空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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『[独器]なるものと拳の悪魔』 
“独”《ならぶものなし》 “毒”《はなれることできず》


 少々雲のある晴れた日。

 

 現代ではあまり見ない、江戸時代のような茶屋に、パーカーを着た青年と黒衣を着た少女が居た。

 

 

『仁? ドウカシタノ?』

『どうもしてねぇ……』

 

 

 青年―――仁はそう答えるも、その顔は面倒臭さとは別の “何か” も含んでおり、どうもしてないと言い切るのには些か不自然である。

 

 

『フ~ン? 別ニイイケド』

『……』

 

 

 別にいいと言いっている割には不満げな顔を見て、仁は更に怠そうな声色で告げた。

 

 

『あんま、アレだよ詮索すんじゃーねぇよ……紬』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ、帰って早々嫌な夢だ……めんどーせぇ…」

 

 

 仮眠を取っていた仁は、ぶつくさ言いながら目を覚ます。

 

 仁は壁にすがったまま寝ていたらしく立ったままで、周りには寝られる場所などなかった為妥当だとも言える。彼は腕組みを解くと、頭を掻いきながら歩き出した。

 

 

「そういや、今晩爺とエヴァンジェリンに “アレ” 教える事になってたか……めんどーせえけど行くか……ダル…」

 

 

 

 相も変わらずの雰囲気を保ったまま、仁は夜の学校へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 仁は学園長室の前に着くと、ノックもせず失礼しますも言わず、いきなり扉を開けて中へ入る。学園長室にはどうやらハンコ地獄の所為で寝込んでしまっているらしい近右衛門と、胡座をかき一人で将棋をやっているエヴァンジェリン、そして彼女へ茶菓子を運ぶ茶々丸がいた。

 

 

「よ、大丈夫か爺」

「大丈夫に見えるのかの?」

「いや全く。寧ろ寝込んで氷嚢を腰に当てて、腕に湿布貼ってーから重症だな、どう見ても」

「ならば、何故大丈夫と聞いたんじゃ?」

「ノリ」

「たち悪いのお主!? ……アイタタ」

「おいおい無理すんなよ……」

「させとるのは誰じゃ」

「俺」

「だから、たち悪いわお主!」

「くだらん漫才はいいから、さっさと話すべきことを話してもらおうか、仁」

 

 

 エヴァンジェリンが待ちくたびれたと言わんばかりに、将棋盤から目を外して仁へと吠える。まぁ、この後に及んで先延ばしにしても仕方がないだろうと、仁は自らも床に座り込み、話し始めた。

 

 

「まず……あんたらは『独器』ってもんを知ってるか?」

「知らん、聞いたこともない」

「わしも、そのような物は耳にしたことすらないのぉ」

「……なら、そっから話すわ。めんどーせェけど……いいか? ――――」

 

 

 そこから仁は語りだした。

 

 その昔、自然災害をも超える力を持つ化け物達が何処からともなく現れ、人間の平和を奪った。

 その凶悪すぎる力が故に人間は手も足も出ず、唯化け物たちが跋扈するのを指をくわえて耐えるのみであった。

 そんな日々が続いていたある日、とある者が言った……『倒せないのならば、封じてしまう他無いのではないか』と。

 それを実行する為に世界中のありとあらゆる、武器兵器に関わらず、あらゆる分野のスペシャリスト達を集め、犠牲の元に手に入れた化け物達の体の一部を使って強力な武具を作り出した。

 封印術に長けた玄人達が、その武具に対応した化物を一体、また一体と封じていき、多大なる犠牲を払いながらも化け物たちを封印しきり、人間は勝利を収めた。

 しかし、化物の力が強大すぎるあまり、化物が持っていた天災級の力が、武器にも宿るようになってしまったという。

 その並ぶものなしの強大な力 “独”を表に、一度使えばそれから離れられなくなる “毒”を掛け合わせ、いつしかその武具達は『独器』と総称されるようになったという――――

 

 

「―――と、まぁこんな感じだわな。あくまで伝承だから、真実かどうかぁ知らねーが」

 

 

 仁の説明を聞いていた近右衛門達は、神妙な顔つきで黙り込む。一番初めに声を上げたのは、エヴァンジェリンだった。

 

 

「つまり、魔力もなしにお前が飛べる秘密のタネは、京都でも言っていたがその足枷……独器によるものなのか」

「ああ、その名も “飛”(トバシ) の足枷・『空轍』(そらわだち)だ」

「武具 “達” と言っていたがその独器というのは、他にもあるのんだよな?」

「あるぞ……例えば“凍”(コゴエ)“防”(フセギ)“撓”(シナリ)なんてのもある。名前を知ってるのじゃ“煙”(ケブタシ)の独器・『銃撃に変わる盲愛』(ブラインド・ラブ)ぐらいだな」

「他のものは知らないのか?」

「俺が知ってんのは俺のとさっき上げたのを入れて5つだけだ。ウチ3つは独器の能力しか知らねぇよ」

 

 

 そうか、と黙り込んだエヴァンジェリンと入れ替わるように、今度は茶々丸が問いを投げかける。

 

 

