空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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ご服用は計画的に

「よーし! 今日も頑張るぞ!」

「張り切りすぎて転ばないでよ、ネギ!」

「元気やな~ネギ君」

 

 

 電車のドアが開くと同時に、生徒達が走り出す。最早お馴染みとなった麻帆良学園中等部の投稿風景の中に、修学旅行から帰ってきた三年生たちの姿も見え、さらに騒がしい朝が戻ってきた。

 

 修学旅行の京都の地で、探していた父親の手がかりとなるものを手に入れたネギは、いつも以上に気合が入っているように見え、それを少々諌めるかのように明日菜と木乃香が続く。

 

 

「そうだ、アスナさん」

「何よ?」

「中間テスト、忘れずに勉強していい点を取ってくださいね!」

「うぐっ……い、言われなくても分かってるわよ!」

 

 

 どうやら忘れていたらしく、冷や汗と共に返す明日菜を木乃香は苦笑いで見つめる。ちょっとした言い合いになる前に自分が入っていこうと、スピードを上げるべく勢いをつけようとして―――――ある者が目に入った。

 

 

「なぁアスナ、ネギ君」

「大丈夫……ん? 何、このか?」

「絶対に……どうかしたんですか? このかさん」

「あの子、中学生やあらへんよね?」

「「へ?」」

 

 

 ふたりは首をかしげて、木乃香の指さす先を見やる。そこに居たのはネギより少し年上だが、確かに中等部に通う年齢には見えない少年がいた。

 髪の毛は上がボサボサの白髪まじりで、無地のパーカーと迷彩ズボンを履いた、ダルそうな雰囲気を醸し出している少年だった。

 

 

「何しに来たのかな、あの子」

「もしかして迷ったんじゃないですか? それで、初等部の人が中等部に来てしまったとか」

「ネギ、初等部にだってちゃんと制服があるのよ? なのにあのガキが着てるのはどう見ても私服じゃない」

「なら、生徒じゃないんですかね?」

 

 

 暫く、謎の少年を見ていたネギ達だったが、別の場所で上がった騒ぎ声につられて、視線がそこに向かっていってしまう。

 

 

「あれって古菲じゃない?」

「あ、ほんまや」

「何をしているん―――じゃなくて! まずはあの子を……あれ?」

 

 

 ネギが視線を戻した時には、もう件の少年は居なくなっていた。

 

 

(あの子……一体なんだったんだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園長・近右衛門は治癒魔法などを駆使してなんとか業務をこなせるまでに回復し、一通りの事業を終えて一息ついていた。と、そんな彼の携帯電話に着信が入る。

 

 

「うむ、もしもし」

『……もしもし』

「ぬ? 誰じゃお主は?」

 

 

 掛かってきた面倒くさそうな少年の声に近右衛門は聞き覚えがなく、誰かと問いかける。が、そのあとに帰ってきた言葉で何かに気づく。

 

『ボケたか? いやアホかって、アレだ俺がボケたんだって……なんだこれぁ、めんどーせぇ……』

「な、()()()()()()……!? も、もしやお主は?」

『取り敢えず扉の前には来たからよ、ノックしたら出てくれ』

 

 その言葉と同時にノック音が響き、近右衛門は携帯を耳に当てたまま扉を開ける。そこには―――――

 

 

「よう、爺」

「……」

 

 

 ネギ達が通学路で見かけた少年――――仁の雰囲気と面影がしっかり残っている、見覚えのある足かせをつけた、ダルそうな顔の少年が佇んでいた。

 

 

「お主……仁か?」

「あーよ」

 

 

 一つだけタメを入れた後、学園長は絶叫した。

 

 

 

「なぜじゃああぁぁぁぁぁ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~む…つまり、お主の説明をまとめると…… “ちょっとした好奇心で買った年齢詐称薬が、実はかなり強力な代物で、数日前から戻れていない” と?」

「ああ」

「なんでお主、年齢詐称役なんて買ったんじゃ……」

「金がいらねぇぐらい余ってよ、何でも()ーから買おうと思って、爺の使ってるネットを調べてた」

「それで……」

「あぁよ。見隠すのにも良さげで且つ……アレだ面白そうなものがあったんで。試しに買ってみた……これだ」

 

 

 仁が懐から取り出した小瓶にはまだ幾つか飴玉のような丸薬が入っており、瓶のラベルに『年齢詐称薬 “超” ハイパー! これで三日は正体がバレ無いすぐれもの!』 と書かれていた。

 

 

「む? 三日? ならなぜ戻れていないんじゃ?」

「貧乏じゃねぇけど金が予想以上に減ったからよぉ、どーせなら子供料金でぇ、丸薬に使った金の文節約してやろーと、かなりの量飲んだからだなぁ。……多分」

「お主馬鹿じゃろ!? というか、お主頭が良いのに所々どころか、かなり抜けとるよな!?」

「つーか、『同時に幾つも服用しないでください、一回一錠でお願いします。何が起こるかわかりませんので』……ってぇ書いてあるな」

「……お主、このまま戻れん勝ったらどうするんじゃい……」

「知らんわ」

「人ごとみたいに言うでないわ!? お主自身の問題じゃぞ!?」

 

 

 また、いつものやり取りの後、少し息を落ち着かせて学園長は話し出す。

 

 

「とにかく、わしはお主が元に戻れる方法を探しておくから、目立たんようにするのじゃぞ。前からも言っとるが、しばらく空も飛ぶな」

「…………へいっす」

「本当におぬしという男は……マジに他人事じゃあないのじゃぞ…………はぁ、全く」

 

 

 

 ため息をつく近右衛門だったが、彼がこの姿になったことで “怪我の功名” が偶然起きるなど、誰も想像していないのだった。

 

 

 

 




これからしばらく、仁は縮んだままです。
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