
家を出ると、ちょうど隣から奏が顔を出した。
「おう」
「……」
……あれ、なんか身構えてる? というか顔色悪くね?
「どうした?」
「っ、な、何でもないわ……。いっ、いいい行きましょう?」
「何、緊張してんの?」
「っ、だ、誰の所為だと……!」
「え、な、なんで……? 俺?」
「いっ、いいから行くわよ!」
俺の手を掴んでさっさと歩き始めた。
え、何? 俺奏になんかしたか? 昨日の放課後なんて二人で一緒にゲーセン行ってベイリーフのぬいぐるみ取ってやったくらいなのに。
……もしかして、俺の意図に勘付いたのだろうか、明日告白するって事。だとしたらむしろ喜んでると思うんだが……なんで真逆の反応してんだこいつ?
……あ、つまりそういうことか。理由は分からないが、俺が明日結論を出そうと思っている事を察したって事か。
なんだか俺だけ結果が分かってるのに変に緊張させてるみたいで申し訳ないんだが……でも、もう体育祭に向かっちゃってるし、今から告白は出来ない。
まぁ、こいつもアイドルなんだし、いくら明日のことで緊張してても体育祭本番はしっかりやってくれるだろう。
「……はぁ、世話の焼ける奴め」
「あんたに言われたかないわよ」
「はぁ?」
「ほら、早く行くわよ。……あ、今のうちに渡しておくけどお弁当これだから」
「お、おう。サンキュー」
……俺、奏の世話を焼かすようなことしたかな……。……あ、もしかしてお弁当のことか?
「お弁当は本当にお世話になってるよ」
「そういうとこよ」
……ダメだ。わけがわからないよ。
×××
体育祭が始まり、俺も奏も自分達のクラスの応援席に座った。
もう何も言わずとも隣に座り、体育祭の様子を眺める。最初の競技は早速クラス競技。俺も奏もすぐに出番なので列に並んだ。
対戦クラスと向かい合って棚の上に並び、座っていつでも綱を引けるように待機した。そう、綱引きである。
「奏、俺どのくらいの力でやれば良い?」
「……」
「奏?」
「っ、な、何?」
「や、綱引きの力加減」
「す、好きにすれば良いじゃない」
……大丈夫かこいつ? やっぱりなんかぼーっとしてやがんな……。
少し不安になってると「位置について」の声が聞こえたので身構えた。
パァンッとピストルの音がすると共に、とりあえず出力全開で引っ張った。
「うおっ⁉︎」
「なんぞ⁉︎」
「ブラックホール⁉︎」
力を入れ過ぎたのか、グングンと引っ張ってしまい、クラスメート達も後ろに傾いた。
それはボーッとしていた奏も例外ではない。転びそうになった奏をギリギリ右手で受け止めた。
「きゃっ⁉︎」
「危ねっ! ……うおっ!」
片手になったため再び引っ張られる綱。俺も左手を全開にしてなんとか引っ張られないようにキープした。
「何してんだお前!」
「っ、ご、ごめんなさい……!」
「や、怪我するからマジ集中して」
「……ええ」
そう言うと、なんとか奏は復帰し、とりあえず綱引きは勝った。
しかし、危ういな。これ二人三脚までこんな感じになられたら勝つどころか怪我させちゃうんじゃねぇの。
まさか、自分からグイグイ来てた奴が結論を出されると分かった直後にここまで脆くなるとは……。
……どうしようかな、明日まで待ってると奏が危ないんじゃ……。
「……もう少し様子見るか」
そう決めて、とりあえず観戦し始めた。
うちのクラスは緑組。やるからには勝ちたいわけだが、俺の出ない種目はどうしようもない。
別に仲良い奴もいないし、体育祭の様子を見る事もなくボンヤリ眺めながらも、隣の奏をちらっと見た。相変わらず、緊張しっぱなしのようだ。
「……おい、大丈夫かよ奏。お前次女子種目の竹引きだろ?」
中央に並べられた複数の竹を両サイドから襲い掛かって自らの陣地に奪取するゲームなんだが……こいつこの様子で出来るのか?
