空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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壱の段にあるは、『奥ノ手』なり “前”

 いつの間にやら“ス○リームマスク”から“能面・翁”へと変えた仁は、高々度を走りながら眼下に広がる森林の中にネギ達はいないかと目を凝らしている。

 すると、森の一点から強烈な竜巻が上がる。ひょっとせずとも、何かがあったのには間違いないだろう。

 

 仁はすぐさまそこへ向かおうとした。が、竜巻の発生地点から人を抱えた着ぐるみのような猿と、空に浮く二人の人影が飛び出すのが見えた。背格好と見覚えのある猿がいたことから、おそらく昼間の二人に違いない。

 

 仁は、ネギ達を救援しに竜巻の方に行くか、企みを止めるため彼らを追うかを選択することになった。

 

 

(……考えーのがめんどーせぇから、自己判断とかヤなんだよ……どーすっかねぇ…?)

 

 

 きっかり数秒間悩んだ仁が出した答えは――――

 

 

「止めに行くか、あいつらを」

 

 

 

 

 “敵を追う”ほうだった。

 

 そうと決まればと小さくなった彼らを、気配を殺したまま仁は移動方法を“走行”から“飛行”に切り替え、高度を落として森に隠れながら、滑るように静かに……しかし素早く追っていく。

 

 

 順調に追跡を続け、様子を見て奇襲をかけようとしていたその矢先……目の前に化物の大群が再び人の前に立ちふさがった。その化物は、先程の可愛げのある式神達ではなく本物の“妖魔“とも言うべき者達ばかりで、物量も倍近くとは言えずとも増えているところを見ると、仁を止めるために本気を出してきたことが分かる。

 

 しかし、よく見ると先ほどの式神達も混ざっていることから、どうやら尾行に気付かれたわけではないらしい。

 

 

「めんどーせぇなぁ……!!」

 

 

 

 何やら封印式が施されたような大岩が離れたところに見える。となると、奇襲等を含めて成功させるには、先程のような力任せの“蹴圧”を放ち、道を作るわけには行かない。少し近めなこの距離だと、着弾地点への着弾音で気づかれる可能性があるからだ。

 また、全く関係ない方向に撃ったとしても、次々と進路を遮るように彼らが壁となって時間を稼ぐのは目に見えている。

 

 溜息を吐いた仁に、リーダー格らしい鬼が話しかけてきた。

 

 

〈悪いな翁面のにーちゃん、わしらもこれ仕事でやっとるんでなぁ〉

「時間稼ぎなーてめんどーせぇ仕事、俺なら速攻サボるわ」

〈だろうなぁ、にーちゃんからダルそうな雰囲気をものすごい感じる……だが〉

 

 

 少し気さくに話しかけていた鬼は一旦言葉を区切り、険しい顔と震えるような声で仁に問いかける。

 

 

〈にーちゃんからは“気”やら“魔力”やらの類は感じん。ま、それだけなら別にかまへんのや。見えない砲弾も馬鹿力で打ち出した衝撃波だと考えればいけるし、“気”や“魔力”抜きでも強いもんは、にーちゃんに及ばずともおる……が、にーちゃんはどうも引っかかる〉

「……何がだよ」

〈にーちゃんから感じる圧力……いやそれだけやない――――

 

 

 

 

その足枷からも感じる、笑えんぐらい馬鹿強い力は一体何や? しかも感じた限りそれは物の気配やない……あそこの岩にに封じられとる大鬼を十体並べても、冗談抜きで“可愛く見える”じゃ全く足りん程の『化物』の気配や……その足枷、なんだっちゅうんや〉

 

 

 その質問に、仁はだるそうな声で返した。

 

 

「……アンタたらみてーな“完全に人じゃねぇ”奴らに、何度もそー言われたわ……んで、あんたらへの質問の答えぁ……アレだ、いつも通りの“回答拒否”だ」

〈ま、答えてもらえるとは思っとらんかったさかい、別にええんやけどな……でもやっぱ気になるなぁ〉

 

 

