というわけで、深く考えないで楽しんでください。
桜内梨子さん、お誕生日おめでとうございます。
東條希の乙女式れんあい塾・前編
『俺』は修也。
つい昨年まで、あの伝説的スクールアイドルグループ『μ's』のマネージャーだった男だ。下の名前の方が呼びやすいから、親しい人もそうでない人も、こちらで呼んでくることが多い。現在はもう音ノ木坂のテスト生を終えて、別の高校で3年生として将来の夢に向かって頑張っている。
(今日は休日。そして朝のコーヒーがうまい……)
一杯のコーヒーが、乾いた俺の心を満たす……なんてカッコイイ言い回しは、性格的にも年齢的にも柄じゃないが。それでも、学校がない日に朝から飲むコーヒーというのは、やっぱりいつもより美味しく感じる。
ましてや、それがμ'sの一人であり、大切な仲間である『東條希』の淹れてくれたものなのだから、美味しさは2倍にも3倍にもなるというものだ。例えインスタントであっても、喫茶店以上にすら感じるのは、錯覚じゃないだろう。
「~~~♪」
(鼻歌まで聞こえてくる。自分の『番』が休日と被ったのがうれしいんだろうな)
いつの間にかみんなに組まれていたローテーション通り、俺の日々は、みんなと1日1日を大切にしながら過ぎていく。ただそれでも10人で回しているのだから、どうしても各人の都合もあって、貴重な休日の『番』は決して多くはない。
俺にとっては、一人ずつであっても……全員や複数で出るとき以外、みんなにとっては俺は一人、10日に一度なのだから。
ところで、さっきコーヒーを淹れてもらったことで皆さんお気づきのように。今日はそのローテーションの中で『希の番』なのだが……
「ずるい、ずるい、ずるいことは~♪〛」
「希、なんだかご機嫌だな。今も洗い物しながら歌ってるし」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたんよ『旦那様』!実はウチ、最近女子高生たちの恋の相談に乗ってるんだけど、それが連戦連勝♡ 当たるって大評判で、こっちまで嬉しくなるんよ~♪」
「お、おう……でも俺たち、まだ結婚とかしてないから……」
……早速、彼女の勢いに流されそうになってしまった。気軽に話しかけると、一瞬で呑まれる。
一応、俺だって慣れがないわけじゃない。μ'sのみんなと、ツバサからの愛情には、だんだん上手く応えられるようになってきてはいる。だが、みんな一様に『激しい』中で、ちょっと異質なのが希だ。
彼女の『愛し方』は、大学生になった今も、μ'sの頃と変わっていない。あたかも俺と結ばれて、幸せな家庭を作り、老後に同じ墓に入るまでが、至極『当たり前』のことのように語る。それも、ちゃんと告白する前からこうだった……。俺の家の中でえんえんと確定した将来設計を大真面目に語られたときは、背筋が冷えたものだった。
……というわけで。ある意味においては、みんなの中で一番ぶっ飛んでると言えるのが希だ。元来の彼女の押しの強さもあって、俺はいつも彼女に流されてしまっているのが現状である。
だけど、惚れた弱みと言うやつか。最近は俺の方も「それはそれでいいか……」なんて考え始めてた。愛の形は人それぞれだろうし。俺が尻に咲かれてる分には、俺以外は困らないだろう。それで、みんながちょっとでも幸せなら安いものだ。
しかし、『占い』か。大学でもやっているんだろうけど、最近はあんまり、直接見る機会なかったな……まだ、タロットとかその辺なんだろうか?
「元々、占いは希の得意分野だったよな。今でもやってるんだ」
「うん。何度か占い屋さんのお手伝いでバイトしてたんやけど、それがスクールアイドル活動を通じて他校にも評判が広まっちゃって。そこから色んな娘達にアドバイスするようになってね?」
「まぁ、希の占いはよく当たるし、元々μ'sの名付け親で母親みたいなもんだし、色んな人に頼られるのも納得だな」
そうそう、俺が転勤族の親を持つ中で、ちょっとだけ希と小学生時代がかぶっていのは最近知ったことだ。向こうは覚えてたみたいで、μ'sの由来にまで———……
「あれ、旦那様の自覚が出てきたかな~? じゃあ次はお父さんの自覚を持って貰うために、早く修也くんに奥さんじゃなくて母親にしてもらえんかな~♪μ'sだけじゃなく、子供の名前も考えてもらって~♪」
「!? ゲホッ、ゲホ……さ、さりげなく既成事実化するなよ!? 俺にまだ9人も10人も、その子供全部まで養う甲斐性はない!」
くっ……また爆弾を突然投下してきやがって!思わずコーヒーをむせそうになった。幸せ家族計画に乗せられそうになってしまった。希相手には、迂闊な発言はどんな言質になってしまうかわからない。
いや、別に希と結婚したくないとか、子供ほしくないとかそういうわけじゃないんだけど……むしろっていうか、勿論みんな好きだし……だけどまだ、早すぎるというか……
……。
これ、女の子の方の恥ずかしがり方じゃないか……完全に俺の方が攻略対象でヒロイン化しちまってる……(前からだけど)。
「ふふふ、修也くんもすっかりウチらの旦那様として仕上がってきたみたいやね♪」
「今の返答でこの嬉しそうな様子……絶対心の中読まれてるし。まさかとは思うけど、俺と同じように好きな男に色々ヤバイことをするような占い、してるんじゃないだろうな」
「なら、せっかくだし、愛しの旦那様に、ウチがどんな占いをしてるか教えてあげようかな?言うなれば、『乙女式れんあい塾』!」サッ
「それじゃ曲名だろ。だいたい、どっから出したんだよその水晶……カードじゃないし……」
「ちょっと知り合いになった堕天使系スクールアイドルの娘の影響でね♪ さあ、見える、見えるんよ……! 助けを求める、恋する乙女たちの悩みとその解決方法が!」
俺に見える気がするのは、猛烈に嫌な予感のする未来なんだが……
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ウチの前に不安そうに現れた、一人の女の子。花陽ちゃんに負けず劣らず、ずいぶんきれいな声やね。プロフィールを簡単に聞くと、高校2年生とのこと。うーん、青春、恋愛。まさに乙女まっさかりな時期やね!
