貴方のいない楽園を目指して《完結》   作:日々あとむ

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■前回のあらすじ

オリ主、腹ペコ属性を得る。
 


2章 アベリオン丘陵より

 

 

 ローブル聖王国とスレイン法国。この人間種の生活する宗教国家の間には、大きな森と丘陵地帯が広がっており、二つの国を分けている。

 森の名は、エイヴァーシャー大森林。此処には森妖精(エルフ)と呼ばれる人間種が国を築いて生活しており、法国と大森林を舞台に長年戦争を続けていた。更に、もっと奥の方には闇妖精(ダークエルフ)達も生活していると言われている。

 そして丘陵地帯の名を、アベリオン丘陵。此処では様々な亜人種族達が日夜闘争を繰り返しており、混沌の坩堝と化していた。同種族であろうと、部族間で分かれて対立しているのだ。

 ゴブリンやオークが共生している部族もあれば、単なる奴隷関係に終始している部族もある。この丘陵地帯の亜人種達は統率される事なく、ずっと戦いを繰り返していた。

 このアベリオン丘陵に棲む多種多様な亜人部族達。その内の一つ、刀鎧蟲(ブレイダー)と呼ばれる種族が集まる四十人ほどの規模の部族は、現在危機に陥っていた。

 刀鎧蟲は、手甲の部分から刀のような鋭い刃を突き出した手を持ち、鎧にも似た外骨格に包まれた昆虫のような亜人だ。彼らは他の亜人種と違って装備を必要とせず、元々の頑強さで他の部族と戦っていた。

 しかし、此処に至って彼らは、その傲慢のツケを払わせられようとしていた。

「敵兵力は、どれぐらい残っている!?」

 この部族の長――クレーンプットは、必死に入口を岩で塞いでいる部下達を見ながら、隣の参謀役に叫んだ。その体は酷く傷つき、所々外殻は砕けて血が滴っている。

「はい、族長……おそらく、六十という規模になろうかと思います」

 答えた参謀も、傷ついていた。いや、むしろ見渡しても傷ついていない者は子供くらいであろう。既に、生者の数は元々の部族人数の半分を切っていた。

「なんという事だ……。……まさか、二部族が合体するとは」

 族長クレーンプットは、震える声で呟く。そう、此処まで追い詰められた原因はそれだった。自分達と同じ人数であった部族の二つが、何があったのか知らないが合体し、自分達の部族に襲いかかって来たのだ。

 襲いかかって来た部族の種族は、人蜘蛛(スパイダン)と言われる亜人種である。彼らは四本の非常に細く長い手と細い足を持った、蜘蛛のような外見の亜人種だ。口から多様な糸を吐き、この糸でできた服は鋼鉄なみの硬度を誇る。

 その鋼鉄並みの硬度の服で武装した人蜘蛛達が、多勢に無勢で襲いかかって来ているのが刀鎧蟲達の現状だ。とてもではないが、耐えられない。鋭い刃物同様の手を持つ刀鎧蟲達でも、この服の上からダメージを与えるのは至難の業であった。

 幸い、自分達の部族は岩盤や地下洞窟のある土地で生活していた為に、こうして逃げの手を打つ事が出来た。入口を岩で塞いでしまえば、侵入するまでの時間が稼げるだろう。それも僅かでしかないが。

「族長。今の内に」

「ああ。今の内にこのまま地下洞窟を通り、別の入口へ出よう」

 互いに頷くと、急いで女子供を戦士達で挟みながら奥へ駆けていく。彼らは自分達ほど筋力が無いため、動かすのも一苦労であろうが、しかし糸を使えば岩を退かす時間を短縮出来るだろう。逃げる時間は少なかった。

 暗い洞窟の中を、懸命に駆けていく。背後で、岩を退かす大きな音が響き、更に足を急がせた。

「出口だ!」

 先頭を駆けていた戦士の叫び声に、安堵が漏れる。どうやら、追いつかれる前に洞窟を抜ける事が出来たようだ。この地下洞窟は何度か通った事がある為に、こちらに分があるとは思っていたが、それでも追いつかれたらどうなるか分からない。このような天井や壁のある場所では、人蜘蛛の方が有利なのだから。

 一番最後を走っていたクレーンプットも、外へ出る。しかし、部族の者達から異様な雰囲気を感じ取った。何か、予測もしないものがいたような……そんな、困惑の雰囲気を。

「なんだ、どうした?」

 一番最後を警戒のために駆けていたクレーンプットには、何がいるのか分からない。近くの者に訊ねながら、先頭へ近寄る。するとそこに。

「あ、やばい。倒れそう……いや、まだ大丈夫だよね? うん、大丈夫……?」

 首を捻りながら、大きな槍を抱き込んで座り込み背中を見せている真っ黒なローブを着た何かがいた。

「…………族長」

「待て」

 敵、では無いだろう。そもそも、自分達に気がついていないはずは無いのだから。これだけの人数で、ぞろぞろと背後の岩盤の裂け目から現れるのだ。寝ていたところで気がつくはずだ。

 くん、と風に乗って漂う臭いには、血臭が紛れている。自分達のものではない。おそらく、この濃い血臭は崖際に座り込んで何かをしている、何者かから漂っている臭いだ。

「…………」

 此処で、クレーンプットは考えた。このまま、この何者かを無視して逃げるべきであろうか、と。時間は無い。背後からは人蜘蛛達が迫っている。だが、この目の前の何者かを無視出来ない理由もあった。

 見えている槍が、明らかにとてつもない逸品のマジックアイテムにしか見えないのだ。黒紫色の、金属の光沢を放つ神々しささえ感じる禍々しい槍。普通の槍ではなく、その刃先は幅広大型で、突く事よりも斬る事に特化しているデザインをしているように見えた。

 そして、ここまで明らかに特別な槍を持っている、血臭漂わせる存在は、果たしてあちらが興味を抱いていないからと言って、無視していいものなのだろうか。

「――失礼! そこな武人よ!」

 迷いは一瞬だった。クレーンプットは、背後から追い立ててくる人蜘蛛の存在を一時的に忘れ、槍の持ち主に声をかける。

 声をかけられた存在は、くるりと振り返った。深くローブの帽子を被っている為に、顔は見えない。しかし、顎に当たる部分に凄まじい鋸のような物が見えたので、おそらくこの存在は自分達と同じ蟲系種族だろう。

「うん? 俺の事かい? ――って、お、あぁ!」

 武人は振り向くと、再び前を向いてオロオロと慌てた。そして、一瞬腕がぶれたかと思うとその片腕に何かを掴んでいる。

「……崩れてしまった」

 ポツリと呟かれる。どうやら、何か暇潰しをしていたようだ。手には、五センチほどの長さに揃えられた木の枝が幾つか握られている。積み木遊びでもしていたのであろうか。

「よっこいしょ」

 武人が立ち上がり、こちらを振り向くとクレーンプットだけでなく、部族の者全員がぎょっとした。身長は、おそらく一・八メートルから九メートルくらいだろう。しかし、その両腕に赤に近い色の右は肩まで、左は肘までの長さのガントレットを装着し、脚部には膝上まであるガントレットと同じ色の大きなグリーヴを装備している。ローブの下には金色の生地に黒や赤で細かな刺繍が施された衣装を着込んでいた。

「…………」

 ごくり、と喉が鳴る。もはや、この存在は明らかに普通の存在では無いだろう。アベリオン丘陵でも一握りしか存在しない、おそらく二つ名持ちだ。間違いない。

「で、何か用かい? ……刀鎧蟲さん。うん? 刀鎧蟲で種族合ってるよね? 確か、そんな名前の種族だったと思うけど」

 違ったっけ、と首を傾げる存在に、クレーンプットは前に出ると軽く頭を下げた。下手に出たくはないが、しかし例の異名持ちの誰かであった場合、礼を尽くさないのは恐ろしい。

「その通りだ、名も知らぬ武人よ。このような所で何を?」

「俺? 単なる迷子だよ、迷子。昨日一日中色々見て回ったけど、このフィールド全く見覚えねぇ! ――とかなっちゃってさー。〈ユグドラシル〉は広過ぎて困るね」

 その言葉に、今度はクレーンプットが首を傾げる番だった。

「ゆぐどらしる? いや、此処はアベリオン丘陵と人間共が呼んでいる場所では無かったか? 我々も、便利なのでそう呼んでいるんだが……」

「アベリオン丘陵? うーん、知らん地名だ……。え、それ何処のサーバーの?」

「さーばー?」

 再び首を傾げたクレーンプットに、目の前の武人はいよいよ慌て始める。

「え、いや。うん。もしかして、NPCか? いや、NPCでもこんな風に喋られる知的生命体なら、〈ユグドラシル〉の事くらいは……」

 何か考え始めた武人に、クレーンプットは恐る恐る告げる。

「先程から不思議に思っていたのだが、その『ゆぐどらしる』と言うのは、貴方のいる部族の名前なのか?」

「え」

 クレーンプットの問いに、ぽかんとする武人。すると、武人はいきなり頭を抱え始めた。

「え、えー。マジか。マジなのか。ヤバい。俺、根本的に何か勘違いしてる? 助けてギルド長……」

 武人はぶつぶつと何事かを呟き、考え始めると――がばりと顔を上げて、クレーンプットを見た、気がする。

「――良し! 良くは無いが、まあ何とかなるだろ! 差し当たっては、そこの知的生命体くん。俺は君に色々と質問がある! なので、何か困っている事があるなら言うように。対価に、それを解決してやろう!」

