速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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中間試験から期末試験の間は短く感じる癖に中間試験中と期末試験中は長く感じるの不可解
負けず嫌いも程々に。


 五月ももう後半、つまり中間テストの季節になった。

 ふざけんな死ね。

 ふぅ、本音はここまでにしておこう。まぁ、そんなわけで試験勉強をしなければならない。

 ゴールデンウィーク中、疑心暗鬼になって家から出れなかった間は勉強とかゲームをしていたので、それなりに余裕はある。

 今日から学校は試験休みで部活は中止。よって、部活をやってる連中も勉強したりするわけだが、スタートダッシュを見事に失敗した俺はクラスの友達と一緒に勉強することなどなく、一人で勉強をしなければならない。

 普段は家で勉強してるけど、今日は外で漫画買いたいから外で勉強する事にした。

 とりあえず、最近暑くなってきたので図書館に行くことにした。意識高けりゃクーラーついてるだろ。

 中に入って勉強スペースを見つけて座った。学生服着てる連中がそれなりに多かった。どの制服もバラバラなので、みんなソロなのかな?勉強するつもりな奴しかいないようで良かった。

 勉強する気がない奴は大体、複数人で来るからな。

 今日やるのは数学。三角関数の問題を片っ端から解くとしよう。そう決めて教材を机に広げた。

 

「……あっ」

「あん?……あっ」

「……やっぱり……」

 

 速水が後からやって来た。まぁ、もうこうして出会すのも慣れたもんだ。

 

「……何、勉強?」

「他になんだと思ってるわけ?私は試験休みなんて通用しない仕事があるから、隙があるときに勉強しなきゃいけないの」

「そいつはご苦労なこった。まぁ、忙しけりゃ勉強に手を抜いて良いわけでもないし、仕事に手を抜いて良いわけでもないからな。精々、赤点は二教科以内に収まるように頑張るんだな」

「あら、知らないの?こう見えて私、成績は悪くないのよ?むしろ前から数えた方が早いくらいだから。普通の学生より忙しいのに」

「例え200人中100位でも一応、前から数えた方が早いからな」

「そう言うあなたはどうなの?赤点以上を取れれば満足するタイプなんじゃなくて?」

「よーし、面白ぇ。負けたら一日何でも言うこと聞く、どうだ?」

「……上等よ」

 

 二人揃って机に向かった。

 頭を高速で動かし、勉強する事数時間が経過した。俺のお向かいで勉強してる速水も俺も目と脳と手だけを動かしていた。

 正直、俺は勉強が得意ではない。というか嫌いだ。だからといって目の前の女に負けたくはない。というか、こいつに負けるくらいなら成績表なんていくら良くてもケツ拭いて便所に流した方がマシなまである。

 そのためにも負けられない。とりあえず全教科百点狙っておくか。科目は数ⅱ、数B、現国、古文、世界史、日本史、物理、化学、英語、OCⅱの10個。

 とりあえず、今日で数ⅱを完璧にする……‼︎

 とにかく脳をフル回転させた。

 

 〜二時間経過〜

 

 ふぅ、流石に疲れた……。ペンを置いて椅子にもたれかかった。速水も同じようにペンを置き、片手で自分を仰いでいた。

 他の学生達は何人かいつのまにか帰宅していて、残ってる人数は少ない。

 鞄の中のお茶を一口飲んだ。本当は飲食禁止であることは内緒だ。

 

「……」

「……」

 

 ふと速水と目が合った。しばらく目を合ってると、何となくムカついたので眉間にしわを寄せると向こうもムカついたのか眉間にしわを寄せた。

 で、ものの数秒で休憩を終わらせた俺と速水は再び机に向かった。

 

 〜さらに三時間経過〜

 

 学生達は皆帰り、残りは俺と速水だけ。その間、俺達は一切の休憩無しに勉強していた。

 ここの図書館は他の図書館に比べて開いてる時間は22時までとかなり長い。

 まぁ、だからと言ってギリギリまで勉強する奴はかなり少ないだろう。そんな事するのは何処かの誰かと競ってるバカだけだ。

 