「実は……私、好きな人がいて……あの、この話って秘密にしてもらえます?」
それで、何を気にしてるのかと思ったら、プライバシーのことだったみたい。お互いの顔が見えないシステムになってる、この占い屋さんやけど……確かに、そもそも占い屋さん自体初めての娘は、こういうお店が秘密厳守って知らないかもしれんね。とりあえず、安心させてあげんとね!
「うんうん、大丈夫やで!恋の悩みは女子高生の特権だし、ここは秘密厳守でコンプライアンス絶対遵守。個人情報はしっかり守る安心優良スピリチュアルな占い屋さんだから、安心して相談してな♪」
「す、スピリチュアル……?あ、ありがとうございます。私、東京から静岡に転校してて、今は部活の行事で帰省してきてるんですけど……その転校先で、恋をしちゃったみたいなんです」
「ほほぉ~、青春やねっ!ウチも転校を重ねる中で今の愛する人と出会ったから、気持ちはよくわかるよ♪」
「そ、そうなんですか?」
懐かしいなあ、今でも鮮明に思い出せるわぁ~♪ そんなに長く一緒だったワケじゃなかったから、肝心の修也くんが覚えてないのは、残念やけどね。
それに、相変わらずあの『ツバサちゃん』だけがその幼馴染ポジションに収まっとるのも、気に入らんかったりするけど……
ウチの幸せ家族計画に、ウチ以外の幼馴染なんていらn……
……あ、いけないいけない。占い中やから、しっかりせんとね。顔が見えるシステムやったら、お客さんが怖がって逃げ出しちゃうような顔しちゃってたもん。
「それで……恋のなにに悩んでるん?彼との相性とか、将来つきあえるか……」とかが定番やけど。それとも、いつどこで告白するとかのラッキーデ―とか?」
「えっと、自分でもどう相談すべきかとか、何を占ってもらうかとか、実はまだよくわからなくて……とにかく、ライバルが多いんです。幼馴染だっていう娘が何人もいて、その人たちも彼の事好きで……しかも、私の友達なんです……」
「ふむふむ……友達が恋のライバルって言うのは、よくあることやけど難しいよね。また自分の話をしちゃって悪いけど、ウチのライバルも幼馴染を名乗っとったんよ~」
「? 幼馴染って名乗るものなんですか……? な、なんだか共通点が多いですね。私たち」
おっとっと。またイライラしちゃいそうになる気持ちを抑えて……そろそろこの娘の事は分かってきたかなあ。引っ込み思案で、今まであんまり恋をしたことがなくて。色々と、頭の中で考えてはいるんやろうけど……さすがにいきなり告白するのは難しそう。
それだと、お相手の方はどんな感じかな?
「あ、そうそう。男の子の方はどうなん? そんだけライバルがいっぱいおるのに、恋人がいないってことは……」
「はい。鈍感で、私以上に奥手で、そもそもあんまり恋愛にも興味なさそうで……私たちの誰の気持ちにも、まだ気づいてないみたいです」
「うーん……そうやと思った。そうじゃないと、色々大変なことになってるしね……」
彼女の話を聞きながら、出してみたカードは……『力(STRENGTH)』の逆位置。
意味は……告白ができない、不安定で自信のない、ライバルに負ける、萎縮、消極、決意の弱さ……だいたいそんな感じ。そのことを伝えると、「やっぱりそうですよね……」って俯いちゃってる。
ウチらがひと悶着あって、修也くん達と今の関係に落ち着くきっかけになった『あの時』でいえば、だいたいことりちゃんに近いタイプやね。そうと決まれば……
「大丈夫!大事なのは、占いの結果を受けて人がどう動くか、やで~♪そういう時は、相手の食事に一服盛ればええんよ!」
「い、一服……? 盛るって何の話ですか!?」
「食べ物や飲み物に、男の子が興奮するような薬を混ぜてドキドキさせてね、襲ってもらうんや!こっちから誘えればもう完璧!手を出したのは向こうからだから、ゼッタイ罪の意識で責任取ってもらえるで!おとなしいキミみたいな娘にもピッタリや♪」
「薬の上に誘い受け!?そ、そそそ、そんな恥ずかしいことできませんよ!?だいたい、そんな同人誌に出てくるようなアブナイ薬なんて持ってませんし!」
「結構詳しやん……まあそれはおいといて、薬ならウチの知り合いが男の子に使って奪いt……成功したときのがあるから、それを分けてあげられるで♪」
「でも、でもでもでもー!犯罪に片足突っ込んじゃってますよ!?いくらなんでもそんな……」
あれ、意外と不評?