 帰ってきた言葉に鬼が苦笑したその直後、湖から光の柱が上がり、水面がまるで爆発したかのごとく、岩を中心に波立つ。どうやら、儀式は着々と進んでしまっているらしい。

 

 

「わりぃが、もう無駄話に付き合ーてる暇ねぇよ」

〈みたいやな……実力勝負じゃこの人数でも絶対勝てん(・・・・・・・・)から時間稼ぎしとったっちゅうのに〉

「じゃ、あばよ」

 

 

 言うが早いか、波濤の音に紛れるように蹴圧を連続で放って瞬く間に道を作ると、そこを通るように見せかけて空中の鬼達を回し蹴り一発で蹴散らし、空中を走っていってしまった。

 

 

〈なんや……敵には全く情が無い人物でもないんやな〉

 

 

 仁と話をした鬼は、どうやら攻撃されなかったらしく、その場に佇んだまま小さくなる仁を見やった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方祭壇では、近衛木乃香の魔力を使い、千草と少年が儀式を進め、いよいよ儀式の最終段階へと踏み入ろうとしている。しかし、これが中々難しいらしく、千草は少々顔をしかめていた。

 

 すぐそばにいた少年が、あまり気持ちのこもっていない言葉を千草にかける。

 

 

「まだですか? 千草さん」

「なに、あともう少しや!」

 

 

 律儀に少年へと答えた千草は、息を深く吐いて儀式を続行し、少年は相も変わらずの無表情で光の柱を見やり――――何かに気付いたように、顔を柱からそらす。

 

 

「……来たよ」

「何!? まさか、あのガキが」

「違う―――どうやらあの時の砲撃手のようです」

「ウチらを二度も邪魔したあの砲撃手やと!?」

「千種さんは儀式を続けてください、僕が止めます」

 

 

 

 少年はそう言うと懐から符を取り出し、短く呪文を唱えると符を中に投げる。その符は音を立てて煙を上げ、人型の化け物を呼び出した。

 

 

「ルビカンテ、おそらく“敵”は上空にいる、そこを探ってきてく――――」

 

 

 探ってきてくれ、少年がそう言い終わる前に、先程の光の柱が起こしたものを超えるほどの大爆発と爆音が、ルビカンテの居た地点を中心に轟いた。

 爆発によって膨大な量の水煙が巻き起こり、彼らの姿はほとんど見えなくなる。

 

 

「な、なんや何なんや!?」

「昼間の時とは段違い、か」

 

 

 水煙に紛れて近づくつもりか……そう予想し、迎撃するべく構えた少年の目論見は―――――

 

 

 祭壇と湖に雨霰のごとく降り注ぐ“見えない砲弾”によって、物の見事に外れることとなる。

 

 

「な、ちょ、やばいってブホッ!?」

「く……! ……数が多いうえ、威力もあるのか―――ぐっ!!」

「むー!? むーっ!!」

 

 

 木乃香の事などまるで慮っていないその砲撃は、祭壇が穴だらけでボロボロになっても未だ止む気配を見せず、むしろ威力を増して降り注いでいる。それでも、木乃香に当ててしまった時のための保険なのか、森を抉った時のような威力のものは放たれていない。

 

 儀式を中断させないために、少年が魔法障壁と岩壁で凌ごうとしているが、魔法障壁は十発程度で貫かれ、岩壁は役立たずだと言わんばかりに数発で粉砕され、結果千草は吹っ飛ばされた。

 それでもなお、意地で食らいついたのか、千草は儀式進行の速度を遅らせるだけにとどめたようだった。

 

 

「うわ!? 祭壇がボロボロ! これって砲撃の人の!?」

「砲撃の奴、先回りしてくれてたのか! これならまだイケルかもしれねぇぞアニキ!」

「うん!」

 

 

 そこに、杖に乗ったネギが現れる。それと同時に砲撃も抑え目になったが、今度は威力重視で正確に飛んでくるようになっていた。

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……吹け、一陣の風(フレット・ウヌス・ウエンテ)

『風花・風塵乱舞』(フランス・サルタティオー・プルウェレア)!」

 

 

