空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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壱の段にあるは、『奥ノ手』なり “後”

 あまりに巨大な『リョウメンスクナノカミ』を前に、カモはそれでもどうにかしようと考えを巡らせながらネギへと叫ぶ。

 

 

「どうすりゃいいんだよこんなの! いくら砲撃の奴がいるからっていくら何でも――――」

「砲撃の人!! 居るなら一緒に攻撃をお願いします!!」

「へ? ア、アニキ!?」

 

 

 ネギは怯みさえしたものの果敢に挑むべく、援護願いを出したあと詠唱を開始した。

 

 

「完全に出てくる前に倒すしかない!! ……ラス・テル・マ・スキル・マギステル―――

来れ雷精!!(ウェニアント・スピリトゥース) 

風の精!!(アエリアーレス・フルグリエンテース)

「ちょ、ちょっと待てアニキ! 確かに効きそうなのはそれしかねーよ!? けど、もう魔力は限界の筈だぜアニキ!?」

 

 

 ネギが放とうとしている魔法の呪文を耳にしカモが慌てて止めに入るが、ネギは構わず呪文を唱え続け、砲撃手である仁も『奥ノ手』(・・・・・)の準備をしながら、脚力砲撃を放つ。しかし、『奥ノ手』に力を回しているためか、その威力は落ちている。それでも、人を吹き飛ばすことなど余裕でできる力は出ているのだが―――

 

 

(こんなろ……全力じゃねぇとはいえ、顔面に食らったんならちったァ痛そうにしやがれってんだ……)

 

 

 余り効いてはいない上、放ったウチのいくつかは弾かれていた。しかし、出現を遅らせる程度の役には立っているようで、その間にもネギは魔力を集中させていく。

 

 

「|雷を纏いて吹きすさべ《クム・フルグラティオーニ・フレット・テンペスタース》、

南洋の風!!(アウストリーナ)

「そんな大技使ったら倒れちまうよ!! アニキィ!!」

「なんやと……!」

 

 

 大技と聞いて、千草にも若干焦りの色が見える。そして、一際大きな着弾音を上げて蹴圧が命中するのと同時――――

 

 

雷の暴風ッ!!!(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)

 

 

 雷撃を纏う竜巻が、一直線に『リョウメンスクナノカミ』へと向かう。空気を切り裂くような高音と、嵐のような轟音と共に放たれた大技(まほう)は真正面から命中し―――――

 

 

 

 何と気の抜けた音と共に、ものの見事に弾かれてしまった。『リョウメンスクナノカミ』は身じろぎ一つすらしない。

 

「ふ……あははははっ!! なんやそれが精一杯か!? まるで効かへんなぁ!」

「あ……ぐっ」

(お前が受けたわけじゃねーだろうがコンナロ……)

 

 

 仁の言うことは尤もなのだが、それでもこの鬼を操っているのは彼女であり、鬼をあの女の手足と考えるなら、発言の否定もまたできない。

 

 

「このかお嬢様の力で完全制御可能な今なら怖いもんなんか何もあらへん! 増援とて瞬く間に蹴散らしたる! ……そうしてその後に、東に救う魔術師ども一泡吹かせたるわ!!」

「こ……のかさん…!」

「しっかりしろ、アニキ!」

 

 

 そして、弱めに祟り目泣きっ面に蜂……白髪の少年を縛っていた『戒めの風矢』が、高らかな音を立てて解かれてしまった。

 

 

「だいぶ善戦したようだけど……残念だったね、ネギ君」

「や、やべぇ……最悪じゃねぇかっ……!!」

「制約上殺しはしないよ、でも――――こうして向かってきたからにはそれ相応の傷を負う覚悟はあるよね?」

「くっ……」

 

 

 ネギの体力は限界に近く、消炎はすぐそこまで迫ってきており、背後には『リョウメンスクナノカミ』が鎮座する。もはや八方手詰まりであった。

 だが、まだ手がある。それは仮契約カードの機能で仮契約したものたちをこの場に呼び寄せるということ。つまり、対エヴァンジェリンの時に契約した“神楽坂明日菜”と、先刻契約したばかりの“桜咲刹那”を呼ぶということだ。

 

 

(いいなアニキ、もう迷ってるヒマはねェ! 今すぐ呼ぶんだ!)