……ああ、それはそうよね。まだ『理性』が邪魔しとるんや。恋は戦争で、一刻も早く相手の男の子を自分のモノにせんといけないのに……躊躇ってる場合じゃないってこと、教えてあげんと。
しょうがないなぁ……ちょっとハッパ、かけてあげよっか。
「なら……その男の子が、他の娘に盗られてもええん?」
「!!」
真剣に恋する乙女なら……これで十分。
自分に正直にさえなれば、あとは相手をがっちりと掴んで、逃がさないだけ……
それだけで勝ち。そして、勝った女の子だけが『シアワセ』になれるんやから♡
「辛いやろうけど、想像してみたことないん? 彼が愛を囁く相手が、その逞しい腕や胸板に抱かれる女の子が、帰りを待ってくれる奥さんが……自分以外だって。永遠に手に入らない、遠くへ行ってしまって、もう二度と触れることすr————……」
「私、やります!!その薬、分けていただけませんか!?NTRだなんて絶対嫌です!!!」
「うんうん♪乙女は素直が一番や♪ それで、この薬!具体的にバレんようにするにはピーーーー(自主規制)して、食事はピーーーー(自主規制)なものを選んで混ぜる!そして上半身裸になって壁ドンでもすれば、もう勝ちやで!!」
「壁に……♡ あ、ありがとうございます!分かりました、やってみます!!!」
その娘は、薬を手に取って占い料金と一緒にお金を払うと、一目散に駆け出して行った。
これでもう大丈夫。お相手の子も幸せになって、あの娘も恋がかなって、ウチもいい仕事ができた。誰も損なんてしてない。
うーん、ええことすると気持ちええなぁ~♪
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「…………」
「どう?ウチのれんあい塾は!昔のウチにこんな相談ができる相手がいてくれたら、もっと早く修也くんをオとせたのになぁ~って……どしたん?プルプルして」
「おい……!なんか今の恋愛相談、色々聞き捨てならないところがあったんだが……!!」
ど、どうもこうもねえ……希の心の底からいいことをした!みたいなドヤ顔が、ものすごく悲しい。乙女式れんあい塾とかけてもダメだよ、ずるい事しまくってるよ!!全然褒められねーよ!!その娘もそんな言葉に騙されるな!!男の方の身にもなれよ!?
「え~?確かに、本来は男の子の方から告白してくれるのが一番やけど」グサリ
「ぐっ!そ、そうじゃなくて!!その話に出てきたの絶対ツバサが俺に使ったやつだろ!?もしくはことりが使ってたの!全部捨てさせたと思ったのに……」
「ふふふ、乙女には秘密がつきものやで~?」
「秘密にできてないってーの!!」
笑ってる場合か?笑ってる場合なのか!?そんなわけねえ!
どこかのいたいけな女子高生が一人、μ'sのみんなと同じ魔道に堕ちてしまったのに……。愛の前には、法律もコンプライアンスもへったくれもねえ、ヤンデレの道に……!
あ、いや。スクールアイドルとしてトップ人気のμ'sに近づくのは、むしろ女子高生には光栄かもしれないが、世の男子にとってはかなりヤバい事態だ。その青年の無事を祈るしかねえ……せめて俺たちみたいに普通に愛しえる関係になれることを願うよ、名も知らぬ男の子よ……許せ……。
……俺たちみたいに?普通?
ああいや、俺の感覚がマヒしてるのはいいが、まさかとは思うけど……
「もしかして、他にもこんな占い結果とアドバイスを連発してるんじゃないだろうな。μ'sのみんなをモデルに変な作戦をいちいち考えて————」
「————ああ、そういえばこの日はあと2組、恋の相談に乗っとったね」ケロッ
「やっぱりまだ毒牙にかけた娘がいるのかよ!?洗いざらい俺に話せ!」
「女の子をいっぱい毒牙にかけてるのは修也くんのくせに……」ボソッ
「あー!!いーいーかーらー!!これ以上被害者を増やすわけにはいかないんだ!!とにかく言えー!!」
世の中に俺のような目に遭う男の子を、一人でも減らす!
そのために、とりあえず俺は希の話をもう少し聞くことにした……。
※短編「曜ちゃんの恋愛教室」とは何の関係もありません。念のため。
修也くんは翔に比べたらツッコミ役も板についてるし、言葉遣いが男の子らしいので、書きやすいです。まあ、半分くらい希視点のお話でしたけど。
あと、歌詞機能くんラブライブ書くのに、ほんと助かる。