「NFOをやりたい?」
「そうそう。前にあこと燐子に誘われてやってさ。結構楽しかったし、悠一さんもやってるなら本格的にやってみよっかなーなんて」
なるほど、とリサの言葉に納得を示す。何でもない休日のある日。こちらの自宅でリサと二人ぐだぐだしようか、なんて思っている時にかけられた言葉がNFOをやりたい、というものだった。その提案自体は、一プレイヤーとして嬉しいものであったし、彼女とゲームができるというのは中々心躍るものだった。
そういうことならば、と仕舞われていたノートPCを引っ張りだし、充電ケーブルを繋いだ上でテーブルの上におく。それなりにスペックもいいのでパパっと起動を済ませてリサをそのノートPCの前に座らせる。
「と、いうわけで早速やろうか」
「え」
元々インストールしてあったNFOを立ち上げて、自分もデスクトップPCの方で同じくNFOを立ち上げる。NFOはそれなりにスペック要求するゲームであるが、設定を弄れば別にノートPCでも充分プレイできる。だから以前使ったというアカウントでリサにはログインを済ませてもらう。
「そのノートPC、しばらく使っていいぞ。大学の講義も今はタブレットで済ませちゃってるし」
「……いいの?」
「おう、折角彼女が自分と同じものに興味持ってくれたんだ、そりゃ全力で協力するさ」
それは当然の話だった。彼女と同じゲームをできるという些細なことではあったが、その些細なことですら自分にとっては凄く嬉しいことだった。だから協力を惜しむ気はしないし、あとは単純な話ゲームをやるためだけにパソコンを買う、というのは女子高生にはハードルが高過ぎるだろうというのもある。だから最近使うことの少ないノートPCを貸して、それでハマるようであれば自分のパソコンを買えばいい、という話だ。
そこまでしっかりと説明すれば、リサもそれに遠慮することをやめる。最近は恋人となったこともあって、互いにどうしても無理なラインなども把握できてきてる。だからノートPCを貸すというのはリサ的にもセーフラインだというのは最初から分かっていたことだった。
リサがNFOに四苦八苦しながらもログインするのを見ながらも、自分も手早くログインも済ませる。聞いた話に寄れば前回はプレイを始めて最初に行く村で活動しただけらしいので、リサがログインしたら出る場所もそこだろう、と判断しアイテムを使用して最初の村へと向かう。
そのまま、周辺のキャラクターをメニューから検索をかけ……いた。キャラネームはそのまま『リサ』。アバターの外見も現実のリサの容姿に似せられているため分かりやすい。だからまずはフレンド申請を送っておく。
「とりあえず、フレ申請送ったから受けといて。やり方分かる?」
「前にあこと燐子に教えてもらったから多分大丈夫。……よし、できた」
確認すればフレンドの欄にリサの名前が増えているのが分かる。これで無事、リサがログインしても分かるな、と思いながら次はパーティー申請を送っておく。それもリサが承認し、これで冒険する準備自体は一応整ったことになる。
「にしても……これ悠一さんのキャラクター?なんか全然イメージが違う」
その言葉に改めて自分のアバターを確認し、確かにな、と納得する。リサや、あとは宇田川さんと白金さんがNFOにおいて現実の自分をモチーフにキャラクターを作っているのに対し、自分は完全に自らとキャラクターを切り離して作っている。だから自分とは全くイメージが違うのは当然と言えた。
肩口ほどまでのばされた金髪に、細く鋭い目つき。片目にはモノクルをつけ、フード付きの白いローブを着ていることで、研究者然としたイメージを見た者に印象付ける。しかしそのローブの下は黒のインナーに、同じく黒のカーゴパンツとブーツで冒険者らしく動くことも考えられた服装だ。全体的に冒険もする人相が悪い研究者、というのが自分が作ったキャラクターのイメージだった。
「へー……ここまで作り込めるんだ……」
「課金要素もあるけど、ゲーム内通貨でも衣装は買えるから、センスのいいリサもこだわれば可愛いのとか作れると思うぞ」
