貴方のいない楽園を目指して《完結》   作:日々あとむ

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 書籍12、13巻。アベリオン丘陵――これを見た時、かねてより書いてみたかったオリ主ものの構想が完成した。
 なので書く。
 


Prologue

 

 

 西暦2138年、DMMO-RPGの一つ〈ユグドラシル〉というゲームが終わる最後の日。社会人の異形種ギルド〈アインズ・ウール・ゴウン〉のギルド長モモンガは、仕事が終わり帰宅してすぐにそのゲームへとログインした。

「……誰か、メールに反応してくれているかな」

 ギルド〈アインズ・ウール・ゴウン〉は既にギルドメンバーがほぼ引退し、活動停止状態になっている。しかし、モモンガはせめてこの〈ユグドラシル〉最後の日くらいは、と他の構成メンバー四十人にメールを送っていた。――最後くらい、会えませんか……と。

 しかし、忙しくて無理だと返信する者や、中にはメール返信さえしない者もいる。いや、むしろメールの返信が出来る者の方がまだ安心出来た。メール返信さえ出来ない者は、ゲームを辞めた理由が理由であったりと、とても不安になるからだ。

「……はあ」

 モモンガは溜息を吐きながら、〈ユグドラシル〉にログインする。視界に映るのは、九つの世界の一つヘルヘイムに存在するギルド拠点、ナザリック地下大墳墓の円卓の間だ。ギルドメンバーが〈ユグドラシル〉にログインした場合、必ずこの場に出現するように設定されている。

 モモンガは黒曜石の輝きを放つ巨大な円卓と、そこに並ぶ41人分の空の椅子を見て、再び溜息を吐いた。

「そうだよな……。皆、忙しいもんな……」

 モモンガはそう呟き、コンソールを開く。一応、誰かがログインしていないか調べるためだ。コンソールを開いたモモンガはフレンドページを開き、ログイン状態を調べ――

「…………あれ?」

 一人、既にログイン状態になっている名前を発見した。

 彼は、仕事が忙しくなってログイン出来る暇が無くなったと言って、ゲームを辞めた一人だ。〈ユグドラシル〉のサービス終了が決定した為に一ヶ月前に出したモモンガのメールにも、確か忙しくて来れないと返事をしていたはずなのだが。

「もしかして、来てくれた……?」

 モモンガは忙しい合間を縫ってログインしてくれた仲間に、気分が高揚する。急いで連絡を取ろうとして……ふと、ログイン時間を見て不思議な事に気がついた。

「……早朝からずっとログインしっ放しなのか、これ?」

 ログイン時間は、完全に今日の早朝時間を掲示している。それに気がついたモモンガは内心疑問に思いながら、急いで件のギルドメンバーに連絡を入れた。

「もしもし、モモンガですけど……ウィーウェさん?」

 モモンガがギルドメンバー……ウィーウェ・ホディエーにメッセージを送ると、懐かしい、いつもの暢気そうな男の声が聞こえた。

『あ、ギルド長! ども、お久しぶりでーす!』

「ウィーウェさん、来て下さったんですね!」

 確かにウィーウェの声が聞こえて、モモンガは嬉しくなる。

「今、どこにいらっしゃるんですか?」

『今? 別の世界(サーバー)。さすがに早朝からだと仕事が休みの奴かニートしかいねーしで寂しかったよー』

 どうやら、ヘルヘイムにはいないようだ。

「ログイン時間なら、俺も見ましたよ。ウィーウェさん、仕事が忙しいって言ってたのに、どうしたんですか?」

『ああ、それ?』

 ログイン時間を見て不思議に思っていた疑問を告げると、ウィーウェはあっけらかんととんでもない爆弾発言をした。

『実はさー、俺の会社倒産した!』

「……はい?」

 あまりに気軽に放たれた言葉に、モモンガはしばし呆然として……引き攣るように叫んだ。

「と、倒産!? どうしたんです一体!?」

『知らない。なんか、親会社の上の人の鶴の一声で決まっちゃったんだってさー。まいっちゃうよなー』

 いつものように、暢気そうなウィーウェの声。今この場には、全く相応しくない。

「いやいやいや! もっと焦りましょうよウィーウェさん! 貴方、これからどうやって生活する気ですか!?」

『えー……まあ、明日から仕事探し始めりゃ何とかなるんじゃない? ならなかったら、とりあえずその辺で野垂れ死んどくわ』

「えー……」

 あんまりなウィーウェの言葉に、モモンガは呆れ果てる。

 しかし、元からこの男はこういう男なのだ。暢気していると言うか、無駄に前向きと言うか。近接の報復者系クラスでビルドを固めているプレイヤーのくせに、本人の性格は全く陰湿さの欠片も無い。そのため、同じギルドのウルベルト・アレイン・オードルやたっち・みーなんかは、ウィーウェの事を苦手にしていた。ただ、代わりと言うかギルド内でも珍しくモモンガでさえ苦手とするるし★ふぁーと仲が良いのだが。

