「えー、本日は皆さんお集まりいただきありがとうございます」
数にすれば十数人程度でしかない。それでもそれだけの数が、ましてや初対面の人や大人だっている。だからこうも注目を浴びるのは緊張してしまう。
それでも自分にはこの企画を立てたものとして責任が自分にはある。別に何も悪いことをしようというのではないのだから、臆すことなく胸を張って言葉を続けていく。
「まずはこうして私の呼びかけに応えていただいたことに大きな感謝を。見ず知らずの方もいる中、応じてくれたのはやはり、彼女がそれだけ周りに愛されているということの証左で、嬉しい限りです」
と、そこまで言って自分自身首を傾げる。企画内容的に、こういう堅苦しいのは少し違うのではないだろうか。それにどの立場からの発言だ、という話にもなってくる。
そのため、首を振りながら一度自身の発言を否定する。
「無し無し、やっぱ今の無しで。堅苦しいことこの上ない。もっと楽しい感じでいこう」
その発言に親しい人間が何人か、呆れたような溜息を吐いているが、そもそも人前に立って引っ張っていくのに慣れていないのだから勘弁して欲しい。正直少人数でわいわいやるタイプなので、大人数のリーダーとか本当に苦手なのだ。
「あー、とりあえずあと一点だけ、外せない真面目な話を。今回の会場としてこの場をお貸しいただいたことにもまた感謝を」
そう言って今回の参加者で四人しかいない大人に頭を下げれば、苦笑が返ってくる。まぁ人生経験が豊富な大人からしたら、自分の拙いリーダーとしての言葉は苦笑してしまうようなものなのだろう。
それでも、礼儀としてこの場所を貸してもらったこと。そして本心からの感謝があるためにしっかりと頭を下げ、それから改めて本題へと入る。
「それでは。時間もさほどあるわけではないですし、ついでに初対面の人からすれば私がベラベラ喋ってても興味がないと思いますので。まぁとっとと本題に入りましょう」
パン、と区切りとして手を一つ叩く。時刻は現在午後一時。一応、余裕を見積もっての時間であり、人数も多いため間に合うとは思う。それでも早めに終わらせるに越したことはない。トラブルも想定するなら尚更である。
故に一度全員を見回し、注目が自分へと集まっていることを確認してから、宣言する。
「―――それではこれより。今井リサさんのお誕生日会の準備を始める!」
そう、本日は自分の彼女である今井リサの誕生日である。
今回、誕生日会の会場としてリサの家を借りている。今井邸は一軒家であり、リビングはそれなりの広さがある。そのためそれなりの人数でパーティーができる広さがあった。
とはいえ、それなりの広さがあるということは飾りつけにも手間取る、ということ。飾りつけに人数を多め、それから追加の資材の買い出しに……と、それぞれに仕事を割り振っていく。
多少の時間をかけ、割り振りが済んだら自分はキッチンへと向かう。それは、自分の担当が料理だからだ。
無論、今回集まった人はリサの友人、ということもあって女性陣が多い。自分よりも料理ができる人は沢山いるだろう。
それでもリサと付き合ってから、リサにはお菓子作り以外にも料理を教わったりもした。だからどれだけ上達したかを見せたい、という我儘で今回自分は料理を担当させてもらっていた。
「遅いわよ」
「無茶言うな、これだけの人数に指示出してんだからある程度は容赦しろ」
キッチンに入ると同時、声をかけてきたのは元カノ……と呼ぶにはもはや時間の経ち過ぎた、うちのバンドのキーボード担当―――
こちらへと向けられる鋭いつり目に、挑発するように口元に浮かべられた笑み。明るい茶色に染められた髪は料理するにあたって、首元でまとめられており、ピンク色のエプロンが可愛らしさも演出している。
大学などであれば、彼女は化粧でもっと柔らかいイメージの可愛らしいまとめてくるのだが、今回はバンドメンバーを始めとする親しい間柄多いからか、化粧が元の顔立ちの良さを引き立てるような、美しさを重視したものだ。
