青薔薇に憧れて   作:天澄

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#10.先へと進む

 今日も今日とて、ひたすらに練習。

 

 特別なことなど何もない。何事も練習の積み重ね先に、結果はあるのだ。や、まぁ昔はその積み重ねができるほどの熱意がなかったわけだが。

 しかし今はそれだけの熱意を持っている。だから毎週末、Roseliaの練習に混ぜてもらってこうして技術を磨いていた。

 

「……だいぶ、よくなってきたわね」

 

「お、やったぜ。これで更に高みを目指せるな」

 

 上手くなった、ということはすなわち更に上手くなれるということである。少なくとも才能の上限に達しない限りはどこまでも上手くなれるのだ。努力は報われるとは限らないが、少なくとも努力し続ければ何らかの成長はあるのだから。

 

「もー、悠一さんストイック過ぎ」

 

「まぁ師匠がストイックだから……」

 

「……?私は別に、当然のことをしているだけだけど」

 

 リサと顔を見合わせ、二人揃って呆れの溜息を吐く。どうにも自覚がない湊さんの姿には不安定さしか感じない。音楽に関してはストイックに努力し続けて当然、という思考は正直理解はし難い。自分だってストイックではあるが、それは自身の成長に楽しさを見出しているからだ。湊さんのように努力することが当たり前というわけではない。あるいは、湊さんも歌うこと自体に楽しさを見出しているが、それを自覚できていないだけ、という可能性もある。

 まぁそこらへんは少なくとも今の関係性で自分が首を突っ込むところではない。今は幼馴染であるリサにそういったものを任せ、恋人となった暁には自分が面倒を見ればいい。

 

「……それにしても。やっぱり二人は随分仲良くなったわね」

 

「そりゃなぁ……」

 

 なんてったって、リサに湊さんに見合う男か見極めてもらうことになってから二か月ほど。未だにリサからは協力を認めてもらえず、幾度となくデートを重ねてきたのだ。今では普通に下の名前で呼んだりもする。呼び方を変えた当時はRoseliaプラス翔馬にかなり詮索されたものだった。

 

「あ、そういえば悠一さん。この後だけど途中で買い出し寄っていい?材料足りないのがあって」

 

「あいよ。となると俺んちに一番近いスーパーか?」

 

「うん、多分あそこならあると思う」

 

「……リサ姉と悠一さんって付き合ってるの?」

 

「おん?」

 

「へっ?」

 

 唐突にそう切り出した宇田川さんに、思わず二人揃って間抜けな声を上げる。見れば白金さんも興味津々という感じであり、氷川さんでさえちょっと気になっているようであった。だが翔馬、貴様は事情を知っているだろうに何をこちらを期待する目で見ているのか。

 ファック、と内心翔馬に中指を突きたてながらリサとの最近の様子を振り返る。ちょくちょく二人で出かけ、こちらの家にリサが遊びに来たこともある。そして今もこの後こちらの家に行く準備の相談をする、……なるほど、確かに傍から見ると恋人にも見える。

 まぁ実際は違うのだから否定しようとし、ふと悪戯を思いつく。それに対する湊さんのリアクションも気になるところなので決行確定と判断し、未だ顔を赤くしてリアクションを見せないリサの肩を抱き寄せて、笑みと共に口を開く。

 

「バレてしまっては仕方ない。実は最近付き合うことになってな。リサと俺は恋人だったりするのだ」

 

「ちょ、ちょっと悠一さん!?」

 

 騒ぐリサに目線だけで合わせろ、と伝える。返ってくる視線は非難がましいものだが、まぁそれでも黙ってくれるのだから仲良くなったものだ、苦笑する。とはいえそれも一瞬でそのまま演技を継続していくことにする。

 

「いやー、いつかは言おうと思ってたけど流石に恥ずかしくてね?」

 

「ど、どうしようりんりん!?なんて言うのが正解なの!?」

 

「……えっと……おめでとう、ございます……?」

 

