ある日、カナの部屋に集まったメンバーは6人、その6人の間では、何とも物々しい雰囲気が流れていた。
全員が全員、言葉を発そうとしない。ただ、黙ってお互いを見据えるのみだ。その間では、ただ無言の駆け引きが行われているのみだ。視線と視線を交わし、相手の表情、顔色から考えている事を読み取らねばならない、或いはそこから自分の思考を読まれてはならない。
そんな緊張感が、場を支配していた。
「……さて、皆さん」
唯一、スマホを手に持つ、城ヶ崎美嘉さんが口を開いた。
「それでは、これより……」
どうやら、いよいよゲームの幕開けのようだ。
参加者全員、緊張気味に唾を飲まんだ。当然、俺もだ。ここから先、信じられるのは自分のみ。周りの人間を信用してはならない。
全員が神妙な面持ちで、互いを見回す中、城ヶ崎さんは話を進めた。
「これより、人狼ゲームを行います」
生き残りをかけた心理戦の火蓋が、切って落とされた。
「わあ、人狼ゲームって私、初めてだなあ」
ふわふわした雰囲気でそう言うのは、リアル霊媒師の白坂小梅ちゃんだ。
その隣で、ため息をつきながら憂鬱そうな声が聞こえた。
「はぁ……なんで、可愛い僕がこんな事しなきゃならないんですか……」
輿水幸子ちゃんが、小梅ちゃんを眺めながらそう呟いた。
「まぁまぁ、たまには良いやん? こういう、インドアな遊びも」
その幸子ちゃんを宥めるように口を挟んだのは、塩見周子さん。相変わらずつかみ所のない表情で、ノホホンと言いつつも、その視線は俺とカナに向けられている。
それを全く無視して、カナが城ヶ崎さんに言った。
「美嘉、ルールを」
「うん。えーっと……基本的には普通の人狼ゲームと変わりません。人数は6人しかいないから、人狼一人、騎士一人、占い師一人、市民が三人で、人狼を見つけるか市民の全滅で決着します」
司会者の立場を意識してか、低い声を作って敬語を使う城ヶ崎さん。でも、全然怖くない辺り、多分この子年下にも舐められてるな。
「で、特殊ルール……というか、小梅ちゃん限定のルールだけど、あの子の力は使わないように」
「え? あの子って?」
「だから、その……小梅ちゃんにだけ見える子」
「あの子の事?」
「待って、小梅。ここ私の部屋なんだけど。本当にいるの?」
「よし、じゃあ始めましょうか」
「ユイ、今夜は一緒に寝ない?」
「じゃ、最初の夜と職業だな」
「お願い、無視しないでって」
無視して、城ヶ崎さんからスマホを使い始めた。
「アタシ、こういうポーカーフェイスが重要なゲームは得意だからねー」
ツイツイっとスマホをいじる。あ、少し嬉しそうな顔した。ポーカーフェイスって言葉知ってる?
色々と眺めた後、次は俺の番になった。スマホを受け取り、職を決める。
……ふむ、市民か。まぁ良いやな。一戦目はこんなもんだろ。誰を人狼かと疑うか、だが……まぁ、カナで良いや。一戦目だし。
「はい、次」
「ねぇ、お願いよ。一緒に寝て」
「分かったから早くしろ」
「そこ、いちゃつかないで」
「「いちゃついてない」」
塩見さんの苦情を一蹴して、カナの番。あいつの職が何か知らんが、どうせとりあえず俺を狙うことだろうし、あいつの顔色は見る必要もないな。
「はい、周子」
「はいよー」
スマホを受け取った塩見さんもスマホをいじる。顔色を全く変えず、ニコニコしたままスマホをいじった。
「美嘉、アレがポーカーフェイスって言うのよ?」
「え、アタシ顔に出てた⁉︎」
「うん。美嘉さん、ニコニコしてた」
「何か役割があるってことですからね。人狼か占い師か騎士のどれかでしょう?」
「んにゃっ……! ち、違うよ?」
「はい、確定」
わっかりやすいなー、城ヶ崎さん。みんな勘付いちゃってるし。
しかし、やはり俺の予想通り、鬼門は塩見さんだな。あの人、こうしてる間も平気で会話に参加してる。勿論、表情も変えずに。こりゃ、一番の強敵かもしれない。
「ほい、小梅ちゃん」
「はーい」
小梅ちゃんも受け取り、スマホをいじった。小梅ちゃんも意外にも表情が読めない。ニコニコと笑顔を浮かべたままだ。や、多分、何も考えてないだけなんだろうけど。