このゲーム、何気にキャラメイク機能のレベルが高く、自分のようにこだわったものもできるし、リサを見れば分かるように現実にもかなり寄せられる。プレイヤーのセンスが試されているようなところもあって、自分が惰性ながらも未だに続けている理由の一つだった。まぁその惰性で続けていた、というのも以前までで心境の変わった最近は結構熱を入れてやっていたりするのだが。
そうして、しばし現実での会話で時間を潰していると、ゲーム内の方にチャットが飛んできたのに気づく。それにやっと来たか、と思いつつ狙い通りであると笑みを浮かべる。そのまましばしチャットでやり取りをし、話がついた段階で通話アプリを立ち上げ、チャット相手との通話を繋ぐ。
「リサ、通話アプリの使い方分かる?」
「えっと……これ?」
「そうそう。あ、イヤホンしてね」
そのままリサも巻き込み、通話を四人でのグループ通話へと切り替える。そうしてイヤホンから聞こえてくるのは、二人の女の子の声だ。
『リサ姉と悠一さん聞こえてますかー?』
「おう、大丈夫だ」
『え、あこ?』
『……私も、います……』
「あこ姫、RinRin、リサの声の音量とか問題ないか?」
『あこはおっけーです!』
『大丈夫、です……』
音量確認なんかを済ませているうちに、ゲーム内では自キャラとリサのキャラの下に宇田川さんと白金さんのキャラが集合してきている。その二人にもパーティー申請を送りつつ、予想通りになったな、と考える。
宇田川さんと白金さんは、NFO内ではかなり前からの知り合いになる。元々は野良で知り合ったのだが、アイテムのやり取りなどを通して何度か関わり、そして現実でもついには知り合った。そういったこともあって、互いにログインしていて暇であれば声をかける、というのは最近よくあったのだ。そのため、今日もログインしていればそのうち声をかけてくるのでは、と思っていたら案の定であった、ということだった。
『藍葉さんと……今井さんは、今日デートじゃなかったんですか……?』
「いやな、家デートしてたらリサがNFOやってみたいとか言うからノーパソ貸した」
『用意する手際が良すぎて口を気づいたら目の間にノートパソコンが置いてあったんだ……』
『リサ姉NFOこれからもやってくれるの!?』
『前やった時も楽しかったし、やるつもりだよ』
『やったー!』
目の前には宇田川さんはいないのに、喜ぶ姿がありありと想像できて、思わずリサを顔を見合わせて苦笑してしまう。本当に元気娘、というか感情豊かな子だ、と思いながらとりあえず、と話を切り出す。
「まぁ今日はリサにNFOの楽しさを伝える、ということでリサでも行ける適当なダンジョンでも行こっか」
『そういうことなら……メインストーリーを手伝うのも、いいんじゃないですか……?』
「メインストーリーはあれ、結構面白いから一人でじっくりやってみて欲しいんだよなー」
『あ、それは……わかります……』
『えっと、それで結局アタシはどうしたら……?』
「ああ、すまんすまん、とりあえずはダンジョンに……」
そこまで言って、一つ重大な問題に気づく。あこ姫を見る。やけに格好つけたポーズをとった。そのモーション、課金アイテムじゃなかったか。RinRinを見る。あこ姫に合わせてポーズをとっていた。だから課金アイテムで、プレイヤーショップでもかなり額がしたはずなんだが。最後にリサを見る。初期装備である、女性用のプリーステス系防具を身につけている。
「ちょっと、リサ。ステ見して」
「ちょ、ゆ、悠一さん!?ステって、いやそれよりこの態勢……!」
リサの後ろから抱き着くようにして肩に顎を乗せてリサのノートパソコンの画面を覗き込む。見れば過去白金さんがキャラメイクを手伝ったというだけあって、構成はしっかりとしている。
このゲームの特徴的な部分として、職業が存在しない点がある。ステ振りとスキル習得のシステムがあり、その構成によって便宜的にタンクやガンナーなんて呼び方があったりするわけだが……リサのキャラはシンプルなプリーストタイプになっている。ステータスはMPや魔力偏重、スキル構成は回復を軸にバフ系やMPブースト系。初期のステータスポイント、スキルポイントから割り振れるおおよそ理想形とも言えるプリースト構成だった。ま、流石RinRinだな、と呟いて自分のパソコンの前へと戻る。
