青薔薇に憧れて   作:天澄

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#18.一歩ずつ前へ

「うぃー、おひさー」

 

「あ、悠一さん久しぶりー」

 

「お久しぶりです……。二週間ほどで久しぶり、というのも……妙な気はしますが……」

 

 まぁそれだけ、Roseliaの練習に自分が入り浸っていた、ということなのだろう。他のメンバーにも挨拶しつつ、そんなことを思う。

 ハロハピに会ってからまたさらに一週間程度。既に大学も高校も夏休みに突入しており、こうして平日においても練習が行える。そういうわけでRoseliaに自分と翔馬を加えた二週間ぶりのメンバーがここに集まっていた。

 Roseliaは既に合宿を終えたそうだし、自分や翔馬は小規模のライブに行ったりした、と近況報告をまずは軽く行っていく。

 

「で、お土産とかないの?」

 

「藍葉さん、私たちは旅行に行ったわけでは……」

 

「おーみーやーげーほーしーいーなー!」

 

「翔馬さんまで……」

 

 はぁ、と溜息を吐く氷川さんに真面目っ子は大変だな、と原因であるくせに他人事のように考えつつ、リサへと視線を向ける。そこら辺、律義なリサがお土産を忘れることはないだろう、と思っていたが、予想通りリサは鞄から何やら包装されたおそらくお菓子であろうものを取り出す。

 

「まぁ観光地に行ったわけじゃないから大したものじゃないんだけどね」

 

「おっしゃ、はよ寄越せ」

 

「オイテケ……オミヤゲ……オイテケ……」

 

「何で悠一さんそんなに偉そうなの……」

 

「翔馬さんに至っては野生に返っていますし……」

 

 ちょっと、久々にRoseliaのメンバーに会えてテンションが上がっているのかもしれない。まぁそのテンションが楽しいところはあるので、落ち着く気はさらさらないのだが。

 だからその勢いのままリサが差し出したお土産を手に取ろうとし……触れる直前、それが上に持ち上げられて手が空を切る。恨みがましい目でリサを見れば、返ってくるのは悪戯っ子染みた笑顔。

 

「悠一さんもバンドのライブとか行ったんだよねー?それなら何かお土産あってもいいんじゃないのー……?」

 

 ライブ、と言っても自分が行けたのは当日でもチケットが取れたり、そもそも入場無料だったりするような小規模な、地元のイベントばかりだ。土産になるようなものなど、そうそうない……と思いかけて、そう言えば土産と言えなくもないもんがあったな、と思い出す。できれば土産として皆に受け取って欲しいものなので、バックを漁って全員に見えるように持ってきた土産を取り出す。

 

「えっと……饅頭、ですか……?」

 

「おう、ハロハピ饅頭」

 

「ハロハピ饅頭」

 

「物販がやりたい、って言ったバカがいて、それを叶えたバカによって生まれたお手製グッズのうちの一品」

 

「お手製グッズ」

 

 話を聞いていた全員が戸惑っているが、安心してほしい、自分もおかしいと思う。普通物販とか企業とかの協力があってやるものだと思う。やりたいからって自分たちで全部アイデア出して用意するってどういうことだ。や、流石に黒服の大人たちの力は借りたようだが。あの黒服の人たち、一体何巻家の人間なんだ……。

 

「ちなみに試供品ってことでタオルとかペンライトとかいっぱい貰ったけどいる?というか貰って。数あり過ぎて邪魔」

 

「通りでバックがあんなに膨れているのね……」

 

 友希那が言う通り、自分のバックはできれば押し付けようと思って持ってきたハロハピグッズの数々でパンパンになっている。試供品を作り過ぎたって何だ。頭のネジがぶっ飛んでるにもほどがある。さっきリサに言われるまでそれらの存在を忘れていたのはそれから目を逸らしたかったからかもしれない。

 

「とりあえず人数分それぞれ一つずつあるから貰ってな」

 

「正直いらないのですが……」

 

「知ってるか……?俺の家にまだ各グッズが段ボール一箱ずつあるんだぜ……」

 

「あこ……それ、貰いますね……」

 

「あ、あの私も……」

 

 宇田川さんを切っ掛けに、皆が優し気な目でこちらを見ながら受け取り始める。やめてくれ、そんな優し気な目で見られたら自分が哀れではないか。そして思い出す突然黒服の人々が家にやってくる情景。まさかこころからの提案を承諾したら黒服連中が家に箱で持ってくるとか誰が想像するんだ。

 

「やめろ……!俺の家にその段ボールを運び込むんじゃあない……!おのれ弦巻家ェ……!」

 

「まずい、このままだと悠一がダークサイドに落ちるぞ……!」

 

「そんな、悠一さん……!」

 

「フハハハハ!そのままあこと同じ世界へと落ちるがいい……!」

 

「あこちゃんは……既にダークサイドに落ちてるの……?」

 

「ダークサイドって響き、格好いいよね!」

 

「そろそろ茶番は終わりにして練習に入るわよ」

 

