空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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悪魔伯爵との決着

 ヘルマンが、ネギが消えて自身の真下に居たと気づいた時にはとき既に遅く、強烈な掌底により空高く打ち上げられる。

 

 未だ勢いの止まらないヘルマンを超えるスピードで自身も飛び上がると、最早一般人には知覚不能な速度で次々と技を叩き込んでゆく。肘打ちを腹に決め蹴りで吹っ飛ばし、杖でヘルマンに追いつくと殴り飛ばした。

 しかし、それでもまだ止まる様子は見せない。

 

 

「なんやあの動きは!?」

「……」

 

 

 小太郎は驚愕し、仁は目を細めてネギを見やっている。

 このネギの動きの秘密に答えたのはカモだった。

 

 

「あれは……魔力の暴走(オーバードライブ)ってやつだ!」

「オーバードライブ?」

「修行不足なせいで分かりづれぇが、兄貴の最大魔力量はそこらの魔法使いと比べて段違いに多いんだ! 何かがきっかけで解放されれば、とんでもねぇ力を引き出せる程にな!」

 

 

 説明するカモだが、表情は固く喜んでいるようには見えない。

 

 

「……型も何もねぇ、まるで喧嘩だな、あれぁ…」

 

 

 そう、仁の言うとおりネギの戦い方は先刻使っていた中国拳法とは違い、怒りに任せて単純な攻撃を繰り出している喧嘩に近く、入りも抜きもめちゃくちゃだった。

 これではその内大きな攻撃を食らってしまうことが目に見えており、強大な力も喜ぶに喜べない。

 

 

 ネギは怒りのままに次々攻撃を当て続け、再びヘルマンを空中で弾き飛ばすと杖を使った高機動で彼にせまる。手に膨大な魔力を溜めながら。

 そのさまを見て、ヘルマンはようやく来たと嬉しそうに笑った。

 

 

「そうだ、そうだよネギ君、それが見たかった! それでこそサウザンドマスターの息子だよ!!」

 

 

 ヘルマンの言葉など聞く耳を持たず、ただ攻撃を続けるネギ。その威力に苛烈さ、速度に小太郎は驚きの声を再度漏らす。

 

 

「(すげぇ……すげぇ、けどっ! それじゃあかん!)―――いくで仁!」

「……わーってる…!」

 

 

 小太郎と仁が駆け出すのと同時、ネギは今まで以上に手に魔力を込め、ヘルマンへと正面から一直線に受かっていった。

 ヘルマンは連打の影響で少しふらついているが……それも演技が混ざっていることが、冷静に見ればわかった。だが、冷静ではないネギは攻める事しか頭になく、誘いに気づかず向かっていく。

 

 

「才能ある者の将来を見据える……それも私にとっては楽しみなのだ――――しかし」

 

 

 ネギが一メートルまで接近したその時、ヘルマンは自身の姿を元の悪魔の姿へと変えて行き、石化光線を放つべく大きく口を開ける。不気味に光る口内がネギ目に入った時には、もうすでに回避など不可能な距離にいた。

 

 

(才能ある者が潰え、朽ち、失われていくのを見るのも……楽しみの一つだよ!!)

「ネギーッ!!」

「兄貴ぃ!!」

 

 

 明日菜達の叫び虚しく、光線はネギへと一直線に向かい―――――

 

 

 

 

「おらあっ!!」

「……シッ!!」

「グオッ!?」

 

 

 間一髪のところで小太郎が、横からネギをかっ攫っていった。

 それでも当たると思われた光線は、彼の顔が強烈な衝撃音と共に上に跳ね上げられた事で、虚しく虚空に消える。

 その衝撃を与えたのは仁らしく、彼はヘルマンへと足の裏を向け蹴り上げている体勢だった。

 

 

「よ、よかった。兄貴は無事か。……よくやったぜ、坊主ども!」

「ネギ……はぁ~…」

 

 

 着地の際にどうやら頭を打ったらしく若干血を流す小太郎の傍らで、ネギは震えながら自身の手を見つめている。

 

 表情から察するに、何が起きたのか半分ほど分かっていないようだ。

 

 

「僕……今、何…を…?」

「ってぇ……ったく」

「……」

「こ、小太郎君、仁く―――」

 

 

 何が起きたのかと掛けようとしたネギに向かって、小太郎は静かに手を振り上げ、

 

 

「こんバカタレが!!」

「へばっ!?」

 

 

 思いっきりぶん殴った。

 

 

「ここっ、小太郎くん!?」

「力任せに突っ込んでいきおってからに! あんな攻め方じゃ幾ら凄くても返り討ち喰らうに決まっとるやろが! お前の底力の凄さは認めたる、けどあんな最低な戦い方は認められんわ! あんなの相手なら俺でも勝てるわ!」

