速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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年末(3)

 スキーの後は二人で宿でまったりする事になり、レンタルしていたスキー板を返却して、預けていた荷物を受け取って部屋に向かった。

 スキー場にそのまま宿があるため、わざわざ移動する手間がないのは最高だ。チケットがあったとはいえ、こんなとこ学生だけでよく泊まれるな、と思うレベルである。

 とりあえず、部屋に戻ってからはすぐお風呂に入ることになった。分かり切った話だが、混浴はない。全然、残念なんかじゃないってばよ。

 いや本当に。だって混浴ってことは他の男にカナの全裸見せるって事でしょ? 全員八つ裂きにして温泉が真っ赤になっちゃうから。

 温泉に入り、全裸になって入浴した。まだ誰も人はいなかったのでほぼ貸切状態だった。超ラッキーだなこれ。

 髪、顔、身体を洗い終えて湯船に浸かった。

 

「「ふぅ……」」

 

 息を吐くと、同じ声が女湯の方からも聞こえて来た。上の方だけ、女湯と男湯を割いてる壁が空いてる。つまり、女湯の方でお湯に浸かった人と声がハモったわけだ。

 身体を洗い終え、湯船に浸かるタイミングが全く同じ女なんて一人しかいない。まぁ、そこまで考えなくても声でわかるけどね。

 

「ユイ? いるの?」

「いねーよ」

「いるじゃない、意味のないボケはやめて」

 

 へいへい。

 

「そっちは人いねーのか?」

「いないわ。いたら声なんてかけられないわよ」

「知ってた」

「そっちもいないんでしょ?」

「いるよ」

「う、嘘……⁉︎」

「嘘」

「あ、あんたねぇ……!」

 

 いたら速攻言ってるって。恥ずかしいし。

 

「良いお湯ね?」

「ああ、疲れが取れる」

「あら、あなたも疲れることなんてあるんだ?」

「そりゃあるだろ。特になれない雪の上だったし尚更」

 

 雪って意外と重いのな。スキー板が埋まると抜くのに多少時間かかった。

 

「楽しかった? スキー」

「ああ。スリルがあった」

「あなた、教えなくても全然滑れるんだもの。こっちは全然教え甲斐がなかったわ」

「滅多にない俺にものを教える機会だからな」

「あら、期末試験とかお互い教え合ってたじゃない?」

「俺の方が教えた時間長かったけどな」

「細かい男ね。これだからモテない奴は困るのよ」

「モテて良いのか?」

「ダメ」

 

 まぁ、そうだよね。俺もカナにモテられたら困るし。俺以外にカナが惚れないと分かってるとしても、アプローチをされてるのを見るだけで顔面を掴んでゴミ箱にダンクシュートしてしまうかもしれない。

 

「カナー」

「何?」

「お風呂飽きた」

「あんたホント風情もへったくれもないのね……」

 

 悪かったな。長風呂嫌いなんだよ。

 

「あんまジッとしてるの性分じゃないんだよ」

「子供みたいね」

「お前が言うな」

「私は大人っぽいもの」

「顔と体型だけな」

 

 ……ん? 体型? そういえば、今日二人きりで泊まりで……へ、下手したら……。

 

「……」

「……自分で言って照れてんじゃないわよ」

「……るせーよ」

 

 ……どうしよう、俺こんな事態になると思ってなかったからゴムとか買ってないんだけど。

 

「な、なぁ……カナ」

「何よ……」

「あ、お前も照れてる?」

「うるさいわよ」

 

 ……お互い照れてるんだな。ほんとムカつくほどシンクロ率が高い。

 

「で、何?」

「いや、その……なんだ。正直言ってムラムラしてんの?」

「正直に言い過ぎよ!」

「いやそこ重要でしょ。二人きりの密室だからってシなきゃいけないわけじゃないし……」

「そ、それはそうだけど……あんたはしてんの?」

「俺はー……してない事はない、けど……正直恥ずかしさの方が強いし……」

 

 ぶっちゃけ、裸見ただけで頭が真っ白になる気もする。

 

「ま、まぁ……私も、多分……あなたと裸で向き合ったら……多分、頭が真っ白になって……で、どうなるか分からないと、思う……」

 

 ……やっぱ、俺と一緒か。なら、無理にヤる必要もないよな。と思ったら「でも」と続きがあった。

 

「……美波や凛は、もう、その……シてるみたいで……少し、羨ましいと思ったりもしたのよ」

「……」

 

 なるほどね。要は焦ってんのか。まぁ、その気持ちは分からないでもないが……。

 

「そんなの気にしなくて良いだろ」

「へっ?」

「恋人の進むペースなんてその恋人達次第だし、俺達は俺達のペースで良いんじゃねーの」

「……」

 