「そうですね、祝福するのが正しいかと」

 

「そう、おめでとう、リサ、悠一さん」

 

「どうしようリサ、思ってた以上に当然のように受け入れられてネタバレのタイミングを見失った」

 

「自業自得でしょ」

 

 あまりにも自然に受け入れたRoseliaメンバーには困惑するしかない。特に、嫉妬とかそういう様子も見せずに湊さんが当然のように受け入れているのがショックだった。まぁまだろくにアピールもできていないから当然ではあるのだが。ただそれはそれとして腹を抱えて笑っている翔馬はあとで殴ることにする。

 とりあえず全員にちょっとした悪戯であったと説明して、誤解を解く。割と真面目に皆が嘘だったのか、と驚いたので今後リサとの距離感は気を付けなければならない。流石に、リサと付き合っていると思われたらそれ以降湊さんがこちらを男として見ることはなくなるとしか思えない。

 

「じゃあ悠一さんは今付き合ってる人はいないってことですか?」

 

「まぁそういうことになる。今年の三月ぐらいまではいたんだけど」

 

 普段は格好いいもの好きの、厨二病が入っている宇田川さんも流石に年頃の女の子。恋愛関係には興味津々らしい。そのままそこにリサや白金さんも加わって自分の過去の恋愛周りを根掘り葉掘り聞いてくる。タイミングの悪いことに湊さんからこちらに評価が下された段階で練習は一度休憩だ。湊さんや氷川さんが止めることもない。というかむしろ氷川さんは若干興味を示していた。

 やっぱり年頃の女の子だよなぁ、と思いつつ、個人的には楽しい話でもないので多少の脚色を加えつつ適度に期待に応えていくことにする。

 そのまま、話が進んでしばらく。少しずつ話が逸れてきてその内容が友人関係となった時。湊さんがふと思い出したように話を切り出す。

 

「そういえばあなたたちバンド仲間は見つかったの?友人から探す、と以前言っていたけれど」

 

 その言葉に自分と翔馬は微妙な反応しか返せない。一応、翔馬と方向性を定めてから探してはいたのだ。そうしてもちろん、見つけてはいる。いるのだが。

 

「ベースとドラムだけなんだよなぁ……」

 

「キーボードがいない……マジでいない……」

 

 二人でそれなりの数の友人にあたったし、その友人たちの伝手も使った。しかしどうにもやる気があってかつこちらの音楽の方向性に合うキーボード、となると全く見つけることができなかった。

 

「あなたたち、キーボードが必要な曲をやるの?」

 

「まぁ折角だから師匠をリスペクトしてってことでな、構成は合わせたい」

 

 こちらの言葉に、強弱の差はあれどRoselia全員が照れたような顔をする。可愛いところもあるよなぁ、とほっこりしつつ実際のところ打つ手なしという事実に困っていた。

 

「……アタシ、知り合いに聞いてみようか?」

 

「正直ありがたい。……けどメンバーは自分たちで見つけたいところはある。本格的に追い込まれたら頼むわ」

 

「キーボードなしは無理だしな。なんてったって悠一既に作曲始めちゃったから……」

 

「おまっ、それは言うなと!」

 

「あっ」

 

 翔馬に対しツッコミを入れるが時すでに遅し。キラン、という効果音が聞こえそうなほどに目を光らせた湊さんがこちらを見てくる。まぁ、そうなるよなぁと己の師匠の性質を把握してきているのでこのオチが見えていて、だからこの場で言いたくなかったのだ。

 

「見せなさい」

 

「いや、勘弁して……。恥ずかしいから……」

 

「作詞作曲経験のある私が面倒を見た方がいいと思うけれど」

 

「……最初は、自分たちで完成させたいんだ」

 

 もっともらしい理由を言えば、なんとか湊さんを諦めさせることに成功する。どうにも、師弟関係がはっきりしてきてから湊さんは自分を高めるの同様こちらを高めるのにも全力なようで時々困るレベルの時があった。