「……力押しで周り見てねぇし、決めても入れられてねぇし、結局さっきから変わってないも同然だしな……」

「頭良さそうなんは外見だけかい! 仇か知らんが、あのおっさんに二つ三つ言われたぐらいで突っ込んでいきおってからに! 簡単にキレんな!!」

「フムグ」

 

 

 小太郎に頬をつねられて仁に頭を抑えられ、声にならない声を上げて戸惑うネギ。彼から感じていた怒りは、もう既に消えていた。

 

 

「兄貴達は大丈夫みてぇだな……こっちはこっちで集中だ」

「うん」

「了解」

「はいです」

「わかたアルヨ」

 

 

 カモたちもその様子を見て安堵し、先程から行っていることを、円陣を組んで隠したまま続行する。

 ネギは意外にもフラつかずに立ち上がり、杖を再び握った彼の胸に小太郎が拳を軽く当てた。

 

 

「共同戦線て言うたやろ、三人でおっさんぶっ飛ばすで」

「……一度協力しろと言った手前、ちゃんとそれを最後まで守れよ……」

「小太郎君、仁君……うん!!」

 

 

 一連のやり取りを見ていたヘルマンが、真剣な表情で彼らを見たまま言う。

 

 

「私としては先ほどのネギ君の方が良いのだが……まあよかろう。良き仲間がいるのは結構なことだが、君たち三人で私に勝てるのかね?」

「ネギ、さっきの最強モードまだいけるか?」

「ご、ごめん、自分でも何が起こったのか……」

「……だろーな……」

 

 

 ネギ達がヘルマンを倒すためにどうするかを考え始めた時、転機が訪れた。何かを秘密裏に行っていたカモ達の方で動きがあったのだ。

 

 

「プラクテ・ビギ・ナル、アールデスカット」

「プラクテ・ビギ・ナル、アールデスカットぉ!」

「誰でもいい、一瞬でいい! 火種さえ起こせればこのか姉さんの力で火力は増して燃え上がる!」

「プラクテ・ビギ・ナル……火よ灯れ(アールデスカット)!」

「うひゃあっ!?」

「よっしゃ来たあぁあっ!!」

 

 

 たった一瞬されど一瞬、わずかに上がった火の玉が赤々と燃え上がり、水球を徐々に破っていく。

 

 

「やべぇ! 止めレ!」

「間に合わないデスゥ!」

 

 

 幼女達が阻止しようと向かうが時すでに遅し、水球は高らかな音を上げて破裂し、少女たちは飛び出すように解放されたのだ。

 

 

「お前ら、手はず通りに頼むぜ!」

「オッケー!」

「瓶は……あそこですか!」

 

 

 和美が明日菜の方に向かい、夕映とのどかが瓶を拾い、

 

 

「え、えいっ!」

「ハイーヤッ!!」

 

 

 木乃香と古菲が刹那と女性の囚われている水球を破壊して救出し、同時に和美も明日菜からペンダントをもぎ取った。

 

 

「お待たせ!」

「サンキュー! 朝倉!」

「なんと……!」

「ちくしょウ! 瓶を奪い返セ!」

「ガッテンデスゥ!」

「……でも今のままいくと…」

 

 

 ロング幼女が危惧したように彼女らを止めようとするが、夕映とのどかはもうすでに瓶を彼女らに向けて構えている。

 

 

「「封魔の瓶(ラゲーナ・シグナートーリア)!!!」」

「し、しまっターッ!?」

「また瓶のなかですカー!?」

「だから言ったのニ……」

 

 

 瓶は見事に幼女達を吸い込み、蓋が自動で瓶にはまり込んで封印を完遂させた。ペンダントを取ったことで、ヘルマンへの魔法攻撃も有効となる。

 

 

「今だ、ネギ君!!」

「みんなぁ!!」

「やるやないか、ねーちゃん達!」

「……よっし…!」

 

 

 全ての攻撃が使え、しかも囚われていたものたちの救出も成功し、流れは一気にネギ達へと傾き始めた。

 

 

「小太郎君は前衛を、仁君は今まで通り鎌風をお願い! 僕に策があるんだ!」

「ははっ! まかしときい!」

「……あいよ…!」

「いいぞ! 来まえ少年達よ!」

「余裕ぶっこいてる暇はあらへんで!」

 

 

 5体の分身と共に、気弾を織り交ぜて小太郎は突貫していく。それに対しヘルマンは口元を歪めると、フックとストレートのラッシュで小太郎達の攻撃を止めて攻撃を当て、分身を消していく。

 そして、真正面にいたほかの分身よりも動きのいい小太郎に的を絞り、掌底を打ち下ろして無効化するとアッパーで仕留めた……かと思いきや、

 

 

「本体はこっちや!」

「何!?」

 

 

 本当の本体がヘルマンの下をとり、強烈な掌底で体勢を崩す。それでも持ち直そうとするヘルマンに、バランスを取る部位を崩す鎌風が連続で襲い来る。

 

