「ヘルプ、リサちゃん超ヘルプ」
「はいはい、どうしたの悠一さん?」
とある何でもない日。強いて言うならここ数日は快晴であり、季節的にも適度に暖かく外出日和な日。
そんな日に自分とその彼女である今井リサは家デートと洒落こんでいた。NFOがちょうどイベントに突入したのがいけない。
そんな、誰に対してかも分からない言い訳を内心でしつつ、リサが煎れてくれたお茶を受け取る。そのまま、自分はNFOでのイベントステージの周回に戻り、リサはお茶を用意する前からしていた読書に戻る。付き合ってからそれなりにデートを重ねてきたが、自分たちは定期的にこうしてただどちらかの家でゆっくり過ごす日を設けていた。
毎回どこかに出掛けていては金銭的な問題もあるし、これから先、まだまだどこかへ遊びに行く機会はある、という判断だ。
「それでー?ヘルプってどうしたの?NFOで何か手伝うことでもあるの?」
リサから受け取ったお茶を飲み、モニタを見つめ続けて疲労が溜まったために目頭を揉むことで解していると、リサからそんな言葉が飛んでくる。
それに相談があったのだった、とNFOのアバターが街の中の安全圏にいることを確認し、相談ついでに一度完全な休憩に入ってしまうことにする。
街の広場へとアバターを移動させ、意味もなくダンスモーションをやらせたらモニタの前からリサのいるちゃぶ台の傍へと座り直す。
「ちょっと、相談なんだけどな?」
「あれ、わざわざこっちに来たってことはわりと真面目な相談?」
日頃から自分はリサに小さな、下らない相談もしている。そのため今回も大した相談ではないと思われていたらしく、わざわざちゃぶ台を挟んで対面へと座ったこちらを意外そうに見てくる。
確かにここ最近ではこうして対面で相談することなど、デート先を決める時ぐらいのものだ。それにしたって、最終的には互いのスマホの画面を見せたり、雑誌の記事を見せたりで隣に移動することが多い。だから今のこの状態は本当に珍しいと言えた。
普段であればそれを話題にして話を広げていくのだが、今回ばかりは真面目に相談したいことが自分にはある。ちゃぶ台の上に腕を置き、実はと一言挟んでから改めて口を開く。
「いや……今月、友希那の誕生日だろう?」
「ん……そうだね、あと三週間くらい?」
「誕プレ用意したいんだけど、どうしよっかなって……」
思わず眉間に皺が寄るのを自覚しつつ、そうリサに相談すれば、リサもあー、と呟くようにして困った顔となる。それにはて、と思わず首を傾げる。
リサの方は今まで幾度となく友希那の誕生日を祝ってきたはずだ。実際、そういう話を何度か聞いている。幼馴染ということもあって趣味もしっかり把握しているだろう、と今回相談相手に選んだわけだが。
それがむしろ彼女の方が困った顔になるとは、一体どうしたのだろうと疑問を覚える。
そしてそれを正直にリサに対して言えば、いやね、と言葉が返ってきた。
「まー、そりゃ友希那の趣味はしっかりと把握してるよ?でもねー……そう何度も祝ってくるとそろそろあげてないものがなくなってくるというか……」
「端的に言えばネタ切れになった、と」
気まずげに顔を逸らし言葉を濁すリサに対し、核心を突くことを言えば、観念したようにリサが頷く。まぁ確かに何度も祝っていればパターンがなくなってくる、というのは分かる話ではある。むしろよく今年まで一人でバリエーションを用意してきたな、という感心すらあった。
とはいえこちらとしてはそれでは困るというもの。リサに頼り切り、なんて気は元よりなかったが、参考程度に意見は貰おうと思っていたのだ。それが急に宛てにならなくなっては今から新しく対応を考えなければならない。
「というかむしろアタシの方が悠一さんに相談したいかなーって……。ほら、互いに困ってるわけだし、いっそのこと二人で一つのプレゼント送る形にしない?」
その提案にふむ、と少し考える。自惚れでなければ自分一人からの贈り物の方が喜ばれる、とは思う。いや、だって未だに友希那に口説かれるし。