 

「それに何はともあれキーボードを見つけないと……」

 

「……本当に……もう当てはないんですか……?」

 

「あー……ない、とも言い切れないこともない、が……」

 

「随分と歯切れが悪いですが、どうかしましたか?」

 

 一つ、一つだけ翔馬にも言っていない伝手がある。相手側も、知っている人は少ない、と言っていたから翔馬は恐らくその人物がキーボードを弾けることを知らない。

 本来ならできるだけ使いたくない伝手なのだが、背に腹は代えられない。今回ばっかりは……いや本当に気まずくて本当に嫌なのだが。

 

「……悠一さん?」

 

「悠一さーん?」

 

 一人悩みこんでいると湊さんとリサに呼びかけられてしまう。流石に黙りこくってしまった時間が長かったか、と顔を上げ、全員を見回す。

 

「おう、どうしたよそんな困った顔して。そんなに厄介な伝手なのか?」

 

「……まぁ、うん、クッソ厄介というか、勝手に厄介と思ってるというか」

 

「はっきりしませんね。その人物とはどんな関係なのですか?」

 

「……元カノ」

 

「え?」

 

「……ちょうど今年の三月に別れたって話の、元カノ」

 

 

 

 

「あっはっはっは!いやー、しかし丁度元カノがバンドに必要な最後の一人になるとはね!」

 

「笑い事じゃないんだぞ、こっちは気まずさで胃がキリキリしてんだよ……」

 

 結局、そのことをRoseliaメンバーと翔馬に伝えた結果、元カノをバンドメンバーにスカウトすることになった。ただキーボードが弾けるだけ、というならこんな結論にはならなかったのだが、正直に全てゲロッた結果、何度か聞いた彼女の演奏がこちらの音楽の方向性にぴったりだったということまで全員に伝わってしまったため、湊さんにはっきりとスカウトしろと言われてしまった。師匠にして惚れた相手にそう言われてしまえばもはやノーとは言えない。かくして自分はかつてフッた相手をスカウトしなければならなくなっていた。

 未だに避けられてるんだけどなぁ……と、リサと二人練習終わり、こちらの家へと向かいつつ困っていると、リサが首を傾げながら口を開く。

 

「何がそんなに気まずいの?悠一さんの方から別れを切り出したとか?」

 

「あー……」

 

 どこまで説明したものか、と悩む。だいぶ情けない話になるし、そんな話をすれば湊さんに見合わない男と判断される可能性だってある。だから誤魔化すのがきっと正しい。……しかしそんな対応をしたくない、と思ってしまう程度にはリサとは既に仲良くなり過ぎていた。友だち相手にあまり、必要のないところで隠し事はしたくない。メリット云々の理屈で言えば誤魔化すのが正解なのだがそれでは納得いかないのが自分という人間だった。

 

「……今日の練習、俺のことストイックだって言っただろ」

 

「あー、言ったね、そんなことも」

 

「でも俺、音楽始めるまではそんなことなかったんだぜ」

 

「え、うそ」

 

 驚くリサにほんとほんと、と軽く返す。これから話すのは情けない話であり、かつ自分勝手なものだ。だからと言って暗く話す意味があるわけではない。少なくとも自分にとっては過去の既に済んだ話なのだ。だったら適度にネタにして話した方がいい。

 だからノリを変えることもなく、かつて自分が全てのことにやる気を見出せなかったことやかつて翔馬にも話した元カノと別れた時の話までしていく。

 

「えー……練習の姿見てるとあんまし信じられない」

 

「まぁ音楽、というかRoseliaに出会ってからは自分で驚くぐらい変わったからなぁ……」

 

 軽めに話したおかげか、リサから返ってきたリアクションはそれほど重いものではない。やはりこのくらいの方が当事者としては気楽でいい、と一人溜息を吐く。

 そんなこちらを気にすることもなく、リサは顔を赤くして、照れたように頭をかく。

 