「……え? 何? ☆13武器落ちた?」
「言ってねえよ。落ちたら良いな。そうじゃなくて大丈夫かと」
「へ、平気よ。もう少しでヒーロー取れるんだから」
「ゲームの話してねーよ」
だめだ……。完全に上の空だ。
「おい、奏。集中しろって。怪我するぞほんとに」
「だ、大丈……」
仕方ない。俺は席を立った。すると、奏はふと顔を上げて俺を見た。
「? ど、どこ行くの?」
「ん、飲み物買いに。来る? 来るなら奢るけど」
「っ、い、行くわ」
二人で立ち上がり、体育館近くの自販機に向かった。本当はこう言う手段は俺のキャラじゃないし嫌なんだが……怪我されると困るし、手段は選んでいられないよな。
自販機の前に到着し、飲み物を眺める奏の後ろから肩を叩いた。
「何?」
と、振り返った奏と肩を引っ張って、自分の胸元に引き寄せて抱き締めた。そのまま周りの視線を気にしつつ抱き寄せたまま自販機の裏に隠れた。
数秒後、離すと奏の顔は真っ赤になっていた。
「っ、にゃっ……ななっ、何をッ……!」
「……これで集中出来るな?」
「っ、ぎ、逆に出来ないわよ! なんて事するの⁉︎ そういう元気付け方は相思相愛の男女がする事でっ……!」
そこで言葉を止めて「あれっ?」と何か思ったのか考え込む奏。やがて、結論に至ったのか再び頬を赤く染め始めた。
「っ、え、えっ……? でも……考え中期間なんじゃ……?」
「まぁ、まだ告白するつもりはないけどな。全ては明日だから」
「ーっ……」
「まぁ、とりあえずこれでこれからの競技は怪我しなくて済むな?」
「……」
頬を赤らめたまま俯く奏。が、やがて顔色を元に戻し、いつもの好戦的な笑みを浮かべた。
「……そうね」
「これから棒引きだろ? 勝てるか?」
「愚問よ」
「じゃ、前祝いだな。何飲みたい?」
「結構よ」
「良いのか?」
「あなたが買ったのを半分もらうから」
……そうかよ。俺はとりあえずスポドリを買って一口飲むと、奏に差し出した。
奏もそのスポドリに口を付けると、ちょうどグラウンドから棒引き出場選手の案内が聞こえた。
「……いってら」
「ええ」
二人でグラウンドに戻った。
×××
棒引きで調子を取り戻した奏は一騎当千といわんばかりの活躍を見せて見事に勝ってきた。自分のクラスのベンチで待ってると、戻ってきた奏が超嬉しそうな顔で俺の胸に飛びついて来た。
「見てた? 勝ったわよ!」
「おう、スゲェ乳揺れだった」
「……どこ見てんのよすけべ」
「最近のJKってみんなそれなりに大きいのな」
「見るなら私だけを見なさいよ!」
「お? 見て良いのか?」
「こんの……! 変態! 先生に言うから!」
「おい待てやめろ。セクハラ関係は一発で退学なまであるから」
「あら良いじゃない。退学したら一生私が養ってあげるわよ?」
「いやいや、男としてそれはないから」
「知ってる。だから言ったの」
「テメェ、本当に良い性格してやがんな」
「あんたに言われたかないわよ!」
『2年○組のアホ夫婦、静かにして下さい』
「……」
「……」
アナウンスに怒られ、気が付けば周りの生徒達は俺達を見ていた。
俺も奏も恥ずかしくなり、顔を赤くしたまま椅子に座って大人しくなった。
しばらく二人して黙り込んでると、二人三脚の出番になった。俺も奏もアイコンタクトだけで合わせると、二人で集合場所に集まり、グラウンドに入場した。
俺の右足と奏の左足を結び、コースを確認する。走るコースはグラウンド半周分。徒競走と同じだ。
