空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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三つの軟体、届かぬ魔法

「あっ、あの子は…!?」

「白髪まじりのボサボサ髪にダルそうな雰囲気……間違いありませんですね、最近噂になっている謎の少年です」

「朝倉は何か知ってるアルカ?」

「ごめん、アタシでも情報を捉えられない強敵なんだよね」

「朝倉さんでも……ですか…!?」

 

 

 石壁の陰から現れた人物を見て、彼女たちは驚く。そこにいた少年は何を隠そう、最近麻帆良で話題となっている “白髪まじりの謎の少年” 本人だったからだ。

 

 話題の人物がいきなり現れたことに驚くのどか、古菲、夕映、和美だったが、明日菜と木乃香はまた違う驚きを受けていた。

 

 

「あ、アスナ、あの子ってこの間の通学路で……」

「ちょっとまって……うん間違いない、あの時のダルそうなガキよ」

 

 

 その噂の少年は、明日菜達が少し前に通学路で見かけた、目的不明の少年だったからだ。パーカーは柄付きでズボンが無地というあの時とは逆パターンの服だったが、それでもあの白髪混じりの髪とダルそうな雰囲気という印象は、記憶に残っていた。

 

 

「あの子は!?」

「ああ、この前のガキだぜ、アニキ」

「知っとるんか? ネギ」

「ちょっと前に通学路で見かけたんだ。道に迷ったと思ってたんだけど……」

「こうして現れたってことは違うんか……?」

「いや、前と同じで迷ったってのも考えられるけどな」

「だったら不味いよ!?」

 

 

 

 巻き込んではいけないと思案するネギと、どうしたものかと一応考える小太郎とカモをひとまず置いておくことにしたのか、ヘルマンは白髪まじりの少年へと声をかける。

 

 

「少年よ、気配の隠し方は見事だったが、もうひとつ(・・・・・)の気配は消せてはいなかったぞ?」

(……『空轍』の気配がわかるってことは……人間じゃァねェな……)

 

 

 何を言っているのかわからないと言ったネギ達をよそに、ヘルマンはさらに言葉を続けた。

 

 

「さて単刀直入に聞こう。少年は敵かね? 部外者かね? ……尤も、あんなに見事に気配を隠しているところを見るに、部外者とは考えにくいがね」

「……部外者じゃ、ねぇな」

「やはりか」

(分かってんなら聞くなよ……)

「もう一つ……君は誰かの指示でここに来たのかね? それとも君個人の自己判断かね?」

「この近くに俺の住居があんだよ……つまり偶然だ」

「ほう、住居が近くにあったとは。これは迷惑をかけてしまったかな」

「ああ、ものっそい迷惑だ」

 

 

 そこで会話を区切り、入れ替わるようにネギ達が少年へと問いかける。

 

 

「おい、坊主! お前は味方なのか!?」

「……一応、味方……だな」

「曖昧なやっちゃな、はっきりせいや」

「……俺はすぐにでも帰りてぇ、だからすぐ帰れるように味方するってんだ」

「ものすっごく個人的な理由!?」

「で、でも、味方はひとりでも多い方が心強いよ、小太郎君、カモ君!」

「でも、あいつ怪しさMAXだしよぉ……」

 

 

 

 どうしようかと悩むネギたちに対し、ヘルマンが再び彼らへ向かって声を上げた。

 

 

「まぁここを見られた以上、タダで返すわけには行かんがね。彼と組むならそれでも良し、組まないなら組まないで、それぞれ個別に相手させてもらおう」

「……しょうがねぇ、やっぱりアイツと組むぞ。敵の正体も不可思議な今、兄貴が言ったとおり戦力は多いほうがいいだろ」

「わかった……君! 一緒に組んで戦うよ!」

「……あぁよ」

 

 

 それだけ言うと白髪まじりの少年は、一回地面を蹴っただけでネギ達の元へたどり着いた。

 

 

「うわっ」

「なんつー脚力……」

「中々やるみたいやなぁ……名前なんて言うんや?」

「…… “仁” だ」

「仁か。よろしゅうな仁!」

「よろしくね、仁君!」

「……おう」

 

 

 彼らの言葉に、仁は一割増しでダルそうに答える。ネギは背中の杖に手をやり、小太郎は若干半身になり、仁は前傾姿勢をとって構えた。

 しかし、ネギは自分の責任でこうなってしまったと背負い込んでおり、その思いからか彼らよりも一歩前に出てこういった。

 

 

