速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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番外編で弾けるカップルは多いよね。
元通り。


 奏と付き合いを始めたわけだが、思ったのは人間、人と付き合おうが付き合うまいが、その人との距離感が近ければ近いほど関係が変わるものではない。

 特に、俺達のように付き合うために一時的に喧嘩をしなくなったカップルは尚更だ。

 何が言いたいかというとつまり……。

 

「だーかーらー、テメェが悪いんだろうが!」

「何よ! 仕事なんだから仕方ないでしょ⁉︎」

「うるせーよ! 仕事だからって断る所は断るだろ! 何でもハイハイ引き受けてんじゃねーよ!」

「あんたこそこの前、クラスの女の子の掃除手伝ってたんでしょ⁉︎ 机運ぶの頼まれたからって!」

 

 絶賛、カフェで二人で口喧嘩中である。喧嘩無く仲良かった期間なんてほんの一週間ほどだった。まぁお互いに付き合えて安心してしまったという事なんだろうな。

 

「頼まれたんだから仕方ねーだろ!」

「なら私のだって仕方ないでしょ⁉︎」

「はっ、これだからキス魔は困るんだよなぁ! そんなにキスしたけりゃ肘曲げて関節部に溜まってる肉に口くっつけてやがれ!」

「そんな小さい事で怒ってんじゃないわよ小さい男ね!」

「ああ⁉︎ クラスメートの掃除手伝っただけでキレる女に言われたくねえんだよ! デカイのは胸だけかオイ⁉︎」

「図体だけデカイあんたに言われたくないわよ!」

「ちょっと、二人とも」

 

 喧嘩してると、塩見さんが口を挟んで来た。で、冷ややかに淡々とした口調で飲み物を飲みながら言った。

 

「落ち着いて。ここはカフェだから」

「っ、ご、ごめんなさい周子……」

「いや、いいよいいよ。二人じゃラチがあかないって言って仲介役を引き受けたのはあたしだから。抹茶オレとチーズケーキ奢ってもらっちゃったし」

 

 飲み物を机に置きながら言うと、塩見さんは「それよりも」と続けて言った。

 

「話をもう一度聞かせてくれる? ギャーギャー喧しくて頭に入ってこなかったから。二人の喧嘩の要因はなんだっけ?」

「何よ、またそこから?」

「その話をするたびにまた口論になるんだが」

「いいから。次は口論の前に止めるから」

 

 それを聞いて俺と奏は顔を見合わせると「だからぁ!」と説明を始めた。

 

「この男が掃除中にクラスの女子とイチャイチャしてた事よ!」

「この馬鹿がライブ中、振り付けでもないのに男共に投げキッスした事だよ!」

「「ああ⁉︎」」

 

 俺と奏がメンチを切り合う中、塩見さんは小さくため息をつきながら、頭痛を抑えるようにこめかみに手を当てた。

 

「……あのさぁ、そんな事でいちいち喧嘩しないでくれる?」

「そんな事って何よ! クラスの女子の人気が上がって来たのを分かってて引き受けたのよこの男は! ギルティでしょ⁉︎」

「テメェこそ付き合ってる男がいるならファンサービスは最低限にしとけや! 投げキッスってあれ遠くにいる相手にキスするって事だから結局キスだからな⁉︎」

「口と口も付けてないのにキスになるわけないでしょ⁉︎ あれはそういう仕草に萌えるってだけなんだから! 文香が言ってた!」

「はいそこまで」

 

 止められ、再び俺達は大人しくなった。ついついヒートアップしてしまうのは、やはり気が短いからなんかな……。

 

「とりあえず落ち着いて。あんたらすぐ言い返すから話し合いにならないから」

 

 む、そう言われりゃ確かにそうだが……。でも言い返さないと言われっぱなしになるしな……。

 そんな考えが顔に出ていたのか、塩見さんは俺を指差して言った。

 

「まずはゆーくんの主張から」

「なんで私じゃないのよ! 私が悪いって言うの⁉︎」

「奏ちゃん面倒臭いガキじゃないんだから黙ってて」

 

 うお、スゲェな塩見さん……。友達でも容赦ないな……。というか少し怒ってない? 気の所為?

