速水さんとは気が合わない。   作:バナハロ

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成績が良くても悪くても幼ければ喧嘩しかしない。

 親、という生き物はどうにも世話を焼きたがるようで、自分の息子や娘だけでなく、ご近所の息子や娘、或いは息子や娘のクラスメートが困っていても平気で手を差し伸べてしまう。

 だが、息子の立場で言わせてもらうと少し待って欲しい。もう少し手を差し伸べるべき人間を選んで欲しいものだ。

 クラスメートにも色々な仲があって、親友や恋人、あとあんまないと思うけど恩人と言った友好的な関係もあるかもしれないが、それとは対照的に敵、険悪、犬猿の仲といった関係もあるのだ。

 それら全てを助けてあげた上に自分は無責任にもその場から離れるなんて事をすれば、気まずくなるのは目に見えているはずだ。

 つまり、何が言いたいかというと、うちのお袋お前ほんとふざけんな。

 

「……」

「……」

 

 なんで俺、速水とうちに二人でいんの?

 どうしよう、どうすりゃ良いんだろう。とりあえずもてなしておいた方が良いのか?

 

「えっと……速水、なんか飲む?」

「えっ?あ、ああ、うん。何があるの?」

「サイダーかお茶かコーヒー」

「えっと……じゃあサイダー」

「ほい」

 

 冷蔵庫に来て、コップに氷を入れてサイダーを注いだ。うちはまだクーラーの掃除とかしてないから飲み物で暑さを誤魔化すしかない。

 ……えっと、どうすりゃ良いんだろう。何かしたい事とかないのかな。

 さっきからあいつ驚くほど背筋をピンと伸ばしてサイダー飲んでるし。いや、男の家に来たわけだから緊張するのもわかるけどよ。

 ……俺、いない方が良いか。その方があいつも気が楽になるだろ。俺もその方が楽だし。

 

「速水」

「っ、な、何?」

「ソファーとかで寛いでても良いから。テレビとかも自由に見てて良いし」

「? どこか行くの?」

「や、着替えに行くだけ」

「あ、そ、そう。悪いわね」

「お礼はお袋に言え。お前にお礼言われると鳥肌立つ」

「……ほんとムカつくわねあんた」

 

 それだけ言って部屋に戻った。俺は……どうしてようかな。お腹空くまでは一人でゲームでもしてるか。

 友達が出来るならオタク層でも構わないと考えていた俺は、それなりにゲーム機を買ってプレイも上手くなった。……まぁ、友達作りには失敗したんですけどね。エッヘヘー☆

 まぁ、でもゲームってのもそれなりに面白いもんだ。一日何時間もプレイするわけではないけどね。

 部屋に入ってさっさと着替えると、机の上の3○Sを手にしてゲームを始めた。

 

「〜♪」

 

 しばらく、とりあえず噂のモンハンなるものを始めた。これクッソ面白ぇのな。割りかし難しいけど、こう……何?モンスターを討伐するのが中々……。

 よっしゃ、今日こそイャンクックを仕留めてやるぜ。クエストを受注してゲームを始めた。

 俺が使うのは双剣、本当は拳とかあれば良いんだけど無いんだよな。仕方ないので両手で殴れる武器にした。

 イャンクックを見つけて早速襲い掛かった。ズバズバッと斬ってる時だった。

 

「ちょっと、いつまで着替えてるのよ」

 

 部屋のドアが開いて速水が入って来た。ビックリした俺はイャンクックの目の前で間違えて砥石を使い、ブレスが直撃して力尽きた。

 

「あっ」

「あっ、じゃないわよ!あっ、じゃあ!人のことを放置してなんでゲームしてるわけ⁉︎」

「テメェ……俺の積年の恨みを……!」

「私とあんた出会ってまだ一ヶ月程度でしょうが!」

「テメェじゃねぇ!イャンクックだ!」

「何それ⁉︎てか、いいからこっちの話聞きなさいよ!」

 

 チッ、こいつめ……や、もう良いか別に。なんかやる気なくなっちまった。

 3○Sを机の上に置いて、改めて速水の方に向き直った。

 

「で、何?なんか用か?もしかして部屋の掃除手伝ってくれんの?ごめん俺お駄賃とかあげられないよ」

「ちッッッがうわよ!なんで私があんたの部屋の掃除手伝わなきゃいけないわけ⁉︎お小遣いあっても嫌よ!」

「あそう……。まぁなんでも良いけどよ。で、何?」

「あんた、人のこと放置して何してるのよ」

「あー……や、俺いない方が良いと思ったんだけど。いた方が良かった?」

「あのね、人の家のリビングを我が物顔で独占する度胸、私にはないの!誰かいてくれないとなんとなく不安かかるかわからない?」

 