 一緒にいればそのうちセ○クスしたいとか思うようになるだろ。そういうもんなんじゃねーの? 恋愛したのなんて初めてだから分からないが。

 なんか偉そうに説教してしまったからか、カナからの返事はない。やべっ、もしカナがムラムラしてたら今の説教みたいなのはなんかただエッチしたくないみたいになってしまうような……。

 なんか自分で言って自分で悩んでると、向こうから「くすっ」と微笑んだ声が聞こえた。

 

「分かってるわよ。そもそも、私もそんな気は毛頭なかったんだから」

「嘘だぁ、少しはあっただろ」

「ないわよ」

「すけべ」

「あんた張り倒すわよ」

「やってみろよ」

「やってやるわよ。部屋で覚悟しなさい」

「覚悟すんのはそっちだから。左腕一本で勝てるわ」

「言ったわね? じゃあ私は何をしても良いのね?」

「良いよ? ……キス以外なら」

「何逃げ腰になってるの?」

「なってねぇよ」

「なってるわよ」

 

 結局、俺達はどんな雰囲気で何を話してても口喧嘩になるんだなと思いました。

 

 ×××

 

 風呂から上がって大浴場から出ると、ちょうどカナが出て来た。相変わらず、浴衣姿の似合う女だ。……というか、ちょっと色っぽいな。相変わらず大人の色気をムンムンと出してるJKだ。

 

「ちょっと、あなた全然髪の毛乾かしてないじゃない」

「あん? 拭けば良いだろこんなの」

「だめよ、風邪引くし引かなくても髪痛むわよ。

部屋に戻ったらドライヤーだからね」

「へーへー」

 

 そんな会話をしながら、カナが俺の腕に自分の腕を絡ませた。胸が当たってるが、もうその程度では俺は動揺なんかしない。だから心拍数は有給休暇を使って下さい。

 部屋に向かって歩いてると、自販機の前を通りかかったので、ついでに聞いてみた。

 

「あ、カナ。なんか飲むか?」

「ウーロンハイ」

「スゲェ、今一瞬飲み込みかけちまった。どんだけババ臭いんだよお前」

「あんたそれはいくらなんでも失礼過ぎない?」

「で、ウーロン茶で良いんだな?」

「ええ」

「どちらにせよババ臭いことは黙っておこう」

「ビンタするわよ」

「効かねーよ」

「拳で」

「お前の指が折れるからやめろ」

「あなたのお母さんが」

「……すみませんでした」

 

 俺の母親の戦闘力は笑えないからな……。親父に聞いた話だと、突進してくるバイクを拳で止めたらしい。もちろん、お袋の指も無事では済まなかったが。

 そんな無駄話しながらウーロン茶と午後のストレートティーを購入し、自室に向かった。俺もウーロン茶が飲みたかったことは内緒だ。

 エレベーターの前に立つと、フロアごとの説明を見たカナが「あっ」と声を漏らした。

 

「見て、ユイ。二階に卓球場があるわよ」

「あ、ほんとだ。でも風呂入ったばっかだぞ」

「あのね、私達ももう子供じゃないんだから、そんな本気でガツガツやったりしないでしょ?」

「や、まぁそうだけどよ……」

 

 ……何となく不安なんだよなぁ。こう、むしろ身体が勝手に動く感じで……。

 不安に思いながらも、二階で降りて卓球場にきた。ラケットを手に持つと、カナ自身もなんとなく不穏な気配を感じてるようで提案した。

 

「こうしましょう、お題に答えて球を打つの。そのジャンルが尽きるまで打ち合えればクリア、これならお互いにクリアを目指せるでしょ? 優劣はつかない」

「なるほど。そいつは良いな」

 

 それなら良いかもしれない。そう決めて、二人で卓球を始めた。

 

 〜2時間後〜

 

 俺とカナは卓球台にもたれかかるようにして、ハァハァと肩で息をしていた。

 

「……お前さ、バカだろ……。なんでお題を周期表の元素の数にしちゃうんだよ……。118個もあんだぞ……」

「あんただって了承したでしょ……。ていうか、あんたが私の胸に気を取られてたから何遍も小さいミスばっかしてた所為でしょ……?」

「うるせーよ……お前だってはだけないように少しは気を使えよ……」

「途中から疲れて来てそんな余裕あるわけないでしょ……」

 

 ……結局、汗だくになっていた。これはもう一回風呂に入るしかねーな……。

 なんとか立ち上がって、カナに手を差し出した。

 

「おら……風呂に戻るぞ」

「そうね……。流石にこれじゃ眠れないわ」

 

 身体を起こすと、カナの浴衣がかなりはだけてるのが見えた。胸の谷間どころか胸の分かれ目が見えていて、乳首が見えてないだけの状態、流石にこれは見え過ぎだ。……つーか、こいつノーブラで卓球やってたのかよ、そりゃ乳揺れに気を取られるわけだ。

 

