ヘルマンは拳を構え、ステップを踏みながらネギ達に言う。
「保険の為、ここら一体に結界を張らせてもらったよ。これで君達も私も、全力で戦っても外に一切漏れることはないというわけだ……」
ヘルマンがそう言い終えると、彼の姿がふっと消える。そして数秒と間を置かず、彼等の後ろから砂利を踏みしめる音がした。
「
「うわっ!?」
「この!」
「……チッ!」
まるで魔法のような威力と射程を持ストレートパンチをネギ達はギリギリでかわす。
背後にあった客席が音を立てて粉砕されたのを見ると、その威力はかなりのものだと伺えた。
彼らが避けたのを確認するやいなや、今度は左でのジャブを連続で打ち放ってくる。
ジャブ、とは言っても……その威力は先程のストレートと同格と思える程の破壊力を秘めていた。
「こうなったらしゃあないわ! 仁! お前遠距離攻撃使えるか!?」
「……ああ」
「なら……ネギ、仁! ゴリ押しで行くで!」
「それしかないみたいだね……よし! ―――――ラス・テル・マ・スキル・マギステル……
闇夜切り裂く一条の光《ウーヌス・フルゴル・コンキデンス・ノキデム》、
我が手に宿りて敵を喰らえ《イン・メア・マヌー・エンスイミニークム・エダット》!」
詠唱と共に杖が電撃を纏い、その杖を一体後ろに引くと同時に小太郎が気弾を打ち出す。
「犬上流・空牙!!」
「
それに続くようにネギが白き雷を放ち、彼らの魔法と気弾は一直線にヘルマンへと襲い掛かる。対してへルマンは身じろぎ一つしない。
なんの抵抗もなくネギ達の攻撃は向かっていくが……やはり途中でかき消されてしまった。
「あ……ああぁぁっ!?」
「アスナさん!? 大丈夫ですか!?」
「気弾まで消されたやと!?」
また叫びだした明日菜をネギは気にかけ、小太郎は気弾まで消されたことに驚きを隠せない。それを説明するように、ヘルマンが語りだした。
「
「カモ君、これって……」
「ああ、姐さんあの力はアーティファクトの力だけじゃなかったみてぇだな」
「だ、大丈夫ですかアスナさん!? なんか、とても苦しそうで……」
「大丈夫よ、私のことは……気にせずに、このジジイを…ぶっ飛ばしちゃいなさい……!」
なんとか解決策はないかと考えを巡らせたカモが、明日菜の胸にあるペンダントに行き当たる。
(アレを取れば……もしかするといけるかもしれねぇな)
そうと決まれば即実行だと、カモはネギの肩から飛び降りて、回り道をして隠れながら明日菜のもとへと向かった。
「これで分かっただろう? 今の私に対し、放出系の術や技は―――――むおっ!?」
術や技は使えない、そう言おうとしたヘルマンの顔面へと “何か” が迫り、彼はそれを間一髪で避ける。
虚しく空を切ったその “何か“ は、ステージ背後の壁へと飛んでいき、着弾と同時に斬り込み跡を作った。
「えっ!?」
「何や!」
発射元と思われる方にネギ達が顔を向けると、そこには脚を振り上げた仁の姿があった。
―――思い返すと、彼は同時攻撃に参加しておらず、なぜ攻撃をしなかったのか謎であったのだ。
飛んできたものの正体がわかったらしく、ヘルマンは嬉しそうな声と感心の混ざった声を発して頷く。
「なるほど……やるものだねぇ、仁君」
「いま、何を―――」
「分からないかね? 彼は魔法や気弾ではなく、脚を高速で振り抜く事によって鎌風を起こしたのだよ。魔法でも気でもないから、無効化は不可能だというわけだ」
「いや言うのは簡単やろうけど……なんちゅー脚力や」
此方もまた嬉しそうな顔で呟く小太郎に対し、ネギはあることが思い浮かんでいた。
(仁君からは、魔法を強化に使った感じはしなかったし、小太郎君が纏っている気の感じもなかった。純粋な脚力のみでこれを起こせる君は、一体? …………まさか!?)