 あー、なるほど。

 

「……わーったよ」

 

 仕方なくため息をついて一階のリビングに降りた。

 速水はソファーに座り、俺はなんか隣に座るの気まずかったので食卓の方の椅子に座った。

 テレビではバラエティ番組が放映されていて、速水はそれを見ていた。

 

「あれ、これ美波?」

「あ?」

 

 テレビを見てる速水が声を漏らして、思わず反応してしまった。

 

「どうしたの」

「ん、友達がこのバラエティ番組に出てるの」

「はぁ?」

 

 言われてテレビを見ると、綺麗な大学生くらいの子が変な形のフリークライミングに挑戦していた。

 

「何これ。何やってんの?」

「知らないの?vs○っていうジ○ニーズのチームとなんかよく分からない競技で競うの」

「へー。……うお、スゲェなその美波って人。スイスイ登るじゃん」

「まぁ、美波は割と運動出来そうだから。控えは……あっ」

「? 何、誰?」

「……誰よ、この番組に文香出すって言った人」

「その文香って人だと問題あんの?」

「ま、まぁ、色々ね……。運動音痴なのよ」

 

 そりゃ確かに人選ミスどころの騒ぎじゃないな。

 それより、そろそろ腹減って来たし飯にするか。スマホで出前のページを覗きながら速水に声をかけた。

 

「速水、親から連絡あったのか?」

「プフッ……!……えっ?あーちょっと待って」

 

 スマホのロックを解除したものの、視線はテレビを見ている。美波って人が文香って人と交代し、文香は登り始めてエレベーターにぶら下がったまま微動だにしなかった。何やってんだあの人。

 直後、速水は爆笑し始めた。おい、いいから親からの連絡をだな……。

 

「オイ、速水。連絡」

「ぷっふはははは!えっ?あ、あー……まだ来てない。ちょっとL○NEしてみるから待って」

「あいよ」

 

 仕方ないので俺も待機した。フリークライミングが終わり、ようやく速水は連絡し始めた。こいつ、家でもこんな感じなのかな。大人っぽい外見とは裏腹にガキなのかもしれない。

 

「あー、ママ少し遅くなるって」

「は?」

「ん?」

「ま、ママ?」

「はぁ?……あっ」

 

 ようやく理解したのか、若干頬が赤くなる速水。だが、すぐに真顔になって言い返して来た。

 

「何よ、別に良いでしょ。自分の母親をどう呼んだって」

「いや、開き直るのは良いけど、耳だけは真っ赤になってんのバレてるからな」

「ーっ!」

 

 慌てて耳を隠す速水だが、もう遅い。それどころか耳から再度顔にまで赤みが侵食した。

 まぁ、テレビに夢中になってやがったバチだな。これはもうからかうしかないよね。

 

「いや、まぁ良いんじゃないかな!普段はOLにしか見えない速水さんが年甲斐もなく母親をママと呼んでも全然変じゃないよ!」

「っ、う、うるさいわよ!詳細に説明しないで!」

「照れる事ないよ!例えゲームをピコピコ、電話をモシモシ、リモコンをピッピって呼んでも恥ずかしくないよ!」

「そ、そこまで幼稚な呼び方しないわよ!あんたこそ自分の母親を『お袋』なんて大人ぶった呼び方しちゃって!」

 

 ああ?こいつ今なんつった?

 

「大人ぶってねぇよ!それなりに歳相応だろ!」

「大人ぶってるわよ!そういうのは大学生からでしょ普通⁉︎」

「ママパパよりマシだバーカ!」

「大学生の美波だってお父さんのこと『パパ』って呼ぶんだから!」

「知らねーよ!アイドルにガキっぽい学生が多いだけだろ!」

「とにかく、私は変じゃないんだから!」

「いや、変だろ!百歩譲っても変だわ!他の学生ならそうでもなくてもお前の場合は変だわ!」

「何それ、あんた私が気に食わないだけじゃない!」

 

 なんて言い合いしながら、一旦黙って二人して肩で息をした。……なんで親の言い方ひとつでこんな言い争ってんだ俺らは。

 なんかバカらしくなったので、もうその辺でやめておくことにした。

 

「はぁ……ったく、呼び方一つで喧しい奴だ」

「あんたが始めた戦でしょうが!」

「んなことより、どうすんだよ飯。親が遅くなるなら出前でも取るか?」

「そういえば、なんであんたは料理しちゃダメなの?なんかお母さんにボロクソ言われてたけど」

「ん、小学生の頃だったかな。トリコ読んで『バッタの背中の醤油って美味いんだ!』って真に受けて餃子の上でバッタ潰して以来、禁止になった」

「アホの子だったのね……」

 