だからその分、睨まれた時の圧が強いのだが、まぁ流石に自分ももはや慣れたもの。バンド結成当初から睨まれてれば、流石に慣れるというものだ。
「そもそも。午前から俺らだけは仕込みの関係で動いてんだ。そこまで時間が押してるわけじゃないだろ」
「私が待たされてるのが癪なのよ」
それを言われたらどうしようもない。ただまぁ、あくまでこちらを挑発するのが目的であるのは表情を見ていれば分かるので、本気で相手にはしない。自分と翠香の間では一種のコミュニケーションみたいなものだ。
故に、適当なところで会話を切り上げ、午前からの続きを始める準備をする。
「というわけで、午後もお願いします」
「はいはい、任せてちょうだいね」
そう返事をするのは、リサのお母さんだ。いくらリサに料理を教わっている、とはいえ自分は特別料理が上手いわけではない。ならば料理が上手い人を料理担当に回せばいいのだが、流石に一般家庭のキッチンはそこまで広くはない。余裕を持って使うなら二人、多くても三人までではないと作業がし辛くなってしまう。
そういう理由もあって、自分と翠香がメイン。リサのお母さんには時々アドバイスを貰う、という形で今日は調理を行っていた。
ただまぁ、教わりながらだとどうしても作業速度が落ちることもあって、今日は自分と翠香だけは 午前から今井家にお邪魔している。
幸い、リサは友人が多いこともあって、今日は朝から出かけているらしい。確か高校のダンス部の仲間たちとのお出かけ、だっただろうか。
聞いた話によると、帰ってくる予定が五時。それまでに準備を済ませなければならない。自分は責任者、ということもあって他の進捗状況の確認もしなければならない。気合を入れて、料理を進めることにする。
―――おかしい。
料理は順調に進んでいた。予定通り、何の問題もなく進み、作業量的に翠香一人でもこなせる段階まできた。そのため全体の進捗確認のために自分は一時的に料理班を離脱したところまではよかったはずだ。
だが、と周囲を見る。自分が座るソファの隣にはコーヒーを飲む友希那。正面にはリサのお父さんに、友希那のお父さん。
友希那に呼び出され、ついていったらこの状況である。いったい自分はどうなってしまうのだろうか。
そんな風に怯えながら、差し出されたコーヒーを飲んでいると、おもむろに友希那のお父さんが口を開く。
「さて、悠一くん。君はうちの友希那をフったそうだね?」
「っんぐ!?」
予想外の切り出しに、驚きから飲んでいたコーヒーが気管に入り思わず咳き込む。それを友希那のお父さんは笑いながら見ているあたり、タイミングを狙ってやったな、と判断する。細身の、優男然とした見た目のわりに結構いい性格をしている、と友希那のお父さんへの評価を改めつつ、思わずジト目になりながら言葉を返す。
「……それは、娘さんから?」
「ああ。初めての恋にどうしたらいいか分からない、ということで私と妻に洗いざらい話してくれたよ」
「ちょっと、お父さん」
「いやぁ、友希那が顔を赤らめながらあんなこと言う日が来るとは思っていなかったから驚いたよ」
「お父さん!」
はっはっはっ、と笑う父へと友希那が顔を赤くして文句を言う。なんというか、友希那はこちらの前では常に格好つけているようなところがあったため、何とも新鮮な光景だった。ただ自分が友希那をフった話から広がった話題だと思うと、複雑なところではあったが。
「まぁそんなわけで、友希那から色々話を聞いているのもあって、個人的にも君のことは気になっていたんだ。こうして話す機会をわざわざ作る程度にはね」
「それは……何とも、こそばゆいというか。ありがとうございます、でいいんですかね」
「もちろん、君の歌も映像でだけれど聞かせてもらっている。元プロから言わせてもらえば未熟、としか言いようがないが、それでも才能はあると思うよ。頑張ってね」
「手厳しい……。でも、ありがとうございます」
評価に関しては、中々手厳しい内容ではある。けれど未熟なのは元から自覚していたことであるし、何より元プロから才能があると言われたのは単純に嬉しい。だから笑顔でその言葉を受け入れ、次会う時には技術も褒めてもらえるように、と目標を定める。
