青薔薇に憧れて   作:天澄

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#23.出した答えは

 はぁ、と溜息を一つ吐く。歌い終えたあとの心地よい疲労感を味わいながらも重い体を引きずるようにして、控室からライブ会場の方へ向かう。バンドメンバーには申し訳ないが、少しだけ単独行動することを許してもらいたい。

 自分たちの番から既にそれなりの時間が経ち、ライブもかなり進行して終わりが近づいてきている。そして当然、ライブ終盤に配置されたRoseliaの演奏ももうすぐだった。

 あの始まりの日。あの日見たライブと、今見るライブはきっと見えるもが違う。友希那への恋心も、リサへの恋心も両方抱えた今、再びRoseliaのライブを見ることで結論を出したかった。今でも、一応答えは出てはいるが……最終確認だった。

 なんとか、会場の方へと辿り着く。しかし立ち見型のライブであるため人が規則性もなく詰め込まれており、もはや前へと行くことは叶いそうにない。だがそれが、ちょうどよかったのかもしれない。

 あの日も確か、こうして会場の後ろから彼女たちを見ていたのだ。そう、ああやって照明が落とされたなか彼女たちが準備する姿を眺めて、それで。

 

「―――ああ、そんな君たちに、俺は心奪われたんだ」

 

 最初の曲は、〝Opera of the wasteland〟。Roseliaの曲はもう何度となく聞いてきている。だから歌詞も、曲調もしっかり覚えている。だけどそれでも、こうしてライブという場において聞くと、違う。練習の時ですら本気で彼女らは演奏していたというのに、本番になったらやはり違うのだ。真剣さをはじめとする彼女たちの感情、その乗り方が全くと言っていいほど違う。だから胸に響くのだ、どうしよもなく憧れるのだ、彼女たちの姿に。

 そんな風に熱中していればすぐに曲が終わってしまう。それに名残惜しさを感じつつも否応にも次の曲への期待が高まる。それに応えるように間髪入れず二曲目の演奏が始める。

 曲は〝Neo-Aspect〟。詳しくは聞いていないが、あるいざこざの折りに作られた曲らしいそれは、問題を乗り越えた時に作られたからか、他の曲より感情の乗り方が違うように感じる。普段から強い思いを感じるのに、この曲を奏でる彼女らは決意や先に進む意思を聞き手に感じさせる。そしてこの歌を歌う時の友希那には、どうにもいつもの気高さの中に柔らかさがあるのだ。それは初めて彼女たちの演奏を見た時には感じ取れなかったもので、それだけの時間を彼女らと過ごしてきたのだと自覚する。

 Roseliaに見惚れているうちに、そうして二曲目も演奏が終わる。さて、なら三曲目は、と考えたところで珍しく友希那がライブの場で口を開く。

 

「普段なら歌のみで自分たちを表現するのだけど。けれど今回は一つだけ」

 

 そこまで言った彼女は、それなりに離れているはずなのに確かにこちらのことを見据えた上で言うのだ。

 

「―――Rosa Rossa、あなたたちからの挑戦、受けて立つわ」

 

 そして演奏される曲は―――〝LOUDER〟。Rosa Rossaのアレンジが加わっていない、彼女たち本来のLOUDERが奏でられる。こちらを意識してか、いつも以上にRoseliaらしく、どこまでも真っ直ぐに気高く、秘めた熱意を持った歌が会場に響き渡る。

 その中心にいるのはやはり友希那で、どこまでも美しく見える。そして思うのだ、やはり彼女たちRoseliaは自分の憧れなのだと。

 

 

 

 

「―――あー、負けた負けた!悔しいなぁクソ!」

 

 ライブイベントが終わったあと。会場であるライブハウスから出てすぐの位置で、思わず声を上げる。手の中には一枚の紙。そこに書かれているのはさきほど運営の方から渡されたアンケート結果だった。

 

「無名バンドにしては充分。けれどRoseliaには届かず、ですか」

 

 結果は、後輩の言う通りだった。無名のバンドとしては充分すぎる結果を出している。ただそれはあくまで無名だから、というだけであって結果としてはそういいものというわけではなく、無論Roseliaにも届いてはいなかった。

 

「言う割には悔しそうに見えないけどねー」

 

「やけに笑顔だし、悔しいんならもっとそれっぽい顔しなさいよ」

 