 彼らの視線がネギに向くと同時にネギが手をかざすと、突風と共に再び水煙が舞い上がり、ネギの姿をかき消した。少年は砲撃をよけながら、ネギはどこから来るのかと見回している。

 

 

契約続行!(イプセ・パルス・ドゥーレム)

|追加3秒《アディティオナーレ・ペル・トレース・セクンダース》、ネギ・スプリングフィールド!!」

「……そこか」

 

 

 ネギの声に反応し、聞こえた方向へと少年は手を向けるが――――風切り音と共に水煙から現れたのは、彼の持っていた“杖“のみ。そのことに首を傾げた少年がふと目を向けた場所に……拳を振りかぶったネギの姿があった。

 

 

「うあああっ!!」

「無駄だよ」

 

 

 魔力が込められているらしいその拳は、しかし鈍い音を立てて障壁に阻まれ、少年にかすりもしない。防がれた際の音と衝撃はかなりのもので、その拳の威力がどれだけすごいか、そしてそれを防いだ少年がいかに高い実力を持っているかが伺えた。

 

 

「嘘だろ!? 障壁だけでアニキの魔力パンチを防ぎ切ったのかよ!?」

「……だから、無駄だ、と言ったのに」

「ぐっ」

「それに、君は出てこない方が良かったんじゃないかな? 砲撃手は、君とお嬢様とやらに当たらないように砲撃を撃つことに専念してしまって、威力も落ちているようだけどね」

 

 

 少年の言う通り、砲撃の弾数も少なくなり威力も最初より落ちている。加えて千草が木乃香を少々盾にするような配置についた為、儀式を強制中断させることが難しくなってしまっているようだ。

 

 

「実力差があるとわかっているのに近づいて来るなんて……君は期待ハズレだよ、ネギ君」

 

 

 少年はネギの手を掴んで引き寄せると、何やら呪文を唱えながら手をかざす。だがその呪文は、ネギの笑みによって停められた。

 

 

「ヘヘヘっ……引っかかったね!」

「何…?」

解放(エミッターム)っ!!」

 

 

 ネギは叫び声と共に、少年の腹部へと掌底を決め――――溜めておいた魔法、『魔法の射手・戒めの風矢』を解放する。途端に風のロープが少年に巻き付き始めた。

 

 

「まさかこれは、遅延呪文(ディレイ・スペル)か……」

「みたか! アニキは、水煙ん中で先に『魔法の射手』を詠唱して溜めておいたんだぜ! しかもゼロ距離なら強力な魔法障壁だろうとも効力は最小限だぜ!!」

戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)は基本呪文だけれど、まともに当たれば数十秒は動けないよ!」

「そしてこの数十秒でこのか姉さんを助け出すん……ってあり? 姉さんがいねぇ!?」

「あっ! なんで!?」

 

 

 ネギ達が顔を向けた先に木乃香も千草もおらず、裁断の台はもぬけの殻状態となっていた。思わず惚けた顔をするネギ達の目の前に、突如として今まで以上に巨大な光の柱が天へと登り、水しぶきが猛烈に上がる。

 

 

「お嬢様を盾にする、か。卑怯な手段でも貫き通してみるもんやなぁ……儀式はたった今終わりましたえ」

 

 

 そして光の中からゆっくりと―――――――二つの顔、四つの腕、身の寸二十丈超えそうな巨躯を持った、大鬼が現れた。

 

 

「イヤイヤイヤ! デケぇって!? デカすぎるってこいつ!?」

「そんなっ……!?」

「これぞ、二面四手の巨躯の大鬼《リョウメンスクナノカミ》や。……というかウチもデカすぎてびびったわこれ。伝承じゃ十八丈とか言うとったのになぁ」

 

 

 呼び出したものですら圧倒するその大鬼を、砲撃の主・仁は上空から見つめていた。

 

 

(クソッタレ……自業自得で馬鹿を見ちまったっての……あー、ちくしょうが……! しょうがねぇ……アイツ(・・・・・)にバレるかもしれねぇが――――

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟しとくか、『奥ノ手』ぇ使うのを………よ)

 

 

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