青薔薇に憧れて   作:天澄

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#8.協力者を求めて

 ―――将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、という言葉がある。

 

 大雑把に言えば目的を達成したいのであれば、まずその周辺のことから片付けろ、ということである。外堀を埋める、と言い換えてもいい。

 昨日同様ファミレス内にて。約束した相手を一人ドリンクで喉を潤しながら待つ。時間としてはやはり、待ち合わせ時刻より少し早い。マナー、という話ではあるのだが、それ以上に他人を待たせた、という事実が自分は嫌いだった。特に明確な理由があるわけではないが、単純に自分が納得がいかない、という話だった。

 待ち合わせ相手は、まだ来ない。曰くバイトの後になる、ということだったから引き継ぎ周りが遅れれば多少遅くもなる、とは予想しているので特に焦ることもない。

 

 ―――湊さんを攻略するにあたって。

 

 言い方は悪いが、彼女を攻略するのは些か難しいところがある、と個人的には思っている。彼女は何というか、人生のリソースをほぼほぼ音楽に割り振っているイメージなのだ。連絡先を貰い、多少なりともやり取りをするようになって分かったことだが、彼女は家に帰ってからもほとんど音楽関係に時間を費やしているらしい。そのストイックさは格好いいとは思うが、いざ彼女にこちらのことを恋愛対象として認識させるとなると大きな壁になってくる。なんてったって、恋愛に興味がないのだ。今のままでは恋愛よりも音楽、となるのが目に見えている。そこを無理矢理にでも振り返らせるのが男の見せどころだとは思うが……どうにも、それができるヴィジョンが自分には思い浮かばなかった。

 故に。自分は彼女を頼ることにした。

 

「いやー、ごめんごめん。お待たせしました」

 

「気にしなくていいよ今井さん。急に誘ったのはこっちだからな」

 

 そう、今井リサという湊さんの幼馴染。それが待ち合わせの相手であった。

 湊さんを自分一人では振り向かせることができないのであれば。必然的に必要なのは他者の協力になってくる。その中でも自分に伝手があり、かつ湊さんに大きな影響を与えられるとしたらRoseliaメンバー、特に幼馴染と最も関係が深い今井リサ、彼女しかいないのは明白だった。

 外堀を埋める、最終的にはRoseliaメンバーも巻き込めれば万々歳なのだが、何はともあれ最初に今井リサという少女をこちらの味方につける必要がある、と判断したために、こうして彼女と二人きりの状況を作り上げていた。

 

「それで、相談があるって話でしたけど、どうしたんですか?」

 

「まぁ、そうだな……」

 

 最初から本題に入るか、少し判断に迷う。だいたい、この協力要請についての結果というか、落としどころは見えている。そこから先を考えると、なるべくこの後の時間をとっておきたいところではあるのだが。

 ……急いては事を仕損じる。まずは焦らず落ち着いていくべきか、と判断して世間話から始めていくことにする。

 

「相談ってのは二つ。まず軽い方からな」

 

「オッケー」

 

 新たに今井さんがこちらの席へと来たために注文を取りに来た店員に対して、今井さんの分のドリンクバーと、あとは軽くつまめるものを注文する。昔、暇な時間をほとんどバイトに回していた時もあったのだ。ある程度の散財をしても平気な程度には懐に余裕があった。

 

「で、相談なんだけど昨日菓子作りを昔やってた、って話をしただろ?」

 

「そういえば、言ってましたね」

 

「んでさ、何でやめたかって言えばちょっと行き詰ったからなんだよね」

 

「行き詰った?」

 

「そうそう、まぁレシピ通りとかは余裕だし、多少のアレンジならできるんだけど。思いっきりアレンジを加えるのができなくてねぇ……」

 

 無論、嘘である。行き詰ったのは嘘ではない。ただ行き詰ったのは決して技術的なものではなく、精神的なものだ。お菓子作りはできるが夢中になれないし、さほど楽しむことができなかったのが本当の行き詰った理由だった。

 わざわざ嘘を吐くのは単純に見栄を張ったのだ。夢中になれることがなかった、なんて話、他人あまり言いふらすようなものではない。それに結局それは過去の話なのだ。今なら、お菓子作りも教えてくれているRoseliaメンバーに対する礼だと思えば多少楽しめそうな気もした。

 

「えーと……?」

 

「まぁ、確かに今のじゃどう行き詰ったか分かりづらいか」

 

 そうだな、とどうやらこちらがどういった点で行き詰ったかが分からなかったらしく首を傾げる今井さんに説明するために具体例を考える。少なくとも今後、真面目に再びお菓子作りには手を出す予定なので、本当に分からないところを確認する気ではあった。

 

