青薔薇に憧れて   作:天澄

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#24.エピローグ

「―――と、いうわけで。自分とリサは付き合うことになりました!」

 

 ライブからしばらく後のRoseliaとの練習にて。流石にRoseliaと翔馬、何より友希那には告白を断ったからこそ伝えるべきだとリサと話し合ってこうして、練習終了後の時間を貰って全員に報告をしていた。

 そんなこちらの言葉に対する反応は、友希那を除き皆一律―――疑いだった。

 

「えっと、悠一さんそれ、本当ですか?」

 

「え、いや本当だけど」

 

「……正直、素直に信じられないんですが……」

 

「え」

 

 何故か皆、欠片も信じようとしない。はて、いったいどうしてこんなに皆疑ってくるのだろう、と首を傾げていれば氷川さんが呆れたように溜息を吐いてから口を開く。

 

「……以前、藍葉さんは同じ内容の嘘を吐いたでしょう。ですから、そう簡単には信じられないんです」

 

「……あ。ああ!」

 

 そういえば確かに、さきほど言ったこととほぼほぼ同じ嘘を言っている。そりゃ信じられないか、と納得しただ今度は事実であるからどうしたものか、と困り隣のリサを見やれば、同じように困った顔で苦笑している。どうしたもんかなぁ、なんて悩んでいると、助け舟は予想外のところから現れた。

 

「悠一が言っていることは事実よ。私をフッてまでリサを選んだのだもの」

 

 ただし、特大の爆弾付きだったが。

 友希那がそう言った瞬間、Roseliaメンバーの厳しい視線が全て自分へと集中する。流石に、責めるようなものではない。しかしそれでも事情を説明しろ、と言わんばかりの目が向けられてきている。思わず、リサと友希那に視線を向けるがリサは変わらず苦笑、友希那は無関心を貫き、助けは望めそうもない。

 

「えーと……言わなきゃ、ダメ?」

 

 問いかけて返ってくるのは頷きだけ。はぁ、と溜息を一つ吐いて、仕方なしに語ることにする。途中から友希那とリサを交えて、彼女たちに語っていいラインを裁定してもらいながらほぼほぼ全てを話し終える。そうした結果この場には……微妙な空気が流れていた。

 

「えっと、なんていうか」

 

「……そう、ですね……」

 

「身勝手ですね」

 

「ぐぁ」

 

 明言を避けた宇田川さんと白金さんに対し、全くの慈悲なく氷川さんからの感想が自分へと突き立てられ、思わず崩れ落ちた。そう言われても自分で納得できてしまうだけの自覚はあった。結局、友希那を惚れさせたのも自分で、リサに一度こちらのことを諦めさせたのも自分だ。その上で友希那からの告白を断り、リサを選んだのだから氷川さんの身勝手という言葉はあまりにも正鵠を射ていた。事実、誰もが苦笑はしてもフォローしてはこない。まぁそうだよなぁ、と反省していると、しかし意外なことに一番最初にフォローしてくれたのは躊躇いもなく事実を述べた氷川さんだった。

 

「……ですが、自身の感情に振り回されて、正しい行動だけでは済ませられない。恋愛とはそんなものなのでしょうね」

 

 やけに実感が籠った言葉に首を傾げつつも、その言葉で宇田川さんや白金さんから向けられる目も、仕方ないというものになったので、気にしないことにしておく。

 それでようやく、自分とリサが付き合うことが受け入れられたと一息ついていると、床に座り込んでいた自分に影がかかる。何事か、と顔を上げれば照明との間に遮るように仁王立ちする友希那がそこには居た。

 

「まずは、お付き合いおめでとう、と言っておくわ」

 

「あ、うん、ありがとう……?」

 

 フッた相手にそう言われるのはどうにも気まずいものがあったが、それ以上に友希那の放つ気迫とでも言うべきものが、何だか妙に怖い。え、友希那に怒られるようなことでもあったかと内心ビビっていると、友希那が笑顔で言葉を続ける。

 

「ええ、()()素直に祝福するわ。私は選ばれなかったのだもの」

 

 雲行きが怪しくなってきたぞ、と冷や汗が流れるのを自覚する。しかし残念ながら自分ではフッたという負い目のせいで彼女の言葉を止める勇気がない。や、まぁただ単に彼女の放つ雰囲気に飲まれていたというのはあるのだが。そうやってただ大人しく言葉を聞くしかなくなっているなか友希那は、でも、と言葉を続け。

 