ただだからこそ、妙に脈ありと思える対応はしないようにしなければならない。そもそも彼女持ちな段階で脈ありもクソもないはずなのだが、友希那の様子を見る限り本気でリサからこちらのことを奪いとる気であるようだし、下手なことはできない。
となると、あくまで自分とリサから、という形で贈るのはいいように思えた。ついでに、費用も一人で用意するよりいいだろうし、プレゼント被りも気にする必要もなくなる。
「……まぁ、そうだな。二人からって形にするか」
「本当?助かるなー」
実際、損するポイントがあるわけではないのだ。だったら特別断る必要性がなかった。
そんなわけでそこからプレゼントの代金、どう渡すかなど二人でプレゼントを選ぶ以上必要な諸々を詰めていく。
しかしそうは言っても、代金など半々にすればいいだけの話であって、他に特別決めなければいけないことも少ない。そうなると必然的に肝心のプレゼントは何にするか、という話になるのだが。
「お、思いつかねー……」
「うーん、アタシが基本的なものは送っちゃったしなー……」
贈りやすい、友人間で贈り合うようなプレゼントはほとんどリサが過去の誕生日などで贈ってしまっている。そのためマグカップなどの贈りやすいものはダメであり、元々友希那は着飾るタイプでもないためアクセサリは候補から外される。
かといって、過去リサが贈れなかったような高値のものでは友希那の方が気にしてしまう可能性もあるし―――
「……あ」
そこでふと、閃く。高価なものは何故友希那が気にしてしまうかといえば、贈る側の負荷が大きいというところにある。それは逆に言えば贈る側の負荷にならなければ気にされない、ということだ。
そして一人からのプレゼントを二人からに変更したのなら、それ以上にしてもさして変わらないだろう、とも気づく。つまり、何が言いたいのかと言えばである。
「……いっそのことRoselia、ついでにRosaRossaのメンバーまとめてのプレゼントにして、今まであげたことのない高価なプレゼントすればいんじゃね?」
「それは……いいかも」
盲点だった、と目を見開くリサに、これは存外悪くない案では、と思い始める。しかし三週間前ともなれば個人的に誕生日プレゼントを用意しててもおかしくない時期だ。
本気でこの案を実行するのであれば今日中には動き始めなければいけない―――そのため、大慌てでリサと共にプレゼントの方向性など大まかに決め、まず連絡を取る前に必要な内容を話し合っておく。
あとは一部、というか一人の文句を言いそうな人物を言いくるめる説得を考えて。ついでだから誕生日パーティーの具体的な内容も連絡してしまえと、そちらの内容も考える。
忙しくなってきた―――思わず、口元に笑みが浮かぶのを自覚した。
「「「「「―――誕生日、おめでとう!!」」」」」
「……ありがとう」
かくして、誕生日当日。三週間前から根回しをしただけあり、飾り付けや料理などはそこそこしっかりとしたものになっている。会場だけは自分の家であり、少々手狭ではあるが……それでも、約六畳三部屋だ。友人間で開催するには上等な部類であろうとは思う。
実際、主賓である友希那から文句が出ることもなく、Roseliaのメンバーが楽しそうに会話をし、それを肴にRosaRossaのメンバーが酒を飲む、という形にパーティは落ち着いていた。
しかし、この誕生日パーティーはあくまで皆で友希那を祝うためのもの。RosaRossaのメンバーもいつまでも外から眺めているだけ、というわけにもいかず友希那を本格的に祝うために準備に入る。
Roseliaのメンバーから純粋な祝いの言葉をかけられ、照れからか赤くなった友希那に気づかれないようにして冷蔵庫からケーキを翔馬が。そして押し入れから隠してあった誕生日プレゼントを自分が取り出す。