続いて、幸子ちゃんの番。スマホを受け取ると、職を決めた。……あ、ニコニコしてる。あの子も顔に出るタイプか……。
「……よし、終わりました」
「はいはい。じゃあ、回収しまーす」
そう言って、城ヶ崎さんがスマホを回収した。スマホに表示されているであろう文を読み上げた。
「恐ろしい夜が明け、朝が来ました」
その台詞に、その場にいた全員の気が張る。第一夜、まぁ流石に犠牲者は出ないだろうが、万が一のことがある。
全員の視線が集まる中、城ヶ崎さんは静かに言った。
「昨晩の犠牲者は……アレ? あ、ごめん。第一夜は犠牲者出ない設定になってた」
その一言に、全員が全員、ジト目になった。それにヒヨった城ヶ崎さんが慌てて弁解する。
「ごめんって! ……あ、でも待って。怪しいと浮上した人物が出たよ。優衣と奏だって」
「「なんで⁉︎」」
今度は俺とカナが絶叫する番だった。ふざけんなよお前ら、俺が何をしたってんだよ。
「お前ら、なんで俺なんだよ⁉︎ こいつはともかく、俺がそんなことする奴に見えんのかよ⁉︎」
「それどういう意味よあんた⁉︎ 元ヤンに言われたかないわよバカ!」
「ああ⁉︎ 人の過去掘り返してんじゃねぇよ! マジブッ殺すぞゲームで!」
「やってみなさいよ! 私が先に殺してやるわ!」
「「みんな、こいつに清き一票を!」」
なんてお互いに指差した時だ。ジト目の城ヶ崎さん、塩見さん、幸子ちゃんと、ニコニコ笑顔の小梅ちゃんが順番に答えた。
「や、なんかイチャついてたし」
「みんなー、人狼ゲームは中断してカップル抹殺ゲームねー」
「そうですね。喧嘩しながら惚気るとか、大概にして欲しいものです」
「やっぱり2人とも、仲良しさんなんですね」
……なんだろう、この子達。どうしてこんなに結束が固いんだろう。
「待て、お前ら。冷静に考えろ。俺とカナが人狼である事は絶対に無い」
「そうよ。私とユイよ? 必ず同じ職をひくに決まってるじゃない。人狼は一人だし、私達が人狼になることはないのよ」
中々、説得力のある話のはずだ。全ては俺とカナだし、で話は済む。しかし、塩見さんは薄く微笑み、立ち上がりながら親指を下に向けた。
「分かってないね……人狼かどうかじゃない、バカップルは始末する、それだけの話だよ」
「「……そ、そんな、バカな……」」
「けど、二夜も使ってちゃ、人狼に逃げられちゃうからね。どちらか片方にしてあげるよ」
……ほう? なるほど? 俺とカナはお互いに顔を見合わせた。
で、体を半身にし、拳を引いた。
「「さいっ、しょはっ、グー! じゃんっ、けんっ!」」
俺が死んだ。
×××
続いて、第二夜。容疑者を処刑したにも関わらず、恐ろしい夜がやってきた。が、死んだ身の俺としては割とどうでも良い。なんか気が抜けてのんびり出来るわ。
この野郎ども、恐ろしい夜がやってきたにも関わらずのほほんとしてやがるな。冤罪で殺しておいてなんて酷い奴らなんだ。
城ヶ崎さんが終わらせた後、俺の元にスマホが回ってきた。せっかくだし、俺を嵌めたのが誰か見ておくか。
そう思って全員を見た。
城ヶ崎美嘉:騎士
速水奏:占い師
塩見周子:人狼
白坂小梅:市民
輿水幸子:市民
「……えっ」
思わず声が漏れた。なんていうか、人狼っぽい人が人狼だったな、みたいな。それと、俺とカナの職が違ったことが。
それ以上に驚いたのは、塩見さんの手際の良さだ。考えてみれば、あの人が俺とカナを処刑すると言い出し、あの流れになった。
しかも、その後に「どちらかで許してやる」みたいな事を言って疑われるのをさりげなく避けている。
「……」
チラッと塩見さんを見た。俺に向かってウィンクして、舌を出した。
そんな反応をしたら周りにバレる……と思ったが、死んだ俺の顔色なんかどうでも良いのか、周りのメンバーはスマホをいじってたりお喋りしてたりしている。
ヤベェ、生まれて初めて人が怖いと思ったかもしれない……。
「……カナ、次」
「ええ。……誰だったの? 人狼」
「言わねえよ。お前には絶対」
「……どう言う意味よ」
お前の所為で死んだんだからな、俺。……あれ、ちょっと待って? この流れ、マズくない?
