映画は良い、と心底思う。何故なら、一人で来ても浮かないからだ。
例えば、カラオケ。少し前は一人カラオケなるものがあるけど、最近はそれも廃れてきてるらしい。例えばボウリング。下手でボッチだととてもダサい。例えば公園。一人で公園は無理でしょマジで。
だが、映画ならどうだ?割と一人で来る人もいるし、そもそも上映中は私語厳禁なんだから複数人で来ても意味がない。強いて利点を挙げるなら片方がポップコーンを買えばシェアできるくらいだ。
よって、映画だけは一人でくるのが正解。そもそもお前ら何でもかんでも群れるんじゃねぇよ。ヤンキー時代もそうだったが、人数多い奴らほど喧嘩弱かったぞ。
今日見に来たのはホラー映画。俺はあまりホラー映画は好きではないが、それは見たことないからであって実際に嫌いかどうかはこれから見て決めようと思っている。
そんな事を考えながらとりあえず映画館に入った。ここの映画館はデパートと融合してるタイプの映画館のため、正確には劇場かな?
チケットを購入し、飲み物は自販機で済ませて自分の座席に向かった。
えっと、H-11、H-11……。
「あっ」
「? あっ」
……またいるよこいつ……。しかも隣の席かよ……。
まぁ、今更どうこう言わないさ。さっさと席に座ろう。
「よう」
「こんにちは」
特に皮肉を言うこともなく隣に座った。楽しみ過ぎてこいつに構ってる暇なんてないし。
「あんたも映画好きなのね」
「あ?あーまぁな。お前もやっぱ好きなんだな」
「ええ。それなら、流石に好きなもので喧嘩するのも良くないし、今日は穏やかに生きましょう」
「だな」
そう言って、腕掛けに肘を開こうとすると、同じく腕を置こうとした速水の腕と当たった。
直後、二人してジロリと睨み合った。
「これは私の腕置きよ?」
「や、俺のだろこれ」
「世の中には右利きの人が多いから、こういうのは右手を置ける人のものよ?」
「いやいや、そんなん映画館によるでしょ」
「もう、面倒臭いわね。腕置きくらい譲りなさいよ。あんた男でしょ?」
「てめー以外の女になら喜んで譲ってやるよ」
しばらく睨み合い。が、映画が暗くなって予告が始まったことによって俺も速水も黙る事にした。
面白そうな映画の予告を見ながら、とりあえず次に見にいく映画を脳内メモに記録しておいた。
そうこうしてるうちに、映画が始まった。
×××
終わった。コンセプトは簡単に言えば夜にホラー映画を見に来たら外は雨が降っていて、傘ないからしばらく映画館で雨宿りしてたら見ていたホラー映画と同じようになんかお化けとか出て来て襲われる、みたいな奴だった。
もはや一部ファンタジー……かと思っていたが、バカにできない。なんか序盤から怪しいおっさんに声かけられたり怪しい幼女とぶつかったりしてて、雰囲気とかマジで怖かった。
二人で劇場を出た。ふと速水の顔を見ると、少し顔が青くなっていた。
「な、なんだよ。ビビってんのか?」
聞くと、速水はビクッと一瞬だけ肩を震わせたが、すぐに真顔に戻った。
「は、はぁ?ビビるって?何?意味分かんない、ビビるって何?大木?」
「いやいや、声震えてんぞ。怖かったんだろお前」
「こ、怖くないわよ!あんたこそ、顔色悪いけど大丈夫?もしかしてお漏らししちゃった?」
「オイオイ、お前と一緒にすんなよ。ビビるって何?大木?」
「同じ事言ってるわよ。もしかして、煽って来た癖に怖がってるの?」
「いやいや、全然怖がってないし。てか今の映画怖がるようなシーンあった?ただのファンタジーだったろもはや」
「別に全然?ていうか、ホラー映画だったのあれ?てっきりデ○ズニーだと思ってたわ」
「あの……」
「「ッ⁉︎」」
後ろから声をかけられ、二人して身構えながら振り返った。が、後ろに立ってるのは普通の男だった。
「どちらか、お財布落としませんでした?席に置いてあったみたいですが……」
「あ、俺のだ。すみません……」
……お化けかと思った……。いや、全然ビビってないけど。拳で電柱壊せる男がお化け如き倒さないわけがないだろ。
財布を受け取り、二人してホッと胸を撫で下ろした直後、ハッと二人して我に帰った。
「お、お前今……もしかしてホッとしてた?」
「いや、ホッとしてたのあんたでしょ。私は全然だし」
「いやいや、鼓動が86のおっぱいに影響して超揺れてんぞ」
「え、嘘。そんな事あるの?」
「嘘に決まってんだろ」
こいつなんで信じてんの?