「……」

「……」

 

 いや、俺は全然競ってなんかないけどね。向こうのバカは多分競ってるけど、俺は全然違うから。ただ、せっかく静かに勉強出来る場なんだし、この機会を逃すのはもったいないと思ってるだけだから。

 チラッと速水の方を見ると、同じくこっちを見た速水と目があった。再びお互いに眉間にシワが寄り、教科書とノートに目を落とした。

 

「……」

「……」

 

 再び勉強。別に俺には関係ないけど、あいついつまで勉強する気なんだよ?別に俺には関係ないけど。

 

「……ねぇ、ちょっと」

 

 速水が声を掛けてきた。声を掛けてきたくせに顔上げねえとか何様だよあいつ。

 

「何」

「あんた、そろそろ休憩した方が良いんじゃないの?クーラー効いてる部屋で汗かいてるわよ」

「お前こそさっきから手が動いてねえぞ。考えてるっつーより疲れてて頭が働いてねーんじゃねぇの」

「あら、わざわざご心配ありがとう。でも私は平気よ。それよりあなたこそ大丈夫?それ、シャーペンじゃなくてホルター型消しゴムよ」

「お前こそ今書いてるの、ノートで解いた問題を教科書に写してんぞ」

「……」

「……」

 

 ジロリと二人して、一切可愛げのない上目遣いで睨み合った後、再びお互いに問題に目を落とし、俺は消しゴムとシャーペンを持ち替えて、速水は教科書に書いてしまった問題を消し始めた。

 直後、ぐうっと速水の方から音が聞こえた。何処からどう聞いても腹の音だ。

 しかし、速水は一切無視して問題を解き続けている。

 

「オイオイ、腹減ったなら素直に帰宅して母親の作った温かいご飯でもお腹いっぱいに食べたらどうだ?俺は勉強して行くけど」

 

 その直後だった。俺の口から小さな欠伸が漏れた。

 

「あら?あなたこそ眠いなら早めに帰ったら?明日も学校あるんだし。私は勉強して行くけど」

 

 チッ、この女……!少しイラっときたぞ。

 

「あのさ、お前ほんといい加減にしてくんない?勉強ってのは個人競技だぞ。他人と競ってどうすんの?」

「いや、それこっちのセリフだから。どうせあと一時間くらいで閉館なんだから、このままいったって引き分けなのよ?勝ちにも負けにもならないんだから、さっさと切り上げて帰った方が良いんじゃない?」

「そのセリフがもうアレだろ。私、勝ち負け意識してますって言ってるようなもんだろ。言っとくけど、俺は違うから。別に競ってるとかじゃなくてせっかく図書館で勉強出来るんだから、少しでも長く涼しい環境で勉強したいだけだから」

「別に私だって意識してないからね?ただ、明日はまたお仕事だし、今のうちに集中できる環境で勉強したいだけだから」

「そんなこと言って本当はしんどいんだろ?休むのも立派な勉強だから。仕事だって休むのも仕事のうちとか言われんだろ?」

「そう思うならあんたが休めば良いじゃない。そろそろ右手の指の関節痛くなってきたんじゃないの?指を休ませてあげなさいよ」

「俺の指はあと二時間はいけるってよ」

「私の指は三時間だけどね」

「違った、四時間だった」

「いや、もうそんなのどうでも良いから。指は元気でもあなたは疲れてるんでしょ?ちなみに私は五時間」

「疲れてねーよ。てか疲れるって何?意味分かんない。疲れるなんて日本語この世にあったっけ?俺の指は六時間半だとよ」

「……」

「……」

 

 再び睨み合いの後、勉強に戻った。何だよこいつ、競ってないならなんでそんな本気なんだよ。かくいう俺も本気だが、俺は別に競ってるわけじゃないし……。

 お互いにカマの掛け合いでは勝負はつかないと判断し、勉強することにした。

 

 〜約一時間後〜

 

 気が付けば、俺も速水もその場で伏せていた。ほとんど寝てる姿勢でペンを走らせている。

 