「……でもRoseliaがそんな大きな影響を与えた、って聞くとやっぱ照れるなぁ」

 

「……ありがとう」

 

 そういえば目の前の少女はこちらに影響を与えたバンドの一人なのだ、と彼女の言葉で思い出したら自然とそんな言葉が口から零れていた。そういえば他のRoseliaメンバーにも礼を言っていない。どのタイミングで言おうかなぁ、なんて悩んでいると先ほどよりも顔を赤くしたリサが慌てているのが視界に入る。

 

「そ、そういういきなりなのは卑怯だって!」

 

「何がだよ」

 

「いきなりそんな落ち着いた顔でお礼を言うこと!」

 

 訝し気な視線を向けるこちらを気にすることもなく捲し立てるリサの言葉に、自分で自分の顔を揉んでそんな笑顔をしていたのかと確認する。もちろん、揉んだ程度でわかるわけもないのだが。完全に無意識に漏れた言葉であったため、自身の表情など全く自覚していなかった。

 

「まったく、いきなり年上らしさを見せてくるんだから……」

 

「失敬な、俺は普段から大人っぽいだろ」

 

「いやー、練習以外の時は……」

 

 そんな馬鹿な、と練習以外の時を振り返ってみる。……なるほど、確かにリサに友人判定が出てからはだいぶはっちゃけていて今日だって悪戯に巻き込んでいた。年上らしいところなど、ほとんどない。これは言われても仕方なかった。

 

「……ま、でもそういうことなら納得かな」

 

「なにがだ?」

 

「友希那に惚れたって話」

 

 質問に対する答えをもらっても話の流れが掴めず首を傾げる。いったいどこでそれに納得したのか、そしてそれが何の話に繋がるのかがわからない。少なくともリサは真面目な表情であるため、真面目な話になるのではあろうが。

 

「……よし、決めた」

 

 数歩テンポアップして少しだけ先に行ったリサが振り返ってこちらを指さして言う。

 

「友希那を振り向かせるの、アタシも協力する」

 

「え、いいのか?」

 

 唐突の展開に頭が付いていかず、口から思考がそのまま流れ出る。それにリサは笑って肯定の返事を返してきた。

 

「それはありがたいけど、急に何で」

 

「んー、まぁこれまでの付き合いで悠一さんの人となりはよくわかったし」

 

 そこで言葉を切ったリサは一歩こちらに距離を詰めてから悪戯っ子っぽい笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「単純な一目惚れじゃないって分かったからねー。アタシ的には納得できたから」

 

「……理由がよくわからん」

 

「アタシが納得したからいいの!」

 

 納得する切っ掛けの要素は分かったが、結局何故それが切っ掛けになったのかはわからない。わからないが、本人が納得したのであればそれでいいのだろう。自分も勝手に納得して勝手に進めることがあるためにそこにはあまり文句を言えない。

 とにかく、何はともあれ折角彼女が協力してくれることになったのだ、ならば改めて、と手をリサへと差し出す。

 

「そういうことなら、今後もよろしく、リサ。頼りにしてるぜ」

 

「存分に頼りにしてよねー。それじゃあよろしくねっ」

 

 二人、固く握手を交わす。かくして、リサとの協力関係は結ばれた。これからは本格的に湊さんにアピールしていくことになる。当然ながら好きな子へアピールしなければならない緊張はあったが、頼もしい協力者のおかげで不思議と失敗する気はしなかった。




ちなみに現状別にリサ姉は主人公に惚れてないよ!ほら、皆イケメンとか美女がいい笑顔とかしてたら見とれるだろ?そんな感じ。

あとこの段階でリサ姉が危惧してたのは友希那に一目惚れしたと聞いたから。一目惚れって見た目に惚れた、ともとれるからなぁ……。そら心配にもなりますわ。ただ数ヶ月といえどそれなりの密度を過ごしてれば情も湧くし、単純な一目惚れでもないってわかれば協力もするってことで。基本的に主人公視点だからリサ姉の心情の補足なー。
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