魔法使いと空立つ男
前髪の長い一人の女子中学生が、たくさんの本を抱えて階段を下りていく。
階段に手すりなどはなく、よろよろと下りていくため非常に危なっかしい。
今にも階段から落ちてしまいそうだ。
階段の高さもそれなりにあるため、落ちてしまえば人たまりもないだろう。
……と、次の段に足をかけようとしたまさにその瞬間、
「あ、きゃあっ!?」
何と本当に階段から踏み外してしまった。
本も重力に従い、一緒にバラバラと落ちていく。
周りに人はおらず、いたとしても間に合わないだろう。
そして少女は地面に―――――
―――
魔法の力でも働いたのだろうか? いや、そんな荒唐無稽なことがあるはずもない。
だが、彼女を支えられるほどの強風も吹いてはいない。
じゃあ……一体何が起きたのだろうか。
「……へ?」
どうやらその様子を見ていたものがいるらしく、その人物は首をかしげていた。
十歳ぐらいの少年だろうか。それだけなら、別にどこにでもいるので怪しむ必要などない。
だが、彼は教職員のような服を着込み、まるで魔法使いが使うような大きな杖を、今まさに魔法をかけたかのように前につき出していた。
もしや……彼が助けたのだろうか?
本当に”魔法”や”超能力”をつかって?
ばかばかしいと一蹴するのは簡単だが、そうと考えない限り先ほどのの不可解な現象には説明がつかない。
少年はまだ首をかしげていたが、それはそれ、これはこれというように前髪の長い少女の元へ近づこうとした。
しかし―――その刹那、
「あ……あ、んた……?」
「え……あ」
どうやらもう一人、オレンジ髪のツインテールの少女も見ていたようだ。
「……」
「えっと……いや、あの…その」
数秒の硬直後、
「こっちきなさい!」
「うわぁぁ!?」
少年はお姫様だっこされ、木蔭へと連れて行かれる。
そして少女はスピードを殺さず、彼を木の幹に押さえつけものすごい勢いで話し出す。
「あんたぁ! やっぱり……やっぱり超能力者だったのね!?」
「い、いやちがいま―――」
少女の問いを少年は必死に否定し、弁解しようとした。
……だが、少女はまるで聞かず。
「ごまかしても無駄! 今、目撃したのよ! 現行犯よ!」
「あうあう~~~っ!?」
「薄情なさい! あんた超能力者なんでしょ!」
「ま、魔法使い―――」
「どっちだろうと一緒よ!!」
厳密には違う気もするが、現象が減少故もあり、今の少女にとってはどうでもいいようだ。
そんな中、少年はずっと疑問に思っていた。
実の所彼は、理不尽に絡まれているなどと、毛ほどにも思っていない。
(何で!? 僕はまだ魔法を使っていなかったのに、なんで宮崎さんの落下速度は落ちたの!?)
―――そう、少年は正真正銘の『魔法使い』なのだから。
されど今しがたの言の通り、あの場面では杖を構えただけで、魔法を使っていないのだ。
(他に誰かいたんでしょうか……だったら、もうちょっと分かりづらくしてくださいよ~~~~!?)
■
「先生に……お礼言えなかったな……」
一方前髪の長い少女は、まだ階段の下に座り二人が去っていった方向を見ていた。
されど、いつまでもこのままではいけないと思ったのか、本を片付けまた歩き出そうとする。
―――が。
「あ、あれ? 本が……いつの間に?」
三人以外誰もいなかった筈なのに、いつの間にか『丁寧に本が積み上げられて』いた。
多少大雑把なところはあるが、それでもちゃんと積み上がっている。
少女は不思議に思いながらも、本を抱え歩き去っていった。
■
夕方間近の青空が広がる。
目の良い者なら、勘のいい者なら気付いたことだろう……。
「あ~……やっちまったぁ……なー……。まぁアレだ、ココだーろが普通に使えることが確認できた分、いーとするか……」
一々言葉を引きのばし、けだるげに話す、
「……なんかよぉ、めんどーせぇ事になっちまった。 あ~……あーうん……自業自得でも、アレだめんどーせぇ……」
重力を無視しているかのごとく、“逆さま” に立つ男の姿に。