「……と、まぁ私も色々君と話したいことはあるんだけどね。だけどこの場で話すべきなのは私じゃない。ほら、お前も早く喋れよ」
「……ん、む、そうだな」
友希那のお父さんに促され、ここまで黙っていたリサのお父さんが初めて口を開く。リサのお父さんは午前中に来た段階でも特に何も喋らなかったために、こうして声を聞くのは初めてだ。
低く、重みのある声。聞くだけで委縮してしまいそうになるのは、単純に声音の問題か、それとも恋人の親故の緊張感からか。
多分どちらもあるのだろうな、と思いつつ、言葉を続けるリサのお父さんを見つめる。
「そう、だな。まずは改めて。俺がリサの父親だ。娘が世話になっている」
「藍葉悠一です。娘さんには、むしろこちらが世話になっているくらいですよ。リサさんは気が利く人ですから」
「それでも、娘から話を聞く限り君が娘の助けになっているということも聞いている。だからまずは、ありがとう」
そう言って軽く頭を下げるリサのお父さん。何とも、恐れ多くてやめてくれと言いたくなるが、感謝を受け取らない方が失礼だとは思うので、素直に感謝を受け取っておく。
「娘の話に加えて、今日、妻とキッチンに立つ様子を見て娘を預けるのに充分な男なのだろう、とは思った。思ったが……」
そこで言葉を切ったリサのお父さんは、真っ直ぐにこちらを見つめてくる。その瞳には悩みも迷いもある。それでも、その奥には譲れないものがあることがはっきりと分かる。そして、どんな言葉が続けられるかも、なんとなく察することができた。
「それでも。娘を頼む、とは簡単には言えないものだな」
自嘲するように笑みを浮かべるリサのお父さんだが、それが自然だとも思う。自分とリサのお父さんは今日が初対面なのだ。簡単に言えなくて当然だろう。
だから、自分が返すべき言葉は決まっている。
「お気持ちは分かります……とは、子供のいない自分では言えません。それでも、全く想像がつかないわけじゃない。だから、リサさんを任せてもらえないのも当然だとも思います」
けれどその上で。そこで言葉を区切り、リサのお父さんの目を見つめ返す。こちらがその瞳からリサのお父さんの想いを察したように。こちらの覚悟も伝われと意思を込めて。
「必ず、あなたに認めさせてみせます。娘さんを任せるにたる男だと、これから証明してみせます」
「……ああ、いいだろう。俺に認めさせてくれ。娘を頼むと言わせてみせてくれ」
笑みを浮かべるリサのお父さんに、こちらもまた笑みを浮かべて頷いて返す。
誕生日会の準備に来たはずなのに、突然の事態に何をやってるんだ感はあったが、それでもこうしてリサのお父さんと言葉を交わせたのはいいことだった。元々、リサの家を会場にする段階である程度、こういう展開もあるかもしれないと考えていたところもある。
何はともあれ、上手いこと話が進んでよかった、と安堵の息を吐いていると、突然ふむ、と友希那のお父さんが声を零す。
「……悠一くん、やっぱりうちの友希那に乗り換えない?正直私はもう君のことを認めてるし、友希那との結婚も即オーケーだよ?」
「お前、今の会話を本当に聞いてたのか?」
「ごめんなさい、自分リサ一筋なんで……」
リサのお父さんのツッコミに続いて、やんわりと断りの意思を示しておく。随分軽いノリではあるが、目を見ると存外ガチっぽい気もするのでちゃんと断りの意思を示さなければマズい気がする。
ただまぁ。その断るために使った言葉を間違えたというか。
「でも君、割と長い間友希那とリサちゃんの間で揺れてはっきりしなかったらしいね」
「ぐふぅ」
まさかそんなことまできっちり伝わっているとは。
予想外の一撃に思わず崩れ去ると、友希那のお父さんのほうから笑い声が聞こえてくる。思っていた以上に愉快な人だったらしい。
リサのお父さんは苦笑しているあたり、昔からこのノリに巻き込まれてきたのだろうなぁ、とちょっと同情する。
「うーん、ノリもいいときたか。友希那、これから全面的にお父さんも協力するから、頑張って悠一くんを落としてくれよ?」