 ベース担当である高校時代の同級生からのツッコミに、元カノが追従する。確かに、笑顔で言う内容ではないな、とは自分でも思うがまぁ実際、負けたのも負けたので嬉しいのだから仕方ない。

 ただ理由を言わなければ理解できないだろう、とは思うのでちゃんと解説はしておくことにする。

 

「悔しいのは本当だぜ、そりゃ負けたんだからな」

 

「じゃあどうして笑顔なのよ」

 

「だって、俺たちの目指す場所はもっともっと高い所にあるってことだろ?」

 

 Roseliaを超えて、さらにその先の頂点へ。それはとてつもなく高いところにあり、自分たち程度ではRoseliaのいる場所にすら届かない。それはつまり。

 

「なら俺たちはもっともっと上手くなれる余地があるってことだ。それって何だかわくわくするだろう?」

 

 その問いかけに返ってくるのは、呆れの視線だ。全員が全員、呆れた目でこちらのことを見ており、そんな妙なことを言ったつもりのない自分からするとどうにも居心地が悪い。

 

「普通、目指す場所が高過ぎるのは絶望するもんだと思うけどねぇ……」

 

 そんななか、苦笑しつつ声をかけてくるのは翔馬だ。そう言った翔馬はしかし次の瞬間には明確な笑顔を浮かべ肩を組んでくる。そしてその笑顔のまま言うのだ。

 

「でも、その考え方嫌いじゃないぜ。目指す場所が高いほど燃えるってのが男だよな」

 

 翔馬が拳を差し出してくるのでそれにこちらも拳をぶつけて返す。見れば他のメンバーも笑顔でこちらに頷きを返してくれている。

 このメンバーでなら、きっと。そういう風に思っていると、翔馬がただまぁ、と突然ある場所を指さしながら口を開く。

 

「まずはあれ、ケリつけて来いよ」

 

 翔馬の示す先には―――友希那の姿。終わったあと、告白のためとかに約束していたわけではない。ということはつまり、彼女は誰かを、いや自分を待っていたのだろう。

 ただ今はバンドメンバーといるのだが、と思い他のメンバーを見れば、あの元カノでさえ早く行けと言わんばかりの顔をしている。だからそれに礼を言いつつ、走って友希那へと駆け寄る。

 

「どうしたんだ、こんなところで」

 

「あなたを待っていたのよ」

 

 そう言う友希那の顔は真剣なものだ。だから真面目な話だと察して、バンドメンバーに別れを告げて友希那と二人、少し歩いた先にある公園へと向かう。

 ライブ終わりであり、既に夕暮れだが時期的にはまだ寒いということはない。それに加えてこの時間であれば公園に人がいないため少し込み入った話をするにはちょうどいいだろう。

 

「なんか、飲み物買ってこうぜ」

 

「構わないわ」

 

 公園入口付近の自販機で、自分は微糖のコーヒー、友希那がミルクティー。いつぞやもこの組み合わせだったな、と思いつつ適当なベンチに座る。

 そこからしばらくは、無言でただ買ったものを飲むだけの時間が続く。こちらとしては呼び止めたのが友希那である以上、友希那の方か話してくれるのを待つしかない。

 チラリ、と友希那の方を見るが、何か言い出しづらそうにしているわけでもないし、落ち着いた様子でミルクティーを飲んでいる。基本的に時間を無駄にするのを嫌う友希那がこうとは珍しい。……まぁライブも終わったことこんな時間も悪くないか、と考えこのゆったりした時間を楽しむことにする。

 そうしてしばしの間、二人での時間を過ごす。互いに買った飲み物はそう量が多くないためすぐに飲み終わってしまう。そこまでいって手持ち無沙汰になった頃、ようやく友希那が口を開く。

 

「……今日のライブ、中々よかったわよ」

 

「ん、まぁRoseliaには負けたけどなー」

 

 とは言え内容自体は世間話、とでも言うべきもので本題ではない内容だった。それでも内容自体はこちらとしては嬉しいもので、照れ隠しとして少し誤魔化すようにそんなことを言ってしまう。そしてそんな心情は友希那に見抜かれてしまったのか、苦笑が返ってくる。

 

「そう簡単には負けないわ。いい演奏ではあったけれど、まだまだ改善点は多いもの」

 

