青薔薇に憧れて   作:天澄

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#13.彼女との、デート

「うぇぇぇ……緊張で吐きそう……」

 

 先日リサと待ち合わせたのと同じ場所。それが湊さんとのデートの待ち合わせ場所であった。

 好きな人との待ち合わせがここまで緊張するものだとは思わなかった。なんてったって二人きり、デートなのだ。いや、説得の都合上湊さんにはただ二人で出かけようとしか言っていないのだが。それでも、シチュエーション的にはデートなのだ。緊張しないわけがない。

 リサとの予行演習からは一週間以上経っているが、その間に大学では元カノの説得もあったし、今日の緊張も加えれば既にだいぶ胃がヤバい。このデートが終わったらゆっくり胃を休ませてやるんだ……なんて、ちょっと死亡フラグっぽいことを考えながら湊さんを待つ。

 今日に関して言えばいつも以上に早く集合場所に来ている。格好つけとかではなく、単純に家でじっとしていられなかっただけなのだが。ただまぁそんな理由もあって時間だけは無駄にある。湊さんが落ち着くまでの時間はあるだろう……そう思いながら時計を確認すれば存外既に時間はない。待ち合わせまで五分程度、というところだろうか。マズい、落ち着く前にだいぶ時間が経過している。時間が欲しい時に限って人間は時間の経過を早く感じるよなぁ、なんて困っていると視界にふと銀色が映る。それを認識した段階で意識を切り替え、緊張を表に出さないようにする。やっぱり、好きな女の子の前では格好つけたいよな、というお話だ。

 

「こんちわ、湊さん」

 

「こんにちは。……あなたは、何時も早いわね」

 

「他人を待たせるの嫌いだからなぁ……」

 

 できるだけ普段通りを装って湊さんと会話する。バレてないよな、とちらりと湊さんの様子を伺えばチラチラとどこかに何度も視線を向けているのが分かる。湊さんに気付かれないようにその視線を辿れば、それが向けられていた先はこちらの腹部。はて、変なところでもあったか、と思い改めて自身の着ているパーカーを確認すれば……なるほど。

 今自分が着ているパーカーはかつてリサと出かけた際に買ったうちの一着であり、薄いピンクの半袖パーカー。そして腹部には謎のキャラがプリントされている。その謎のキャラ、実はちょっと猫耳らしきものがあったりとどこか猫モチーフっぽいところがある。それが湊さんが視線を何度か向けている理由だろう。

 猫自体ではなく、この微妙に猫っぽいキャラでもいいのか、と思えば湊さんの視線はどちらかと言えば困惑……そう、猫判定を出すか否かで悩んでいるような風に思える。まぁ確かにこのキャラクターは猫がどうか凄い微妙なラインだよなぁと納得する。

 

「……それじゃあ、行こうか」

 

「……っ、ええ、そうね」

 

 リサから湊さんは猫好きをおおっぴらに認めてはいない、と聞いている。だから今回の視線には触れずにおいてとりあえず移動を開始することにする。

 今日はこないだリサとデートした時ほど空が曇り気味なのもあって暑くはない。そのため、ゆったりと二人並んで歩くことができる。

 

「今日はどういう予定なのかしら?」

 

「ん……とりあえずは前に言ったように湊さんへのお礼を買うのが目的。あとは買いたいものとかがあるからいくつか店に寄って、道中気になる店があればそこによる、って感じで」

 

 今回の予定は結局、リサからの修正はなかったために全く変わってはいない。あとはアドリブで多少の変更があるかどうかだろう。問題があるとすれば湊さんがどれくらいペットショップで時間を食うかだろうか。リサ曰く呼びかけないとずっと見ている勢いらしいので気を付けなければならない。

 

「そう……。どうしても、というから付き合うことにしたけれどできれば手早く済ませてちょうだい」

 

「了解、ストイック師匠」

 

「待ちなさい、何なのそのあだ名は」

 

 しつこく食い下がってくる湊さんを軽くあしらいながらショッピングモールへと向かう。流石の湊さんでもストイック師匠は不満だったらしいが、まぁこちらとしてはあまりにもしっくりきてしまったのでこのまま使い続けようと思う。今度Roseliaとの練習でも使ってみようと思う。少なくともセンスが近いリサや翔馬にはウケがいいだろう。