「いえ、別にいいわ。お父さんが協力するとむしろ失敗しそうだもの」
「えっ」
「というか。わりとこいつは昔から恋愛は下手だぞ。結婚したのだって、あくまでこいつが攻略されたからだしな」
「お前ェ!それは友希那の前では言わない約束だろうが!そんなんだとあれだぞ、リサちゃんと悠一くんの前でお前の過去も暴露するからな……!」
「待て、落ち着くんだ!俺が悪かったから!この流れは両方とも死ぬ流れだ!」
わーわーぎゃーぎゃー喧嘩を始める二人の父親の姿に、ふと既視感を覚える。よく考えなくても、自分と翔馬によく似た姿だった。
これ、将来自分と翔馬も似たようなことになりそうだなぁ、と思いつつも。これだけ長く続く友情もあると思うと、未来が楽しみにもなってくる。
「未来、ね……」
思わず、ポツリと呟く。
RoseliaとRosa Rossaの皆で笑い合う、そんな未来のためにも今日の誕生日会は成功させたいところだった。
その後、父親ズとの会話を終わらせた自分は、様々な苦労を越えながら準備を進めていった。
「薫ゥ!!買い出しに行っただけで何で大量の人を引き連れてきてんだ!?」
「私の美しさが子猫ちゃんたちを惹きつけてしまっただけなんだ……。ああ、儚い……」
本来全然関係ない人々が集まってしまい、突発的に発生してしまった薫との握手会で列整理を行い。
「氷川ァ!!いや、紗夜じゃなくて妹の方!なにこの奇抜な装飾!?」
「え、この方がるんってするでしょ?」
「お前がるんってしても意味ねぇんだよぉ!リサがるんってするようにしてくれ!」
予定外の装飾が施された部屋の修正に駆り出され。
「弦巻家ェ!何で!お前らが!こんなとこにいるの!!」
「誕生日パーティーでしょう?世界中を笑顔にするハロハピとしては見逃せないわ!」
突然やってきたこころ率いるハロハピと黒服たちに対応するために、会場を今井家の庭にまで拡張し、無駄に金がかかったことをしようとするこころを止めたりしていた。
「おかしい……。俺の努力ほとんど予定外なんだけど……?」
「ごめんなさい、ほんとにうちのこころがごめんなさい……」
頭を下げてくる奥沢さんを、気にしなくていいと宥める。悪いのは奥沢さんではない。奇抜なことをし出す一部の連中が問題なのだ。
いや、まぁ別に人が増えるのはいいのだ。会場の拡大など、作業は増えるがリサのことを祝ってくれる連中が増えるのは好ましい。ハロハピも、ライブで一緒になったりでRoseliaと面識がないわけでもないし。
ただ本当に、思いつきでおかしなことをするのはやめて欲しい。特にこころ。有名なエンターテイナーを呼ぶとか、こころがやると黒服が本気で対応し出すので止めるのが大変なのだ。
けれど、そんな努力の甲斐もあって、何とか予定の五時前には準備を終わらせられた。途中から自分が料理班を抜けた穴は、友希那のお母さんがカバーしてくれたようだし。
これで後はリサが帰ってくるのを待つだけ―――と思っていると、ちょうど玄関から鍵の開く音が聞こえてくる。
「ただいまー。ねぇお母さん、何か庭に出てるけどあれって―――」
「うぇっ!?何、何!?」
玄関からの廊下とリビングを繋ぐドアが開いた瞬間、この場に集まった全員で用意してあったクラッカーを鳴らせば、実にいいリアクションがリサから返ってくる。それにサプライズ成功を確信しながら、代表として自分が状況説明するためにリサへ歩み寄る。
「つーわけで、誕生日おめでとうリサ。これからお前のための誕生日パーティーの開催だ」
「え、え?悠一さん?何でうちに?今日予定があったんじゃないの?」
「用事、これ」
そう、自分はリサと恋人ということもあって、何も言わず誕生日当日に祝わない、というのは些か難しいところがあった。そのため、当日は予定がある、ということで翌日にしようと話をしていたのだ。
とはいえ、それ自体は真っ赤な嘘。実際はこうして今井家で誕生日パーティーの準備をしていたために、床を指すことでその事実を端的に示していた。
「え、っと。じゃあ結局明日は無し、ってこと?」
