速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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答え合わせ中に反省はしても後悔はするな、無駄だから。

 六月の頭、中間試験のテスト返却の季節になった。多分、全教科80は超えてる。それくらい死に物狂いだった。だって負けたくねーもん。

 で、今は速水と二人でスタバに来ていた。点数の見せ合いのためだ。授業で返却された時はあえてお互いに確認せず、全部返されたら一気に見せ合うことになっている。

 飲み物を購入し、同じ席に座ってルールの確認をした。

 

「覚えてるわよね?ルール」

「ああ。負けた方が一日、何でも言うこと聞くんだろ?」

「そう。とりあえず次の休日一日だからね」

「上等だよ」

「じゃ、まずは現国から」

「「せーのっ!」」

 

 鞄の中から、とりあえず一教科ずつ解答用紙を召喚した。

 

 河村:98

 速水:98

 

 クッ……互角か……!

 速水も同じように小さく舌打ちをした。まぁ、最初はジャブだ。むしろ相手にとって不足なし、といった所だろう。

 

「次、古文ね」

「おお、かかって来やがれ」

「上等よ、かかって来なさい」

「「せーのっ!」」

 

 河村:86

 速水:89

 

「やった!これ私の勝ちよねどう見ても!」

「おまっ、マジかオイ」

「あらぁ?どしたのかしらぁ?かかって来て良いんでしょう?」

「う、うるせぇな!てか何、なんでそんな点取れんの?意味分からんのだけど」

「3点しか変わらないじゃない。別に特別な事はしてないわよ」

「どこ当たってたん?」

「ん、はい。あなたとは違って90点まであと1点の回答用紙よ」

「余計な情報はいらねぇから!……ていうか、お前ここ間違ってるし。俺ここあってるから」

「ああ、そこは凡ミスだったのよ。結構時間ギリギリで見直しそこまでいかなかったの」

「言い訳乙。……あー、ここ『ウ』だったのか」

「あら、何にしたの?」

「イ」

「あーそれは私も迷ったわ。ま、間違えなかったけど!」

「うるせぇな、次だ次!」

 

 続いて数学ⅱ。鞄の中のファイルの中を漁り、勢いよく繰り出した。

 

 河村:100

 速水:96

 

「ふぁっ⁉︎100⁉︎」

 

 メチャクチャ驚いたような声を上げる速水。いや、正直答案もらった時は俺もビビったわ。

 

「ハッハァ!やっぱあの時寝てたような奴は所詮その程度よ!」

「や、ヤケに授業中の答え合わせの時に先生の話聞かずに爆睡してると思ったら……!」

 

 グヌヌ、と悔しそうに唸る速水。いやー、満点なんて小学生ぶりですわ。やれば出来るもんだな人間!

 

「ち、ちょっと見せなさいよ!」

「どうぞ!貸してやるよ、模範解答を!」

「うぐっ……!さ、最終問題も解いてたなんて……!ここどうやって解いたのよ。先生の説明下手過ぎてイマイチ理解出来なかったのよね」

「あ?あーちょっと待って……はい」

 

 鞄の中から途中式の書いてある問題用紙を渡した。それを見て理解したのか、速水は小声で「あー、なるほど……」と呟いていた。

 

「これさえ合ってれば私も満点だったのに……」

「数学は配点デカイからな。ほら、次だ。数Bだ」

「数Bは間違いないから。私勝つからね」

「かかって来いよ、返り討ちにしてやらぁ!」

「「せーのっ!」」

 

 再び召喚し始めた。

 そんな感じで30分後くらい、答え合わせも含めてかなり時間が掛かったが、何とか結果を出すことができた、が、あまり良い結果ではない。

 二人揃って両手で顔を覆い、ボソリボソリと呟いた。

 

「……まさか、引き分けとは……」

「……本当よ。次の休日、何にこき使うか考えてたのに……」

 

 合計は925対925。まさかの引き分けだった。てかどんな確率だよ、合計で千点あるんだぞ。

 

「大体、お前アイドルで忙しいんじゃねーのかよ……。なんでそんな点数高ぇんだよ……」

「あんたこそ……転校して来たばかりで範囲とか違ってたりしなかったわけ……?」

 

 せっかくあんなに勉強したのによ……。というか、初めてあんなに勉強したまであるわ。

 