 

「……らあっ!!」

「ぬごっ」

 

 

 仁の気合をこめた一発で、体勢は完璧に崩れる。

 そこに一本の魔法の射手(サギタ・マギカ)……それと一体化したようにネギが肘打ちで入り込み、崩れた体勢を利用してヘルマンを弾き飛ばす。

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル―――来れ、虚空の雷(ケノテートス・アストラプサトー)

……薙ぎ払え(デ・テメトー)!」

「ぬうっ!!」

 

 

 力を込めてヘルマンは唸るが、吹き飛ばされて雷の矢で痺れている彼に、避ける術などあるはずもなかった。

 

 

雷の斧(ディオス・テュコス)!!」

 

 

 ネギが放った雷はヘルマンを直撃し、それにより転がったヘルマンは……起き上がっては来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 今だ寝転がるヘルマンを、ネギは立ったまま見つめる。

 

 そんなネギ達を、仁は少し遠くから見ていた。

 

 

(……今回もなんとかなった、ってとこか。

 ……このまま、『本気を出さなくても良い』状況が、続いてくれりゃぁ―――希望的観測か、そんなもん)

 

 

 

 そう考えて静かに去ろうとした仁を、思いもよらぬ人物が呼び止める。

 

 

『少し待ってくれんかね?』

 

 

 頭の中に直接語りかけてくるようなものだったが、その声は確かに先程まで戦っていた男・ヘルマンのものだった。

 

 

『ふむ、君は念話等が使えないのか……なら一方的になってしまうが、話をさせてもらうよ』

(……)

『ネギ君とはまた違うのだろうが……君はこの戦いでネギ君以上に本気を出さなかった。君が本気を出せば、私も本気を出さざるを得ないからと考えれば、多少しょうがないとしても……君は何かに怯えて本気を出さないようにも、見えたがね?』

(……)

『……自らが従える、その“足枷”を否定しない事だ。むしろ屈服させてしまえ。もしも、恐怖の理由がソレでないのなら……不躾な発言を許してくれたまえ』

(……)

『まだ若いのだ……いざという時に後悔しないよう、本当の本気ではなくとも、今の時点の本気ぐらいは出せるようになりたまえ』

(……)

『引き止めてしまって悪かった。それではな』

(……あぁよ)

 

 

 それを最後に頭に響く声は途絶え、仁は本当にこの場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

(行ったか、仁少年……いや仁青年(・・・)

 

 

 念話を終えたヘルマンは、自らを見下ろすネギに向けて話しかける。

 

 

「止めは刺さなくていいのかね?」

「……」

 

 

 何かを迷うように眉をひそめるネギに、ヘルマンは続ける。

 

 

「君のことは少し調べさせてもらっていてね、その際に分かったのだが……君は九つの戦闘呪文を日本に来る前に覚えたはずだ。その一番最後に位置する九つめの魔法、それは私のような上級悪魔を討ち滅ぼすための呪文。君が仇を打つためと、必死に覚えた切り札のはずだぞ?」

「いえ、止めは指しません」

「……なぜかね?」

 

 

 半ば予期していたという表情だったが、ヘルマンはねぎに続きを促した。ネギは、静かに話し始める。

 

 

「あなたは人質に非道い事はしませんでしたし、六年前だって召喚されただけです。それに、僕に本気を出せと促した割に、あなたは加減していたようにも見えましたし……僕には、あなたがそこまで悪人には見えないんです」

「どうかな? 私は悪魔だ、上っ面だけの完全な悪人かもしれんのだぞ?」

「それでも……です」

 

 

 ヘルマンはそのネギの答えに数秒黙りこみ、

 

 

「ふ、ふふふ……ふふふはははははは!!」

 

 

 唐突に笑い出した。

 

 

「やはり戦いに向かんなぁ、ネギ君! お人好しすぎるよ、君は!」

「……」

 

 

 ヘルマンは一頻り笑うと、ネギの後ろに立っている木乃香を指さし、苦笑いのまま告げる。

 

 

「コノエコノカ嬢だったか……彼女の魔力と治癒の力はかなりのモノ。恐らく極東最高と言っても過言ではないだろう。彼女が何年も魔法使いとして修行したのならば、村の人々もあるいは……治せるかもしれんがね」

「!」

「いずれ成長した君と、また会う日を楽しみにしておこう。……次に会うとき、私を失望させてくれるなよ! ははははははは!!」

 

 

 再びヘルマンは嬉しそうに笑い、消えていく。

 

 

(そして……自分を失うなよ仁青年……君も、何れまた会おう)

 

 

 ヘルマンが完全に掻き消えた時にはもう雨はすっかり上がっており、静寂が支配する夜空に欠けた月が浮かんでいた。

 

 

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