「ん、いや、それはそれで二人っきりでも祝いたいなってことで予定通り―――おわっとぉ!?」
「リサちー!お誕生日おめでとう!はいこれプレゼントっ!」
「うわ、日菜もいるの!?」
翌日の予定についてリサに話そうとしていると、我慢できなくなったのか、こちらの後ろから氷川妹が飛びかかってくる。そこから更に、身を乗り出してこちらの頭上を越える形でリサへと包装されたプレゼントを差し出す。
女の子が簡単に男の背中に飛びかかるんじゃない、とか。いくら軽いとは言えいきなり乗られればびっくりして危ない、とか色々言いたいことはあるのだが。何はともあれである。
「氷川お前ほんと勝手な行動するのやめない!?プレゼントは後で、って決めただろ!?」
「えー、別にいいじゃん、ちょっと先行してプレゼント渡すぐらい。ていうか悠一さんあたしのこと日菜って呼んでよ。お姉ちゃんとどっちを呼んでるかわかり辛いじゃん」
「じゃあ日菜、お前こっちがどれだけ苦労して段取り考えたか分かってる?人数多いから時間の都合とかあって、結構大変だったんだぞ?」
「……えーと、日菜と悠一さん結構仲いいんだね?何時から知り合いだったの?」
リサからの疑問に、思わず背中の日菜と顔を見合わせる。そして質問への返答のために一度日菜を背中から降ろし、
「「今日、仲良くなった!!」」
「ああ……うん、なんていうか二人は簡単に仲良くなれそう、っていうのは何となく分かる」
肩を組んで、二人揃ってサムズアップで返した。
元々、日菜のノリはこちらに近いところがある。そのため、本来であればかなり仲良くやれるのだ。今回に限っては計画を乱されるから怒っていただけで。
実際リサも、呆れ顔ながらも納得してくれたようであるし。
ただまぁ、呑気に話していたが、ここには他にも人がいるわけで。日菜が一人フライングしたら、黙っていない人間もいるのだ。
「ズルいわ!私たちもプレゼントを渡すわよ!」
「え、あたしも!?ちょっと、こころ!?」
「あこも渡すー!」
「あ……あこちゃん……!?」
そうなってまえば、後は雪崩の如く。皆がわいわいとリサの元へ集まり、プレゼントを渡しながら会場、すなわちリビングの方へと押しやっていく。
この段階で既に、誕生日パーティーの計画は総崩れも同然だったりするのだが、まぁそこに関してはもはや諦めている。いや、だってハロハピがいる段階で……ねぇ。
それでも、ここに集まった全員のリサの誕生日を祝いたい、というの想いは本物だ。計画通りじゃなくたって、充分リサを祝える素敵な誕生日パーティーにはなるだろう。
―――そして実際、パーティーは恙なく進んでいく。
元々、計画と言ってもプレゼントを渡すタイミングや、ケーキを出すタイミングぐらいしか決めてなかったのだ。順番が前後した程度では大きな影響もない。
主賓の独占はあまりよくない、という共通認識もあり、参加者が代わる代わるリサと会話していく。もちろん、リサの方もずっと誰かと話していては疲れてしまう、というのも誰もが理解しているので、時々家族や友希那だけでゆっくりと過ごす時間も確保している。
あとは食事とプレゼントに会話だけでは味気ないので、希望者が簡単な見世物をしたりもした。……ミッシェルのナイフ十個でのジャグリングには流石に驚かされた。奥沢さんはいったいどこへ向かっているのだろうか。
そんな風にパーティーは楽しく進んでいき、親御さんやRosa Rossaの大学生組はアルコールも入ってくれば、リサへのお祝いが一通り済んだんのもあって、それぞれがそれぞれで楽しむ時間になってくる。
翔馬が飲んでいるお酒に日菜が興味を示し、それを紗夜が止めたり。あこ姫がハロハピのメンバーにNFOに興味がないか聞きにいくのに、RinRinが巻き込まれたり。
自分も自分でアルコールの回った友希那のお父さんとリサのお父さんに絡まられたりもした。まぁ自分も酔っているのもあって、中々楽しい時間ではあったのだが。
けれどふとした瞬間、自分とリサの両方がフリーの時間が生まれる。そして偶然にも目線が合い、思わず苦笑しながら庭の方へとリサを誘う。