「……おい、浴衣」

「……浴衣が何よ」

 

 ……疲れててそれどころじゃないっぽいな。仕方ないので、俺が直してやることにした。

 カナの前にしゃがむと、胸に手を伸ばし、浴衣を握るとカァッと頬を赤らめたカナは俺に怒鳴った。

 

「ち、ちょっと! 疲れてる所を襲うなんて最低……!」

「いいからじっとしてろバカ」

 

 手を交互にクロスするように浴衣を整えてやった。これで胸どころか谷間も見えないはずだ。

 

「っ、あ、ありがと……」

 

 頬を赤らめて俯きながら頭を下げた。本当そういう仕草は吐くほど可愛いが、今やられるとホント襲いそうだからやめてください。

 何とか理性を抑えるために、さっさと立ち上がってカナに手を伸ばした。

 

「行くぞ」

「え、ええ……」

 

 そのまま再び大浴場に向かった。

 男湯と女湯の前で別れ、また全裸になって入浴した。今回は貸切とは行かず、何人か浸かってる人がちらほらと見えた。

 頭と髪を洗い流し、ゆっくりと湯船に浸かる。

 

「……ふぅ」

 

 しかし、危なかったな……。本当にカナの身体はエロいんだからよ……。もう少しで下半身が反応するとこだった。

 ……あれ? ていうか、下半身が反応しかけたって事はそれこそヤるべきタイミングだったんじゃ……。

 いや、むしろタイミングはこれからな気もするんだけど。今にして思えば、乳首が見えてないとはいえ胸があそこまで見えてて頭は真っ白にならなかったし、むしろなんか変にドキドキして来た。

 ……運動してから、トラブルがあって一旦シャワー浴びるって、むしろエッチな事する前準備的な……。

 

「ーっ!」

 

 や、ヤバい……! なんかマジで意識してきちまった……! あいつの方はどうなんだ? いや、あいつも多分、ノーブラで卓球やってた事を自覚して俺よりも先に意識してたはずだ。

 ……ってこと、この風呂から上がったら二人揃ってそんな雰囲気に……!

 やばいやばいやばい、だとしたらどうしよう! だって、あんな話をしたってことはつまり、お互いにそういうのがシたくなったらいつでもシて良いって事だし、俺の息子は今、湯上りのカナに会ったら確実に反応する!

 男の性的反応は女性と違って服越しでも目視で確認できるし、そこを攻められたら……!

 

「ユイー? いるー?」

「ホワッツ⁉︎」

 

 呑気な声が聞こえて来て、思わず大声を出してしまった。お陰で周りの男達はみんなこっちに振り向いた。

 うわっ、なんか気まずい……と、思ってる間にカナは呑気に続けた。

 

「あんたね! 言っておくけどさっきのセクハラに近かったからね?」

 

 大声で何を抜かしてんだよテメェは!

 

「ま、まぁ、私も疲れて動けなくなっちゃってたし、特別に許してあげても良いけど?」

 

 どこまで上からなんだよテメェは……! ていうか、男達の嫉妬の視線がハンパなく突き刺さってんだけど! お願いだから黙って……!

 

「大体、あんた人の胸にばかり気を取られてホンッッットに節操がないというか……」

 

 はいもう無理!

 

「うるせーよ! こっちは人いるんだぞバーカ!」

「……はっ?」

「大体、テメェは照れ隠しで視野が狭くなってたからかもしれねーけど、返事がない時点で気付けや!」

「う、ううううるさいわよ! ていうかなんで早く言わないのよ⁉︎ 思いっきり赤っ恥かいたじゃない! てか照れ隠しじゃないし!」

「お前が勝手に確かめもせずに声かけて来たんだろうが!」

「人の所為にしないでくれる⁉︎ あんたが言えば全部済んでた話でしょ⁉︎」

「すぐに言えるかバーカ! こっちにゃ人がいるっつってんだろ!」

「関係ないでしょ⁉︎」

「あるだろバーカ! 大体、テメェは……!」

 

 アイドルだろうが、と言おうとした所で口が止まった。流石にアイドルであることは言えない。

 冷静になった所で辺りを見回すと、男湯に誰もいなくなっていた。これで存分に口喧嘩出来る。

 

「大体、テメェはアイドルだろうが! 平気で油断してんじゃねーぞタコ!」

「た、たたたタコぉ⁉︎ 女の子にそれはないでしょあんた! あんたこそゴリラみたいな筋肉してるくせに!」

「るせーよおっぱいお化け!」

「喧嘩バカ!」

「OLJK!」

「浴衣ヤクザ!」

「お前もう1日1回のキス無しにするからな!」

「あんたこそ二度と夕飯やお弁当作ってあげないんだから!」

「お前もう絶対……!」

「あんただって……!」

 

 気が付けば、ムラムラは既にどこかへ飛んで行っていた。

 

 


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