「こんなの信じるとか相当ビビってたんだなぁ、オイ」
「財布忘れるほど動揺してたあんたに言われたかないわよ!」
「ああ⁉︎」
「はぁ?」
メンチを切り合い始めた。この女、今日こそブッ飛ばしてやろうかと思ったが、まぁいつものように少しクールダウンすれば馬鹿らしく思えてくる。
「はぁ……ま、良いや。もう帰ろうぜ」
「そうね……。お化けが出る前に帰りましょう」
「何言ってんだお前。お化けなんて出ねーよ。出るとしたらゾンビだ」
「あんたも何言ってんの?」
そんな話をしながら劇場を離れて、デパート内を歩いて出口に向かった。気の所為か、俺も速水も早足だ。いや、別に全然映画の内容を真に受けたとかじゃないけど。
「お、おい。何早足になってんだ?もしかして雨が降る前に映画館から出ようとか思ってる?」
「は、はぁ?いきなり何?何の話?」
「いや別に?ただ映画の内容と被る前に帰ろうかなーとか思ってんのかと思って」
「は、はい?映画の序盤ってこんな内容だったっけ?全然記憶にないわね。おっさんが出て来ただけで幼女も出て来てないし」
「幼女なんて一言も言ってねーよ」
とりあえず、サクサク出口に向かった。が、二人して立ち尽くした。外はいつのまにか大雨だった。
「……」
「……」
……い、いやいやいや、偶然だから。全然違うから。天気予報では言ってなかった雨だけど全然違うから。
……特に深い意図は無いけど、確かこの後は後ろから怪しい幼女が「迷子になった」ってぶつかって来……。
後ろからドンっと脚に何か当たった。
「あっ、ごめんなさ」
「ファッツ、アーユー、ドゥーイングッ⁉︎」
何故か英文の悲鳴を口から漏らしながら慌てて後ろを振り返った。見ると、小さい女の子が尻餅をついていた。
「す、すみませ……」
「んだテメェはお化けですかこの野郎ォオオオオ⁉︎」
「ふえっ⁉︎」
「お、お化け⁉︎嘘でしょバカじゃないの⁉︎え、嘘でしょ?嘘よね?嘘だと言ってよお願い信じて!」
「やんのかこのクソボケがァアアアア‼︎人間なめてんじゃねぇぞォオオオオ‼︎」
「ひ、ひゃあああああ⁉︎」
応戦体制を取ってると、目の前のお化けから悲鳴が聞こえた。
な、なんだ?お化けにも感情があるのか?何なら勝ち目はある……!そう思って見ると、なんか片目隠れた金髪の女の子が変な人を見る目で俺を見ていた。
「っ、て、テメェが霊的な何かか……?」
「れ、霊……?」
「……あら、小梅じゃない」
「……奏さん?」
なんだ?速水の知り合いか?
「速水、知り合い?」
「え、ええ、そうよ」
「んだよ、ビビって損したわ。いや、ビビってないけど」
「よく言うわ。英文の悲鳴まで上げてた癖に!!