 正直そればっかりは否定出来ない

 

「それなら、私が何か作ろうか?」

「は?」

「私は料理できるもの。性別以外で初めてあなたと相違点が出来たわね」

「え、その『料理出来る』は一般的広義な意味で?」

「当たり前じゃない。家ではたまに私が作るもの」

「ジ○イアンシチュー的な意味じゃなく?」

「あんたほんと私をなんだと思ってるわけ⁉︎」

 

 ふむ、速水の手料理か……。確かに金かからないし良いかもしれないな。

 

「じゃあ頼むわ。あ、毒盛ったりするなよ」

「安心して、今の所殴りたいと思っても殺したいと思うほどじゃないから」

「安心出来ねえよそれは……」

 

 まぁ、それはお互い様だ。何度か殺すぞ、と思ってもお互いに手をあげたこともないしな。

 

「じゃ、冷蔵庫の中見るわよ」

「どうぞ」

 

 速水は台所に向かって冷蔵庫を開けた。

 ……なんか任せっきりなのも悪いので手伝った方が良いかな。

 

「手伝おうか?」

「バッタはジッとしてて」

「だぁぁぁれがバッタだよテメェ!仮面ライダーか俺は!」

「いやほんとに」

「真面目な顔して言うんじゃねぇ!」

 

 いや流石にもうバッタ入れたりはしねぇよ。あの頃の俺はクレイジーだったんだよ……。

 遠い目をしてる間に速水は手早く料理を進めた。制服が汚れるのを気にしてか、ちゃんとエプロンしていた。あいつエプロン似合うな。似合うのに人妻、というより料理教室に通うOLに見えるのはなんでだろうか。

 まぁ、そんなこと言ったらまた喧嘩になるから黙っておくけど。

 今度は俺がソファーに座ってテレビを見てると、ソファーの上のスマホに着信がきた。俺のではなく速水のものだ。

 

「おい、速水!ケータイ鳴ってんぞ」

「誰から?」

「あん?えーっと……シューコちゃんって出てる」

 

 なんだこいつ、なんで自分の名前に「ちゃん」って付けてんの?

 少し引いてると、台所から真剣な声が聞こえて来た。

 

「絶対に代わりに出るような事はしないで」

「あ?」

「絶対に、絶対にだから。今そっち行くから」

「分かったよ。だからそんな怖ぇ声出すな、アイドルの声してねえぞ」

「そう、ごめんなさ」

「もしもし?こちら速水奏の兄ですが」

「あんたほんとブッ殺、ああ!こ、焦げちゃう!火ぃ止めなきゃ……!」

 

 一人でワチャワチャしてる速水を無視して電話に出た。多分、アイドル関係の友達だろうな、全力でからかってやろう。

 

『もしもし?奏ちゃんのお兄さん?』

「はい。すみません、うちの速水は今、釘パンチの練習してて出れないんですよ電話」

「してないわよ!何よ、釘パンチって⁉︎」

『なんか声聞こえますけど……』

「違った、ネイルガンだった」

「あんたホントに……!」

 

 火を止めた速水は台所から消えてこっちに走って来て、俺からスマホを奪おうとした。

 

「あんたほんといい加減にしなさいよ!」

「うおっとぉ」

 

 慌ててスマホを上にあげて避けた。むーっと怒った速水はスマホを奪おうとピョンピョン跳ねるが、まぁ俺の方が背は高い。俺もタイミング合わせて跳べば届かないよね。

 

「あんた……!このっ……!いい加減に……!」

「オイオイ、86のバストがプルンプルンと揺れてるぜ?恥ずかしくないの?」

「こんのっ……!へ、変態!」

「フハハハハ!何とでも言えバーカ!」

「あっっったま来たわ!死ねッ‼︎」

「ほぐっ⁉︎」

 

 直後、脛に思いっきり蹴りが入り、俺はその場で蹲った。

 が、蹲ったのは俺だけではない。速水も靴下のみの脚で硬い脛を蹴ったわけで。指からゴキッと音がして足を抑えて蹲っていた。

 

「テメェ……脛はダメだろ脛は……!自爆してまで何してんだよ……!」

「あ、あんたの自業自得でしょうがセクハラ野郎……!」

 

 ふるふると肩を震わせてると、速水は俺の手からスマホを奪って耳に当てた。

 

「もしもし、周子?何よこんな時間に……え?そ、そうよ。今のは私の兄。じゃなきゃ私のバストサイズ知ってる男なんているわけないじゃない。……え?いや違うわよ。この前愚痴ったバカじゃないわ。ほ、ホントよ!信じてよ!信じなさいったら……!」