「朝からゲームしている場合じゃないでしょう……ウィーウェさん」

 そうは言うが、モモンガは全く怒ってはいない。それどころか、不謹慎ではあるが喜んでいた。ウィーウェは、明日から生活出来るかどうか分からない不安を放置して、モモンガのために最後の一日だけ〈ユグドラシル〉に帰って来てくれたのだ。

『あ、ギルド長。俺の装備品全部霊廟から回収したからね。今、色んなところでPVPやったり、ネームド狩ったりしてるからさ』

 霊廟は、引退したギルドメンバーの主力装備品を保管している、ナザリックの宝物殿にある場所の一つだ。ウィーウェは霊廟が製作された時にはまだいたので、自分の装備品が何処に保管してあるか知っていたのだろう。ウィーウェは引退はしたが、アカウントは一応残していたタイプだった。

「そうですか。別にかまいませんよ。あの、それよりウィーウェさん……まだウィーウェさんと俺以外、誰もログインしていないみたいですし、もし良かったら……」

 モモンガは、自分も一緒にウィーウェと共に冒険に出たかった。サービス終了時刻まで、残り僅かも無い。今夜の深夜〇時には、〈ユグドラシル〉は終了する。だからこそ、たった一人でも、最後に仲間と冒険に出たかった。

 しかし――

「……あー……久しぶりだと頭が揺れる」

「あ」

『お? また一人ログインしたっぽい?』

 円卓の間に、更に一人追加される。まだアカウントが残っている、そしてここ数ヶ月全く顔を見ていなかった、引退していないギルドメンバーだ。

『あっと、俺もそろそろネームドと接触するから。また後でねギルド長』

「へ? あ、はい。また後で会いましょうウィーウェさん」

「お久しぶりですギルド長ー……もしかして、自分が最後ですか?」

「いえいえ、そんなことないです。とりあえず、席に座りましょうか」

 モモンガはウィーウェとの通信を切って、やって来た久しぶりのギルドメンバーと椅子に座って、会話に花を咲かせた。

 

 

§ § §

 

 

「――――はあ」

 ヘロヘロが去って静かになった円卓の間で、モモンガはひとりぼっちで溜息を吐く。疲れ切っていたヘロヘロに対し、モモンガはどうしても最後の勇気が出なかった。

 一緒に、サービス終了を過ごしませんか、と。その一言が、どうしても。

 同じ社会人だ。ヘロヘロが疲れ切っているのもよく分かる。そんなヘロヘロに、一緒に残ってくれなんてとても言えなかった。

 モモンガは席から立ち上がると、壁に飾られているギルド武器へ向かった。このギルド武器を作るのにも、たくさんの思い出がある。この武器を作った時の事こそ、〈アインズ・ウール・ゴウン〉の最盛期であったからだ。自分達が、最も輝いていた頃の時代だ。

 仕事で疲れた身体を鞭打って来たヘロヘロに、家族サービスを切り捨て、妻と大喧嘩をして来たたっち・みー。有給休暇を取ったと笑っていた――そんな数多のギルドメンバーの記憶が浮かぶ。

「……そうだ! ウィーウェさん!」

 ギルド武器を見て、まだログインしている仲間を思い出す。今日は一日中ログインしてくれるはずであろうし、まだいるはずだ。フレンドページを見ると、やはりまだログインしていた。