 文句を言う湊さんに時々煽りも交えつつ対応していればすぐにショッピングモールまで辿り着いたため、とりあえずそこで話を無理矢理に打ち切り、不満げな目で見てくる湊さんを軽くスルーしつつ最初の目的地であるショッピングモール内の楽器店へと入る。湊さんの方はこちらが最初に楽器店に行くとは思っていなかったのか不満げだった視線を疑問を込めたものに変えて見てくる。確かに、自分が誘った時はまるで今回は音楽を切り離したような内容かのような口ぶりだったから意外ではあろうな、と思いつつ軽くこちらの意図について解説することにする。

 

「ほら、前にいい加減自分の機材欲しいって話をしただろ?いい機会だから湊さんが一緒の今日選ぶの手伝ってもらおうと思って」

 

「そういうこと。けれどそれなら江戸川楽器店の方が良かったんじゃない?」

 

 リサにも言われたなぁ、と思い出しつつ流石にデート中に他の女性の話を出すのは無粋だなと考えて苦笑するのに留める。まぁリサなんかは湊さんにとっては幼馴染なので話題として出してもいいとも思うのだが。多分Roseliaメンバーなんかもセーフ。とはいえそこらへんはこちらの勝手な意識として話題には出さない方向でいく。いやだって自分は湊さんから他の男の話出されたら嫌だし。つまりはそういうことである。

 

「いやなんかな?こっちの方が立地上初心者向けが多いみたいでな」

 

「なるほど、私は機材にもこだわってるから初心者向けとかには興味がなかったし、知らなかったのも当然ね」

 

 ま、受け売りなんですけど、と内心で呟く。流石に湊さんも受け売りなのは察しているかもしれないが、言わないでくれるならありがたくそれに乗らせてもらう。……いや、湊さんの場合割と遠慮なく突っ込んでくる気がするので本当に気づいていないのかもしれない。そう考えるとなんだか騙しているような気がしてきて申し訳なくなってくる。それでもわざわざ言う気はしないのだが。

 

「それで、今日は買うの?」

 

「うーん、流石に高くてパッとは買うのがきついから……とりあえず見繕ってもらうだけにしようと思ってる」

 

「それじゃ近いから最初はエフェクターから見ましょうか」

 

 入店してから偶然いた位置に近かったエフェクターのコーナーから見ていくことにする。流石に、音楽周りのこととなると湊さんも自分もスイッチが入ってしばらくただただ真面目に選ぶ時間になってくる。

 そのまま議論し続けて数十分、何とか話がまとまり自分が買うものがリストアップされる。そのどれもが値段の割に質のいいコスパがいいものになっている。本当に湊さんに手伝ってもらって大正解だなぁ、としみじみ思いながら一先ず楽器店を後にする。

 

「……しかしあれだけ議論しときながら何も買わずに出るって度胸がいるな」

 

「店員さんも話に参加できなくて困っていたようだし……申し訳ないことをしたかしら」

 

 議論中、何度か店員さんが選ぶのを手伝ってくれようとしたのだが、知識量は当然ながら足りていても残念ながら熱意が足りなかった。勢いよく語るこちらに完全についてこれていなかった。その上で何も買わなかったのだから質が悪い。流石に次来た時に買う、とはっきり言ったから次回の来店で嫌な顔をされるということはないだろうが……多少なりも気まずく感じるだろうな、と溜息を吐く。

 

「まぁちゃんと最終的には買うからそれで納得してもらうってことで」

 

「そうね、いいんじゃないかしら。……それで次はどこに行くの?」

 

「完全に俺の都合だけど本屋。道中気になるものあったら言ってな」

 

 それを言えばそもそもこのデート自体がもうこちらの都合であるわけだが、それを言ったらお終いなので考えないようにする。まぁそもそも恋愛なんて感情の押し付け合いな側面もあるのだ。どちらかの都合、なんて考えていたらアピールすらできはしないので気にしはしない。