「……はい?」

 何か納得がいったのか、結論が出たのか。とりあえず、よくは分からないが自分に都合の良い展開にはなっている気がする。なので、クレーンプットは色々と湧き出た疑問を押し留め、目の前の武人に頼み事をした。対価が質問という事ならば、この後命を奪われるような事は無いだろうと思い。

 そして、これほどまでの装備で身を包んでいる武人ならば、易々と殺されまい。むしろ、本当に異名持ちの王の一人であるなら、たった一人でも確実に勝てるだろう。

「では……我らは今、ある部族達に追われている。どうか、我らと協力してその部族を追い払ってはくれまいか?」

「いいよー」

 即答だった。しかし、後からはっと気がついたように訊ねてくる。

「いや、そう言えば何に追われてるんだ? 実は古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)の群れに襲われてるんです、とか言うオチなら俺も逃げるレベルなんだけど」

「ウーズ? いや、スライム系じゃない。同じ蟲系種族だ。人蜘蛛の」

 そう言うと、明らかに武人はほっとしているようだった。

「え、人蜘蛛? なら良かった! ヘロヘロさん系に襲われるとか、世界級(ワールド)アイテムで全身を武装していないと、装備が幾つ有っても足りないからな! 人蜘蛛なら安心! ……変に進化してないよね?」

「よく分からないが、普通の人蜘蛛だと思うぞ」

「――良し!」

 何か良いのか、さっぱり分からない。

「もう一度訊くけど、もしかして七色鉱とかスターシルバー並みの強度の糸を吐いたりとかは……」

「そのような名の物質はよく知らないが、彼らは鋼鉄並みの強度の糸を吐く。気をつけて欲しい」

「あ、そう?」

 告げると、完全に気が抜けたようだった。武人はスタスタと自分達の波を割り、自分達が出て来た岩盤の裂け目へと移動する。

「族長」

 参謀がクレーンプットの傍へ寄り、不安そうな顔をするが、クレーンプットは覚悟を決めて参謀に告げた。

「いいや、此処であの武人と協力する。あの装備を見ろ。間違いなく、単なる一兵卒ではあるまい」

「それは、そうですが……」

 人間達とは違い、圧倒的な実力が無ければ強力な装備で身を包む事など、亜人達の中では出来ない。強力なマジックアイテムで身を包むのは、亜人達の中では比類なき強者の証拠なのだ。だからこそ、あの武人は間違いなく強いだろう。幸い、武人は何か自分達に訊ねたい事があると言っている。それを利用するのだ。

「ですが、質問に答えた後はどうなるか分かりません。気をつけた方がよろしいかと」

「だろうな」

 そんな事はクレーンプットにも分かっている。だからこそ、協力なのだ。こっそりと色々押し付けて、自分達が有利な方へ持っていく。武人の体力を減らせば、少しの犠牲で乗り切れるかも知れない。

 そうした算段を着けた彼らのもとへ――遂に、人蜘蛛達が姿を現した。地盤の裂け目から、わらわらと出て来る。彼らも、此処で待ち構えているというのは分かっていたのだろう。

「プフよ……観念したようだな」

 人蜘蛛の族長であろう雄が、にやりと口元を歪める。プフとは、クレーンプットの部族名だ。そして人蜘蛛の族長は、すっと前へ出ている武人の方へ目を向ける。

「……どうやら、助っ人を雇ったようだが」

 人蜘蛛の族長も、武人の姿を見て警戒したようだった。他の人蜘蛛が散開し、武人を避けるような位置へ移動する。武人は、特に何も行動しない。

「だが、これだけの人数差を一人では覆せまい。覚悟するがいい――!」

 人蜘蛛の族長がそう告げると、族長の背後に控えていた者達が糸を吐き出しながら跳躍した。襲いかかってくる者達に全員が身構えた時――武人が、片足を一歩前に出す。

「ほい」

 やった事と言えば、一言で済む。片手に持っていた槍を無造作に振った。以上だ。

 しかし、それだけで――襲いかかった人蜘蛛達は全て、まるで壁にぶつかった流水のように、血肉の水飛沫となって飛び散った。

「――――」

 しん、と静寂が辺りを包む。今、此処にある音はバラバラになった血肉がびしゃりと、人蜘蛛達の身体にかかった音だけだ。それだけが、音を鳴らしている。

「……よわ。いや、鋼鉄並みとか言ってたから、覚悟はしてたけど。でもレベルひっくぅう……。いや、それよりも問題は、やっぱり作業感漂うこの感情だな。いかん、本格的に俺変になってるわ」

 バラバラに飛び散った人蜘蛛達を気にする様子も無く、武人は振るった槍を再び元の位置に戻す。そして、何事か独り言を呟いた。内容はよく分からない。きっと、しっかり理解出来ていた者は誰もいない。分かるのは、一つだけだ。

 この武人にとって、目の前の人蜘蛛達は、悲しくなるほどに脆弱だった。

「良し。とりあえず、俺の動きに問題は無さそうだ。……で、次はどうする? 来るなら来い。来ないなら――どうしよ。俺、魔法詠唱者(マジック・キャスター)じゃないから、群れを追いかけるのは苦手なんだよなー」

 待ち構える武人に、人蜘蛛は震えあがっている。当たり前だ。自分達だって、恐ろしい。

 しかし、人蜘蛛の族長は叫び、同族達に告げた。

「あれほど強力な一撃を何度も振るえるはずが無い! 糸で動きを抑えるのだ!」

 その言葉で、人蜘蛛達は武人に向かって鋼鉄の強度を持つ糸を幾つも吐き出す。その粘液糸で、動きを抑えるつもりなのだろう。だが。

「悪いな。俺、行動阻害に対する完全耐性をアイテムで得てるから。そういうのは効かないんだ」

 糸が、するりと武人を通り抜けていった。吐き出された粘液糸が地面に虚しく落ちる。そして、武人がまた一歩前に出た。人蜘蛛の族長は震えあがって、背後へ下がる。

「――よっと」

 そして、もう一振り。また片手で、無造作に槍を振るう。また何体も、人蜘蛛がばらばらに飛び散った。既に、人蜘蛛の数は自分達を追いかけていた時の半分以下となっている。十数体を、一撃で屠っているのだ。

 これは、もはや戦闘では無い。作業だ。殺戮でさえ無い。何故なら、武人は適当に槍を振るっているだけだ。それだけで、人蜘蛛は文字通り蜘蛛の子を散らすように血肉となって飛び散っている。

 絶望であった。勝てるはずが無い。

「ひ、ひぃ……」

 人蜘蛛の族長も、心の底から理解したのであろう。ぶるぶると怯え、脇目もふらず逃げ出した。岩盤の裂け目へ。そんな族長の様子に、生き残っていた者達も我先にと裂け目へと向かっていく。

 後には、武人と、肉片となった人蜘蛛達と、そして。

「良し。終わったな!」

 武人が背後を振り向く。そう、今まさに武人の圧倒的強さに怯えている自分達のみが残ったのだ。

「別に追いかけなくていいよね? 追い払うだけで。流石に、追いかけて一人残らず皆殺しは面倒なんだけどさー」

 武人の言葉に、ぶるぶると首を横に振る。今から追撃してくれ、と頼んでしまったらその後この場に留まっていられる自信が無い。間違いなく、脇目もふらず逃げ出すだろう。あの、人蜘蛛達のように。

「なら良かった! それじゃあ、俺の質問に答えてくれ。その前に自己紹介だけど、俺の名前はウィーウェ・ホディエー。君らは?」

「わ、私の名はクレーンプット・プフです。プフ族の族長をしております」

 先程までの口調を改め、敬語になる。とても、普段使いの言葉で話せるような相手では無い。

 ウィーウェと名乗った武人は、そんなクレーンプットに首を傾げながらも、続々と質問を続けた。

 そんなウィーウェの質問に、分かる範囲で誠実に答えたクレーンプットは、このウィーウェという存在は、アベリオン丘陵の出身者では無いのだろう、という事を理解した。あまりに、この丘陵地帯の事を知らなさ過ぎるのだ。もしかすると、本当に迷子なのかも知れない。

 ウィーウェはクレーンプットに多くの質問をし、その答えを得た後は頭を抱えて悶え始める。

「えー、えー。いや、まさか……。ありえねー。嘘だと言ってよ……あー! 面倒くせー!」

 ウィーウェはしばらくぶつぶつと唸っていたが、がばりと唐突に顔を上げる。そして、クレーンプット達に片手を上げて、別れを告げた。

「とりあえず、ありがとー! 俺、色々この辺り旅してみる事にするよ! じゃあ、君らも元気でねー!」

 そう言うと、ウィーウェは崖下へ飛び降りる。そのまま、平然と地面に着地して何処かへと去って行く後ろ姿を、クレーンプット達は呆然と見送ったのだった。

 

 

§ § §

 

 

「うわー! あー!」

 刀鎧蟲達と別れたウィーウェは、誰もいない草原で一人地面にゴロゴロと転がって悶えていた。誰も見ていない為、恥も外聞も無い。

「なんてこった。なんてこった」

 刀鎧蟲達に質問した内容を総合すると、どう考えても此処は〈ユグドラシル〉では無かった。というより、本当にゲームの世界なのか疑問が出る。何もかもが気味が悪いほどにリアルなのだ。