 いい加減収拾がつかなくなってきた辺りで友希那からそう指示が飛ぶ。それに全員がはーい、と返事をし、コントを繰り広げている間に配線など諸々は済ませていたためにそれぞれ自分の楽器を弾く準備がすぐに整う。Roseliaも自分と翔馬のノリにだいぶ汚染されたなぁ、と思いつつ自分も一応マイクの近くに立つ。

 最初はそれぞれアップ、というか調子を確かめるために各々が思うように演奏をし始める。自分もそれに倣いたいところではあるのだが、そこら辺は師匠である友希那の用意した練習メニュー次第。最初にRoseliaの練習をしてしまうのであれば、自分はアップをせずに友希那が軽い声出しをすることになるし、逆に自分の練習を先にするならば順番は変わってくる。だから指示を仰ぐために友希那の方を見れば、友希那がどこか安心した様子でこちらのことを見ていたことに気づく。

 

「……どうやら、落ち着いたようね」

 

 それが何時と比較してなのかは……まぁ、先ほどの茶番ではないだろう。多分、前回の練習の時。その時の酷い有様だった自分と比較して、今の自分が落ち着いたように彼女には見えている、ということなのだろう。

 実際、あの時と比べればかなり落ち着いている。だからあんな茶番を挟む余裕もあったのだ。今回の茶番にやけに長く付き合ってくれたのは、皆がこちらを心配して本当にいつもの調子に戻っているかの確認もきっと兼ねていた。

 もちろん完全に悩みが解決したわけじゃない。今だってこうして友希那と向き合っていて本当に本気で自分は彼女が好きなのか、と疑問に思うところはある。だがそれでも彼女を見ていると胸に宿る熱さが良きものであると信じたいと思えるようにはなったし、少なくとも自分の歌だけは信じるようにしている。だから完璧にではないけど、大丈夫。そんな思いを込めて笑みと共に友希那へと頷きを返す。それだけで友希那の方も納得したのか、話は終わりと言わんばかりに一度目を伏せ、次に開いた時にはいつもの練習の時にする、歌に対する真剣さを湛えた瞳へと変わる。

 

「それじゃあ前回の遅れを取り戻すためにいつもの倍、練習するわよ」

 

「お手柔らかにお願いしますストイック師匠!」

 

「今日の練習は厳しくなるわね……」

 

「!?」

 

 

 

 

「ゔぇー……きっつ……マジきっつ……」

 

「まぁ前回休んだ分は取り返せたかしら」

 

 このストイック師匠、本当に一回に二回分の練習を詰め込みやがったと思うも息も絶え絶えな状態なので文句すら言えない。基本的に煽ったこちらが悪いのでRoseliaメンバーからの救援もなし。一応、余りにもこちらが酷い状態だったからか苦笑しながらリサが飲み物をこちらのバックから持ってきてくれるが、それだけだ。翔馬も我関せずと氷川さんと話し込んでいるし、本格的に味方がいない。だからと言って煽りをやめる気はないのだが。基本の芸風なのだから仕方ない。

 

「あー……スポドリ生き返るー」

 

「……少し、時間が残っているわね。悠一、話があるのだけれど」

 

「もう、練習は、勘弁」

 

「違うわ。……一度、あなたとは私の認識について話し合う必要がありそうね」

 

 そりゃストイック師匠という呼び名に全て込められてる、と言いかけて慌てて口を噤む。流石にこれ以上煽って今日の分の練習が追加になったら洒落にならない。今日はもう、流石に限界である。

 

「そんじゃ、何の話だ?」

 

「あなたたちのライブ出演の話よ」

 

 その話題に、これは真面目な話であると意識を切り替える。流石にこの内容で茶化すことはしない。なんてったって自分たちのデビューに関わる話だ、真面目にならざるを得なかった。

 

「一応、私に宛ては幾つかあるのだけれど……あなたたちはどうしたいのかしら」

 

 確かに、無名のバンドがいきなり出演させてくれ、と言っても相手も仕事であるため採算の都合上そういう企画でもなければ出演というのは難しいとは聞いている。もちろん、規模が小さいものであれば出演料を払えば出られるライブも世の中いっぱいあるわけだが……。まぁ友希那はそんなライブを想定していないだろうし、自分だって出るならでかいところがいい。特に自分と翔馬Roseliaの弟子なのだ、半端なライブでは納得ができなかった。

 と、なればどうしても自分たちで出演枠を確保する、というのは難しい。だからここは自分たちよりはよっぽどコネのある友希那に頼むのが妥当か、と翔馬にも確認を取った上で友希那に頼むことにする。

 

「分かったわ。そういうことなら……そうね、来月の末なら、確かまだ枠があるところを知っているわ。そこに頼んでおくわね」

 

 来月―――それは長いようで、短い。そこまでに自分たちの歌を仕上げてライブに出れるようにしなければならない。それは何とも大変そうで……実に、ワクワクする。そう、ワクワクするのだ。あの始まりのライブの日、Roseliaが歌っていたように今度は自分たちが歌うのだ。緊張は既に生じている。だがそれでもそれ以上に楽しみだった。