「例えば、昨日今井さんが作ってきてくれたクッキー。あれをバニラクッキ―として少しだけ好みに合うようにアレンジするのはできる。でもそれを抹茶風味にする、方向性自体を変えるみたいなアレンジは苦手って感じかな」

 

「あー、なるほど……」

 

 今度はどうやらこちらの言いたいことが正しく伝わったらしく今井さんが返答に悩みだす。やはりこの後のことを考えると、この時間が惜しいようにも思うが、まぁ別に今日じゃなければならない理由はどこにもないのだ。初めて熱中できた音楽然り、湊さんに対する初恋然り。もっと焦らずゆっくりと進めるべきなのかもしれない。

 やがて考えがまとまったのか口に出された今井さんなりのアドバイスを、メモを取りながら聞いていく。そしてそこからそのまま、過去の経験を思い出しながら、お菓子作り談議に花を咲かせていく。

 そうやってしばらく会話が弾み、場が温まってきたと判断できるようになった頃。そこまで来て初めて、本題に入ることにする。

 

「……さて、そろそろもう一個の相談にいこうか」

 

「あ、そっか、まだ相談あったんだっけ」

 

 話が弾む中で元々練習中もよく話すこともあり、互いに友達と言える仲にはなったと感じていたため、今井さんの方からの敬語は自然となくなっていた。元々湊さんは敬語を使っていないし、大学では先輩はともかく浪人などで一個上の友人とかはそれなりにいる。そういった相手とため口で話すことも多く、年齢に応じて敬語が必須、という感覚は少なくとも自分の中では薄かった。

 

「一応、こっちの相談が本題になる」

 

「重要な話ー?」

 

「まぁ……そうだな。少なくとも俺にとっては重要だ」

 

 真剣な声音でそう告げれば、それに呼応してまた今井さんの表情も真剣なものになる。そんな彼女に対し、いざ本題を話そうとすると言葉に詰まってしまう。やはり、この話題は他人に話すのは気恥ずかしいと思いつつも、先に進めるためには必要だ恥ずかしさを精神力で握り潰し、今度こそ言葉にする。

 

「今井さんに、俺が湊さんと付き合うための協力がして欲しいんだ」

 

「……なるほど、ね。そういう話かー……」

 

 どうやら今井さんにとってこの話題は予想できなかったというほどのものではないらしく、さほど驚いた様子は見られなかった。けれどどう対応したものか困っているようなので、悩む様子をしばし見守りながら待つ。

 

「そうだなー……まぁ、悠一さんが悪い人じゃないってのは分かるよ」

 

「そりゃどうも」

 

「でもね……まずは一つ確認させて欲しいの」

 

 そう切り出した今井さんは、今までになく真剣な表情をしている。間違いなく、これから問われるのは重要なことだ。ともすればこれ如何では、今井さんの方から湊さんに対しこちらの練習を見ることをやめるように伝えられるかもしれない―――そんなことを脈絡もなく予感させるほどに彼女の放つ雰囲気は重く、真剣であった。ならばこそ、その問いに対し自分は誠実であらねばならないと、何を問われても正直に答える心構えを整える。

 

「……悠一さんが歌をやってるのは、友希那と近づくため?」

 

 ……その問いに思い返すのは始まりであるライブの日。あの日、Roseliaの音楽に憧れたのが先か、それとも湊さんに一目惚れしたのが先なのか。

 

「……少なくとも、始めた理由は憧れもあったし、湊さんに対する恋心もあった。湊さんに練習を頼んだのも打算がなかったとは言えない」

 

 言い出しっぺである翔馬なんかは、間違いなく打算ありで提案しているだろうし、それを察した上で乗ったのが自分であったのは否定できない事実であった。だからそこは正直に言うしかなかった。ただそれとはまた別に、現在の話になれば違ってくる。

 

「でも例え切っ掛けがそうであったとしても、俺は今、歌うことが楽しいし、上手くなっていくことも楽しい。不純なものがゼロとは言えないけど、それでも俺なりに音楽に対して真摯に、向き合っているつもりだ」

 

 そこまで言い切って、自らの思いを届けるように今井さんの目を見つめる。それに対する今井さんは探るようにしばし、こちらを見たあと、唐突に大きな溜息を吐いた。

 

「……ま、だよねぇ……」

 

「……え、っと、何がだよね、なんだ?」

 

「あんな風に気持ちのいい歌を歌える人が、友希那に近づくためだけに歌をやってるとは最初から思ってなかったって話だよ」

 

 苦笑しながらそう言い切る今井さんに、思わずはぁ、と気が抜けた返事が漏れる。ようするに、今井さんにとってはこれはただの確認作業でしかなかった、という話なのだろう。どうにも真面目に考えていた自分がアホらしくなる話であった。