「お客様、そろそろ閉館のお時間で……ひぃっ⁉︎」

 

 図書館の人が悲鳴をあげる程度には俺も速水もグロッキーだった。結局、勝負はつかなかったか……いや、別に勝負してないけど。

 とりあえず、体をヨロヨロと起こしてお茶を飲み干し、教材の片付けを始めた。

 ペンをペンケースに入れ、教科書とノートを鞄にしまい、スマホをポケットに入れてゴミ箱に捨てられるようにペットボトルは手に持った。

 ふと速水を見ると、未だに机の上で伏せていた。

 

「オラ、起きろ。もう閉館だぞ」

「……」

「おい、聞いてんのか。鼻の中にペットボトルぶち込んで面白い顔にしてやろうか」

「……」

 

 ……起きねえな。何してんだこいつ……。

 鞄を持って、反対側に回り込んで「おい」と声を掛けた。

 

「……すぅ、すぅ……」

 

 ……気持ちよさそうに寝てんじゃねーよ。ちょっとよだれ垂らしてるしよ……。

 どうしようこれ、俺がなんとかした方が良いのか……?そりゃ、一応知り合いだし、アイドルJKをこんなとこに放置して行くわけにもいかねーけどよ……。

 

「……」

 

 っと、あっぶねぇ!こいつ、黙ってりゃ可愛いんじゃねぇかって今思っちまったわ。落ち着け、俺。こいつはあの速水だぞ。

 可愛くなんかない、可愛いのは外見だけで中身は可愛くなんかない……。よし、落ち着いた。

 

「はぁ……仕方ねーな」

 

 小さくため息をついてから、鞄の中のポケットティッシュを取り出して、微量のヨダレを拭いた後に、体を隣の椅子の上に落としてから教科書類とノートとペンケースとスマホを速水の鞄の中にブチ込んだ。ていうか、こいつも数学やってたのか。ホントなんかムカつくな。

 で、俺の鞄と並べて机の上に置くと、速水を背負って鞄を持った。

 

「っ……」

 

 こ、こいつ……見た感じから知ってたがオッパイデッケーなオイ。弾力がワイシャツとブレザー越しにも伝わってくる。

 というか、女の人なんて初めて背負うから不安なんだが、太ももとか直に触っちゃってるけど良いのか……?

 あと、耳元で寝息を囁かれるとなんか変な気分に……。ていうか、なんか善意でやってるはずなのに寝てる女に内緒で色んな所を触ってるっていう変な罪悪感が……。

 

「……」

 

 い、いやいやいや!でもほっとくのはもっとダメだろ!嫌いな相手でも不幸になれとかは思わないし!

 ……まぁ、ほっといても実際は図書館の人に起こされて親に連絡する程度だろうけど。

 とりあえず、こんな時間にまでお世話になった図書館に迷惑もかけられないし、このまま家まで運ぼう、それがベスツッ。

 両肩に速水と俺の鞄を掛けて、図書館を出た。面白い事に家はここから歩いて20分かかる距離だ。フザケんなよ神様本当に。

 はぁ……なんで嫌いな女を背負ってんだ俺……。唯一の救いは元ヤンだった事もあってか、女一人に教科書がたくさん入った鞄二つあってもさほど重くないと感じてるところか。

 

「……すぅ、すぅ……」

 

 ……気持ち良さそうに寝息立てやがって。寝るくらいなら降参しとけよな……。や、だから競ってはねぇって。

 まぁ、でも今日はかなり勉強は捗った。前々から少しずつ勉強してたってのもあるが、三角関数はもうマスターした。でもしばらく数学はやりたくねーな。

 てか、そもそもなんで試験休み初日からこんな死に物狂いで勉強してんだ俺は……。や、お陰で捗ったには捗ったんだが……。

 

「……んっ、すぅ……」

「……」

 

 ……ひょっとして、こいつのお陰か?冷静に考えりゃ、俺は今日別に遅くても8時には帰る予定だったしな……。

 こいつと競い合ってたから……や、競ってはないってばだから。けど、こいつがいなかったらこんな時間まで勉強してなかったと思うし……。

 

