「ふぅ……」
「ネギくーん! 早くいかんと遅刻してまうえー」
「あ! 今行きます!」
木乃香に呼ばれ、ネギは杖とカバンを持ち飛び出していく。ヘルマン伯爵襲撃事件より数日の間はどことなく沈んでいたのだが、外見的にはもう元気なように見える。だが、明日菜の目はごまかせなかった。
(やっぱり無理してる……まだ引きずってるんじゃない、バカネギ)
彼女はネギと最初に仮契約を行ったものだからか、それとも共に戦った時間が長いからか、ネギの内心がある程度わかるようになっていた。(本人としてはかなりいらないスキルなのだが)
ネギが引きずっているのは、魔力暴走やヘルマンに言われた戦向きではないという事、その他にももう一つある。
(何回も手助けしてくれた “砲撃の人” が、もしかしたらあの、仁てガキかもしれない、か)
それは、仁と砲撃の人が同一人物ではないか、ということらしい。確かに、魔力も気も無しで鎌風を起こすなど砲撃の人以外ありえないし、石化光線をそらすために放った一撃は、ネギ達の援護として放たれていた“脚力砲撃“に酷似していた。
しかし一方で、目算での砲撃の人の実力ならば、ヘルマンと互角以上に渡り合えるはずなのに、あの時はネギ達と協力してやっとこさヘルマンを倒すことができたのだ。その力の度合いのおかしさが、よりネギの混乱を強めている。
「オーッス、ネギぃ!!」
と、悩む彼に声をかけるものが一人。それは、初等部の制服を着た小太郎だった。
「小太郎くん、どうしたのその制服?」
「こっちにゃ強いのぎょーさんおるし、今更京都にも帰れんし、そんなわけでこっちに本格的に移り住むことになったんや」
「ホント!」
「ま、今は一人暮らしできるとこ探しとるから、授業のことはほっといてしまっとるけどな」
小太郎の一人暮らし宣言に、ネギは子供心に素直に感心する。それと同時に、授業は真面目に受けなければいけないと言おうとして……小太郎の後ろから更に声が掛かる。
「ダメよ小太郎くん? あなたは私達と一緒に住むんだから」
「うひぃ!? ち、ちづねぇちゃ―――」
「あらネギ先生、
「は、はぁ……」
放して欲しいと小太郎は暴れるが、ウチのと言われている時点で諦めた方がいいものがあるだろう。
「この子、実は両親がいないそうなんです……でも安心してください、私が立派に育ててみせます! ご両親も見ていてくださいね!」
「ちょ、ちょっとちづ姉ちゃん!?」
「流石那波さん……あの戦闘好きを押さえ込めるとは……」
未だ諦めずに暴れながら、小太郎は言い続ける。
「なんでや! 仁の奴は年近いけど一人暮らししとるのに! なのに、なんで俺はダメなんや!」
「あら? その仁君って子、お友達?」
「なんで一人暮らしできるんやーっ! じーん!!」
小太郎が叫ぶものの、当の本人は姿を現さない。あれから仁は一向に姿を見せず、“謎の少年消える!?” といった見出しの記事まで作られるほど、とんと見かけなくなっていた。
「仁君、どこに行ったんやろか? ほんまに砲撃の人やいうんなら、せっちゃんやウチらを手助けしてくれたお礼言いたいわぁ」
「……でも、まだ決まったわけではありませんし」
「……憶測で物を言うと結構恥ずかしい目にあうからなぁ……」
「そうよねぇ。大体何処にいるのかもわかんないし」
「……用事とかあったんじゃねぇか?」
「確かに謎っぽい人だったから、一人暮らしするために怪しい仕事を――――へ?」
そこでネギがおかしいことに気づき、振り向く。
カモは魔法を知らない人の前では喋るわけには行かないし、そもそも声はそこまで低くない。なら、さっきから会話に加わっているもうひとりの声はいったい誰のものなのか……振り向いた先に、答えが居た。
「…仁君?」
「……よぅ…」
「「「―――――あっさり見つかったーっ!!?」」」」
