空が飛べるということは、即ち障害物を無視して、目的地へと一直線に迎えるという事。それは仁にとっても例外ではなく、高々度を
(めんどーせぇ事んなったなぁ……)
彼は今地上に降り立ち、何故かフードを被って“ス○リームマスク”なる物を付けていた。
その理由は、彼が密かに行動しなければならないという理由の他にもう一つ、目の前で行われている事にもあった。
逃げていた近衛木乃香と桜咲刹那を追う月詠を、蹴圧で吹っ飛ばし遠ざけたまでは良かったのだが、彼女たちが逃げ込んだ場所はよりにもよって“京都シネマ村”だったのだ。
一般人が多数を占める観光スポットに逃げ込むのは、―――相手がキチガイでなければ―――一見安全そうに見えるが、仁にとっては悪手であった。というのも、空からの援護は雲一つない晴天なの中こんな大人数がいる場所では行えないし、“陰ながら援護”という任務の特性上、人相を特定されるわけにもいかない。
よって仁は、“フードを深く被ってマスクを付け、簡易版蹴圧砲で援護”という行動を取らざるを得なくなってしまった。
――――ちなみに、彼の付けている“ス○リームマスク”は、本来シネマ村では売っていないはずの代物なのだが、一体どこから仕入れてきたのだろうか。
「なんだあいつ……背ぇ高けぇし、変なマスク付けてるし……」
「関わらないようにしようぜ」
「なにアレ? 雰囲気台無し?」
「付けるなら場所選んで欲しいよね~」
そのマスクと、パッと見190代後半は余裕な高身長の所為で、嫌でも目立ってしまている。
……付けるならば翁の仮面や般若の仮面など他にも色々あっただろうに。
だが目的の人物たちには気付かれていないようなので、一応は何とかなっている。
「お、お嬢様!? その格好は一体!?」
「さっきそこの人が教えてくれたんやけどな、更衣所で頼めば着物貸してくれるんえ」
(……いいこと聞いたな。着替えとくか)
木乃香の傍には刹那がいるのでまだ大丈夫だろうと、仁は着物を借りに更衣室へと入った。
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数分後に出てきた仁は、地味な色合いの簡素な着物を着て出てきた……“ス○リームマスク”はそのままで。
しかも頭に包帯を巻いて少し髪を隠して。
何かこだわりでもあるのだろうか……?
ふと振り返って見ると、そこには男装姿の刹那が更衣室から出てきたところだった。どうやら彼女も、木乃香に誘われて仮装する事に決めたらしい。
その格好のまま、木乃香と土産店を回ったり照れながらも意外とノリよく写真撮影に応じたりなど、観光を楽しんでいる彼女達の後ろを、無言で気配を消しながらついていく着物“ス○リームマスク”。言われるでもなく怪しいとわかる、怪しいにも程がある。
と、後ろから轟音を立てて馬車がやってきた。馬の背には黒子らしきものが乗っており、惹かれている車にはこちらも仮装したらしい月詠が乗っている。
「どうも~……東の洋館に住んどる貴婦人にございます~~。ほな剣士はん、今日こそ借金のカタとしてお姫様を貰い受けますえ~~?」
「!? なんのつもりだ、こんな場所で――――」
「何言うとるのせっちゃん。コレはお芝居と違うん?」
「え? これ劇なの?」
「はい、シネマ村では設定無茶苦茶な劇を、客を巻き込んで始めたりすることもザラにあるらしいです」
「へえ~、面白いね」
(……なるほど、劇に見せかけて白昼堂々と誘拐行為をしようって魂胆かい)
仁の思っている事を刹那も考えていたのか、月詠と木乃香の間に立ちふさがり、彼女を睨みつけて臨戦態勢を取った。
「そうはさせん……お嬢様は私が守る!!」
刹那としては気合を入れるために放った言葉であったろうが、周りからは“ノリのいい美少年が隠れた才能を発揮して、劇に順応している”と見られたらしく、歓声や口笛が上がった。
「せっちゃん格好え~なー……惚れてしまいそやわぁ」
「ちょ、ちょっとお嬢様!?」
「ほな、しかたありませんな~……えーい」
「むっ?」
突如として、月詠は自分がつけていた手袋―――――寒さから手をを守るための物ではなくお洒落のために付ける肘先までを覆う物―――――を刹那に向かって投げ、刹那がそれを受け取ると同時に静かながらも通る声で話し出す。
「お姫様をかけて決闘を申し込ませて頂きます~―――三十分後にシネマ村正門横の日本橋にて……逃げたらあきまへんえ~? ……刹那先輩♥」
(……チッ、気味悪ぃ奴……)
最後に月詠が見せた狂気混じりの笑みを見て、刹那は身構え木乃香は怯え、仁は舌打ちをした。騒がしくなってきたこの場を仁はさっさと去り、そのまま日本橋へと向かうのだった。