カナの処刑を回避させた直後で、塩見さんがカナを殺せば、他の三人に疑いがかかるんじゃ……。
そんなことにも気付かず、カナはニコニコしながらスマホをいじる。占い師だからやることがあって嬉しいんだろうなぁ。その上、俺で気づかない事をカナが気付かないはずがない。恐らく、念のため塩見さんを占ってるはずだ。で、人狼を早くも割り出した。
でも君、多分死ぬよ。そのことが最早、面白くて、ふっと笑みをこぼすと、カナが俺を見た。
「……何よ」
「別に?」
「別にじゃないでしょ」
「おっぱい大きいなって」
「言っておくけど、寝る時に触ったら問答無用で蹴るからね」
「いいよ、効かないし」
「股間を」
それはクリティカルダメージだ。まぁ、別に触る気ないし良いけど。
続いて、塩見さんの番。相変わらずのポーカーフェイスで、スマホを手早くいじると、小梅ちゃんの番。
市民のため、さっさと終えて、次は幸子ちゃん。こちらも市民のため、手早く終わらせた。
城ヶ崎さんがスマホを持ち、声を低くして読み上げた。そのキャラまだやってたのか。
「はい。第二夜が明けました。今夜の犠牲者は、奏ちゃんです」
「えっ」
「プフッ」
思わず吹き出した。予想通りの結果過ぎるんだもん。まぁ、そんな反応をすればカナが突っかかってくるのは目に見えてたわけで。
「ちょっと、彼女が殺されたって言うのに何を笑ってるの?」
「や、別に……ふふっ」
「あんた、さては私が次に殺される事分かってたわね⁉︎」
「まぁ、うん。俺は霊になって全てが見通せたわけだし」
「教えなさいよ!」
「教えられるかよ!」
「はいそこ、イチャつかない。ゲーム再開ね。疑われてる人はいないから、会議の時間ね」
城ヶ崎さんに止められ、話し合いタイム。死んだ俺とカナを捨て置いて、話し合いが始まった。
まずは、塩見さんからフランクに声をかけた。
「しかし、結局は奏ちゃん死んじゃったね」
「そうですね……。まぁ、僕でも奏さんをやったと思いますが」
「うんうん。アタシもー」
と、まぁ本人を目の前にして散々な会話をしているが、俺をじゃんけんで殺した張本人だしフォローしねぇからなコノヤロー。
「で、みんなどう思う?」
塩見さんが改めて聞いた。まぁ、これから先、人狼として主導権を握るには、当然だろう。
「とりあえず、占い師は誰なん? なんか、こう……誰が無事とかそういうのはないん?」
死んだけどな。殺しておいてよく言うわ。
「そうですね……僕も知っておきたいです。もちろん、占い師は人狼にとって天敵でしょうし、下手に言う方はいないと思いますが」
「だねー。というか、死んだ二人が手がかりなしで死んだから全然、意味なかったんだよ」
「それ」
……お前ら本当によく言えるな……。しかし、この間、俺も奏も何か話すわけにはいかない。
すると、塩見さんが微笑みながら言った。
「ま、手がかりがないなら仕方ないね。とりあえず、テキトーにやっちゃおうか」
あーあ、上手くまとめようとしてんなぁ。こりゃ、確かに塩見さんの勝ちかも……そう思った時だ。小梅ちゃんが口を挟んだ。
「私は周子さんだと思う」
「えっ」
初めて、塩見さんの表情に変化があった気がした。もちろん、見ただけでは分からない。だから、何となく焦ったようにしか見えなかった。
「なんでなん?」
「んー……なんていうか、残り人数気がついたら4人しかいないし……それに、なんとなく周子さんのペースで話し合いが進んでるし……結論は出てないのに」
「……」
……鋭いな、小梅ちゃん。城ヶ崎さんも幸子ちゃんも「確かに……」みたいな表情になる。
唯一、ポーカーフェイスの塩見さんは、微笑みながら言った。
「待ってよー。別にそんなつもりないって。ただ、あの二人がイチャイチャしてたから、みんなで決めたことじゃん」
「……そうだけど」
俯きながら言う小梅ちゃん。そんな中、カナが俺の耳元で聞いてきた。
「……実際、どうなの?」
「……ビンゴ」
「……すごいわね」
や、ほんとにすごい。ビックリだわ。ポーカーフェイスを破る時が来たか。
いつのまにか、話のペースは小梅ちゃんのものとなっていた。
が、それも話し合い終了のベルで中断されてしまう。誰を処刑すべきかの投票の時間だ。
城ヶ崎さんの指示で、全員が投票を始めた。
×××
「くあ〜〜〜っ、まさか、負けるなんて……」
塩見さんが後ろにひっくり返った。何も考えてない城ヶ崎さんと幸子ちゃんは小梅ちゃんの理屈に納得し、塩見さんに入れたようだ。
「クッソ〜……やるねぇ、小梅ちゃん。あの頭の良い馬鹿2人を片付けたら絶対勝てると思ってたのに……」
「そんな事ないよ」
確かに、中々観察力があった。あの状況で塩見さんを観察出来たのがすごい。
……ただ、その……なんだろ。少し申し訳なさそうにしてるんだよな。もしかしたら、見えない「あの子」が小梅ちゃんを殺させない為にしつこくアシストしたのかもな……。
なんて思ってると、奏が俺に勝ち誇ったように言った。
「それはそうと、最終スコアは私の勝ちなわけだけど?」
「じゃんけんで勝っといてよく言うわ」
「運も実力のうちって言葉を知らないわけ?」
「運だけが実力の間違いだろ、お前の場合」
「……」
「……」
その日、夜まで人狼をやったが、俺とカナのトータルスコアはイーブンだった。