「ちなみに俺は兄じゃないぞ」

「あんた余計な事を……!って、し、周子?ほんとに違うの。お願い、別にバストサイズ教え合うような仲とかそんなんじゃなくてね?勘弁して本当に。……ふぁ⁉︎わ、分かった!正直に言うから加蓮とかいう歩くスピーカーに言うのは勘弁して!」

「昨晩は激しかったなぁ!奏ぇ!」

「あんた本当八つ裂きにするわよ⁉︎」

 

 そのまま俺との関係について話した後、仕事の話だったのか手帳を取り出して何か話し始めた。

 で、ようやくスマホを置くと、俺をジロリと睨みつけて胸倉を掴んで来た。

 

「あ、ん、た……‼︎本当に何のつもりよ……‼︎」

「ん、いや今の子アイドルの友達だろうなーって思ったから。100億%俺と関わることなんてないし、無害だと判断して悪ノリしてみました」

「みました、じゃないわよ‼︎明日、私仕事なんですけど⁉︎尋問されるじゃない!」

「良かったじゃん」

「何も良くないわよ!」

 

 なんて言い合いしてると、速水は俺の胸倉から手を離した。

 

「はぁ……ったく、あんたは……!」

「いやー、明日は大変ですねぇ」

「クッ……!」

 

 悔しそうに奥歯を噛み締めたものの、速水は何も言わずに台所に戻った。

 いやぁ、明日の思い出話が楽しみだ、なんて思って再び待機した。テレビはバラエティ番組が終わり、次はなんか過去の外国の時間をVTRで映像化した番組が始まった。

 別に俺はこんなの興味なかったので、テレビを回してプレ4の電源を入れた。ようつべを起動し、お笑い芸人のコントを見始めた。最近ハマってるのはバ○きんぐだ。

 

「何よあんた。テレビ見ないのにお笑いは好きなの?」

 

 台所から声が聞こえた。

 

「まぁな。最近、ようつべでお笑いの動画漁るの楽しいんだよ」

「ふーん……私はそう言うのイマイチ分からないわ」

「面白いのに。俺のオススメはこの二人だな」

「分かったわ。じゃあその二人は絶対見ない」

 

 ほんといい性格してんなこいつ……。

 しばらくコントを見まくってると、晩飯が完成したのか速水がカレーを運んで来た。

 

「お、カレーか?」

「材料があったからね」

「毒とか盛ってねぇだろうな。青酸カリはカリカリ梅を加工した調味料じゃねぇぞ」

「誰がそんな間違いするのよ……」

 

 言いながら、速水はカレーを運んだ後にサイダーをコップに注いだ。わざわざ飲み物まですまんね。

 さらに、自分の鞄を漁り始めた。何を探してるのかと思ったら、中からミルクプリンが二つ出て来た。

 

「何それ?」

「今日、あなたに勝った時のために一人で祝勝会するために買っておいたのよ」

「一人で祝勝会って……」

「うるさいわね。……ま、それよりこれ冷やしておくから、後で食べましょう?」

「え、俺も良いの?」

「当然じゃない。勝負はつかなかったけど、一応お互いに頑張ったんだし、打ち上げってことにしない?」

「……」

 

 え、は、速水……?もしかして、お前良い奴だったのか……?なんか、さっきあんなことしちまって少し申し訳ないな……。

 まさかの展開に少し涙ぐんでる間に速水はプリンを冷蔵庫にしまってから、食卓についた。

 俺もソファーから移動し、速水の前に座った。

 

「じゃ、食べましょうか」

「おお」

 

 いただきます、と手を合わせて二人でカレーを食べ始めた。一口食べた直後、タバスコの味が口の中で暴れ始めた。

 慌てて飲み込んでサイダーを飲んだが、辛いものを食べた時に炭酸は逆効果である。

 台所で水を飲んでから涙目で速水を睨んだ。

 

「速水、テメェ!」

「あらぁ?どうしたの?」

 

 あらぁ?じゃねぇわ!

 

「テメェ、本当に性悪だなオイ!人がせっかく感動してちょっと涙ぐんだって時にこういうことするか普通⁉︎」

「こういうこと?どういうこと?」

「分かりやすく惚けてんじゃねぇぞババァ!」

「ば、ババァ⁉︎今、ババァって言った⁉︎同い年のJKに向かって⁉︎」

「なんだ、悪口以外言われると思ったのかよバーカ!」

「も、元はと言えばあんたから始めた喧嘩でしょうが‼︎」

 

 と、口喧嘩は速水の母親が帰ってくるまで続いた。

 もうこいつの優しさは絶対に信用しない、そう心に誓った。

 

 


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