 湊さんと二人で本屋に向かって歩く。もう正直こうやって二人並んで歩けているだけで割りと浮かれそうなのだが、最終的にはこれを当然のようにできる関係になることだ。ここで納得するわけにはいかない。

 

「そういや湊さんはさ、本読むの?」

 

「それなりに読んだりするわ。目的が作詞の参考にするためだから作者にこだわってとかではないのだけれど」

 

「お、存外読み方似てるかも。俺も作者とか気にせず読むから」

 

 湊さんと最近読んだ本について話す。湊さんは作詞が目的だけあって全体的に作風がRoseliaに合う作品を多く読んでいるようで、中には自分が知らないような作品もある。今度それを読んでみるか、と思いつつ逆にこちらから本も幾つかおすすめしておく。作風自体はRoselia向けではなくても言い回しなどが特徴的で作詞の参考にできそうなものだったり、単純に面白かったものだとか理由は様々ではあるが、どれも結局根底にあるのは共通の話題が欲しいという我欲なのだが。

 

「恋愛ものなんかは?」

 

「あまり読まないわね。Roseliaに向いていないから」

 

「まー、恋愛なんかより音楽、って感じだからなぁ……」

 

 まぁだからこそ困っているわけだが。いや本当に湊さん恋愛に興味なさそうで困る。本当にこれ、恋人になれるのかと多々不安になる。それなりに上手くいっている方ではあるとは思うのだが、どうにも終着点が見えないのだ。

 

「……お、あったあった」

 

 湊さんと会話しつつ、頭の片隅でそんなことを考えていると無事書店へと着き、目的の新刊を見つける。それを手に取り、一先ず湊さんには待ってもらってレジへと並ぶ。時間帯が悪かったのか少しばかりの列がレジの前には形成されており、会計までにいくらか時間がかかってしまう。

 待たせてしまって申し訳ないことをした、と軽く早足で会計を済ませたあと先ほど湊さんと別れた場所に戻るがはて、そこには湊さんがいない。まぁそう広いわけでもない書店故に探せばすぐに見つかるだろうと判断されたのだろう、本でも物色しているのかもしれないと考え少し辺りを見回せば……いた。彼女の銀髪は目立つし、何より好きな人を見つけることなど容易い。雑誌コーナーの一角で何かを読んでるようで、興味が湧いたので気づかれないようにそっと後ろから覗き込む。

 

 ―――猫についての雑誌だった。

 

 思ってた以上に猫好きのようであった。これをネタにからかってもいいのだが……まぁ流石に彼女の好きなもので弄るというのはあまり気分のいいものでもない。それに隠しているのならここで指摘してしまうのも無粋だろうと考え、今見つけたばかりである、という体で話しかけることにする。

 

 

「おーい、湊さーん」

 

「っ、な、何かしら?」

 

「や、買いたかった本買えたから次行こうかと思って。もう行ける?」

 

「ええ、問題ないわ。早く行きましょう」

 

 体で先ほどまで読んでいた雑誌を隠しながらこちらを急かす湊さんを可愛いもんだなぁ、なんて呑気にも思いながら急かされるままに書店から出る。この後ペットショップに寄ったらどんな反応をするのだろう、なんて楽しみにしつつそのペットショップに向かって歩き出す。

 

「次は雑貨屋行くぞー。そこで今日の目的を達成する」

 

「雑貨屋、ね。あまり縁のない場所だわ」

 

「行かないのか?」

 

「最初から何を買うかを決めて行くことはあるけど、リサみたいに置いてあるものを見て楽しむ、ということはないわね」

 

 ペットショップに寄ることは伏せつつ、雑貨屋へ向かうふりをしながらその雑貨屋について話をする。リサなんかは雑貨屋で小物を見るのが好きだったりするのだが、幼馴染という割には湊さんとリサはあまり趣味が似ていないと思う。普段どういう会話してるのかなぁ、なんて考えていればペットショップが視界に映るほどの距離になってくる。ついに来たか、と思いつつ上手いこと湊さんをペットショップへ誘導しなければ、と腹をくくる。まぁ偶然気になった、というのが無難だろうか。そう考え如何にも今気づいたという風にあ、と声を漏らす。