「でも、なんで刀鎧蟲とか人蜘蛛とかいるんだ?」

 〈ユグドラシル〉にも存在する亜人種達。彼らは、どうして此処にいるのだろう。それどころか、聞いた事のあるような種族が幾つもこのアベリオン丘陵とやらには生息しているようだ。此処が〈ユグドラシル〉では無いなら、一体彼らは何処から来たと言うのか。昔からこの丘陵地帯に住んでいるような言い方であったが。

 それだけでは無い。そもそも、どうして自分がウィーウェ・ホディエーというゲームアバターでこの世界にいるのか。自分の精神がおかしくなっているのか。何もかもが疑問だった。

「うーん。うーん。俺はこれからどうすれば……」

 ウィーウェは悩む。こんなに悩んだのは、おそらく会社が倒産確定して無職になった時以来だろう。なのでウィーウェは同じように一時間ほど悩み続け――

「まあ、何とかなるよね!」

 そう結論付けると、その場から立ち上がった。

「良し! とりあえず、また腹が減ってきたから食料集めだー!」

 そう叫び、再び野を駆け出す。この場にモモンガを初めとしたギルド〈アインズ・ウール・ゴウン〉のメンバーがいれば、両手で顔を覆ってウィーウェにツッコミを入れただろう。お前は、その無駄にポジティブシンキングなところをどうにかしろ――と。

 そんな事なんてさっぱり気づかない。ウィーウェは無駄に前向きな思考回路で、とりあえずファゴサイトーシスのペナルティをどうにかする為に野生動物達を追い回した。

 

 

「しかし、やばいなー」

 数十分かけて野生動物達を追い回し、捕まえ、腹の中に収めたウィーウェは、これからの事を考えると気が滅入った。

 とりあえず、数時間は何も食べなくても問題無い量を胃の中には収めた。しかし、その数は兎程度の大きさでは十を超える。しかも、満腹ではなくぎりぎり空腹が我慢出来る程度の量なのだ。

 おそらく満腹になろうと思えば、大型の、虎などの大きさの動物が一、二体は必要だろう。小動物ばかり食べていると、この周辺の小動物達が絶滅しかねない。結果として、ウィーウェは追い詰められる。絶対に食べないと心に決めた物に手を出したくなってしまう。

「何とかして、永続的に食料を確保する方法を考えないと、大変な事になるぞ……」

 ウィーウェにとって、一番の死活問題だ。こんな事になるのなら、ファゴサイトーシスのクラスなんて習得するのではなかった。もし今から時間を巻き戻せるのなら、ウィーウェは殴ってでも過去の自分を止めるだろう。

 先程遭遇した、刀鎧蟲や人蜘蛛達の事もある。あの程度のレベルなら幾ら襲われても無傷で迎撃出来る程度の身体能力はあるが、しかしウィーウェにとっての適正レベルのモンスターなどに遭遇した場合を考えると、身が竦む。

 何せ、最初の悶え苦しんだ激痛は、間違いなく〈ユグドラシル〉で負っていたダメージの、本来の痛みだろう。あれをもう一度体験しろと言われたら、泣き喚く自信がある。好き好んであんな痛みを負ってみたいとは思わない。死なない事と、痛みを我慢する事は全く別の問題なんだとウィーウェは心で理解出来た。

「さっきのクレーンプットくんだっけ? 彼に聞いた他の亜人種でも探してみるかなー。プレイヤーとかを知ってる人がいいんだけど」

 ウィーウェは再び槍を片手に、周囲を歩き回る。疲労・睡眠は無効なので食事にさえ気をつけていれば、いつまでも進み続けていられた。

 なので――ウィーウェは、このアベリオン丘陵の端と思しき場所へ辿り着くまで、()()で駆け抜ける事にした。

 ウィーウェの身体能力は、生命力・攻撃力、そして敏捷特化。防御を捨てて、完全に敏捷特化となっている弐式炎雷ほどではないが、その速度は、完全に疾風さえ置き去りにして、真っ黒で朧な残影となる。おそらく、誰も何が通ったかさえ分からないだろう。

 しかし、ウィーウェの常識離れした視力は、正確に今何を通り過ぎたか把握していた。

 草原。森。山岳地帯。様々な場所を通り過ぎていく。勿論、()()()()を起こさないように、だ。そうして走り抜けたウィーウェは、遠目にあるモノが見え始めた時点で停止した。

 此処が、確か刀鎧蟲達が言っていた人間達が住んでいるという国を守る為に存在する、巨大な城壁だろう。いつの時代からあるかは知らないが、人間達が死に物狂いで亜人達から身を守る為に築いただけあって、かなり長大だ。

 もっとも、遠目から見ただけだがウィーウェの今の身体能力なら、特殊技術(スキル)の一つでも使えば斬り砕けるだろう。

「…………」

 ウィーウェは、その城壁を見つめる。あの向こう側には、人間がいる。刀鎧蟲達と話したり、通りがけに色々な亜人種達の集まりを見たが、やはりウィーウェの知りたい事を知っているような存在は、人間の方に多いだろう。亜人種達は、文明と言うものを軽視する傾向が見えた。でなければ、目の前の人間の国のように防壁を固めるはずである。

 それをしないという事は、あまりそういった事に関心が無いのだ。

(侵入……してみるか?)

 〈闇視(ダークヴィジョン)〉の能力で、闇を見通す事は簡単に出来る。そして当然、あの程度の城壁なら身体能力だけで駆け上がれるだろう。やろうと思えば、簡単に出来る。

 だが、その後が問題だ。

 まず、ウィーウェは〈人化〉の特殊技術を持っていない。一部の異形種が持つ変身能力を、ウィーウェは所有していなかった。〈ユグドラシル〉ではほとんど必要としない特殊技術だったからだ。

 勿論、〈人化〉があれば人間種しか入れない大きな都市にも入れるようになるが、ソロプレイをしていたウィーウェには、ステータスが下方修正されてしまうような〈人化〉は痛かった。それに、アイテムの売買などはヘルヘイムやムスペルヘイム、ニヴルヘイムなどの異形種が有利な世界で補えたのだ。人間種の都市には入れなくとも、数は少ないが亜人種や異形種の都市には入る事が可能である。

 更に、ウィーウェは前衛戦士のビルドをしている為に、誰にも見つからないように侵入する事が出来ない。足音を消す〈忍び足〉は勿論だし、〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉のような便利な魔法は習得出来ていない。

 そして、一番の問題は――。

「――やばい、お腹空いた」

 この、空腹だろう。食欲増大のペナルティが、大変良く効いてしまっている。ゲームの時には全く気にならず限界まで我慢していた事もあったが、今となってはそれも苦しい。とても、我慢が出来そうに無い。

「し、食事をしに行こう……」

 ウィーウェは遠く見える城壁に背を向け、アベリオン丘陵へと帰って行く。最後に、ちらりと城壁を見た。

「……ペロロンさんみたいなのは、いないか」

 幾ら離れているとはいえ、ウィーウェは自分の身体を物陰に隠さずに立っていた。双眼鏡などのマジックアイテムや、〈鷹の目〉の特殊技術を持つ者からは、二キロ先にいるウィーウェの姿など丸見えだろう。

 しかし、狙撃は全く来なかった。ウィーウェの全速力が見えたのならば、ウィーウェの身体能力が一〇〇レベルに相当する事に気がつくはずだ。何のアクションも起こさないなど有り得ない。

 これが意味する事は、あの城壁にペロロンチーノのような、二キロ先を狙撃するような実力者の狙撃兵は存在しないだろう、という事だ。痛いだろうが、自分の防御力を信じて一撃二撃なら耐えて撤退出来るだろうと思い、こうして近寄ったのだが狙撃手の気配は無い。いたとしても、自分を狙撃出来るほどの射程距離は無い。

 つまり、一方的に蜂の巣にされる危険性は低かった。

「……かえろ」

 ウィーウェは再び城壁に背を向けて走り去る。とにもかくにも空腹だ。この空腹をどうにかしないと、あの城壁の内側にこっそり侵入し、活動する事も出来ない。最低限満腹状態で無ければ長時間の探索は不可能だろう。

 だから、ウィーウェは去る。そしてウィーウェは知らない事だが、既に太陽が傾き始めていたこの時間、あの城壁にいる者達でウィーウェに気がついた人間はいなかった。

 

 ――そして、夜になる。

 食事を終えたウィーウェは、草原に座り込み、一人夜空を見上げていた。

「すげー……」

 広がっているのは、美しい星空だ。ネットの画像でしか見た事が無い美しい光景が、今ウィーウェの頭上へ広がっている事への感動。

「ギルド長も、何処かでこの光景を見ているのかな……」

 呟くが、どうだろうと内心疑問を抱く。色々と考えたが、この世界は異世界で、〈ユグドラシル〉ともあの荒廃した現実とも関係が無い場所に見える。もしかすると、モモンガはちゃんと元の現実にログアウト出来ているのかも知れない。

 それと言うのも、このような事になって既に二日目の夜だが、ウィーウェに一度としてモモンガからの連絡が来ないからだ。睡眠の必要が無いとはいえ、ずっと意識を保っているのも精神的な疲労を感じるものである。それでもずっと意識を保っていたのだが、モモンガからの連絡は無かった。

(でも、魔法が使えないって可能性もあるか)

 一応、特殊技術が使える事は確認したが、ウィーウェは魔法が使えないので魔法分野はお手上げだ。明日は〈ユグドラシル〉にいたモンスターや亜人種達が魔法を使っている所を見て、確認しないといけない。彼らが〈ユグドラシル〉のシステムを使うとは限らないのだから。