「……ふぅ……夜風が気持ちいいな」
「夏場とはいえこの時間だとねー」
もはやパーティーもお開きが見えてくる時間だ。だから最後にこの時間が確保できたのは僥倖なのだろう、と思いながらリサと二人、庭の端っこで夜空を見上げる。
「やっぱ住宅街だとあんまし星は見えないなー」
「まぁ光源が多いからしょうがないんじゃない?」
確かにリサの言う通りではあるのだが。折角の雲のない夜空に、月の光も弱いという状況であるのに星が見えづらい、というのは惜しく思えてしまう。
「……あー、今度デートで星空が見える場所か、あるいはプラネタリウムでも行くか」
「あ、いいね。そういえばそういうの二人で行ったことないし」
存外、そういうものを見る機会って少ないよなぁ、と呟く。実際、自分が最後にプラネタリウムに行ったのは小学生ぐらいではないないだろうか。
そんな風に会話をしてしばらく時間を稼ぐが、そのままじゃいけないと気合を入れ直す。リサの方もただ話すだけで呼び出したのではない、と理解しているようでこちらの様子を伺っているのが分かる。
女の子をあまり待たせるわけにもいかない、と勇気を振り絞り口を開く。
「……まぁ、もう察してると思うけどプレゼントを渡そうと思ってさ」
「あ、やっぱり?悠一さんからだけは貰ってなかったし、もしかして無いのかなってちょっと不安だったんだよー?」
それは申し訳ないことをした、と素直にごめんと頭を下げる。そんなこちらに、リサはニヤニヤと笑いながら言葉を発する。
「許すかどうかはー、プレゼント次第かなー?」
「……それなら、大丈夫そうだな」
自信ありげなこちらの返しが予想外だったのか、リサが目を丸くして首を傾げる。わりとリサって仕草あざとい時あるよな、と思いながら懐から薄い縦長の、包装がされた箱を取り出す。
「つーわけで、改めて誕生日おめでとう。できたらここで開けてくれると嬉しいかな」
「えっと、そういうことなら、開けるね?」
リサがゆっくりと包装を外し、箱を開ける。そして中から出てきたのは―――チェーンに通された、シンプルなシルバーリングだ。
「指輪……?」
「まぁ、なんつーか、誓いみたいなもんだよ」
どうにも、今からこっ恥ずかしいことを言おうとしている自覚はある。だけど、今回は言っておかなければいけないことだと思うので、お酒の勢いを借りてだがはっきりと言葉にする。
「告白の時は、はっきりしなくて大分待たせて泣かせちまったからな。
「……はっきり言葉にはしてくれないの?」
「まぁ別にしてもいいんだけど。個人的にはちゃんと本番で、今度はもっとちゃんとした指輪を渡しながら言いたいかなって。それじゃあダメか?」
「んー……はっきりと聞きたい気もするけど。でも本番で初めて聞くのもいいかな」
正直、今言葉にしないのは完全なこちらの我儘だ。だから受け入れてもらえるかは不安なところではあったのだが、認めてもらえてよかった。
それでもやっぱり、明確に言葉にしないというのは不安なところもあるだろう、というのもある。だから最低限、今言えることを言葉にする。
「……好きだよ、リサ。お金とか家とか、準備ができたら必ず伝えるから」
「私も好きだよ、悠一さん。今度は待たせ過ぎないでよね」
リサの言葉に任せとけ、と返す。流石に二度も泣かせてしまうほど待たせるわけにはいかない。今できることからコツコツとやっていかなければならないだろう。とりあえずはリサのお父さんに認めてもらうことと、バイトで少しでもお金を溜めておくことだろうか。
―――リサが隣にいて、皆で笑い合える未来を。
そんなことを願いながら、リサと二人、しばらく夏の夜空を見つめ続けた。
改めてお誕生日おめでとうリサ。
というわけでリサの誕生日回でした、っと。
おまけ含めて青薔薇完全完結です、多分。
実はこの誕生日回は連載時から計画しててね?
それも書いてしまって本当にこれ以上の更新の予定はございません。
もしかしたら思いつきで、ワンチャン何かあるかも、くらいで。
そんなわけで、青薔薇ではさようなら。
今連載中の己が為もよろしくね。