「だが威力はそこそこなれど、命中精度に難があるようだね。それに、私とてもう喰らわないぞ? ……男なら―――」
再びヘルマンがステップを踏み、ネギ達へと近づいてストレートパンチの体勢をとる。そして……悪魔の拳撃を放った。
「拳で語り給え!」
「くっ!」
「ええ事言うなぁ!!」
「……俺は脚なんだが…」
ネギと小太郎は身をひねって躱し、仁は余計な一言を呟いて大きく下がる。
ネギは手を付き焦ったように前へと出るが、そんな物ではどうにもならずヘルマンの拳で吹き飛ばされる。
「フン!!」
「! うわっち!?」
続いて放たれる拳の雨を、小太郎は掠りながらもなんとか捌いて後ろから来た仁の鎌風に対しダッキングし、ヘルマンに鎌風を当てた。
……がしかし、その鎌風をヘルマンは難なく弾き飛ばしてしまった。
「今の、入ったと思ったんやけどな…」
「……効いてねぇ…か」
仁が回り込みながら鎌風を放ち、小太郎とネギが入れ代わり立ち代わり攻撃していく中で、カモは少しづつ少しづつ明日菜へと近づいていき、ついに彼女の足元へとたどり着く。
(姐さん、姐さん!)
(カモ!?)
(任せときな! 今そのペンダントを取ってやる!)
カモが明日菜の体を登ろうとしたまさにその時―――――メガネ幼女に後ろから掴まれてしまった。
「あっ!? コラ! 何しやがんでェ! 離せぇ!?」
「てめーもこんなか入ってナ」
「むおっ!」
「アホガモーっ!」
「役立たずアルネ……」
そしてツインアップ幼女に水球の中へと叩き込まれてしまう。彼女達はニヒヒと笑い、苦戦しているネギ達の方をみやり意地悪くつぶやいた。
「もうダメだナ、あのガキ三人ハ。何かもったいねーけどナー」
「どういう事ですか!?」
「調査の結果がどうあれ、ネギ君はしばらく戦えないようにしておけ……そういう命令が出ているのデス」
「でもぉ、ヘルマンさんの石化は超強力ですかラァ~ネッ?」
「ネギってガキだけじゃなく、コタローってガキもジンってガキも、もれなく片手片足永久石化かもナ!」
「「「「「!!?」」」」」
息を呑む彼女達をよそに、戦いは苛烈を極めていく。
攻撃の捌き方の見事さもさる事ながら、ネギの中国拳法はパワーが足りず、小太郎の攻撃はヘルマンの攻撃範囲の広さからか届かない。
仁の鎌風も攻撃に逆利用されたり、囚われの少女たちに被弾する可能性を考えると連発できず、結果どんどん押されていっている。
「悪魔アッパー!!」
彼らの攻撃が一瞬途絶えた隙をついて、ヘルマンはかなりの力を為て地面を踏み込みで砕きながらアッパーを放った。
その攻撃は西洋魔術の如しで、衝撃波が尾を引き上段の客席を飛び越え、石壁を砕い
てしまった。
「まずい、見えへん……!」
それにより上がった粉塵でヘルマンの姿を見失ってしまい、後ろに回りこんだことに気づいたときには、強烈な拳押収の、ストレートパンチの連打により二人共飛ばされ客席へ叩きつけられた。
攻撃終わりの硬直を狙って仁が鎌風を放つが硬直はフェイクであり、鎌風を真正面から打ち破る。
激突の際に、空気が震える。
「くっ」
「おっさん、クソつええなぁ」
「……んなろ…」
「この程度かね? これなら私が手を下すまでもないように思えるがね、誠に残念だ」
呆れたようにため息をつくヘルマンは、呆れだけでなくどこか失望も感じさせた。
「ま、まだいける? 小太郎君」
「へん! まだまだ大丈夫や! 仁、鎌風まだ打てるか!?」
「……余裕じゃねぇが、問題もねぇ」
「よっしゃ! いくで!」
「うおおっ!」
「……シッ!」
ネギが杖による槍術を繰り出し、小太郎は今まで以上のスピードで拳打を打ち込み、仁は距離を詰めより力を込めて鎌風を放つ。
少年達の猛攻を……
「まだまだ、だ」
「うぐっ!?」
「チィ……!」