「……はぁ、まさか互角とはなぁ……」

「まったく……あれだけ頑張ってご褒美無しなんて……」

「そりゃこっちのセリフだっつーの……。もう期末は適当で良いや」

「……私もよ。しばらく勉強したくない……」

 

 もはや褒めてる愚痴を零しながら、二人してだるーんと座席にもたれかかった。あー、なんかやる気出ねーわ色々と……。

 

「……そういえば、お前コキ使うとか言ってたけど何するつもりだったん?」

「買い物に連れ回す予定だったのよ。荷物持ちで。私語厳禁で」

「お前……聞けば聞くほど最悪だな……」

「当たり前じゃない、デートって思われたくないし。それならマネージャーって思われた方がマシだわ」

 

 こいつ……よく本人を前に言えるなオイ。いや、俺も割とガンガン言うタイプだけど。

 

「ていうか、マネージャーとプライベートで買い物ってそれはそれで駄目だろ」

「平気でしょ別に。ちゃんと変装すれば案外バレないものよ」

「……速水も変装したりすんの?」

「当たり前じゃない」

「つけ髭とか?」

「お笑い芸人じゃないから。普通にサングラスとか帽子よ」

「ふーん……。速水がサングラスねぇ……」

「何?」

 

 ……雰囲気的にスパイ映画っぽくて只者じゃない感が出そうって思ったけど……でもなんか誉め言葉っぽくて言いたくねぇな。

 

「別に。なんかグラサン速水は怪しいって思っただけ」

 

 直後、速水の眉間にシワが寄り、額に青筋が立った。

 

「……あんたこそサングラスした方が良いんじゃない?その殺人鬼みたいな目付き、何とか隠した方が良いわよ」

 

 こいつ、人の容姿に関する事を……。キレたぞオイ。

 

「ああ?テメェこそ、その口閉じた方が良いんじゃねぇのか?人の容姿についてどうこう言うんじゃねぇよ」

「あんたに言われなくないわよ、人のことOLだなんだ言って来てる癖に」

「最近は言ってねえだろ。思ってるだけだっつの」

「その発言がダメなことに気付いてないのかしら?バカなのかしらあなた?」

「言わせてんのはテメェだろオイ。ホントムカつくなお前」

「ムカつくのはあんたよ」

「……」

「……」

 

 睨み合い。とりあえず、学生が集まるスタバで注目を浴びたくないので、コーヒーを一口飲んで落ち着くことにした。

 

「……ふぅ」

「……はぁ、もう帰りましょう。お互い、一緒にいてもイライラするだけだし」

「そうだな……。お前この後仕事あんの?」

「今日はオフよ」

「ふーん……」

「何、なんかあんの?」

「や、仕事あるなら煽ってやろうと思っただけ。勉強疲れでご褒美お預けの直後に仕事なら死ねるだろうなと」

「あんた本当に最低ね……。ていうか、別に仕事あったって疲れないわよ。学校と違って優しくて可愛い友達が事務所にはたくさんいるもの」

「あっそ」

 

 ホント、可愛くねぇ女だな。というか、事務所には友達いるのか。そいつらもみんなアイドルなんだろうな。

 

「その子達はお前と違って可愛いアイドルなんだろうな」

「何、ナンパする気?悪いけど、あんたとうちの事務所の誰かが付き合うくらいなら、あんたを殺してでも私は止めるわよ」

「やってみろよ。言っとくけどお前俺の拳は……」

 

 電柱を殴り折るぞ、と言いかけたところで口が止まった。危ない危ない、元ヤンをバラすとこだった。喧嘩自慢とか一番したくないし。

 

「拳が何よ」

「何でもない。それよりもう帰ろうぜ」

「そうね。そろそろ帰りましょう」

 

 飲み物を飲み干し、ゴミ箱に放ると店を出た。んーっと伸びをする速水を置いて歩き始めると、慌てて追いかけて来た。

 

「ちょっと置いて行かないでよ」

「何、一緒に帰んの?」

「後になって合流するよりマシでしょ」

「確かにな」

 

 二人で帰路を歩く。ポケットのスマホがヴヴッと震えた。Twitterだった。また変なのからフォローされたか……。「エロ垢」みたいな女は本当に何がしたいんだろうな。

 そいつのブロックのついでに溜まってるタイムラインの処理をしながら歩いてると、速水から声がかかった。

 