「小太郎君と仁君は後方から援護して! 僕がいくよ!」

「ああ!? 何言うとるんや魔法使いのくせに! お前が後ろに引っ込んどれや!」

「こ、小太郎くんはあのおじさんに負けたばっかりじゃないか! だったら僕が行ったほうがいいよ!」

「狗神が出とったら勝てとったんや! 本当なら俺の勝ちや!」

「本当も何もないよ! 狗神が出ないんだったらダメじゃん! それに、君は僕に負けたろ!」

「ダボが!! あんなもん二度と喰らうかっての!! もっかいやったら瞬く間にボコボコにできるわ!!」

「そんなことないね! あれから僕ものすっごく修行したんだから! 気だけしか操れない小太郎君なんかに負けるもんか!」

「なんやとぉ!? こんのチビ助がァ!!」

「「ぐぬぬぬぬぬぅぅっ……」」

「ええわ! 今ここで白黒つけたる!」

「いいよ! わかった!」

「兄貴とコタローよぉ、仁の坊主のこと忘れてねぇ?」

「……俺としちゃ、黙って見てられーならそれで良し」

「味方するって言った端からそれかい!?」

「アンタ達一体何しに来たのよーっ!?」

 

 

 明日菜の言うとおり、最早喧嘩をしに来のか助けに来たのか分からなくなってしまっている。そこに、ヘルマンが笑いながら忠告するように声を掛けた。

 

 

「元気があるというのは実に良い事だ。……だが、私は三人で来たほうが良いと思うがね? 少年達よ」

 

 

 彼が指を鳴らし、未だモメているネギ達へと幼女3人を嗾ける。奇妙なことに、ツインアップの幼女とメガネの幼女の足が驚く程に伸び、ロングの幼女の手と足がまるで蛇の如く二人に絡みついた。

 

 

 

 ――――そう、ネギと小太郎の二人に(・・・・・・・・・)

 

 

「二人……!?」

 

 

 ロングの幼女が急いて辺りを見回すと……その人物・仁は彼女達の後ろにいた。 

 

 

「……ラアッ!!」

 

 

 気合一発と共に振り抜かれた蹴りに、攻撃を準備していたツインアップとメガネは吹っ飛ぶ。仁は振り抜いた足をすぐさま引き、ネギと小太郎の間をピンポイントで蹴り込んでロングも蹴り飛ばした。

 

 

「ヌオッ!?」

「ワヤァー!?」

「ク……!?」

 

 

 その攻防でやっとこさネギ達もケンカをやめ、蹴り飛ばされた幼女三人に向き直り仁へと礼の言葉をかける。

 

 

「ナイスだぜ、仁の坊主!」

「助かったわ!」

「ごめん、ありがとう!」

「……ああよ」

 

 

 見ると、幼女達は蹴りに対する痛みなど全くないかのように、手足を軟体動物のように動かして飛び起きた。

 意外と気持ちの悪いその動作に、小太郎は眉をしかめる。

 

 

「それにしても……あいつら何もんや」

「ありゃ “スライム” って奴だな」

「す、スライムなんだ、あれ」

「……イメージとちげぇ…」

「せやな……スライムってイメージちゃうわ」

 

 

 彼らが想像しているスライムは某RPG等に出てくる、若者なら一度は見たことのあるスライムであり、目の前の幼女達とは似ても似つかない。

 それを踏まえると、彼らの微妙な表情も頷けるだろう。

 

 しかし幼女達は彼らの心境など知らんとばかりに軟体動物の性質を発揮して、己の体をバネのようにし飛びかかってくる。

 

 

「……来たかよ」

「接近戦は俺と仁に任せてええんやぞ? ネギ」

「大丈夫だよ、小太郎君こそ女の子は殴れないんじゃないの?」

「何ゆうとんねん――――」

 

 

 小太郎は言葉を途中で切って飛び出し、メガネ幼女を殴りつけて区切った言葉を再び発した。

 

 

「軟体動物が女のフリしとるんなら問題ないわ!!」

「差別ーそれ差別デスー」

「仁君、右お願い! ……『戦いの歌』(カウントゥス・ベラークス)!!」

「あい……よっと!!」

 

 

 小太郎に続くようにネギと仁は飛び出す。

 

 ネギはツインアップ幼女の左突きを流すと、続いてきた鞭のような右での一撃をしっかりと受け止める。

 すると、彼女の体がロープのようにネギの左手に絡みつきそのまま攻撃しようとする―――が、ネギの体重を乗せた掌底により半ば無理やり拘束を解かれた。

 

 

「マダマダ!」

「フッ……はぁっ!」

 

 

 スライムならではの手を伸ばした攻撃を両手で切るように押さえ込むと、両手での掌底で幼女を勢いよく弾き飛ばした。

 

 