『悠一さんにリサ姉?どうかしたの?』
「ん、リサのステ見てた」
『確か……シンプルなプリーストタイプで、作ったんですけど……まずかったですか……?』
「マズくはない、んだけど今回に限ってはなぁ……」
後ろから向けられる顔を赤くしたリサからの恨みがましい視線を無視しつつ、少し悩む。そしてその上で自分のキャラのステータスを確認して、溜息を一つ吐く。
「リサは純粋なプリースト目指すわけ?」
『……アタシは、まぁ皆の手伝いみたいなのができたらいいなって思ってる』
「ああ、そっか、ネトゲ慣れしてなきゃ目標の構成とかないよな」
『あれ、リサ姉なんか拗ねてる?』
宇田川さんがどうやら、リサの今の状態を声音から察したようだが、無論それもスルーしておく。なんというか、リサはからかうと反応が可愛いのでつい遊んでしまうのだ。今の若干拗ねてる状態も可愛いので、少し放置しておくことにしている。
それはさておき。リサのキャラの今の構成だと、今後格闘系やメイス系のスキルなどを取っていけば所謂クレリックタイプになってくるし、あるいはタゲ取りや防御系のタンク向けスキルを取ってパラディンルートもある。無論、このまま支援系スキルを取ってハイプリーストと呼ばれる構成にするのだってありだ。見たところ前回のプレイでいくらかレベルアップしてポイントが余っているので、方向性を定めておきたい、というのが問題点その一になる。
その旨を全員に伝えれば、リサがしばし悩んだ後、なんとなくだけど、と口を開く。
『そのハイプリースト?っていうのがいいかな。支援役なんでしょ?アタシ自身はあんまり前に出たいってわけじゃないしなぁ……』
『いいんじゃ……ないでしょうか……?今井さんに似合っていると思いますし……』
『うん!あこもリサ姉のイメージにあってると思うな!』
確かに、リサは前に出て殴ったり殴られたりするイメージはないため純粋な支援型、というのはよく似合いそうだった。ハイプリーストと一口に言っても、その構成はバッファーだったりヒーラーだったりと色々細かいのだが、現在の方向性としてはそれだけ決まっていれば充分。どんな構成にするせよ、必要なスキルなどを取ってもらいつつ、これで決定的になってしまった二つ目の問題に頭を抱える。
「……うーん……」
『あれ、悠一さんどしたの?』
「や、まぁリサは気づかなくて当然なんだけど。他二人よ、ちょっと今回のメンバー確認し直してみ」
『……あ……』
『え、なになに?どうしたのりんりん?』
白金さんの方は気づいたようだが……まぁ、宇田川さんは気づかない方が彼女らしいか、と苦笑する。そして改めてそれぞれのキャラクターと、その構成を思い出す。
白金さんの操るRinRin。彼女の構成は純黒魔導士とでも言うべきものだ。ステ振りは特化とまでは言わないが魔力やMP偏重。そしてそのスキルは魔法火力アップやMPブーストに費やされており後衛からの魔法ブッパしか考えていない構成になる。
続いてあこ姫こと宇田川さんのキャラ、聖堕天使あこ姫。彼女は
そしてハイプリーストを目指すリサは言わずもがな。と、なると、である。
「後衛しかいねぇ……」
『あっ、言われてみれば』
『後衛?』
『……前で直接敵と戦うのではなく……魔法などで、遠距離攻撃をしたり支援したりする立場ですね……』
『へー……悠一さんもその後衛ってやつなの?』
白金さんから解説を受けたリサが、こちらにそう問いかけてくる。そう言えば確かにリサに自分のキャラについて解説していなかったな、と思いちょうどいいので、宇田川さんや白金さんにも改めて最近微妙に構成が変わった自分のキャラを説明することにする。
「俺は、まぁ所謂キワモノ構成なんだけど」
『あれ、悠一さんこないだまで普通のアルケミストじゃありませんでした?』