 そして、魔法を使っていた時は――モモンガは、この異世界にいないのだと諦めよう。彼は、こんなわけの分からない事態に巻き込まれず、無事に現実に帰れたのだと。その方が、きっとずっといい。今の自分のように、何かを殺しても何も思わないような怪物の精神を持つよりも。その方がいいに決まっている。

 ウィーウェはその日も、ずっと起きたまま夜空を見上げていた。夜だけは、通常の食欲に戻る為に何者にも邪魔されずに。

 

 

§ § §

 

 

 この奇妙な出来事から、三日目になった。

「うおー! 逃がすかぁあああッ!」

 ウィーウェはそう叫びながら、偶然見つけた肉食獣――(ウルフ)を追い回す。瞬く間に距離を詰め、瞬時に片手で首を捉え、骨を砕き即死させた。続いて、他の狼達も同様に即死させていく。

「やったー! これで満腹になれる!」

 ウィーウェは五匹の狼達の毛を皮ごとべりべりと引き剥がし、腹部の内臓を潰さないように取り出した。兎やらの小動物は諦めがつくが、流石に此処まで大きい動物になると、あまり腸の部分は生で食べたくない。だって、腸の中に詰まっている物と言ったら、口にするのも憚られるものであるし。

「ありがたや、ありがたや」

 ウィーウェは全ての処理を終えると、骨ごと貪り喰らう。主武装である槍は地面に突き刺し、横に立てておいた。両手で齧り付く。

(もう、生肉食べるのも気にならなくなったなー)

 最初は泣きたくなるくらい、嫌悪感が無い事に嫌悪感があったものだが、三日目になると慣れたものだった。とりあえず、腸と胃だけ怖いので残してしまう。贅沢な気もするが、流石に衛生的な意味で食べたくない。

(このままじゃ、俺の精神どうなっちゃうんだろー)

 三日。たった三日で、どんどん人間からかけ離れた精神に移行している気がする。この精神状態は今の生活をする分には有難いが、しかし元に戻れるのならば遠慮したい精神状態だ。そもそも、いつも凄まじく不味いゲル状の食事を摂っていたが、果たして新鮮な生肉の美味しさに目覚めてしまったこの状況。大丈夫であろうか。二度と現実の食事は喉を通る気がしない。

 ウィーウェは久々に満腹状態になると、早速昨夜考えていた行動を実行に移す事にした。即ち、この世界の亜人種や人間種が〈ユグドラシル〉の魔法を使えるかどうかの実験だ。

 まず、魔法が必ず使えるはずの種族を探す。確か、刀鎧蟲達が言っていた丘陵地帯に住む亜人種の中に、魔現人(マーギロス)という種族がいたはずだ。彼らは魔法が使える種族だったはずである。彼らを探して、魔法が使えるかどうか調べよう。人間種は、必ずあの城壁の近くにいるだろう事が分かっているので、後でいい。

 問題は、この丘陵の大きさだ。此処から、一種族だけを探そうと言うのだから面倒な事この上ない。魔法詠唱者(マジック・キャスター)であれば転移魔法で簡単に行ったり来たり出来るのであるが、ウィーウェの場合は基本的に徒歩である。

 魔現人は、昨日通った道の近くにも、最初の日の近くにも住んではいなかった。なので、別の方角へ移動しなくてはならない。ウィーウェはソロプレイのお供である方位磁石付きの時計を取り出し、太陽と時刻を見ながら方角を確認する。

「えーっと……うん、次はこっちの方角に走り抜けるか」

 確認すると、再びウィーウェは走り抜ける。勿論、交通事故には気をつけて。相手をミンチにするのも、自分が痛い思いをするのも出来るだけ避けた方がいいだろうから。

 ウィーウェは魔現人の姿を探して、丘陵地帯を駆け抜ける。何処ぞへ走っている馬人(ホールナー)の横を気づかれずに駆け抜け、蛇身人(スネークマン)が集まりぬめぬめしている横を素通りし。

 ウィーウェはただひたすらに駆け抜けた。

 

 ――そして。

「い、いねぇ……」

 太陽が真上を少し過ぎた頃、ウィーウェは見つからない魔現人に途方に暮れた声を上げた。

(困ったなー。他にも、魔法が使えそうな種族を探した方がいいかな? でも、使えるなら絶対魔現人だろうしなー)

 この丘陵地帯で、あの亜人種が使えないなら魔法システムの不備を疑える。だが、それを確認せずに本来魔法を使うような種族ではない亜人種が使っていた場合、それがシステム不備なのかまた別の理由なのか分からないのだ。〈ユグドラシル〉の知識が何処まで活用出来るのか知る為に、どうしても魔現人の観察は必要だった。

(何処かで、適当に誰かに訊ねるかなー)

 こうなったら、自力で探すのではなく、知っていそうな者に訊ねる他あるまい。刀鎧蟲達の時と同じように、何かを対価にして訊くべきか。

「とりあえず、飯食おう」

 正午を過ぎたであろう時間のため、空腹だ。朝の時と同じように、狼のような大きな獲物が欲しいがこの広い丘陵で早々見つかったりはしないだろう。また、適当に小動物を捕まえるしかあるまい。

 ウィーウェは小動物の姿を探し求め、何匹か捕まえて口に放り込む。八匹目を捕まえた頃に、ウィーウェは何かの群れがこちらへやって来ている事に気がついた。

「?」

 首を傾げ、とりあえず持っている小動物を口の中に放り込む。ウィーウェの視力はその群れの正体をすぐに看破した。獣身四足獣(ゾーオスティア)だ。数は五。

 ウィーウェは彼らの姿を確認すると、ちょうど良いタイミングだとほくそ笑む。彼らに、魔現人の居場所を知っているか訊ねよう。

 獣身四足獣達も、ウィーウェの存在に気がついたようだった。群れはウィーウェと五〇メートルほど離れた場所で止まり、リーダーであろう存在が大声で威嚇するようにウィーウェに問う。

「貴様! 此処で何をしている!?」

 さて、第一声はどうするか。とりあえず、友好的に出た方がいいだろう。

「とある種族を探して旅をしている者だー! 君らに問いたいんだが、魔現人がどの辺りに住んでいるか知らないかー!」

 ウィーウェが訊ねると、彼らはざわざわと騒ぎ出す。どうやら、何事か決めかねているらしい。

「魔現人共は此処より南の地へ住んでいる! 此処は、我らの領土だぞ!」

「そうなの!? ごめーん!」

 縄張りだと言うのなら、素直に謝る。しかし、軽い感じだったのが、どうやら向こうは癪に障ったようだった。上司を相手にしているかの如く謝るべきだったらしい。

「貴様! なんだその軽い謝罪は! 誠心誠意謝らんか!」

「え、あ、うん。ごめん……」

 領土侵犯はいけない事なので、今度は声を落として真面目な感じで謝罪した。すると、獣身四足獣達はそんなウィーウェの態度に満足したのか一つ頷くと、続いて気安げに声をかけた。

「しかしこの丘陵地帯に旅人だと? 何処から来た?」

「ユグドラシルってうんと遠い所からかな。地理がよく分からなくて、困っているんだ。そこで、凄腕の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の力を借りて元の土地へ帰ろうかと思って、魔現人達を探してるんだけど……」

魔法詠唱者(マジック・キャスター)だと? どういう事だ?」

「えー……なんて言うか、転移トラップを踏んでしまったようで」

 ウィーウェがそう言うと、推定族長の獣身四足獣は訝しげな口調で訊ねてきた。

「転移トラップだと? 別の土地から別の土地へと転移出来る魔法なぞ、聞いた事が無いぞ」

「そうなの? どんな魔法があるか訊いてもいいかい?」

「我々が知っている魔法と言えば、第三位階にある〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉だ。脆弱な身体能力の魔法詠唱者(マジック・キャスター)共が、距離を詰められた時に使う転移魔法だろう?」

「へえー」

 第三位階魔法の〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉。完全に、〈ユグドラシル〉のシステムの魔法だ。これはいよいよ、雲行きが怪しくなってきた。

「第五位階魔法に、長距離転移の魔法があるんだけど、知らないかい?」

「第五位階だと? 最上位の魔法ではないか。その位階を行使出来る者は、現在の魔現人にもいないはずだ。……確か、三〇年ほど前まではいたと聞いたが」

「……さいじょうい?」

 何だか、凄まじい勘違いを聞いた気がする。ウィーウェは首を傾げると、獣身四足獣は困惑したようだった。

「そうだ。魔法は第三位階……優れた天才でも、第四位階までであろう。第五位階ともなると、伝説にしか登場せんはずだ」

「…………え」

 やはり何か、何かおかしい。ウィーウェは更に困惑した頭で、獣身四足獣に質問した。

「あの……魔法って、第五位階より上があるの知ってる? 天気を変えられる第六位階の〈天候操作(コントロール・ウェザー)〉とか……」

「なんだと? ……ふむ。旅人よ、貴様はどうやら凄まじい物知りのようだな」

 断じて違う。しかし、これは困った。彼らが特別頭が悪いわけでは無いのなら、このアベリオン丘陵では魔法とは第四位階までしかなく、第五位階で伝説になるほど全体的なレベルが低いのだろう。