「ちょっと、誰かと一緒にいるのにスマホいじるのってどうなの?」

「2秒で終わるから待ってろよ」

「はい2秒」

「はい終わった」

「大体、ながらスマホはダメでしょ」

「お前その辺は真面目なんだな」

「私は基本的にいつでも真面目よ」

 

 ……どの辺がだ?人の悪口ボロカスに言う癖に。いや、確かに授業中は真面目か。ノートは必ず取ってるし、一度も寝てる所は見たことない。

 あれ、そう考えると図書館で寝てるこいつはかなりレアだったんじゃないか?別に嬉しくもねぇけど。

 

「河村だって真面目な方なんじゃないの?点取れてるし」

「そうでもねーよ。転校したてのテンションでここまで勉強してるけど、期末はやる気失せて点数落ちるだろうし」

 

 まぁ、少なくとも50点以上は取れるようにすると思うが。

 

「あら、じゃあ期末は問答無用で私の勝ちかしら?」

「言ったな?蹴散らしてやんよ!」

 

 再戦が決定した。

 そんな話をしてるうちに家の前に到着した。

 

「じゃあ、また明日ね」

「おー」

 

 それだけ言って速水は自分の家の中に入ろうとした。俺もさっさと家の敷地内に入ろうとしたが「あら?」という速水の声が聞こえて足を止めた。

 

「どうした?」

「鍵忘れちゃったみたい……」

「誰も中にいないのか?」

「ええ。多分」

「バーカ、ザマァ味噌汁」

「あんたほんと最低ね……。まぁ良いけど」

「じゃ、俺は家の中で優雅に冷たいサイダーでも……」

 

 と、言いかけた直後だ。うちの玄関が開いた。お袋が顔を出した。

 

「あら、ユウお帰り」

「おお。どっか行くの?」

「ええ、職場の人と飲みに」

「え、俺の晩飯は?」

「出前でも頼みなさい。絶対に料理はしないでね?引っ越したばかりの家燃やしたくないし」

「わーってるよ」

 

 そう言ってすれ違った直後、お袋が速水の方を見た。

 

「あら、奏ちゃん。どうしたの?玄関の前で」

 

 お袋が速水に声をかけた。

 直後、速水はムカつく程の邪悪な笑みを浮かべた。あ、なんか嫌な予感して来た。

 

「家の鍵を忘れてしまいまして……。そしたら、優衣くんなんて酷いんですよ。『バーカ、ザマァ味噌汁』なんて言って……」

 

 あのバカ、余計な事を……。

 

「あら、それはごめんなさいね。息子のお小遣い、来月は半分にしておくから許してくれる?」

「え、待って。半分って冗談だよね?」

「はい♪」

「てめっ、楽しそうな声出してんじゃねーよ」

 

 畜生……。この二人を会わせるのはまずかったな……。半分で来月どう生きていけば良いんだよ……。

 一人で額に手を当ててると、お袋は「あ、そうだ」と両手を合わせて嬉しそうな顔で言った。

 

「お詫びに奏ちゃん家のお母さんが帰ってくるまで、うちにいて良いわよ?」

「「えっ?」」

 

 俺と速水が揃って声を漏らした。待て、バカ親。なんでそうなるの?

 速水もマズイと感じたのか、防衛行動に移った。

 

「い、いえ。大丈夫ですよ。私は駅前で時間を潰してますから」

「ダメよ、東京の駅なんて治安悪いんだから。いつどこで誰が麻薬を売ってくるのか分からないのよ?」

 

 相変わらず、うちの母親の東京のイメージは面白いな。

 

「え、でも……」

「ほらほら、遠慮しないで」

 

 速水が戸惑ってる間に、お袋は速水の手を掴んでうちまで連れて来てしまった。

 

「ユウ、奏ちゃんに変な事しないようにね?セクハラするようなら息子でも警察に突き出すから」

「しねーよ」

「じゃ、仲良くね」

 

 お袋は元気に出掛けて行って、速水はうちの玄関の前で立ち尽くしていた。

 気まずい空気がその場を包む中、とりあえず速水に聞いた。

 

「……えっと、どうする?来ても良いけど……」

「……」

 

 しばらく考え込む速水だったが「ま、お母さんが帰ってくるまでなら良っか」と呟き、うちの中に入った。

 

 


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