周りが一生懸命「1、2な?」「え? いー、あるじゃないの?」「じゃあワン、ツーで」「舞風かよ」なんて打ち合わせしてる中、俺と奏は喧嘩中なので目も合わせない。
で、レース開始。まずは一年生のレースで、次は二年。
俺と奏はスタートラインに立ち、お互いににらみ合った。
「位置について、よーい……」
バァンっと言う銃声と共に俺と奏は走り出した。周りが歩数を合わせる中、俺も奏も無視してただただ走る。12秒で半周走り終えてしまった。
『……何なのあいつら』
アナウンスからそんな声が漏れた。
×××
体育祭が終わった。まぁ、俺と奏の関わった競技は圧勝しましたし、クラスもそりゃ勝つよね。
とりあえず、奏と二人で帰宅しながら、俺は声を掛けた。
「どうする? 優勝したし、二人で打ち上げでもするか?」
「明日で良いんじゃない? デートなんでしょ?」
「そうか?」
「あ、でも少し公園に寄っても良い?」
「おお」
公園? なんで? まぁ、行きたいなら行くけど……。
「あ、もしかして棒倒し前に『勝てたらキスしてあげる』って奴くれんの?」
「そんなんじゃないわ。大事な話よ」
「ん、お、おう」
なんだよ、大事な話って。
言われるがまま公園に入り、二人でベンチに腰を下ろした。とりあえず、自販機で奏の分と二人分の飲み物を購入し、片方を手渡した。
「何? 話って」
「あなたは気付いてたか知らないけど、棒倒しの時覚えてる?」
「あ?」
あー、基本体当たりがメイン攻撃になるんだが、棒の前で守護神気取ってたらラグビー部が二人掛かりで来て何とか一人で食い止めてた時な。
「あの時のあなたの活躍にね、何人かの女子があなたの事をカッコ良いとかなんとか言ってたのよ。まぁ、ラグビー部二人以外にも向かって来る相手を片っ端から迎撃してたんだから当然といえば当然ね」
「で?」
「私達、まだ付き合ってないって事になってるのよね?」
「ん、おお」
「お願い」
俺に急に懇願して来たかと思ったら、奏は横から大きく抱き締めて来た。で、俺の耳元で囁くように、尚且つ震えた声で言った。
「……私と、今ここで付き合って」
「……あ?」
「今から明日までにあなたが他の女と付き合う可能性なんて万が一にもありえない。……でも、それでもあなたのことが好きなの。億が一なら可能性はないこともないかも、しれないし……」
「や、ちょ、ちょっと待てって」
「あなたも明日の予定とか色々考えてくれていたのは分かるんだけど、お願い。もう付き合って。今すぐにでも、あなたと恋仲になりたいの」
「……」
……まじかよ。確かに色々考えていたんだが……。
まぁ、女の方からそこまで言わせたら、こっちは折れるしかないよな……。
俺も同じように奏を抱き締め返した。
「……分かったよ。俺も好きだよ、奏」
「……ごめんなさいね、わがまま言っちゃって」
「別にいいよ。明日のデートはどうする?」
「行くに決まってるじゃない」
「はいはい……。じゃ、これくらいは俺の方からさせてもらおうかな」
「へっ? ……んにゅっ⁉︎」
キョトンと顔を上げた奏の口に俺の口を押し付けた。舌を入れたりはしない、普通のキス。
口を離すと、奏は恥ずかしそうに目を逸らした。
「ーっ、も、もう……そういうのは、事前に言ってよ……」
「嫌だった?」
「……そんなわけないでしょ」
「じゃ、帰るか。続きは明日だな」
「うん。楽しみにしてるわ」
そう言って二人で立ち上がり、飲み物を飲みながら帰宅した。