「……」

 

 いやいや、仮にそうだとしてもこいつにそんな意図ねーし、別に何か感謝する必要はないだろ。

 それより、早いとこ帰宅して早くこのオッパイ感触から解放されよう。控えめに言ってムラムラすんだよ。

 

「……んっ、ふわぁ……」

 

 へっ?い、今なんか耳元で聞こえてような……。

 

「……ここ、どこ……?って、あんた何してんの?」

 

 ……やばい、速水が目を覚ました。いや、別にやばくはないけど。

 

「あ、あんた何してんの⁉︎何する気よ降ろしなさい!」

「ちょっ、暴れんな!何もしねーよ!てか何すると思ってんだよ!」

「そ、それは……!っ……こ、この変態!」

「何でだよ!てか暴れんな落ちるだろうが!」

「このっ……!」

「グェッ!」

 

 いきなり首を絞められた。

 

「私をどこに連れて行く気⁉︎吐きなさい!」

「まっ……待て待て……!……ギヴギヴ……!は、離せ……!」

「離さないわよ!」

「……みっ……道を、見ろ……!」

「?」

 

 俺の首を締めたまま辺りを見回す速水。帰路だということを理解してくれたのか、ようやく解放された。

 とりあえず静かになったので降ろした。寝てるならともかく、起きてるのにおぶってやる義理はない。

 鞄を返すと、速水は恐る恐ると言った感じで俺の顔色を伺うように聞いてきた。

 

「……もしかして、連れ帰ってくれようとしてたの?」

「そうだよ。他に何があんの?丸焼きにして食うとか?俺はどこの部族だよ」

「自分の例えに自分でツッコまないで」

 

 そう言いながらも、速水は少し申し訳なさそうな表情を浮かべて俯いた。

 いや、それだけじゃない。多分、悔しさもあるんだろうな。だって勉強中に寝ちゃってたんだから。少なくとも今日の時点では俺の勝ちって事になる。いや、俺的には別に競ってないけど、速水的には多分競ってただろうし。

 

「……らせて」

「は?」

「……ご飯、一回奢らせて」

「なんだよ急に。別にいいよ」

「嫌よ。奢らせて、今から。あなたに借りを作るのだけはゴメンなの」

 

 ホンッッット可愛くねぇ女だなこいつ。

 

「いい、俺だって女に奢られるほど落ちぶれちゃいねーから」

「じゃあ代わりに何かさせて」

 

 どんだけ借り作りたくねーんだよ。武士か何かかお前は。

 面倒臭いし別に何かしてもらわなくても良いんだけど、こいつ何かしないと引きそうにないしな……。

 んー……じゃあ背負ってる時に気になった事聞いてみようかな。

 

「じゃあ、一個質問して良いか?」

「何?」

「バストいくつあんのお前」

「このクズッ」

 

 間髪入れずにジト目で睨みながら罵倒が突き刺さった。

 や、別に俺はお前にどう思われようと構わんし。背中に当たってた胸の感触がいくつくらいなのかの方が大事だ。

 まぁ、答えてもらえるなんて思ってないけどね。答えてもらいたいが、答えられなかったとしてもお礼をしたいなんて思わなくなるだろうと思ったから質問した。

 

「86よ」

「は、86⁉︎お、おっぱいお化け!……ていうか答えるんだ。ビッチなの?」

「あんたが聞いてきたんでしょ⁉︎」

 

 いや、にしても普通答えないでしょ。

 速水は少し恥ずかしかったのか、若干頬を赤らめながらも髪をかきあげて言った。

 

「何度も言うけど、あなたには借りを作りたくないのよ。それに、あなたにどう思われようと構わないしね」

「……そうですか」

「さ、帰りましょう」

 

 そう言って速水は俺の前を歩き始め、俺も後ろから、一緒に帰ってるのかそうじゃないのか分からないような微妙な距離感を保ったまま帰宅した。

 

 


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