「ウィーウェさん!」

『……はいはいー。どうしましたギルド長ー?』

 少ししてから、メッセージが繋がる。モモンガは少し深呼吸をしてから、ウィーウェに告げた。

「あの、ウィーウェさん。もし良かったら、これから合流しませんか? ギルドメンバーとして、ナザリックで最後を……」

『いいよー』

 少し緊張気味の願いは、簡単に聞き届けられた。モモンガは内心喜び、ウィーウェに合流の算段をつける。

「それじゃあ、すぐにナザリックに来て下さいませんか? 後もう少しでサービス終了時間ですよ」

『……えッ!?』

 モモンガの言葉に、ウィーウェが蛙がひっくり返ったような声を出す。その声に驚いたモモンガも、思わず叫び声を上げた。

「うぇ!? ど、どうしましたウィーウェさん!?」

『え? そろそろサービス終了時間? ……うわ、マジだ! やっべ! ギルド長、急いで戻るけど間に合わないかも!』

「……何してたんです?」

 モモンガが訊ねると、ウィーウェは焦った声で答える。

『俺、今ダンジョン潜ってるよ! ネームドと戦闘中……おっと! あともう少しでコイツ狩れるから、狩ったら猛スピードで帰るわ!』

「……どこのダンジョン潜ってるんです?」

『……アルフヘイムのミラーハウスにいるジャバウォックくん……』

 声はとても小さかった。

「……アリス・ザ・ジャバウォックですか。死んだ方が早いんじゃ?」

『いやだー。あと少しで倒せそうなんだー』

「……はあ、まあ、貴方らしいですけどね。じゃあ、終わったら地上に出て、指輪ですぐ帰って来て下さいよ。……脱出アイテムはちゃんと持ってますか?」

『大丈夫! ギルド長が来るまではダンジョン潜りまくろうと思って、部屋からアイテム限界までインベントリに詰めた!』

「じゃあ、大丈夫そうですね。俺、玉座の間にいるんで」

『はいはーい』

 メッセージを切る。モモンガは少し沈黙した後――ぶほっと思わず噴き出した。

「変わってないなぁー、あの人……。そういえば、元々はソロプレイヤーだったっけ……」

 モモンガはウィーウェとの出会いを思い出す。確か、彼はぶくぶく茶釜が誘って連れて来たプレイヤーだった。しかし、たっち・みーやぷにっと萌えなどは前から名前だけは知っているプレイヤーであったらしい。たっち・みーに至ってはPVP経験があったのだと聞いている。

 ウィーウェは、元々このゲーム内の一部では有名なプレイヤーだ。ソロでストーリーイベントやダンジョン攻略をする変態プレイヤーとして、〈ユグドラシル〉のスレッドでは何度も名前が載っている。〈ユグドラシル〉の一年目プレイヤーである彼は、長くソロプレイであったので周囲はソロプレイが好きなのかと思っていた。たっち・みーもその一人である。

 が。

「最初は、何も考えずソロで活動してたら、異形種狩りが流行っちゃったせいでパーティー組めなくなって、そのまま勘違いされちゃってたらしいよ」

 と、仲良くなったペロロンチーノが言っていた。ちなみに、ぶくぶく茶釜に声をかけられてふらふらついて来てしまった理由が、『ダメ絶対音感』なる能力のせいだと言っていたが、未だにどういう意味かは分からない。ペロロンチーノが慈悲溢れる仕草とアイコンで肩を叩いていたのが、妙に記憶に残っている。

 そういった経緯でギルドに加入したメンバーなので、ギルドメンバーになった時には既にレベルは一〇〇であった。ファゴサイトーシスなどの、ソロ攻略する上で必須のクラスを習得しているのもそのせいだ。

 そしてその名残りなのか、彼はギルドメンバーがあまりログインしていない時はよく一人で冒険に出掛けている。今回も、モモンガがいない間は暇なので最後にアイテムを散財しながら、ソロでダンジョンを攻略していたのだろう。パーティー編成が一人だけならば、モンスターの体力や攻撃力、防御力もある程度は下がるように設定されている。一部の面倒なモンスターは、その設定のおかげでソロ攻略の方が討伐が早いと言われるほどだ。

「さてと。じゃあギルド武器を持って、しっかりした格好で待とうかな」

 装備を全て神器級(ゴッズ)アイテムに変更し、ギルド武器を持ったモモンガは、いそいそと玉座の間へと去って行った。

 そして。

 

「……ほんっと、あの人はもう……。どうせ、今回も何となく“たぶん間に合うよね”の無駄に前向きな精神で適当に返事をしたんでしょ」

 サービス終了時刻残り一分を切った時計を見て、呆れたようにモモンガは玉座の間の世界級(ワールド)アイテムの玉座に座り、来ない待ち人に愚痴を告げたのだった。

「……ほんっと、変わらないんだからあの人」

 ケチのついた最後もあったものだ。まあ、ゲームが終わった後にでもメールに連絡を入れればいいだろう。明日は四時起きなのだ。ちょっと彼に愚痴を言って、その後すぐに就寝しよう。でないと、仕事に差し支える。

 モモンガはゆっくりと、今頃大慌てになっているだろうウィーウェを思いながら、目を閉じて〈ユグドラシル〉のサービス終了を待ったのであった。

 

 

 




 
■Vive hodie
 今日、生きよ。
 
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