 

「ちょっとさ、そこのペットショップ寄っていかない?」

 

「ペットショップ?」

 

 提案した瞬間、目元が少しだけ動いたのを見逃さない。本当にいい反応をしてくれる、と思いつつそれを表情には一切出さずそれっぽいことを適当に言っていく。

 

「そうそう、ちょっと動物見たい」

 

「まぁあなたがそう言うなら構わないけれど……」

 

「よっしゃ、そういうことなら行こうぜ」

 

 あくまでこちらが言うから、という体にする湊さんに内心では苦笑しつつ二人でペットショップへと入る。さて、猫にデレデレする湊さんを存分に楽しませてもらうとするか―――

 

 

 

 ―――なんて、思っていた時期が自分にもあった。

 

 

 

にゃー……にゃー……

 

「流石に長過ぎやしませんかね……」

 

 ガラス越しの猫を見ながら小声で猫の鳴きまねをする湊さんを見ながら呆れた声が漏れる。もちろん、来たばかりの時はすぐに猫に夢中になった湊さんを可愛く思ったものだが、流石に数十分は長い。見ろ、店員まで困ったような目で見ているではないか。どうにも幸せそうな湊さんの邪魔をするのは気が引けるが……予定の時間をオーバーし過ぎている。声をかけなければ数時間でも見てる、というリサの言葉は本当だったんだなぁ、と思いつつ恐る恐る湊さんに声をかける。

 

「あのー……湊さーん……?」

 

「……っ、……!…………なにかしら」

 

 こちらがいたことを今思い出した、と言わんばかりに驚いた湊さんは顔を真っ赤にしたあとしばしどうしようかと戸惑ったあと、何事もなかったかのようにいつも通り振る舞う。もちろん、顔は赤いままであるし、誤魔化しようもないわけだが……まぁそっとしておいてあげるのが優しさだろうか。黙っているこちらに何を思ったのか目が泳ぎ始めた湊さん相手に苦笑しながら一つ、提案する。

 

「……雑貨屋、行こうか」

 

「……そうしましょう」

 

 珍しい表情豊かな湊さんが見れた、とこっそり満足しながら再び雑貨屋へ向けて歩き出す。道中、湊さんの方が恥ずかしがって黙り込んでしまうが、まぁこちらとしては可愛い湊さんが見れて満足であるので、そんなに沈黙も気にならない。

 二人静かに歩いていると、そろそろ落ち着いてきたらしい湊さんが雑貨屋が見えた辺りで口を開く。

 

「買うものは、決めているのかしら」

 

「一応は。湊さんの要望も参考にして多少変えようかなとは思ってるけど」

 

「そういうことなら実用性のあるものが欲しいわね。あまり飾るだけのものは好まないわ」

 

 猫関係なら何でも飾りそうだけどな、と口を突いて出かけたのを直前で堪える。また照れる湊さんを見れるのは嬉しいが、折角話せる機会なのに会話が減ってしまうのはもったいない。なので無粋なことは言わず、湊さんの意見を考慮し、まぁ実用性と言えるか微妙なラインであるがアロマキャンドルはセーフだろうと判断する。効果のほどはともかく、リラックス効果はあるそうだし。

 

「そういうことなら、事前に考えてたものでいいかな」

 

「決まったなら早く買ってくるといいわ。私はここで待っているから」

 

「え、一緒に行かんの?」

 

「お礼をくれるのでしょう?なら、何を買ってきてくれるのか家まで楽しみにさせてもらうわ」

 

 折角だから包装でもしてきてもらってちょうだい、と微笑む彼女に最高かよと内心湧き上がるテンションを無理矢理抑え込みつつ手早く雑貨屋での買い物を済ませる。もちろん、言われた通りプレゼント用の包装を頼むのも忘れない。

 買い物を済ませ、お待たせと言いながら湊さんの方へと駆け寄る。こちらを見た湊さんがそれが、と目線で問いかけてくるので軽く持ち上げて買ってきたものの存在をアピールする。

 