 それに、と友希那とリサを順番に見やる。それに対し友希那とリサが首を傾げるので何でもないとだけ返しておく。これはわざわざ彼女たちに言うべきことじゃないからだ。

 

「そろそろ、スタジオ出た方がいいんじゃないか?」

 

「そうね。皆片づけは済んだかしら」

 

 全員が返事をしたことを確認し、一応ざっとスタジオ内を確認してから外に出る。スタッフの方に使用が終わったことを報告し、一度全員で集まる。

 

「で、だ。このあと皆予定ある?」

 

 個人的には友希那とリサ、二人に対する恋心を信じるためにもう少し二人と一緒にいたいところではあるのだが、流石に二人だけ連れ出すというのも不自然なので全員巻き込んでどこか寄っていこうなんて考えていたのだが。

 

「私はこの後、翔馬さんの家で追加の練習をするつもりです」

 

「ま、というわけで俺も予定あり」

 

「あこは合宿中できなかったNFOのウィークリークエ消化です!」

 

「私も……あこちゃんと一緒ですね……」

 

 マジか、と思いながら友希那とリサにも確認を取ってみれば二人だけは予定がないらしい。期せずして、三人になる機会を得てしまったと驚きつつ、他のメンバーと別れて友希那とリサを連れて少しだけ寄り道することにする。

 

「疲れから俺の体が糖分を欲しているので、クレープでも食べに行こうと思います」

 

「私は早く帰りたいのだけれど……」

 

「いーじゃん友希那っ。折角だから一緒に食べに行こうよ」

 

 リサにそう言われた友希那が一度ちらりとこちらを見てくる。それにサムズアップを返せば、はぁと溜息を吐かれる。そして如何にも仕方がないと言わんばかりの態度で口を開く。

 

「まぁ……偶にはいいわ。行きましょうか」

 

「やたっ。じゃ、悠一さんアタシと友希那の分奢ってね」

 

「マジか。いや誘ったの俺だしいいんだけど……」

 

 流石に機材とかも買っていい加減貯蓄が削れてきている。たかがクレープ、それを奢るのを渋るほどではないが、こういう積み重ねが最終的に貯蓄を削ることになるのだ。これはライブが終わったらバイト再開しなければならないかもしれない。

 

「あれ、前だったらあっさり承諾してたのに」

 

「いい加減、削れてきてんだよ」

 

「ああ、いくら値段を抑えたと言ってもそこそこの機材を選んだものね。貯金がなくなるのも仕方ないわ」

 

「や、まだ残ってはいるよ?ただ削れてるのが怖いだけで」

 

「悠一さんの言うバイト戦士時代っていくら稼いだんだろ……」

 

 まぁ所得税とかがかかるギリギリまで稼いだのを二年に加え高校時代のバイトもあるのでだいぶ稼いでいるわけだが、まぁあまりそういう話を他人にするものでもないのでそこそこな、と誤魔化しておく。

 そんな風に下らないことを話しながら三人で道を歩く。その時間はどうしようもなく暖かくて、幸せで。きっと自分にとって大切なものなのだと理解する。

 未だに、こうやって三人でいると特にだが友希那とリサの両者に恋心が向いているというのが引っかかったりもする。二人同時に向けられる恋心など本物と言えるのかと自問自答し続けている。それでもやっぱりこの時間は幸せで、素敵なものであると思えたから信じてみようと思う。

 

「……ああ、やっと、かな」

 

「……?どうかした、悠一さん」

 

「なにかあったかしら?」

 

「なんつーか……ケリが付いたんだよ、うん」

 

 問いかけてくる二人に対し適当に誤魔化して返す。そんな風に返せばしつこく聞いてくるが、教える気はないのでのらりくらりと躱し続ける。

 そう、ケリがついたというのが一番しっくりくるのだろう。実は今日先ほどまで二人への恋心を信じ切れていなかったのだが……やっと、本当にやっとケリがついた。

 友希那と話しているとこみ上げてくるこの熱さも。リサと話しているとじんわり広がっていくこの暖かさも。本物であろうがなかろうが、それは大切なものなのだと信じられた。手放したくないものだと思うことができた。劇的な要因なんてなかった。ただこうして共に時間を過ごしているだけでよかった。それだけで、ケリはついた。

 

 ―――だから今度は、答えを出さなきゃいけない。

 

 友希那への想いも、リサへの想いも大切だ。でもだからって二人とも、なんてことは言えない。どっちかを選ばなくちゃいけない。それは人として当然のことであり―――いいや、違う。そんな理屈じゃない。もっと単純に……自分が、ちゃんと答えを出したい。ちゃんと自分が信じた大切な感情に向き合って答えを出したい。

 だからきっと、それはいい節目なのだろう。自分たちが出演するライブ。そこまでに結論を出そうと思う。そしてライブのあと、友希那かリサ、どちらかに自分の想いを伝えるのだ。あなたのことが好きだと、胸を張って言ってみせるのだ。

 リサが見え始めたクレープ屋へと友希那を引っ張って走っていく、そんな二人を見ながら静かにそんな決意をした。

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