 ロング幼女と対する仁は、彼女が手を伸ばそうとタメを作ったところで大きく飛び退き、明らかにどちらの攻撃も届かない間合いを取った。

 

 

「……? 何をする気――――」

「シッ! ……らあっ!!」

「ナ―――ゴッ!?」

 

 

 なんと仁は客席を蹴り砕き、打ち上がった破片を大砲の如き勢いで蹴り飛ばすことによって攻撃してきたのだ。

 彼女にとっては余りに予想外な攻撃に、防御もできずまともに食らって吹っ飛んでしまう。

 

 

「やるネ」

「侮りがたいデスゥ」

「……油断していましタ」

 

 

 彼女たちが体制を整える前に彼らは線を同じにして並び、ネギ達の攻撃に対して小太郎が興奮しながら質問をしてきた。

 

 

「ネギ、今のなんや!?」

「何って……魔力供給の完全版―――」

「ああそっちやない、体術の方や!」

「ちゅ、中国拳法だよ、八卦掌とかそういうの……」

「なるほどなぁ! そらええわ!」

「にしても……仁の坊主もやるじゃねぇか! あんな攻撃方法があるなんてよ!」

「……そらどうも」

 

 

 会話を終えると同時にネギ達と幼女達はほぼ同時に飛び出し、3対3の体術勝負が繰り広げられる。

 

 仁は鞭のような攻撃を力技で跳ね上げ、

 小太郎は向こうの連打に対してスピードで押し、

 ネギは中国拳法の円の動きで受け流し、

 それぞれ強烈な一撃を幼女達に食らわせてステージ中央まで弾き飛ばして、それと同時にヘルマンへと猛ダッシュする。

 

 

「いいかお前ら! 奴等は相手にすんなや! 打撃は効いてへんみたいやからな!」

「……めんどーせぇなぁ、軟体動物…」

「行けアニキ達! 狙いはオッサン一人だぜ!」

「うん!」

 

 

 ステージまであと数メートルというところで幼女達は跳ね起きてきたが、そこで仁が少し音量を上げてネギに声を掛けた。

 

 

「お前は先に行ってろ……俺達、あのタコ共を相手してやるからよ……」

「ええやろ、のったる! 行けネギ!」

 

 

 言うが早いか仁はネギ達の前に躍り出て、猛烈な勢いで振り抜いた蹴りによる風圧で幼女達を三人いっぺんに空中に跳ね上げる。小太郎が間髪入れずに飛び上がると、横薙ぎの蹴りで二人纏めてすっ飛ばし、残る一人を殴りつけて吹き飛ばした。

 

 

「3対2じゃぁ不利だゼ!」

「ならこっちも3対3や! ―――影分身!」

「……便利だな、ソレ」

 

 

 影分身の術により、再び3対3へともつれ込む小太郎達。彼らがスライムの相手をしている間に、ネギはヘルマンと明日菜の元へと駆け寄り、無詠唱で “魔法の射手・光の矢” を一本放つ。

 

 

「はあっ!!」

「ほう、無詠唱かね」

 

 

 その魔法は先制攻撃の際と同様にかき消されるが、それによって起きた閃光の方をネギは目くらましに利用した。

 一瞬見失っている間に回り込むと持っていた瓶を構え、ヘルマンへと向ける。

 

 

「僕達の勝ちです!」

「む!?」

封魔の瓶(ラゲーナ・シグナートーリア)!!」

 

 

 呪文を唱えると瓶の栓が抜け、魔法陣をまとって光だし、ヘルマンを封印しようと瓶の中へ吸い込むかのように黒い奔流が流れ込んでいく。

 

 ……が、しかし、

 

 

 

「ひゃあああっ!?」

「アスナさん!!」

 

 

 突如として明日菜の胸にあるペンダントが光ったかと思うと奔流はすぐさま途絶え、浮いていた瓶は強烈な光と音を一瞬発し、途端に地面へ落ちてしまった。

 封印の術式が、かき消されたのだ。

 

 

「えっ、何で!?」

「呪文がかき消されたぁ!?」

「何やて!?」

「……あ?」

 

 

 何が起こったかわからない彼らに、ヘルマンが革のグローブを付け直しながら確認するかのようにつぶやく。

 

 

「ふむ、放出型のものは完璧に無効化できるようだね……さてと、そろそろ私も参戦させてもらうとしよう。勿論こちらも本気でゆくぞ、ネギ君に小太郎君、仁君」

 

「……!」

「クソ…!」

「オイオイ……ッ!」

「チィ……!」

 

 

 

 敵の力の正体分からぬまま、敵の頭との勝負が始まった。

 

 

 

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