「というわけではいこれ、色々教えてくれてるお礼。もっとしっかりとしたお礼もしたいんだけど……そういうのはライブとかでちゃんと結果出してから改めてするから」

 

「気にしなくてもいいのに、と言ってもあなたは譲らないのでしょうね。素直に頂くことにするわ。―――ありがとう」

 

「……っ」

 

 笑顔を浮かべる湊さんに、反射的に顔を背ける。とてつもなく素敵な笑顔だ、本当はもっと見ていたい。しかし顔が赤くなっているのが自覚できるために恥ずかしさもあって湊さんを直視することができない。惚れた方の負け、とは本当によく言ったものだと思う。

 湊さんは、自分の魅力に関して無自覚なところがあるのできっとこちらが何故突然顔を背けたのか理解していないだろう。理由を悟られるのは恥ずかしいため、とりあえず誤魔化す必要がある。脈打つ心臓を抑え込みながらなんとか声を絞り出す。

 

「と、とりあえずさ、どっかカフェかなんか行かないか?」

 

「それは構わないけれど……どうしたの、急に顔を背けて」

 

「何でもない、何でもないってことにして触れないで」

 

「まぁ構いはしないけれど……」

 

 あっさり引き下がってくれた湊さんに安堵しつつ、何度か深呼吸。頭の中を一度フラットにしようとし、何とか外面だけは整えることに成功する。まだ、今はまだ湊さんにこちらの思いを知られたくない。もう少し、もう少しだけ、自分の歌を誇れるだけの結果を得てからそれから告白したい。だから今は何とか無理矢理にでも誤魔化す。

 

「何か甘いものでも食べたい。甘いもの食べて落ち着きたい……」

 

「甘いものは……私も嫌いじゃないわ」

 

「湊さんリサの作ってきたお菓子なんかもよく食べるからなー」

 

「リサの作るものは美味しいから……」

 

 と、そこで言葉を切った湊さんはそういえば、とこちらを見つめてくる。できればあまり見つめないで欲しい。さっきのがあるからまだ見つめられると赤面しそうなのだ、と内心今顔が赤くなっていないかビビりながらどうした、と平静を装いつつ聞き返す。

 

「あなたはリサを呼び捨てにするけれど、私のことは苗字にさん付けよね。師匠に対して随分と距離があるのではないかしら」

 

「む……」

 

 確かに自分は今までずっと湊さん、と呼び続けていた。それには師匠だから敬意を込めて、というのがあったが……もちろん、一番大きいのは恥ずかしいからであった。それに下の名前で呼んで拒否されたらどうしよう、みたいな恐怖心もあった。だがまぁ、彼女自身が勧めてくるのであれば問題ないだろう。恥ずかしさから目を逸らしつつ、頬をかきながら何とか絞り出すようにその名を発する。

 

「じゃあ……まぁ、()()()

 

「なにかしら、()()

 

 お前……それは卑怯だろう、と顔を覆う。こちらに合わせていきなり呼び捨てとか、ちょっと覚悟ができてない。なんかもう、やられっ放しの日であった。

 もう惚れた側である自分、弱すぎるだろう、と手で顔を覆いながら溜息を一つ吐く。そのまま頭の中を整理して落ち着こうとして―――ふと、()()()()()()()()()()

 唐突のことに、些か戸惑いながらその理由を考え……胸のうちにある感覚を覚える。いや、しかしこの感情は。

 

「……え……」

 

「どうかした?」

 

「いや……ごめん、ちょっと、ちょっとだけ待って」

 

 自分の中に存在する感情に思考が追い付かない。いや、だって自分は。と何度も自問自答するが感じる感覚は揺らがず存在し続ける。この感情が何なのかは経験済みであるために理解はしている。だがそれはきっと、認められないものだ。だとしたらそれが本物なのか、確かめなければならない。

 

「……悠一?」

 

「……っと、ごめんごめん。考え込み過ぎた。甘いもの、食べに行こうか」

 

 心配する友希那を誤魔化しつつ、友希那とカフェに移動する。そこで食べたものは中々美味しく、また友希那と過ごす時間は幸せなものだったが、あの瞬間感じた感覚は頭から一瞬たりとも離れることはなかった。

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