「自覚してるよ……次の練習までには、問題点まとめてその修正に入るよ」

 

「いい心掛けね」

 

 そりゃまぁ、師匠に仕込まれましたから、と少し茶化して返せば、友希那の方も少しだけ笑ってくれる。それは、幸せな時間で……だからこそ、心苦しかった。

 

「……それと、あなたたちのオリジナル曲」

 

「ああ、〝Rosa Rossa〟?」

 

「あれ、歌に対してのあなたの想いに表向きは見せかけてるけど、実際は違うでしょう」

 

「――――――」

 

 しばし、言葉を失う。そしてそれから、大きく溜息を吐く。それは無言の肯定であり、実際断定するように友希那は言い切っているため隠しても無駄だと思えた。だからそのまま、目線で続けてくれと友希那に促す。

 

「そうね、実際は恋の歌、とでも言うべきかしら」

 

「……思いっきりバレてーら。翔馬にもバレてなかったのに」

 

 実際、この楽曲をバンドメンバーを見せた時には全員が表面通りに、自分と歌についての曲として受け取った。疑う様子すら見せなかったのだ。だから完璧に誤魔化せた、と思っていたのだが。

 

「なんで、わかったんだよ」

 

「あなたの師匠ですもの。歌詞は取り繕っても歌い方で、そこに乗せられた感情で分かるわ」

 

 そう言われたら、もはやお手上げだと両手を挙げて示す。自分は歌に偽りの感情を乗せられるほど器用じゃない。だから自分はきっと、これから歌い続ける限りその時何を思っているか友希那にバレてしまうのだろうな、と諦める。ただだとすれば、一つだけ友希那に確認しなければならないことがあった。

 

「……だったら、全部わかってるんだな?」

 

「ええ」

 

「その上で、止まらないんだな?」

 

「ええ、この想いは譲れないし、誤魔化したくないもの」

 

 そこまで言われてしまえばもはや、自分に彼女を止めることはできない。だから、ベンチより立ち上がってこちらを向いた友希那に向き合うように自分も立ち上がる。目を背けてはいけない。これは、ここまでやってきたことに対する結果であり、責務なのだから。だからしっかりと目線を合わせて彼女の言葉を正面から受け止める。

 

「―――好きよ」

 

 それは、端的な言葉で、彼女らしいものだった。いつものように淡々と、けれど口元に微かな笑みを浮かべて。いいや、よく見れば手が小刻みに震えているのが分かる。そうだ、恐怖しないわけがない。増してや、こちらの意思は既に歌を通して彼女は知っているのだ。その上で一縷の望みにかけてこうして言ったのだ。怖くないはずがなかった。

 

「あなたの歌が好き。歌と真剣に向き合う姿が好き。さりげない気遣いも、ふざけて場を和ませる姿すら好きよ。……悠一のことが、好きなの」

 

 彼女から目を背けそうになるのを必死に堪える。彼女は全力で向き合ってくれているのだ、それに同じように向き合う責任が自分にはある。そうやって惚れてもらえるように行動したのは自分なのだから。

 

「……何時から、だ」

 

「自覚したのは、この間猫カフェに行った時。……だけど、ええ。本当はずっと前から惹かれてたのでしょうね。だからそう、きっと始まりは弟子にすることを決めたあの時。あなたの全力の歌を初めて聞いた時」

 

 それは奇しくも、自分と同じだった。自分と同じように、彼女はこちらの歌う姿に惹かれたのだという。それはなんとも嬉しいことで……だからこそ、これから自分が言わなければならないことが苦しかった。

 だけど、それでも。彼女はしっかりと自分の気持ちに向き合ったのだ。だったら今度は自分の番だ。はっきりとそれを言葉にしなければならない。擦れそうな声を、頑張って整え、そしてそれを口にする。

 

「―――ごめん。俺は、その気持ちに応えられない」

 

「……そう」

 

 友希那の表情は、変わらない。変わらず淡く笑みを浮かべている。決してそれから目を逸らすことなく、今度は自分が想いを口にしていく。例え歌を通して全て彼女が見抜いているとしても、自らの責任としてそれを言葉にする。

 

「最初は、君のことが好きだった」

 

「知っているわ」

 

「君に近づくために、リサと仲良くなった」

 

「ええ、それもあなたの歌から」

 

「……それで、リサにも惹かれてしまった」

 