 

「まぁ大事なところだからさ。確認しないわけにはいかなかったの」

 

「……そう、だな。確かにあれだけ歌に真剣な湊さんなんだ、半端な気持ちでやってたら失礼だもんな」

 

 一応、今井さんが何を危惧していたのかは、理解できる。あれだけ歌に真剣な湊さんに対して、ただ湊さんに近づくために歌を利用していたのだとしたら、それはあまりにも不誠実に過ぎる。今井さんにとってそれは何よりもまず明確にしなければならないポイントだったのだろう。

 

「さて、それじゃあそれを踏まえてなんだけど。アタシは悠一さんが友希那にアプローチをかけるのは邪魔しない。だけど協力もしない」

 

 そう余りにも自然な流れで放たれた言葉に、しかし驚くことはない。それは充分に予想できた返答だったからだ。そう、どうしようもないほどに単純な話としてである。

 

「俺に協力する義理はない、って話だよな」

 

「そういうこと。あんまり、優劣をつけるのは好きじゃないけど……悠一さんと友希那、どっちをとるかって言えばアタシは当然友希那を選ぶ。それが友希那の幸せに繋がるっていう確証がない以上、アタシは悠一さんを友希那とくっつける手伝いをするつもりはない、かな」

 

 完全に、予想通りの答えだった。元々、一番この返答が確立が高いと睨んでいたため、もちろんここからの対策はあるのだが、それでも一番楽な返答でなかったことに落胆せざるを得ない。

 湊さんと恋仲になるための外堀埋めとして、最初に今井さんを選んだのはただ強力な手札になるからではない。今こうして断られていることから分かるように、最も協力を取り付けるのが難しいからだ。彼女は幼馴染というのもあって、Roseliaメンバーでも一番湊さんのことを案じているのが短い付き合いでも分かる。だからこちらが湊さんのためになる、と提示できない限り、協力は得られないという難易度の高さだった。しかしそれは逆に言えば、彼女とさえ協力関係が築ければ今後、難しいことはそう多くないということだ。故に、どうにかして彼女と協力関係を、あるいはその前提となり得る関係を築きたいところだった。

 

「……俺の見立てでは、湊さんは歌に人生を賭け過ぎて、どこか不安定さがある。彼女の視野を広げるって意味でも悪くない話だと思うが?」

 

「確かに悪くはないんだけどねー。でも友希那は今、Roseliaを組んでから少しずつだけど変わってきてるし、焦る必要もないと思うんだ」

 

 手札を一つ切るが、これもまたあっさりと反論されてしまう。それも予想通りではあったが、こうなってくるとどうにもこれ以上何か手札を切っても無駄な気がしてくる。事実、それに、と続いて今井さんから放たれた言葉は致命的だった。

 

「申し訳ないけど、悠一さんである必要はないよね?」

 

 それは、どうしようもない事実であった。湊さんが恋人を作る利点は提示できなくもない。そもそも恋人云々を利点などで語るのがナンセンスであるのだが、他者の協力を得る場合であればそれは必要になってくる。しかし、結局自分、藍葉悠一が湊さんの恋人になる利点というものは存在しないのだ。人間関係など複雑で、必ずしもいい影響を与えるなどと断言できないのだから、自分である必要性など提示しようがなかった。

 

 ―――だから必要なのは今井さんの方が、こちらに湊さんと恋人になって欲しいと思わせること。

 

「……そういうことなら、提案がある」

 

「ん、どんな提案?」

 

 首を傾げる今井さんに何と伝えるかを考える。結局、予想通りの落としどころではあったため、既に何を言うべきかは決まっているのだが、その提案を飲んでくれるかは別だ。だから彼女が受け入れやすいのはどんな言葉か考えかけ、どうせ今後の付き合いで打算諸々はバレる可能性が高いのだから、何事も誠実に行くべきだよなと判断しストレートに伝えることにする。

 

「もし今後の俺と今井さんの付き合いで、今井さんに俺が湊さんに相応しいと思わせることができたなら、その時は協力してほしい」

 

「まぁ……それだったら、別に構わない、かな」

 

 その返答に言質はとったと内心ガッツポーズを決める。そしてそういうことであるならば善は急げ、彼女を納得させるための行動に出るべきである。何をするかと言えばシンプルであり、それはつまり。

 

「つーわけで今井さん、今からデートしようぜ!」

 

 そういうことである。




ギャルゲー風に考えると、友希那を攻略するには一週目でリサ姉を攻略してある必要があるイメージ。

そういや明日Roseliaのバンドストーリー二章追加だけど、基本的には拾わない方向で。組み込む想定でストーリー作ってないからね!まぁ使えそうな設定あったら使うけどさ。
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