ヘルマンは難なく対処し、小太郎と仁を悪魔パンチによって弾き飛ばして、かなりの距離を開けた。
「小太郎君! 仁君!」
「違うな……ネギ君よ、もしや君は本気で戦ってはいないのではないかね?」
あまりに唐突なヘルマンの宣言に、ネギはムッとして反論する。
「何を言っているんですか! 僕は本気で戦っています!!」
「サウザンドマスターとはまるで正反対、光と影ほども違う……これほど戦闘に向かない性格をしていたとはね」
「!? サウザンド……!?」
ネギへと徐々に近づいていくヘルマンを見て、カモは焦ったように矢継ぎ早に語りだした。
「やべぇ、やべぇ!? あのおっさんめちゃ強ぇ! その上遠距離攻撃が仁の坊主の鎌風だけじゃ分が悪いにも程があるぜ!?」
「カモ君、そういえば君アスナのペンダント取ろうとしてたけど」
「ああ、あれさえ取れば魔法や気弾はつかえっから希望は見えんだけど……そうだ! このかの姉さん、杖持ってないか」
「折りたたみ式のならあるえ」
「よっしゃ来た」
ガッツポーズをしたカモが皆に何かを耳打ちし、少女達は円陣を組む。その間にも、ネギとヘルマンの会話は途絶えない。
「ネギ君、君は何のために戦っているのかね?」
「え?」
「小太郎君を見てみたまえ、強くなる喜びを持つが故に実に楽しそうに戦っている。仁少年は早く帰りたいという不純な理由といえども、この戦いに自らの目的を持っている。……だが君はどうかね? 戦うのは自分の為では無く仲間を助ける為か? それならば期待はずれにも程がある、そして実にくだらないぞ」
ヘルマンはそこで一拍置き、軽く笑いながら自らの手を見つめたあと、ネギへと視線を移した。
「戦う理由、それは常に自分だけのものだ。怒りや憎しみなどはいい、誰もが全身全霊で戦える。健全に言うなら、先に行ったとおり強くなる喜びや、少しずれるなら自分の欲求を満たすためでもいい。そうでなくては面白くならないからね」
「ぼ、僕は戦いに面白さは求めていません! 僕が戦うのは―――」
「一般人を巻き込んでしまった罪悪感か、それとも力無いものは助けるべきだという義務感かね? そんなモノを糧にしても強くなどなれん。つまらないだけだ」
そこでヘルマンが帽子を深くかぶり、どこか感情のこもった声で告げる。
「君が戦う理由が、もし義務感でないなら……あの雪の日の惨劇、その記憶から逃げるため、かね?」
「な、なぜそれを……!? じゃなくてっ……ち、違います!」
「では……コレでは、どうかね?」
ヘルマンが深くかぶった帽子をずらして顔を遮り、自身の胸へとゆっくり静かに持っていく。そうして、次に現れたヘルマンの顔は―――――
「……!?」
「驚いたかい? 今時の若者ではコスプレなどだと思われてしまうから、わしは悪魔なんじゃーとか言って出ていこうとも、最悪笑われてしまからねぇ」
「あな……たは…」
「君の、敵だよ」
―――彼の言うとおり、正しく “悪魔” と呼ぶべき、二本角が生えた異形の顔となっていた。
そして、その悪魔は……ネギの故郷を滅ぼした、張本人達たる悪魔と同じ顔だったのだ。
「私はあの日召喚された悪魔の中でも、ごく僅かに紛れていた上級悪魔の一人でね。君のおじさん達を石にして村を壊滅させたのも、この私なのだよ。……あの老人には、してやられたがね」
再び顔を戻したヘルマンの言葉に、しかしネギは震えるばかりで、一言も返さない。
「自分のために……戦いたくなったかね? ネギ君よ」
そこで、後方にいた小太郎と仁が合流し、一時はヘルマンへと視線を向けるものの、ネギの様子がおかしいことに気づく。
「オイ、ネギ! しっかりせぇや、何があったんや!?」
「……どうしたってんだよ……」
「ネギ! お前―――」
小太郎がそれを言い終わるのを待たずにネギの姿が消え、次の瞬間には――――
「むごおっ!!」
ヘルマンを高々と跳ね上げていた。