 

「俺はライブの奏の映像見たんだよ、塩見さんにURL送ってもらって。なんかエロい腰使いでダンス踊ってた奴」

「あんた殺すわよ」

「奏ちゃん?」

 

 学習しねぇな、俺の彼女は。名前呼ばれただけなのに黙ったし。

 

「あれは俺と付き合ってから開催されたライブだったよな。その時に投げキッスしてるのが見えて、塩見さんから聞いたらアドリブだって言うからついジェラったんだよ。俺と付き合う前ならともかく付き合ってからああいうアドリブ入れるとかおかしいだろ」

「って言ってるけど、奏ちゃんは?」

「別におかしくないでしょ。ライブを盛り上げるためにはああいったことも必要なのよ。前はLippsでセンターやらせてもらってたんだし、アドリブでアレ入れるのはベストだと思ったの」

「にしても……!」

「ゆーくん、そこで言い返すから言い争いに発展するの。だから黙ってて」

 

 ……くっ、辛辣な……! でもその通りなので何も言えない。

 

「まぁ、ゆーくんには悪いけど、これは奏ちゃんは悪くないよ」

「はぁ⁉︎ なんで……!」

「奏ちゃんはゆーくんの彼女である前にアイドルなの。アイドルはね、自分を応援してくれるお客さんに対して常に最高のパフォーマンスを提供しなきゃいけないの。奏ちゃんはそれを全うしようとしただけだから。……ていうか、ゆーくんはそんなこと分かってたんじゃないん? だから投げキッスだってキスの一つだとかわけのわからないことを抜かしたんでしょ?」

「……」

 

 ……その通りだ。ただ、投げキッス一つで盛り上がる観客に何となくイライラして、それを奏に言ったら予想外に食いついて来て言い争いになってしまった。

 

「はい、次奏ちゃんの件」

「やっと私の番ね」

 

 俺の攻めがおかしいと分かったからか、奏はとても嬉しそうな顔でニヤリと微笑むと、まくし立てるように言った。

 

「この前、周子からL○NEが来たのよ。優衣から『今日、クラスの女子に机運ぶの手伝ってって頼まれたわー』『やべーわ、奏いるのにモテ期も来ちゃったわー』ってL○NEが来たよって。こんなの、下心しかないじゃない! 何がモテ期よ! コソコソと私じゃ無くて周子に自慢してる所が下心のある証拠じゃない!」

 

 流石に学習能力のある俺は言い返したりはしなかった。塩見さんもその言い草に反応して、やんわりした口調で奏に言った。

 

「まぁまぁ、奏ちゃん。じゃあ、仮に奏ちゃんの所属してる……そうだな。Lippsの写真会で一番奏ちゃんに人が集まったとするよ? 正直嬉しいと思うけど……でも、それをゆーくんに自慢する気になる?」

「っ、そ、それは……!」

 

 言われて押し黙る奏。それに畳み掛けるように塩見さんは追撃した。

 

「ほら。嬉しいけど自慢出来ない相手っているでしょ? でも、誰かに自慢したい、なら別の誰かに言うしかないと思わん?」

「……そう言われればそう、だけど……」

「それに、ゆーくんはちゃんと『奏いるのに』って言ってたし、奏ちゃんを裏切る気なんてさらさら無いんだから、そこは寛大になってあげようよ」

「……そうね、少し騒ぎ過ぎていたわ」

 

 言われて、俺も奏も結局お互いに騒いでいただけという事が発覚し、うなだれるしかなかった。

 お互いに目を合わせ、そして気まずくなりバツの悪そうな顔をして目を逸らした。

 ったく……まぁ、それでも、なんだ。俺もクラスの女子に声を掛けられてまんざらでもなかったのは事実だ。そこは反省しなければならない。

 それに、まさか奏の耳に届くとは……あれっ? 待てよ。ていうかさ、俺の件も奏の件も情報源はさ……。

 

「ていうか全部お前の所為じゃねぇか‼︎」

「ていうか全部周子の所為じゃない‼︎」

「あははっ、息ぴったり〜」

 

 あははっ、じゃねぇよ! 謝れこの野郎!