 だが一番の問題は、〈ユグドラシル〉の魔法が正常に作動しているような気配がある事だ。ウィーウェは途方に暮れるしか無い。

「うーん。まいった。これはいよいよ、城壁を越えて人間の都市に侵入しないといけない感じじゃないか」

 ウィーウェが考え込んでいると、獣身四足獣は、ウィーウェに声をかける。

「おい、俺を無視するんじゃない」

「え? ああ、ごめん。無視したわけじゃないよ。元の土地に帰るには、人間の知恵を漁る必要があるかなってちょっと考え事が。君自身は、ユグドラシルの名に聞き覚えは無い?」

「そんな土地の名は知らんな」

「そっか。礼を言うよ。とりあえず俺は旅に戻る。もし何か用があったら、見つけた時に声をかけてくれ。今回のお礼に、出来るかぎり協力するよ」

 ウィーウェはそう言うと、その場から去ろうとする。だが、それを獣身四足獣が止めた。

「まあ、待て。出来るかぎり協力してくれるのだな?」

「ん? まあ。……もしかして、何かあったの?」

「ああ、あるぞ。ちょうどよく、貴様に頼みたい事がな」

 獣の顔が獰猛に歪む。おそらく、笑っているのだろう、たぶん。表情の違いは、よく分からない。

半人半獣(オアルトロウス)共にちょっとした加勢を頼まれていてな。これから奴らの村へ行く所なのだ。貴様には、ちょっとした証人になってもらいたい」

「証人?」

「うむ。歩きながら話そう」

 この獣身四足獣――彼は、ヴーヴァ・ディディンジャーというらしい。獣身四足獣はよく、半人半獣に頼まれて戦いに手を貸す事があるそうだが、今回もそうした一環で戦いに手を貸す事になったのだと言う。

「今回の敵は水精霊大鬼(ヴァ・ウン)だ。奴は“濃霧”の二つ名持ちでな。俺は奴を倒し、伝説を打ち立てようと思っている。“魔爪”と同じくらいの、な。貴様は旅人なのだろう? ならば、俺の伝説を是非広めて欲しいのだよ」

「へー」

 要は、吟遊詩人の真似事をして欲しい、という事だ。まあ、それくらいの自慢話を広めるくらいなら、手伝ってやってもいい。

「でも二つ名? それって、持ってる奴どれくらいいるわけ? 俺そういうの詳しくないよ」

「む? ああ、この辺りには詳しく無いんだったか。なに、“濃霧”を一対一で倒したと言えば、それで良いのだ。この丘陵地帯も広いからな。名声はすぐには広まらんが、話して回る奴がいるなら別だ。

 それと、二つ名はこの丘陵地帯でも有名な、選りすぐりの実力者達の異名よ。我らと同じ種族であり、一〇〇年前から一族で名を継ぎ続けている“魔爪”に、あらゆる飛び道具を無効化する水精霊大鬼の“濃霧”などだな。俺もまた、奴らの中に名を連ねたいと思ったわけだ」

「ふーん。まあ、そんな二つ名持ちを一対一で倒せたなら、一目置かれるようになるだろうね」

「そういう事だ。旅をしているのなら、よろしく頼むぞ」

「はいよー」

 ヴーヴァの言葉に頷く。しかし、二つ名持ち……。アベリオン丘陵の適正レベルは低いのでは無いかと見積もったが、二つ名持ちの中にはウィーウェと同レベルのモンスターがいるかも知れない。気をつけた方がいいだろう。

 ウィーウェはヴーヴァ達五人の獣身四足獣と、二日ほど行動を共にした。

 その間もウィーウェは小動物や狼達を狩り、何とかギリギリ空腹のペナルティを受けずに済む状態で過ごしている。ウィーウェの食欲に、ヴーヴァなどは驚いていた。と言うのも、亜人種などには多くの動物と同じように食い溜めの機能があるので、腹持ちがいいのだ。彼らは牛や馬などの干し肉などを持ち歩き、それで半人半獣達の住む場所まで向かおうとしていたようだ。ただ、彼らもやはり新鮮な肉の方がいいらしく、ウィーウェが狩った狼などは干し肉と交換する事もあった。

 最初は珍しい為に交換に応じ干し肉を口に入れたウィーウェも、少しばかり微妙な気分になる。確かに、新鮮な肉の方が美味しい。

「しかし、貴様は随分と足が速いな」

 そしてウィーウェが瞬く間に動物を捕まえる姿を見たヴーヴァも、ウィーウェに一目置くようになった。彼らは、強さに敬意を払うタイプのようで、ウィーウェが単なる旅人ではなく、槍を持ち歩いている事も伊達では無いと身体能力から感じたのだろう。

 もっとも、ウィーウェは彼らの前では速度を落として手を抜いていた。強さを勘違いさせるのは、いざと言う時の為だ。正確な戦闘能力の情報は、あまり渡しておきたくない。

 だが、それを思えば最初の刀鎧蟲達と人蜘蛛の争いは失敗だった。種族レベルは低く見えたが、ウィーウェと同タイプの職業レベルばかり上げるタイプかもしれないと思い、特殊技術などは使わなかったが槍自体は本気で振るったのだ。結果、過剰な攻撃力で肉片になってしまった。

(槍も、こいつらと別れたら主武装から替えるか? いや、いざという時のためにやっぱり主武装の方がいいな)

 あまり痛い思いはしたくない。手を抜いて、手痛い目にも遭いたくない。ならば、装備品の質は落とせない。

 ウィーウェはこの二日間、彼らと交流しながらそんな事を思っていた。

 そして、半人半獣達のもとへ辿り着いたウィーウェ達は彼らから歓迎を受けた。ウィーウェもヴーヴァから旅の戦士だと説明をしてもらい、それを受け入れられる。

 彼らと水精霊大鬼の戦いは、既に勝敗自体は決している。だが、再戦してはならないという決まりは無い。半人半獣達は水精霊大鬼に領土と食料を明け渡す事で生き残り、ヴーヴァ達を連れて再戦を申し入れるつもりなのだ。

 そして、ヴーヴァは“濃霧”へと挑み、二つ名を手に入れる。自分は第三者としてそれを見届ける吟遊詩人役だ。

 ヴーヴァはウィーウェ達を連れ、半人半獣達の案内に従い“濃霧”のいる場所へ向かう。水精霊大鬼――“濃霧”は、ヴーヴァ達が来るのを静かに待っており、ヴーヴァの姿ににやりと笑った。

「ふふふ……獣身四足獣の小僧を連れて来たか。この“濃霧”ロモロ・ボルツィと戦おうとは愉快愉快……」

「ふん! 貴様の“濃霧”の二つ名も、今日までよ。これからは、“濃霧”を倒した雄として、この俺、ヴーヴァ・ディディンジャーの二つ名が響き渡るようになるだろう」

「ふ――吠えよるわ」

 ロモロと名乗った水精霊大鬼は残虐な笑みを浮かべると、ヴーヴァに向かって戦闘態勢をとる。そして――

「行くぞ!」

 二人が同時に叫ぶと、彼らは命懸けの決闘を行った。

 

 

「……へー」

 二人の決闘を、ウィーウェは気怠げに見つめる。ウィーウェの率直な意見は、「欠伸が出そう」であった。

 はっきり言って、あまりに動きが遅過ぎる。ウィーウェと同じ一〇〇レベルの者達なら、おそらく五撃は放つであろう距離感で、たった一撃しか与えられない戦いは、まるでスロー再生されている動画を見ているようだった。

 とは言っても、全く参考にならないわけではない。スロー再生のように遅いからこそ、ウィーウェにとって参考になる戦いもある。同レベル同士の戦いの駆け引きが、彼らの方が巧みなのは間違いないからだ。

 所詮、ゲームの世界での戦いであったウィーウェは、彼らのように優れたフェイントは使えないだろう。死んだ時は死んだ時だと平然と考えられた思考は、今は絶対に出来ない。その為、彼らのように肉を切らせて骨を断つ戦いにさえ怖気づいてしまうかも知れなかった。

 痛いものは痛い。死ななくても、痛みは嫌だ。怖いのは恐ろしい。

(俺も、このよく分からない場所で生活するなら、何とか痛みに慣れないと不味いな)

 だからこそ、彼らの駆け引きは参考になる。中でも、最も興味深いのは――

「〈剛爪〉!」

「ふん! 無駄だぁ!」

「くっ!」

 ヴーヴァの一撃を霧になったように回避するロモロ。射撃武器ではなく接近攻撃を霧になって回避するとは、中々に特殊な能力を持っている。だが、気になるのはやはり〈剛爪〉という知らない能力を使っているヴーヴァだろう。ウィーウェは、そんな能力聞いた事が無い。

(知らないシステムが混ざってる? やっぱり、この世界特有の何かかな? 気をつけた方がよさそうだ)

 低レベルの存在の攻撃は、常時発動型(パッシブ)スキルでほぼ無効化出来るはずだが、〈ユグドラシル〉のシステムによらない攻撃はこれを貫通する恐れがある。その場合、硬直後の隙は大きなものになるだろう。

「しかし……」

 ウィーウェはじっと二人の決闘を観察する。二人の決闘に誰もが盛り上がっているが……

「まずいな」

 ヴーヴァの敗北は確定している。この後の身の振り方を考え始めた方が良さそうだ。おそらくだが、ヴーヴァも感じ取っているだろう。自らの敗北の予感を。彼は、その敗北を何とか先延ばしにしているだけに過ぎない。おそらく、ロモロの攻撃無効化の正体は――ウィーウェの予想通りならば、〈ユグドラシル〉のシステム上有り得ない事柄が原因だ。