「では私からも一つ……仁さんは“飛”や“凍“などと言っていましたが、その一文字が能力を表しているのだと解釈してもよろしいのですか?」

「あぁよ、その認識で構わねーわ……。加えて言うなら、独器の頭のその一文字はアレだ、その独器の最も印象的な能力だと、認識したほうがいい」

「印象的な能力?」

「例えば、さっき上げた“撓”は、独器自体を伸ばして鞭みたいにしならせて攻撃できるんだと。でも、それはよく使われた力の方で、縮めて硬化させることもできるらしいし、他の効果もあるって聞いたわな……ま、アレだ、こんな感じか」

「……なるほど」

 

 

 茶々丸との会話を終えると、数瞬の間を空けてエヴァンジェリンが再び口を開いた。

 

 

「お前の独器―――その“飛”の力というのは、“自分自身が飛べる”だけじゃないだろう?」

「んあ……あんたらも体験したように“他の物を浮かせる”事もできる……だがよ、アレは無生物には無制限で使えーけど、生物にはちぃと制限があんだ」

「だから、あのデカ物や雑魚共を直接浮かせることはしなかったというわけか」

「それにしても “独器” ですか……」

「はじめの説明は、知らない者はバカバカしいと一蹴するだろうが……魔力も何も無しに空を飛んだり人や岩を浮かせたりするのを見た後だと、笑い飛ばすことはできんな」

 

 

 実は“飛”の力には、あと2つほど話していない力があるのだが、聞かれなかった為か仁はそれを明かすことはせず、口を噤む。

 もう終わりかと仁が息を大きく吐いたその時、近右衛門がいつも以上に真剣な声で仁へと問いかけたきた。

 

 

「仁、今まで様々な事が重なり禄に聞けんかったから、いい機会じゃし聞かせてもらうぞ―――――

 

 

 

 

 

お主は何故、血まみれで図書館島の地下に倒れていたんじゃ?」

 

 

 その問に真っ先に返したのは、エヴァンジェリンだった。

 

 

「何? ジジイ、コイツは血まみれで倒れていたのか?」

「うむ、久々に地下にある本でも読もうと図書館島に降りたときにの、誰かの気配を感じたんで近づいてみたら、なんと血まみれの青年が倒れておるではないか。これは不味いとその場で治療をし、なんとか一命は取り留めたんじゃ。……どう説明していいか分からんし、他の者には言えずにおったんじゃがな」

「ん? ジジイ、直したんなら何故その場で聞かなかったんだ?」

「……目が覚めたと同時に逃げたらしくてのぉ、ある日忽然と消えおったんじゃ」

「で、とある場所で爺と出会ーて、爺があまりに驚くもんだから何かと聞いたら、俺を助けてくれ人だっていうじゃねか」

「その時に、恩を代えさせてくれと真剣な表情で頼まれて、聞きたいことを聞く前につい了解してしまい……とまぁ、こんな感じになるかの」

 

 

 それを聞いていたエヴァンジェリンは、呆れの表情と共に仁以上に大きな溜息を吐き、言葉を紡ぎ出した。

 

 

「全く……素性も分からん者を素直に迎え入れるとは、どうかしているんじゃないか? ジジイ」

「わしも最初は軽率な事をしたかと悩んだが、こやつは面倒くさいと言いながらも、割と真面目に仕事をこなしてくれての」

 

 

 近右衛門は苦笑と共に告げ、エヴァンジェリンはそれに小さくため息をつく。

しかし、少々穏やかだった雰囲気もつかの間、仁へと再び視線が集まった。自身の過去が気になっているようである彼らを見回したあと、仁はフッと表情からダルさを消し、代わりに何時もはしない鋭い目で語りだした。

 

 

「分かーねぇ………俺はその血まみれにした奴と相討ちになって倒れちまった。んで、気づいたらあの変な場所に居た。本当にそれだけだ」

「血まみれにした奴も独器を使っていたのか?」

「ああ」

「仁、本当に覚えておらぬのか?」

「こればっかりは、マジだ。覚えてない。……けど、少なくともこれだけは言える―――――俺がいた世界とこの世界は、全く基礎の違う別世界、だってな……」

 

 

 仁のつぶやきに、エヴァンジェリンが茶々丸を見た。何が言いたのかわかっているとばかりに頷いた茶々丸は、静かに話し出す。

 

 

「調べ続けていますが……彼の言ったことはどの文献にも載ってはいません。しかし、彼の様子を細かくモニタリングしても、嘘を言っているという根拠は見つけられませんでした」

「にわかに信じられんが……コイツは本当に異世界から来たと、そう解釈するしかないか。でなければ、化物などどちらにも出てきてないのに何を言っている、という事になる」

 

 

 

 エヴァンジェリンが喋り終えると、学園長室は耳に痛い程の静寂に包まれる。初めに声を上げたのは、仁だった。

 

 

「異世界の事も今は詳しく話せねぇ、けど時が来たら全部話すのは約束する。とりあえず俺の扱いは今までと同じ万事屋 兼 請負人だ、爺」

「……うむ」

「いいだろう。これ以上続けても、お前は何も話さなそうだしな」

 

 

 その言葉を聞いた仁は、何時も通りのダルそうな表情へと戻り、扉に向かって歩いていく。そんな仁を、最後に一つだけいいか、と近右衛門が呼び止める。

 

 

「なんだ、爺」

「お前を血まみれにした者……名だけでもいい、教えてくれい」

 

 

 仁はきっかり十秒の間を取ったあと、静かに答えた。

 

 

「……『紬』だ」

 

 

 

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