「―――私は諦めないわよ。いつか必ずもう一度私の歌で、私の虜にしてみせるわ」

 

 友希那の右手によって顎を持ち上げられて、そう宣言された。あまりにもイケメン過ぎた。

 

「ちょ、ちょっと友希那!?」

 

「友希那の女にされる……」

 

「悠一さぁん!?」

 

 リサが慌てているが、すまない。今の友希那はイケメン過ぎた。これはもう友希那の女にされる未来しか見えない。

 そんな風に顔を両手で覆っていると、突然右手が引っ張られる。そして次の瞬間には腕が柔らかいものに包まれており、何事かと思わず見れば頬を含まらせたリサがこちらの右腕を抱いて友希那のことを睨んでいた。

 

「……いくら友希那でも、悠一さんだけは譲らないからね」

 

「譲ってもらわなくても大丈夫よ。自分で勝ち取るから」

 

「はぁー、嫉妬するリサ可愛いかよ……」

 

 そんなことを呟きながら、目の前で繰り広げられる女の戦いから目を逸らす。当事者だけど、うん、どうにも自分が口を挟める空気ではなかった。

 他のメンバーを見れば既に痴話喧嘩判定が下されたのか宇田川さんと白金さんはゲームの話をしているし、翔馬も氷川さんを何かを話している。

 

「つまり悠一が湊さんの女になり今井さんが悠一の女になれば完璧……?」

 

「何を言っているんですかあなたは」

 

 翔馬だけは頭のネジをどこかに落としてきたらしかった。

 

「……じゃあ直接的に手は出さないんだね?」

 

「ええ、あくまでもう一度惚れさせるだけよ」

 

 そうやって目を逸らし続けているうちに、どうやら友希那とリサの間で決着は付いたらしく、一先ずリサから右腕が解放される。どうやら結論的には友希那は直接的には手を出さず、こちらをもう一度惚れさせるだけ、ということになったらしい。ストイック師匠はここでもストイックらしかった。

 

「お、ひと段落した?じゃあ俺からも報告があるんだけど」

 

 こちらの話が終わったのを確認したらしい翔馬がそう言って全員の注目を集める。翔馬にも報告があるなど、友人の自分も聞いていないのでどうしたのかと考えていると、翔馬は氷川さんと頷き合ってから続きを口にする。

 

「俺、紗夜と付き合ってます」

 

「……は?」

 

 今、翔馬は何と言った?付き合っている、それも付き合った、ではなくまるで随分前から付き合っているかのような言い草ではなかったか。

 

「ま、待て待て!聞いてないぞそんな話!」

 

「まぁ言ってないからな」

 

「何で!?」

 

「そりゃお前が凄い悩んでる風だったから、気を遣ってだな」

 

 ぐ、と声に詰まる。そう言われると言い返しづらい。必要な措置だったかはともかくとして、こちらを慮ってとなると責めることはできない。ただ友人として、話してもらえなかったのが寂しいため、ついつい恨みがましい視線で翔馬へと問いかける。

 

「いつから、付き合ってんだ」

 

「ん?お前が今井さんへの好意を自覚し始めて自分の気持ちが本物かどうか云々悩み始めた頃」

 

「だいぶ前ェ!!」

 

 随分と前から付き合っているらしかった。確かに仲が良くなってはいるな、とは思っていたが付き合っていたとは。他のメンバーも付き合っていたのも納得だ、と言わんばかりの反応を各々返している。しかしどうしても水臭いという思いだけは拭えない。

 

「悠一と今井さんが付き合ってるって宣言したからな。だったらまぁ自分たちもってことで紗夜と決めてな」

 

「だぁーファック!!翔馬今度飲みに行くぞクソが!盛大に祝ってやる!!」

 

「お、いいぞ。俺も祝ってやるよ、今後の練習が毎回修羅場化おめでとうって。ほらお前、元カノもいるだろ?」

 

「ひぎぃ」

 

 再び床へと崩れ去る。それを他の全員が笑って、それで一段落。そうしていつもの空気が戻ってきて、幸せな時間が流れ始めるのだ。

 

 

 

 

関係性が変わっても、こうしてまた皆で笑い合って。

 

 

師匠には友希那がいて、これからは隣にリサがいる。

 

 

だからこれからも真っ直ぐ歩き続けていこう。

 

 

迷うことも悩むこともあるだろうけど、それでも諦めずに。

 

 

あの日憧れた青薔薇すら超えて、頂点を目指して。

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