 即ち、前提クラスの破棄。上位クラスを習得するために必要である、下位クラスを飛び越えた特殊技術の習得だ。

 ロモロの攻撃無効化の正体とは、つまり〈物理無効化Ⅲ〉と呼ばれる特殊技術である。

 ヴーヴァの身体能力を見るかぎり、おそらくヴーヴァは三〇レベルもあるまい。そしてそのヴーヴァと相対しているロモロも、四〇レベルは無い。

 〈物理無効化Ⅲ〉は三〇レベル以下のデータ量の武器やモンスターの攻撃による負傷を、完全に無効化する。四〇レベルも無いロモロが持つには有り得ない常時発動型特殊技術だ。ヴーヴァもロモロも、完全に〈ユグドラシル〉のシステムを無視している。

(〈ユグドラシル〉のシステムを使いながら、同時に無視する? うーん……わけが分からない。こういうシステム関連のPCスキルは俺には無いんだよね……)

 ヘロヘロ達ならどうかは知らないが、ウィーウェにはバグを起こしたシステムを修復出来るようなIT系スキルは無い。ただ、印象的には別システムで稼働していたはずなのに、いつの間にか別のシステムが混同してしまっていたような気色の悪さだ。

(これはもう、俺に解決は無理。原因があっても無くても、俺には無理だ。大人しく運営からの救助を待っていた方が良さそうだなぁ)

 異世界に転移してしまったのか、それともまだゲームの中なのか。そんな事はウィーウェには分からない。ただ、自分に解決は無理だと理解した。自力での脱出は不可能だと。

 ただ、自分だけがこういう状況になったとは考えにくい。モモンガはいないとしても、自分だけがこんな異常事態に巻き込まれたなんて、あまりに低い確率だ。

 絶対に、自分以外にこの異常事態に巻き込まれたプレイヤーはいる。とりあえず、それを前提にしてこれからの身の振り方を考えよう。

 だから、一先ずは…………友好関係の構築から。ウィーウェは、槍を手にして一歩前を踏み出した。

「……む?」

 ウィーウェが槍を片手に、一歩前に出たからだろう。ロモロはヴーヴァへの攻撃を止めて、ウィーウェを見た。

「何をする気だ? 俺は無敵なのだぞ。そんなもので俺に傷一つつけられるか」

「……一対一の決闘を邪魔するのは、俺もどうかと思うけどねー。まあ、でもヴーヴァじゃ勝ち目無さそうだし。俺が出ようかと」

 ヴーヴァに勝ち目が無い、と口にした瞬間、ロモロは笑い、ヴーヴァは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「……ホディエー! 俺は、それでもまだ戦える!」

「だろうなー。でも、俺が出た方がいいと思うよ。っていうか、ぶっちゃけ俺が確かめたい事があるから、代わってくれ」

「確かめたい事……?」

 勿論、特殊技術の確認だ。ロモロの攻撃無効化の正体が、本当にウィーウェの予想通りのものなのか。それを確かめたい。その為に、ヴーヴァと相手を代わって欲しいのだ。

「俺は構わんぞ。土台、この俺に攻撃を与える事は不可能なのだ。俺は、無敵なのだから!」

 凄まじい自信を浮かべるロモロ。此処まで自信を持つ理由も、何となく分かる。このアベリオン丘陵はレベル帯が低い。適正レベルが三〇以下なのだ。ウィーウェの予測通り〈物理無効化Ⅲ〉を持つのなら、確かに此処では無敵を誇るだろう。

 ただし、それは。

「……魔法は無効化出来るのかい? ロモロくん」

「――――」

 そのウィーウェの言葉に、ロモロは笑みを消した。〈物理無効化Ⅲ〉はあくまで、物理攻撃を無効化する特殊技術。当然、魔法攻撃は無効化出来ない。それは、別の特殊技術が必要になる。

「水精霊大鬼ってのは、射撃攻撃を何度か無効化する特殊技術があるけどさ。君のそれは、一定量以下の物理攻撃を無効化する特殊技術だ。違うかい?」

「……なるほど。その格好に、見た事もない種族からして旅人だな? 中々の博識ぶり。しかし、ここ最近で俺に攻撃を届けたのは魔現人の“炎雷”と獣身四足獣の“魔爪”のみ。貴様に、俺の防御を貫通出来るか? 見たところ、どう見ても魔法を使うようには見えんが」

 ウィーウェの装備を見て、ロモロは笑う。それに、ウィーウェは頷いた。

「だろうね。俺、戦士系だし。でも、お前には勝てると思うよ」

「――なるほど。良し、いいだろう。かかってこい」

 ウィーウェの挑発に、ロモロは乗った。ウィーウェは軽い足取りでロモロへ近寄っていく。そして、ヴーヴァの隣に来た時に、左手のガントレットを外してヴーヴァに渡した。

「お、おい!?」

「持っといてー。今から確認するのに、それ邪魔だし」

 ウィーウェはそう告げると、左手の装備を指輪だけにする。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに精神作用無効化の指輪……全ての指に様々な指輪が嵌められている。ただし、それだけだ。左手の装備が外れたために、素の攻撃力と防御力しか持たない。

 だが、それでいい。

 ウィーウェは自分の左手を見た。黒と赤褐色の、硬い装甲の甲殻。指先は、爪なんて無いのに凶悪に尖っている。溜息が出そうだ。怖いはずなのに、全く違和感が無いその姿に。

「……本当に、泣けてくる」

 ぽつりと呟いて、ウィーウェはロモロの目の前に立つ。ロモロは、小馬鹿にした様子で指先をくいくい、と自身へ向けた。

「それじゃあ、遠慮なく」

 なので、ウィーウェは容赦なく――この世間知らずの顔面に、拳をくれてやったのだった。

「ぐっばあああああ!!」

 一〇〇レベルの戦士であるウィーウェに顔面を殴られたロモロは、その場で耐えきれず衝撃で吹っ飛ぶ――が、両足が地から離れそうになった瞬間、ウィーウェは爪先を踏み抜いてやった。よって、吹き飛ぶ事無くロモロはその場に留まってしまった。ウィーウェの射程距離から、まったく出る事が出来ずに。

 ばうん、と捻じれるような動きでその場へと倒れたロモロに、ウィーウェは踏んでやっていた爪先を放す。顔面――顎と鼻と頬の骨が完全に砕けたであろうロモロは、ひくひくと痙攣して「お……お……」と呻き声を上げている。ウィーウェはそんなロモロの様子を気にも留めず、右手の槍でぷすっとロモロの左手首を突き刺してやった。勿論、平然とそれは貫通してロモロの左手首が離れる。

「……良し! やっぱり、〈物理無効化〉系特殊技術だな! この反応は、〈物理耐性〉系じゃあないっと」

 確かめたい事を確認し終えたウィーウェは、一人頷く。そして、背後で唖然としているヴーヴァ達に振り返った。

「……で、コイツどうする?」

「え、あ、はい。……好きにすればよろしいんじゃ?」

 急に敬語になったヴーヴァに、首を傾げた。そういえば、あの刀鎧蟲も急に敬語になったような気もする。しかし特に深く考える事はせずに、ウィーウェは槍先でロモロを突いてやった。

「おい、起きろ」

「はひ……はひ……、あ」

「駄目だこりゃ」

 完全に伸びてしまっていて、起きる様子も無い。ウィーウェは気絶状態になったロモロを起こす事を諦めて、ヴーヴァ達に向き直った。ヴーヴァ達の身体がびくりと揺れる。

「それじゃ、ガントレット返して」

「あ、はい。どうぞ」

「ありがとー」

 ヴーヴァにガントレットを返してもらい、ウィーウェは左手に再び装着する。

「で、ヴーヴァさん。マジにこいつどうしよっか? そこの半人半獣くんに訊いてみる?」

「いえ、貴方が勝ったんですから、好きにすればいいのでは?」

「え。でも俺、コイツいらない」

 腹は空くが、食べたくはない。

「勝者が敗者を好きにするのは、当然の事です」

「え……じゃあ、放置で」

 面倒なので、その辺に放っておく事にした。そう言うと、ヴーヴァは「はあ……」と気の抜けた声を出す。

「それで、これからどうする?」

「こ、これから?」

「うん。とりあえず、君らの目的は半分は達成した。二つ名とかは、まあ、うん。俺がやっちゃったし、君にはまだ無理だったという事で、諦めるとして。これから君らどうするの?」

 ウィーウェの問いに、「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」と慌てるヴーヴァは急いで他の四体と、案内役だった半人半獣と内緒話を行う。ウィーウェの耳にも微かに声が届くが、小声なので完璧には聞こえない。

 数分ほどして、話し合いは終わったのかヴーヴァがおずおずとウィーウェへ訊ねる。

「あのー……ホディエーさんはどうするのでしょうか?」

「俺? 俺はまあ、その辺適当にうろつくけど? 後で、人間の作った城壁の方へ行く予定もあるけど」

「そうですか。……それじゃあ、俺達は元の場所へ帰ろうと思います」

「ふうん。なら、此処でお別れって事で」

「はい」

 互いに、別れを告げてウィーウェは別行動を取る。後でヴーヴァ達が「なにあの蟲怖い!」と震えあがっている事なんて、まったく気づいていないウィーウェであった。

 

 

§ § §

 

 