「……知って、いるわ」

 

「どっちの方が、好きなのか。そもそも本当にそれが本物なのか悩んだ」

 

「……悩んでいたのも、知ってる」

 

「それで、今日のRoseliaを見て、やっと答えを出したんだ」

 

 一度、深呼吸をする。目の前では俯いてしまって前髪で表情の見えない友希那。どんな顔をしているかは分からないが……はっきりと、これは言わないといけない。彼女の気持ちに誠実に向き合うために。例えそれが彼女を悲しませるものだったとしても、言わなくてはいけない。だから重たい口を動かして言うのだ。自分は。

 

「―――俺は、リサが好きだ」

 

 そこまで言って、友希那に背を向ける。彼女の想いに応えなかった以上、彼女を慰める資格は自分にはない。だから彼女を一人この場に置いていくことになっても、ここに自分はいてはいけない。それに何より、今度は自分が勇気を振り絞る番だ。友希那からの想いを断ったのだから、あとはこの想いをもう一人に伝えなければならない。

 

「……例え、リサ相手であっても」

 

 公園の出入り口にさしかかった時。そこに元カノの姿を確認する。それに驚きつつも、どうやらこうなることを察していたらしい彼女に友希那のことを任せることにする。これで、友希那を置いていっても大丈夫だと安心したことに、元凶が何を言っているんだと苦笑しながら。

 

「これは、悔しいわね―――」

 

 後ろから聞こえる美しい涙声には、振り返らない。

 

 

 

 

 空を見て、すっかり夜になってしまったなと思いながら想い人を待つ。場所はちょうど自分の家と彼女の家の中間地点。友希那を公園に残してきた以上、分かりやすい待ち合わせ場所であったあそこは使えない。だから仕方なしに、互いに行き来しやすい場所を待ち合わせ場所にしていた。

 電話で少し話がある、と呼び出してからそれなりに経つ。友希那がいないこともあって、Roseliaで打ち上げをしていたということもないらしい彼女は、既に家に帰ったあとだったらしく準備に時間がかかっているらしい。

 適当な壁に寄りかかって待つこと十数分。遠くから、想い人―――今井リサが走ってくるのを見て思わず笑みを浮かべながら、買っておいたスポドリを取り出す。

 

「―――っは、はぁ……はぁ……ごめん……お待たせ……」

 

「急に呼び出したのはこっちだから気にすんな。ほら、これ飲んで落ち着け」

 

 きっとリサのことだ、長く待たせてしまうのを気にして走ってくるとは簡単に予想できた。だからこうして用意していたスポドリは、運動直後ということを考慮し、少しぬるめにしてある。

 礼を言って受け取ったリサの呼吸が落ち着くまでしばらく待つ。その間に覚悟を決めようとするが……ああ、やはり、怖い。拒絶されてしまうのではないかという恐怖がある。これを、これ以上のものを乗り越えて、いいや抱えたまま彼女は自分に告白してきたのかと、思わず尊敬の念を抱く。だからそれに負けないように。リサが落ち着いたのを見計らって口を開く。

 

「……友希那に、さっき告白されたよ」

 

「―――ッ、……そっ、か。……それで?付き合うことになった報告?でもそれならチャットとか、それか別の日にでも―――」

 

「断った」

 

「……え?」

 

 彼女の言葉を遮って言った言葉にリサは驚いた顔を見せる。流石に、リサにまではこちらの気持ちは見抜かれていなかったらしい、と安堵する。やはり師匠である友希那が特別なのだろう。

 

「な、何で!?悠一さんって友希那ことが好きなんでしょ!?だったら……!!」

 

「そう、だな。友希那のことが好きだった」

 

 慌てたように、どこか必死さすら感じさせるリサの言葉に、そう返し……それに自身で違和感を覚えて首を振る。過去形は、適切ではない。きっと今でも自分は。

 

「今でも友希那のことは、好きなんだと思う」

 

「だったら何で!!」

 

「―――それ以上に、君が好きなんだリサ」

 

「―――え……」

 

 先ほどまでの勢いが嘘のように固まるリサ。そんな姿を見ながらも、それを無視して言葉を彼女へとぶつける。彼女がこちらの想いを否定する余地がないように。

 

「いつからだったかは、自分でもよくわからない。だけど気づいたら、惹かれてた」

 

「………………」

 