宇田川さんからの問いに、少し前までね、と返す。そこからいくらかスキルを入れ替えて立ち回りが変わっているのだ。それも掲示板などではキワモノ分類される方向に。ちなみに理由は楽しそうだから。ゲームなんてそんなものである。
「で、今は便宜的に錬金銃士って名乗ってる」
『錬金……銃士……?』
「そうそう、こいつを見りゃ分かる」
そう言って、通常時は邪魔なため透明化しているそれの透明化を解除する。そうして自キャラの背中に現れるのは巨大な、金属製のライフルだ。リサなんかはこのゲームをやっていないため特に大きな反応がないのだが、流石に宇田川さんと白金さんは違う。マイク越しに息を飲む音が聞こえてくる。
『そ、それ……作るのが、とんでもなく大変っていう……』
「おう、〝ウルティメイト・ロアー〟。通称化物銃だぞ」
震え声の白金さんに、肯定を返す。それに言葉を失う白金さんに当然だよなぁ、とこの武器を作った時のことを思い出す。まず大元の素材がゲーム内各地のボスのレア泥であるため乱獲し続け、続いて数週かけて自身の錬金スキルで加工。さらにそこから鍛冶スキルをはじめとする自分が持っていない必要なスキルを持ったフレンド片っ端から声をかけて……一ヶ月以上かけて、作り出した武器だったりするのだ、これ。しかも課金とかでも加工の時間が短縮できない。その割にある一点を除けば最強クラスの性能と言えど同性能の武器は幾つかあるので、わざわざ作る人はほぼほぼいないというネタ扱いの武器だった。ただそんな武器を作ってしまったのが自分だった。
『……なるほど……それで、錬金
「そういうこと」
この武器を扱うためにわざわざスキルに銃関係のものを取ったのだ。製作作業に加え、スキル習熟作業もあったので本当に当時は大変だった。
「あ、ちなみに次のウルティメイトシリーズはサイスだってよ。やったなあこ姫、地獄の始まりだ」
『えっ……』
『ほ、欲しい!』
『そ、そうだよね……あこちゃんは、欲しがるよね……』
地獄と言われるウルティメイト系の作成に付き合わされることが確定した白金さんが震えた声でそう漏らすのに合掌するしかない。とりあえず、サイスのウルティメイトシリーズが実装されたらしばらくIN率下げようと思いつつ、で、と話を元に戻すことにする。
「そんなわけで自分も立ち回りが基本、後ろからの狙撃なので後衛しかいない、というわけだ。オーケー、リサ?」
『正直途中から何言ってるのかわからなかったけど、それについてはオッケー』
まぁ素人とウルティメイトシリーズは一番縁遠い話だよなぁ、と思いつつこのあとのダンジョンアタックをどうしたものか、と考える。ここに翔馬がいれば魔法拳士構成のキャラを使うため、前衛を押し付けられたのだが、あいにくと今日は氷川さんとデートらしい。かと言って素人がいるなか前衛無しは怖いので……そうなると、手段は限られてくる。その中でも確実なのは一つだろう、と宇田川さんのキャラを見る。
「そしたら、あこ姫のネクロマンスで常に壁用意し続ける感じか?」
『……そうですね……その方が今井さんが死ぬ可能性も低くなりますし……』
『あははは……なんかごめんね?迷惑かけてるみたいで』
「気にすんな、新人を導くのも古参の仕事よ」
そして沼に浸かれ、と心の中でだけ付け足す。
そんなわけでダンジョンでの立ち回りについてさらに内容を詰めて、火力アップ系のスキルを幾つか外しておく。新人がいる状況で古参プレイヤーが敵を蹂躙しては何も楽しさが伝わらないだろうし、ここら辺は調整がいる。幸い、自分は昔新人の指南役を自身のお遊びを兼ねてやっていたのでそういった調整は慣れている。だからパパっと準備を済ませて、出発する態勢を整える。
「んじゃま、ダンジョンアタック行きますか!」
『おー!』
『……おー……』
『え、っと、おー?』
斯くして微妙に揃いきらない掛け声を上げて自分たちはダンジョンに向けて出発した。
やりたいようにやるのって楽しいよな!
と、いうわけで設定が少ないことをいいことに好きなように改変したNFO回。楽しくなり過ぎて二話構成になってしまった……。続きは明日な……。