 アベリオン丘陵の西に広がる、当時凄まじく偏執的であった聖王国の首脳部が作り上げた巨大な城壁の要塞線。そこには、三つの大きな砦が存在する。それは一〇〇キロにも及ぶ長大な城壁に、たった三つだけ存在する門の防衛施設である。万が一、亜人達の侵入を許してしまった時の為に存在するそこは、現在気楽なものであった。

 この城壁へ亜人達が向かってくる頻度は、一ヶ月に一、二度ほど。それも数十人規模の小ささだ。勿論、数十人規模であろうと身体能力に圧倒的に差があるので、人間にとっては脅威なのであるが。それでも慣れというものは存在する。城壁の目の前、四〇〇メートル以上が開けた平地となった事もあり奇襲というものが無くなって久しい。よって、どうしても緊張というものが抜けてしまうのだ。

 もっとも。――見張り役が働いていないというわけでは決して無いが。

 

「……これ以上近づくと、バレるかなー」

 ウィーウェは平地となっている場所より、数十メートルほど離れた木々の間で、こっそりと城壁の様子を覗き見ていた。

 ヴーヴァ達と別れたウィーウェは人間の領域に関わると決めた為に、空腹状態を紛らわすために深夜になる今の今までひたすら獲物を狩り腹に溜めていた。夜の間は通常の食欲に戻るが、夜が明けると食欲が再び増加する。だが食い溜めをしておくと、明日の朝すぐに空腹で悶え苦しむという事は無い。その為に、こっそり豚鬼(オーク)の牧場で育てられていた牛を二匹ほど盗んでしまったが。

(うーん。今のところ、俺の姿が見られている様子は無い、よな? いきなり明かりが点いたりとか、慌てた様子も無さそうだし)

 一キロほど離れた地点から、慎重に隠れるように距離を詰めたが気づかれた様子は無い。人間種……それも普通の人間に〈闇視(ダークヴィジョン)〉のような、夜闇を見通す種族的特徴は無いので、この時間帯ならば必ずマジックアイテムが必要になる。アベリオン丘陵のレベル帯では、おそらく人間の方もレベルをウィーウェほど上げる事は出来ないだろうから大丈夫だろうと思ったが、油断は禁物だ。

(けど、さすがにこれ以上は無理だろうな)

 前提条件を無視してクラスを習得する者。あるいは全く別のシステムの特殊技術を行使する者。そういった、〈ユグドラシル〉の常識外の行動をする存在を無視出来ない。人間の中にも、間違いなくいるだろう。これ以上は、確実に露見すると思った方がいい。

(やっぱり、わざと強襲して魔法を使ってもらうのが一番いいかな?)

 アベリオン丘陵の亜人種達と同程度のレベルの存在しかいないのなら、ほぼ確実に全て無効化出来る。高レベルになるとダメージを多少削減する程度に収まるのだが、おそらく無効化するだろう。……そうだといいな、という希望的観測を持ちながら、ウィーウェはそわそわと城壁を盗み見る。

「えーい! 男は度胸だよね! ――良し! いざ!」

 気合いを入れ、覚悟を決める。ウィーウェは最後の抵抗で黒いローブを深く被り直し、姿がなるべく見えないようにしながら木々から足を一歩踏み出して――城壁へと近づいた。

 

 

 城壁の見張りである、夜番の交代時間には鐘が鳴る。だが、その日夜番であったヨーンの耳に届いた鐘の音はいつまでも打ち鳴らされ、この日「亜人の影がある」事が知らされた。

(今日も来たか)

 ヨーンは丘陵地帯に視線を向け、夜闇を見通す。訓練をしているので、普通の兵士ならば見通せない夜闇も、ヨーンならば不可能ではない。

 ヨーンがじっと見つめると、そこには黒いローブを深く被っている亜人が悠々と歩き近づいて来ていた。亜人の種族は、ローブで隠れているために分からない。ただ、槍を片手に、手足が妙に金属質なので鎧を装着しているかあるいは、蟲系種族であるために装甲を持っているのだろう。

(……一匹だけか? しかも、平然と歩いて近づくとは……異名持ちか?)

 亜人種族の中には王と呼ばれ、異名を持つ者達が何体か存在する。例えば“魔爪”。例えば“炎雷”。“濃霧”。それに――“断絶”。

(……蟲系ならば“断絶”の可能性もあるが……?)

 だが、“断絶”の種族は刀鎧蟲。つまり徒手空拳だ。奴は自らの両腕に存在する手甲の刃で戦う。よって、槍なんて武器を持つはずが無い。ヨーン達も知らない相手なのかも知れない。

 しかし、そんな事は関係が無いだろう。ヨーンの部下は優れた射撃兵だけの部隊。城壁に辿り着く前に、すぐに射殺してしまうに違いない。それだけ、優秀な弓兵なのだ。

 そして事実、ヨーンの命令を待つまでもなく。部下達は決まり通りに、悠々と歩いて近づいてくる亜人へ向けて、三〇〇メートルの時点で強烈な炎の矢の一撃をお見舞いした。

 炎の矢は赤の軌跡を描きながら、亜人へと一直線に向かう。射手は副官だろう。強烈な一撃だ。そして、ヨーンはそれが見事眉間を貫く一撃だと悟る。即ち、相手を即死させる素晴らしい一撃だ。あの距離でヘッドショットを完遂させるのは並みの技量ではない。

 例え頭部に兜を装備していたり、装甲があろうとも炎の魔法が属性ダメージを与える。無傷では済まないだろう。

 だからこそ――それは、目を疑う光景だった。

「――――え?」

 まるで見えざる盾でも持つかのように、魔法の矢は亜人に当たる寸前で弾かれた。亜人は足を止めず、平然と歩いて城壁へと近づいて来る。

(……飛び道具に対する、防御能力?)

 そこで、ヨーンは気づいた。真っ黒な、夜闇に紛れるローブを深く被っているために気づき難かったが……その亜人が身に着けている全てが、信じられないほどの技巧で編まれたマジックアイテムだと。

 つまり――もはや言うまでもなく、明らかに。ただの亜人では無い。

「――――ッ!!」

 ぞわり、と身の毛がよだち、ヨーンは背筋から来る震えを止められなかった。弾かれたように走り持ち場に付き――間に合ったのは相手が悠々と歩いてくれているおかげだろう――、持ち場にいた部下達に声をかける。

「お前達! アレを近寄らせるな! 撃ち抜くぞ!」

「はい!」

 ヨーンは部下にそう叫ぶと、自らも矢筈を弓の弦にかける。そして、即座に射撃。金属鎧を装備した戦士であろうと、吹っ飛ぶほどの物理威力を持つ一撃だ。だが。

「――効いてない!」

 亜人の身体に触れる前に、やはり弾かれた。他の部下達が放った炎以外の魔法の矢も同様だ。全て、触れる前に弾かれる。一部のモンスターは特定の攻撃手段で無いと無効化する能力を持っている事があるが、おそらくそれだろう。あの亜人は、特定の攻撃以外無効化するに違いない。でなければ、三〇ほどの様々な種類の矢を無効化する事は出来ないだろう。

(となれば――矢の材質か!? 一部のモンスターは銀製であったり、鉄製でないと通用しないと聞くが――)

 次々と矢を放つが、亜人は防御さえしない。ただ悠々と歩き、次第に城壁との距離を詰める。その間ヨーン含めた部下達、狙撃兵は次々と矢を放つがやはり通用しない。

 他の場所では砦に備えられている大弓を放ったようだが……やはりと言うべきか。亜人は防ぎもせずに大弓の矢は弾かれた。

 自分達の、あらゆる攻撃は通用しない。もはや、これは飛び道具に対して完全耐性を持っていると認識するしか無いだろう。……つまり、今の自分達は役立たずであると。

「くそッ!」

 部下の一人が叫ぶが、ヨーンだって同じ気持ちだ。飛び道具に対する完全耐性を持っているのならば、もはや自分達に出来る事は何も無い。あの亜人以外に、何者かが近づいているか見張りをするくらいである。

 となれば、近づかれる前に出来る事と言えば――純粋な魔法による、強烈な一撃のみである。

 この要塞線には、第三位階魔法を行使出来る魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)が三人いる。三人も、だ。第三位階の信仰系魔法の使い手ならもっといるのだが、此処は宗教の色濃い聖王国。魔力系魔法の使い手は驚くほど少ない。まして、第三位階にも到達しているとなれば尚更だ。

 〈飛行(フライ)〉の魔法でその魔術師達が空を飛び、亜人の上空を陣取る。亜人はそれを見て上を向いた。ずり、と少し片足を引いて警戒の様子を見せる。その亜人へ向けて――〈火球(ファイヤーボール)〉と〈雷撃(ライトニング)〉二発が撃ち込まれた。

 そして当然。

「魔法まで無効化しただと!?」

 魔法は着弾する前に、掻き消えた。まるで元々存在していなかったかのような、消失。

 飛び道具を無効化するモンスターもいれば、当然魔法を一部無効化する能力を持つモンスターもいる。だが、()()()()()()()()()()()所持しているようなモンスターは存在しない。どちらかは、身に着けているマジックアイテムの効果だろう。しかし――

 あらゆる飛び道具を完全に無効化するマジックアイテム。あるいは、第三位階魔法さえ完全に無効化するマジックアイテム。そんな物が、この世に存在するのだろうか――。

「…………ッ!」

 誰もが、あまりに理解の及ばない事象を前に絶句する。魔法は通用せず、飛び道具も効かない。となれば、残された手段は接近戦のみであるが……手に持っている禍々しい気配の槍が、相手が凄腕の槍兵である事を予感させる。