「リサと過ごす何でもない時間が、暖かくて、幸せで。ずっと、ずっと一緒にいたいって思った。だから」

 

 そこでもう一度だけ、自分の気持ちを確認する。やはりそこに間違いなどなくて。本物かどうかなんて関係なしに誇りたいものだと思えたから。胸を張って笑顔でそれを口にする。

 

「だからリサ。俺は君が好きだ。大好きだ。一番、好きなんだ」

 

 そうやって自分の気持ちを言い切って。そこまで聞いたリサが地面へと崩れ落ちる。予想だにしていなかった状況に慌ててリサへと駆け寄る。ただ何が原因かがわからず、手を出すことができない。そんななか、小さくポツリとリサから言葉が漏れる。

 

「……何で……」

 

「え?」

 

「なんで、今更……!」

 

 そう言ったリサは―――泣いていた。表情は喜びと困惑と怒り、色んな感情が入り混じっていてぐしゃぐしゃだ。彼女のセンスの良さが伺えるメイクだって崩れ始めている。だがそれを気にすることもなくリサはその内に秘めていたものを吐き出していく。

 

「頑張って、頑張って悠一さんを好きだって気持ちを抑えたのに!友希那が好きだって知ってたから!」

 

「……うん」

 

「友希那だったらって!夏祭りの日にやっと覚悟決まって!なのに……なのになんでいまさらぁ……!!」

 

「……うん、ごめん」

 

 そのまま泣き崩れたリサをそっと抱きしめる。その間もリサは溜まっていたものを吐き出すように文句を並び立ていく。それを自分はしっかりと聞いて謝るしかない。それが自分の責任だから。自分は気づいていたのだ。あの夏祭りの日、最後に彼女が飲み込んだ言葉が何だったのか、察していたのだから。その上で今この時までそれに応えなかった自分を責める権利が彼女にはあったし、それを受け止める責任が自分にはあった。

 

「……なんで。なんで、アタシなの……?」

 

 しばらくリサの怒りを受け止め続けたあと、そうやってリサが問いかけてくる。未だ自分の腕の中の彼女は顔を上げずその表情を窺い知ることはできないが……聞かれているのは間違いなく、何故友希那ではなくリサなのか、という話なのだろう。だから正直に、自分の気持ちを彼女へ伝える。

 

「……友希那のこと、好きでずっとずっと彼女に追い付きたくて。それで隣に立ちたかったんだ」

 

 自分の中の友希那は、遠く離れたステージの上にいるのだ。そこで気高く、美しく歌い続けているのだ。それに追い付きたくて、並び立ちたくて。そんな想いで必死に彼女を振り向かせようとしていた。だけど。

 

「思ったんだよ、隣に立って、どうしたいんだろうって」

 

 かつて翔馬に言われて返した通り、友希那と恋人になってやりたいことは沢山あった。だけどイメージの中で。追いかけ続けた彼女へと辿り着いて、ステージの上で彼女と並び立ったとして、自分はどうしたいのだろうと考えて……先がなかった。彼女と隣で共に歌えたとして、それで満足できてしまった。そこから先が思い描けなかったのだ。それに対してリサは。リサと恋人になれたらと考えた時。

 

「リサとは一緒に歩き続けたかったんだ。同じ歩幅で二人でずっと、ずっと。楽しいことも、苦しいことも共有しながら先へ進んでいきたかったんだ」

 

 だから、とリサを抱く腕に力を込める。華奢な彼女を絶対に離さないという想いを込めて強く、強く。そう、この気持ちを言葉にするなら。

 

「―――愛してるんだ、リサ」

 

 ああ、やっと彼女に伝えられた。そうやって安堵しながらリサからの返事を待つ。どれだけかかってもいいから、じっと待ち続ける。そうして何分か、何十分かもわからぬほど待ち続け、腕の中の彼女が動くのを理解する。

 

「……アタシも」

 

 小さく呟いて顔を上げた彼女の顔は、涙でメイクが崩れてお世辞にも綺麗とは言えなかったけれど、どうしようもないほどに愛しくて。しっかりと彼女の目を見て、続く言葉を待つ。

 

「―――アタシも、悠一さんが好き。大好き。愛してる」

 

 そう言って目を閉じる彼女の意図を察し、自分もそっと目を閉じて。

 

 

静かに、唇を重ねた。

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