そんなこちらに気づいたリサが友希那の目を覆う。いきなりのリサの行動に戸惑う友希那であるが、そこを残りのRoseliaメンバーが誤魔化し、その間に友希那の正面にケーキと、誕生日プレゼントを置く。
アイコンタクトでリサにGOと伝え、それを確認したリサの手が友希那の目から離れていく。
「これは……」
「つーわけで、俺たちからの誕生日プレゼントだ」
目隠しを外され、目の前の光景を見て友希那が呟いた言葉に、端的に答えを告げる。それにしばし戸惑ったように右手を彷徨わせた友希那がゆっくりと長方形の包装が施された箱を持ち上げ、その視線で開けていいのかと問うてくるので、全員で揃って頷いて返す。
「……腕時計?」
取り出されたのは、シンプルな女性向けの腕時計。どうせなら後々も残るものにしたい、というのがほとんど全員の意見。しかし友希那はアクセサリをさほど付けない、ということで選ばれたのが実用性もある腕時計だった。
デザインは腕時計としての基本的な機能しかない、小さなものだ。しかし濃いめのベージュを基調とし、ところどころ淡いピンクがあしらわれたそれは日頃の友希那の服装に合わせながらも、女の子らしい可愛らしさがあるものだった。
流石にここにいる全員で買いにいくわけにも行かず、一々写真をチャットアプリのグループに上げたり、女性が多いために議論が白熱したりと選ぶのが大変だったりもしたが、それは言わぬが花というもの。
嬉しそうに、同時に戸惑うようにしながら腕時計を付けてみせる友希那を皆でニヤニヤしながら見守る。
「とても嬉しいけれど……こんな高価なもの、いいのかしら?」
「いいのいいの、皆で出し合ったから一人一人の負担はそうでもないし!」
「いいから大人しく受け取りなさいよ。それが主賓の義務よ」
友希那はリサの言葉に納得を示し、翠香の物言いに呆れながらも同時に観念したようで、ようやく戸惑いが消えて純粋な笑みを浮かべる。
それにやっとか、と皆で若干呆れ、同時にプレゼントが受け入れられたようで安堵の溜息を吐く。
「皆ありがとう。とても……ええ、とても嬉しいわ」
「そんな喜んでる湊さんに朗報だぜ!」
「なんとー、友希那さんへのプレゼントはもう一個あるのです!!」
翔馬とあこ姫によるサプライズが告げられた次の瞬間、リサや紗夜に友希那の方に押し出される。マジでやるのか、と後ろを振り返れば、全員から返ってくる大きな頷き。マジかぁ、恥ずかしさから天を仰ぎ、味気のない天井しか見えないことに思わず片手で顔を覆う。
深呼吸を一つ。腹を括り、大きく胸を張る。そしてそれを確認したリサがこちらの肩に手を乗せて、友希那に向けて言葉を発する。
「と、いうわけで追加のプレゼントは悠一さんです!」
「煮るなり焼くなり好きにしろぉ!!」
気分はまな板の上の鯉。プレゼントとして渡されてしまった以上は、受け取った友希那の言うことを聞くしかない。自分と友希那の関係は、今は普通に友人でこそあるものの、過去には友希那が告白し、こちらはそれをフッている。何をされても文句は言えない状態だった。
「……いいのかしらリサ、彼氏を差し出して?」
「友希那だけの特別だよー?あ、でも一日だけだからね!?」
そう、と呟いた友希那は一度目を閉じたあと、何かを考えているのかしばしそこで固まる。そして数瞬経った後、目を開けたかと思えばいきなりこちらとの距離を詰め、
「―――なら、その一日で悠一さんの心を奪えばいいのね。そうすれば一日だけ、というのも関係なくなるもの」
顎クイと共にそんなことを言い放った。久々のイケメン友希那降臨だった。
「……ごめんリサ。次に会った時には友希那の女にされてるかもしれない……」
「しっかりして悠一さん!!」
「バリタチ湊友希那……」
「りんりん何か言った?」
「ううん……なんでもないよ、あこちゃん……」
そんなこんなで、別日にイケメン友希那に思いっきり口説かれることになるのだが、それはまた別のお話。
改めて、誕生日おめでとう友希那。
突貫工事なのでガバオブガバ。
ぶっちゃけ最後のイケメン友希那が書きたかっただけである。