 アベリオン丘陵で高価なマジックアイテムに身を包むのは、確実に強者だ。人間社会のように、金や権力に物を言わせて実力も無いのに高価なマジックアイテムを身に着ける行為は、亜人達の間では許されない。

 故に。――高価なマジックアイテムで全身を武装するあの亜人は、間違いなくアベリオン丘陵の強者に違いなかった。

 現在、この要塞線に存在する最強の戦士はヨーンと同じく、九色の持ち主。その女戦士が、この空気をどうにかするべく飛び出して来る。

 女戦士は全速力で走る。おそらく、武技の〈能力向上〉に〈疾風加速〉も使っているのだろう。驚くほどの速度で女戦士は亜人との距離を詰めていく。

 亜人は、立ち止まって女戦士を待っていた。槍を片手に、まるで誰かと待ち合わせをするかのように悠然と。

「――ッ! 〈限界突破〉、〈流水加速〉、〈剛撃〉」

 幾つもの武技を同時に使用。女戦士は、亜人へ向けてそのバトルアックスを振り上げた。

「死ィ――――ねええええ!」

 そして、振り下ろされる。幾つもの武技を同時に使用した、最強の一撃。彼の“魔爪”でさえ深手を負わせた事のあるその最強の一撃は。

「…………あれ?」

 槍を持たない、左手で軽々と――それも親指と人差し指を使って豆粒を摘むように――バトルアックスの刃を掴んで止められていた。

「……え?」

 女戦士は、そんな有り得ない現象を前に呆然としている。亜人は、マジマジと目の前に立つ女戦士と摘んだバトルアックスを交互に見て……指を放した。途端、女戦士は解放されてたたらを踏む。そして、顔色を真っ青にして亜人を見た。

「…………」

 亜人は、女戦士、魔法詠唱者(マジック・キャスター)達、ヨーン達の方角を順番に見回すと、そのまま踵を返して再び歩き去って行く。

 悠々と。先程と同じ調子で。何を気にかける様子もなく。何者も、自分を傷つける事は出来ないと知っているかのように。

「ヅ、ァァアアアアアアッ!!」

 その無防備な背中に、女戦士が再び攻撃。しかし、亜人はまるで背中に目でもついているかのように、一つの金属音を響かせて無傷だった。

 亜人がやったのは、言葉にすれば簡単なものだ。片手に持っていた槍を、少し傾けて女戦士の攻撃を槍の柄で防いだ。それだけである。――九色の一人である女戦士の攻撃を、見もせずに防いだという事を除けばだが。

「――――」

 女戦士はそれ以上何も出来ず、呆然と去って行く亜人の姿を見送る。いや、誰もが何も出来ない。

 弓矢などの飛び道具も通用せず、第三位階魔法さえ無効化し、そして九色の一人である女戦士の攻撃さえ子供の児戯に等しく防ぐ凄まじい技量。

 そんな相手に、一体何が出来ると言うのか。ただ、去って行くのを呆然と見送る事しか出来ないだろう。

 だから、ヨーン・バラハもまた呆然と見送った。その、おそらくは……アベリオン丘陵最強の亜人の後ろ姿を。その背中が、見えなくなる瞬間まで。何も出来ずに。

 

 

「あー! ビックリした!」

 人間の城壁から、三キロ以上離れた場所へ移動したウィーウェはそう叫び、ごろりと草原に転がる。

(未知の攻撃って怖っ! 〈ユグドラシル〉の特殊技術でも防げるみたいだけど、それでも怖かった! 今度はもう、そういう実験は止めよう!)

 弓矢による攻撃も、魔法による攻撃も全て防いだが最後の、あの目つきの凄まじく悪い女戦士の攻撃だけは、内心でかなり震えていた。女戦士の速度は、ウィーウェの動体視力と身体能力の前では欠伸が出る遅さであったが、しかしだからこそ未知の攻撃を待ち構えるのに勇気が必要になる。邪魔が出来る攻撃を、わざと邪魔せずに未知の攻撃を貰おうと言うのだから。

 もっとも、その甲斐有って未知のシステムによる攻撃はウィーウェの〈ユグドラシル〉システムによる特殊技術で何の問題も無く防げるのだと判明したが。

「……うーん」

 しかし、今回人間の技術を垣間見た事で分かった事がある。まず一つは、此処はウィーウェにとっては適正レベルが低過ぎる事だ。だが、これは別に困っていない。周辺モンスターや人間のレベルが低いという事は、つまりウィーウェは死ぬ心配をしなくて済む。即時復活する為のマジックアイテムは持っているが、それでも数は少ない。死んだ時のペナルティが無く即時復活するマジックアイテムは一つしか無く、他はデスペナが緩和されない下位のマジックアイテムが幾つか。回復アイテムのポーションも持ってはいるが、ログアウト寸前まで高難易度ダンジョンに挑戦していた為に数が心許無い。巻物(スクロール)に至っては自分が使えないのでゼロだ。

 そして、蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)などの他者が対象の蘇生アイテムもまた、一つも持っていない。つまり、ウィーウェは即時復活のマジックアイテムを全て使い果たした時、死亡が確定する。

 それを思えば、強力なモンスターなどが存在しないアベリオン丘陵は天国と言っていい。隙だらけのウィーウェに追撃が無かった事から、あの人間の国にも高レベルの人間が存在しないというのも最高だ。

 更に、〈ユグドラシル〉のシステムと全く別のシステムが高レベルで融合し、共存している事も判明した。〈流水加速〉やら〈剛撃〉などと言っていたが、そんな特殊技術は知らない。勿論、ウィーウェが全く知らないクラスの特殊技術だという可能性もまだ捨てきれないが、おそらく別システムの能力だろう。特殊技術を使う寸前の初動が、ウィーウェとは全く違う気がする。

 そして、その未知の攻撃により分かった事は……この世界は、言語が違うという事だ。今まで亜人にしか遭遇しなかったので全く気づいていなかったが、人間の口の動きからようやく、ウィーウェは彼らが別の言葉を喋っている事に気がついた。脳に届く時に、おそらく翻訳されて聞こえている。理由はさっぱり分からないが。

 そして――魔法。これは完全に〈ユグドラシル〉のものを共通で行使していると見るべきだろう。あの魔法詠唱者(マジック・キャスター)が使用したのは、間違いなく位階魔法だ。

 だが、それは同時にある事実も赤裸々にする。

「……そっか。ギルド長、此処にはいないのか」

 〈ユグドラシル〉の魔法は、亜人種も人間種も区別なく使用出来ている。プレイヤーも、おそらく例外では無いだろう。ウィーウェは魔法を使えないが、特殊技術は問題なく使用出来るのだ。魔法も、問題無く使用出来るとみていいだろう。

 つまり……モモンガから連絡が無いという事は、彼はこの世界にはいないのだろう。この異常事態になって、仲間に連絡を取らないなんて有り得ない。幾らモモンガが、サービス終了時の約束をすっぽかしてしまったので怒っているのだとしても、この異常事態で連絡を取らないなんてあるはずが無い。

 だから……モモンガは、此処にはいないのだ。

「…………」

 しかし、それでいい。こんなわけの分からない状態に、わざわざ巻き込まれる事も無いだろう。今頃、現実は大騒ぎのはずだ。ログアウト出来ないプレイヤーと、ネットから目覚めないユーザー。幾ら一般市民が相手でも、流石にこれは無視出来まい。必ず、現実で何らかのアクションがあるはずだ。

 よって、ウィーウェのこれからの目標は、現実から救助が来るまで生き残る事。此処が一体何処で、どうしてこんな事になってしまったのかさっぱり分からないが、それでも何とかしていくしかない。

 生きてさえいれば、きっとどうにでもなるだろうから。

「……でもまあ、とりあえずはメシだな、メシ」

 ウィーウェにとって最大の問題は、この食欲だ。ファゴサイトーシスなんてクラス習得しなければ良かったと、本当に今になって痛感する。これが無ければ、食事無効の指輪などをつけて対策が出来るのに。食事のペナルティはあるが、睡眠や疲労が無効になる為装備スロットが一つ空く――そんな便利さから、このクラスを習得したが本当に困ったものだ。

「朝になったら、また食べ物探さないとなー」

 ウィーウェは草原に寝転がり、夜空の星を数えながら時間が経つのを待ち続けた。ウィーウェの悩みなど知らぬとばかりに、澄んだ夜空に浮かぶ星々はひたすらに輝き続けている。

 

 

 




 
■物理無効化Ⅲ
30lv以下のデータ量の武器・モンスターの物理攻撃を無効化するスキル。モモンガ様が上位物理無効化Ⅲだったからこんなスキルもあるだろなって。

■クレーンプット・プフ
種族:刀鎧蟲
【詳細】
プフ族の族長。頭は良い方の亜人種。Lv.17。戦士系。

■ヴーヴァ・ディディンジャー
種族:獣身四足獣
【詳細】
とっても自信家。でも二つ名ゲット出来ない。Lv.24。戦士系。

■ロモロ・ボルツィ
種族:水精霊大鬼
【詳細】
二つ名“濃霧”。丘陵におけるチート野郎。Lv.33。モンク系。

■ヨーン・バラハ
種族:人間
【詳細】
城壁に駐在する兵士長。“黒”。どっかで見た苗字の人。Lv.20。弓兵系。

■女戦士さん
種族:人間
【詳細】
城壁に駐在する隊長。“赤”。どっかで見た極悪人面の人。Lv.22。戦士系。
 

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