「お化けが出る前に帰りましょうとか言ってた奴に言われたくねーよ」
「ビビりながら中学生の女の子に喧嘩売ってたやつのセリフなわけ⁉︎」
「売ってないわ!買っただけだわ!お前こそオッパイの振動の話も信じていた癖になァッ‼︎」
「あんただって財布忘れてた癖に!」
「早歩きになってた癖に!」
「それはお互い様!」
なんて睨み合いしてると、小梅ちゃんとやらが微笑みながら言った。
「……二人とも、仲良しさんなんだね」
「小梅?冗談でもやめてくれる?」
「……お二人はお付き合いしてるの……?」
「小梅⁉︎お願いだからやめてくれない⁉︎」
ほんとにやめろ。鳥肌でスーパーサイヤ人になっちまう。
小梅ちゃんはキョトンとした顔で質問した。
「……じゃあ、その人は?」
「あ、えーっと……私のクラスメートの、バカ村」
「テメェどんだけテキトーな紹介してんだ殺すぞ」
「あら?違った?バカじゃないだって」
「そのバカと中間同じ点数だったのは誰だ」
「成績のことをバカと言ってるんじゃないのよ?ほらバカじゃない」
「人の名前も正確に覚えられないバカに言われたくねえんだよバカ」
「……やっぱり仲良しさんだねっ」
「「いや悪いっての」」
「ほら、ぴったりさん」
……この無邪気な笑顔の前では怒れない。純粋さは時に罪だよなぁ……。
とりあえず、このバカに紹介させておけば何を言われるか分からない。自分で言おう。
「えっと、河村優衣。ユイ、じゃなくてユウイな」
「……はい、ユイさん、だねっ」
「……なぁ、速水。この子さ」
「ええ、悪意はないわ」
……落ち着け、俺。俺は大人、俺は大人だ……。
続いて、小梅ちゃんの方が自己紹介した。
「……私は、白坂小梅……。よろしくお願いします、ユイさん」
「あ、うん。もうユイで良いや」
「で、小梅、なんであなたここにいるの?」
ようやく本題、というように速水が小梅ちゃんに聞いた。
「……実は私、映画見に来たんだ。そしたら、幸子ちゃんとはぐれちゃって……」
「映画って、あの映画館のホラー映画?」
「……はい。あ、もしかして奏さんも?」
「え、ええ、まぁ……」
「……あんまり怖くなかった、よね……」
「……え、ええ。まぁね」
「ビビりまくってたのはどこのどいつ……ブフォッ!」
小声で口ずさんだのにハッキリ聞こえていたようで、肘鉄が俺のボディを捉えた。
「……あの、だから……幸子ちゃんを探すの手伝って欲しいな、って……」
ふむ、まぁ迷子なら確かに手を貸したい……が、速水は少し困ったような顔を浮かべていた。
「なんだよ、速水。付き合ってやれよ」
「え、ええ……」
うわ、露骨に嫌そう。
「ケチくさいなお前」
「う、うるさいわね」
「いやお前が嫌だって言うなら俺が付き合うけど……なるべく知り合い同士のが良いだろ」
「そ、それはそうなんだけど……」
何を嫌がってんだ?まさか、この期に及んでお化けがいるかもとかそんなんじゃねぇだろうな。
「……あ、すみません。迷惑、だよね……。せっかく、デート中なのに……」
「全然迷惑じゃないわ、小梅。むしろ私もそうしようかと思って、何処にいるのか予想してるとこだったのよ。だから、デートとかじゃないことを理解してくれる?」
「! ありがとうございます……!」
恐怖より名誉を取ったか……。
「ね、小梅。協力する前に一つ良いかしら?」
「? なぁに?」
「その……デパートに何人くらい視える?」
は?何言ってんだこいつ。
すると、小梅ちゃんは辺りを見回しながら「そうですね……」と呟いてから答えた。
「ん〜……ザッと見て、大体4〜5人くらいかな……」
「……わ、分かったわ」
「ノリ良いな小梅ちゃん」
そう呟いた直後だ。後ろからガタンと音がした。ふと振り返ると、棚から商品が落ちたようだ。
「……わ、イタズラ好きな子もいるみたい」
「……へっ?」
……待って。え、待って?何、今の。嘘だよね、そんなわけないよね。21世紀だぞオイ。原子間力顕微鏡なら20nmの世界まで見える時代だぞ。
「ま、待って小梅ちゃん。何がいるの?」
「何って……あの子」
指差す先には何もいない。しかし、何故か再び商品が棚から落ちた。
……え、ちょっ、嘘でしょ?いやいやいや、ないないあり得ない。俺はそういうの信じてないから。俺が信じてるのは火の意志だけだから。
「……俺、今すぐに帰るわ。傘がないことくらいどうって事ないわ」
逃げようとした俺の肩を速水が掴んだ。振り払おうとしたが、グッと力が強くなり、肩からメシメシと軋む音が鳴り響く。
「逃がしゃしないわよ」
「……速水、分かった。今度昼飯奢るから……」
「嫌」
「……」
「良かったわね、小梅。ユイも手伝ってくれるって」
「……本当っ?ありがとうございます」
……この日、生まれて初めて俺は死を覚悟した。