 何のつもりだよ、と俺と奏が視線で問うと、一切悪びれる様子なく答えた。

 

「いやー、二人とも毎日毎日惚気がウザかったからついね〜」

「つい、じゃないわよ! どうするのよ! 優衣にかなり酷いこと言っちゃったじゃない!」

「そうだよ! 俺も奏に『きょにゅきょにゅの実の能力者』とか子供でも言わない暴言言っちまったんだぞ⁉︎」

「ごめんごめん。でもほら、二人ともいつも惚気聞かせて来るんだから、少しは仕返ししたいじゃない?」

 

 それに、と相変わらず余裕まんまの視線で優しく言った。

 

「二人ならすぐに仲直り出来ると思ってこそだよ」

 

 言われて、俺も奏も顔を見合わせた。……そういえば、こいつ俺に言ったセリフを後悔してるようなセリフを吐いてた、よな……。まぁ、それは俺も同じなんだが……。

 お互いになんか気恥ずかしくなって目線を逸らした。塩見さんにいいように遊ばれた、というのもあるが、何より俺も奏も無意識のうちに飛び出た第一声が反省してるような内容を本人に聞かれてしまったからだ。

 解決したかな? と察した塩見さんはチーズケーキを食べ終えると立ち上がった。

 

「じゃ、とりあえず邪魔者は退散するねー」

 

 そう言って歩き始める塩見さんの肩に、俺と奏は手を置いた。

 

「待てやコラ、とりあえず奢ってやった金返せ」

「あんたが仕組んだ喧嘩の仲裁で奢ってもらえると思わないで」

「あ、あはは〜……だよねぇ……」

 

 仕方なさそうに財布を取り出し、千円札を置いた。

 

「お釣りは……200円か」

「いいよ、お詫びに取っておいて。次からは喧嘩しないように」

 

 それだけ言って塩見さんはお店を出て行った。

 俺達の口喧嘩が相当だったのか、いつのまにか客はいなくなっていて、俺と奏の二人きりになっていた。店員さんには申し訳ないことしたな……。

 ガランとした店内で、俺と奏は気まずげにその場でポツンとしていた。お互い、チラチラと視線を通わせては目を逸らしている。なんだこれ、初恋の恋人かよ。……あ、初恋だわ。少なくとも俺は。

 

「……」

「……」

 

 ……どうしたものかな。まぁ、とりあえずこういう時は男の方からだろう。

 少し照れくさいので、頬をぽりぽりと掻きながら、目を逸らしつつ名前を呼んだ。

 

「奏」

「優衣」

 

 まさかのハモった。相変わらず気が合わねえなこいつとは。

 

「なんだよ」

「あなたが先に良いわよ」

「あー……うん。じゃあ」

 

 咳払いをしてから、とりあえず続けた。

 

「店、出るか」

「出てどうするのよ」

「あー……映画でも行こうぜ。ワ○ダーウーマンやってたろ。奢るからよ」

「……別に、奢ってくれなくても良いわよ。……何回喧嘩しても、一緒にしてくれるって約束してくれれば」

「……当たり前のことを約束させんな」

「……じゃ、行きましょう」

 

 二人で映画を観に行った。ほんと、仲直りが早いのは助かるわ。

 

「……ちなみに、奏はなんて言おうとしたの?」

「……同じよ。やっぱり映画よね」

「だよね。ちなみに見ようと思ってた映画は?」

「せーのっ」

「「亜人」」

「やっぱりか」

「楽しみよね」

 

 お話ししながら映画館に向かった。

 

 

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