「(了解だよカモ君!)―――召喚!!(エウォケム・ウォース)

ネギの従者(ミニストラエ・ネギィ)神楽坂明日菜(カグラザカアスナ)

桜咲刹那(サクラザキセトゥナ)!!」

 

 

 ネギが二人の名前を呼びカードを中にかざすと魔法陣と光の柱が現れ、その中からハリセンを持った明日菜と刀を持った刹那が現れる。二人共それなりに消耗しているようだった。

 

 

「すみま…せん、アスナさん刹那…さん。僕、このかさんをっ」

「わかってる! あとは任せてネギ! ――――って何あれデカぁ!!?」

 

 

 目の前にしたリョウメンスクナノカミの大きさに驚く明日菜。しかし、人数が増えた状況をなんとも思っていないかのような口調で、少年は紡ぎ出した。

 

 

「……ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト」

「な、呪文の指導キーだと!?」

小さき王(バーシリスケ・ガレオーテ)

八つ足の蜥蜴(メタ・コクートー・ポドーン・カイ)

邪眼の王よ(カコイン・オンマトイン)

「西洋魔術……しかもこの呪文は……やべぇ!?」

「や、やばいって何が―――」

「姉さん達! 早く止めろ!」

「ダメです、間に合わないっ!!」

時を奪う(プノエーン・トゥー・イウー)毒の吐息を(トン・クロノン・パライルーサン)……」

「に、逃げろぉ!!」

 

 

 切羽詰まったカモの叫びに、ネギ達は慌てて少年に背を向け走り出す。そして、ネギ達が数歩走ったその直後、手をかざした少年の――――

 

 

 

 

 

 背後に大岩が着弾した。

 

 

「ぐおぉっ!?」

 

 

 その岩はリョウメンスクナノカミの体高を超えようかというほどの大きさを誇る巨岩であり、その巨岩の落下によって起きた衝撃波に、少年は踏ん張れもせずに吹っ飛んでしまう。

 

 

 その巨岩はゆっくりと宙に浮かんでいく……まるで何者かの手によって操られているかのように。そして―――――猛烈な勢いでリョウメンスクナノカミに激突した。

 

 

「どわああっ!! 何やぁ!!?」

 

 

 リョウメンスクナノカミもこれには耐えられず、轟音を立てて真後ろに体を反らす。しかし、巨岩の勢いは緩むことを知らず、二度三度四度と勢いを増しながらぶつかっていく。さらに……

 

 

「ちょ、あ、アレ! アレ!」

「あれ? って何……うおおおお!? 大岩追加ぁ!?」

「あ、ありえない……!」

 

 

 リョウメンスクナノカミの背後から、同じような巨岩が二つかっ飛んできたのだ。前方の巨岩と左右後方の巨岩に挟んでぶつかり、リョウメンスクナノカミに打撃を与え続けた。はたから見ても、かなりのダメージを負っていくのがわかる。

 

 

「もしかして……!」

「カモ君?」

「もしかして、砲撃の奴の攻撃の威力が弱かったのは、これを準備するためだったんじゃねぇか!?」

「え、ええ!? コレ砲撃の人がやってるの!?」

「そうとしか思えねぇよ! じゃなきゃ説明つかねぇ!」

「も、もうこれは自然災害の域ですよ……!?」

 

 

 

 その場にいた者達を呆然とさせるその所業、それを行っているものは……彼らの真上、高々度の上空にいた。

 

 

「やっと間に合ったってーの、やっぱ修行しとくべきかよ……まだ『奥ノ手』ぁ慣れてねーんだし……」

 

 

 張本人である仁はそう呟くと勢いよく足を振り抜き、それに連動して巨岩がリョウメンスクナノカミへと向かう。

 

 

 巨岩を思いのままに“飛ばす”、それを行う仁の足にある足枷は――――生物の様な質感と金属のような質感を混ぜたような、そして蝙蝠と人間を足しで二で割ったような化物をを模した足鎧となっていた。

 

“飛”(トバシ)の力の『奥ノ手(アルマート)』―――“黒龍翔爪”(くろたつしょうそう)。未完形態みてーなもんだし、制限めんどーせーし、今の状態(じょーたい)じゃぁクソ(よえ)ー」

 

 そこで一旦切った仁の眼は、次の瞬間、鋭い物へ一変する。

 

「が……アレだ、まだ続くぜデカブツ」

 

 それだけ言うと、仁は再び脚を振り被り……巨岩を蹴圧と共に打ち出した。

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