探してる時は見つからないくせに、見つからないと思った途端に現れた……仁だった。
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「仁君……今までどこに……」
「怪しかねぇがな、仕事をしてた」
ネギは仁を目の前にし、聞きたいことを言い出せずにいた。違ったらどうしようという、そんな些細なことなのだが、ネギにとっては大きなことなのだ。
何故なら、もし違うとなるとならば本当に何者なのか悩んでしまうということに対しての怯えと、自分よりも少し歳上な彼の “親” は一体どうしているのか、それをも考えてしまいそうだったからだ。
しかし結局は自分の保身しか考えていない、そういうのはいけない! と、意を決してネギは仁に問いかける。
「仁君、ちょっと聞いてもいいかな?」
「……どうした…?」
「君は、マスターが発端の吸血鬼事件の時から僕を助けてくれていた……砲撃の人なの?」
「……ああ」
「……そうなんだ。ごめん、変なこと聞いt―――――へ?」
「……俺が砲撃の人とか、そう呼ばれてた人物で間違いはねぇよ…」
「「「「―――またもやあっさり!?」」」」
何かしらあるんじゃないかと思っていたネギ達は、仁の余りにもあっさりとした返しにもう一度叫んでしまう。
「あ、あの……助けてくれた理由って……何?」
「……詳しい事は言えねぇがよ、あんたらも知ってるある “爺さん” から “危なかったら手助けするように” ってぇ、言われてーからな……」
しばし呆然としていたネギ達(依頼主の正体に心当たりがあったかもしれないが)だったが、木乃香が一歩前に出て笑いかけた。
「ありがとうな、仁君。ネギ君達、手助けしてくれて」
「あ、あっ……ぼ、僕も! 僕からもお礼を言わせて! マスターの時も、京都の時も有難う、仁君!」
「アタシからもお礼を言うわ、ありがとね」
「……おう」
仁は苦笑したように顔を僅かに歪め、ポケットから取り出したシガレットを口にくわえて彼らに背を向け歩き出した。
「……今後とも宜しくな、青ネギ」
「うん! ……って僕な名前はネギだよ、青ネギじゃないってば!?」
必死に叫ぶが仁はそれを聞き入れず、代わりに手を上げひらひらと振る。仁の姿が見えなくなると、ネギはほっとため息をついた。
「謎はまだあるけど、一応一つ目が解決しちゃったわね」
「不思議な子やなぁ。なんか、ネギ君達と同い年って感じがしないわ」
「ネギと小太郎に比べて背丈も若干高かったし、どっちかというとネギ達のお兄さんて感じかな」
「……次会ったら、ちゃんと名前を思えてもらわないと!」
談笑と密かな決意のもと、ネギ達は教室へと向かうのだった。
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「……つーことは、まだ戻れねぇのか」
『うむ、そういう事になるのぉ。年齢詐称薬をもう一回飲めばなんとかなると思ったのじゃが……
』
「効果切れたらガキに逆戻りだったもんな……それより、俺から伝える事がある」
『何じゃ?』
「正体を明かしました、以上」
『な!? なんで正体を明かしたんじゃ! 不味いぞ、そんな事をすれば…………………いや、何がまずいんじゃ?』
「今自分で言ったこと否定すんな」
元々仁は、 “ネギ達の手助け兼修行相手” として呼んだのであり、正体がバレること前提だったのに、仁が隠れまくっての攻撃のみに徹するから、いつしかバレてはいけないんじゃないかという思考が出来上がってしまっていたのだ。
『元はといえばお主のせいじゃぞ!』
「……だよなぁ……でも、めんどーせぇんだ、致し方なし」
『なくないわぁ!!』
携帯電話が壊れそうな程の音量で近右衛門は怒鳴ったあと、少し呼吸を落ち着かせて真剣な声で話す。
『バレたなバレたでよい……これからは、積極的にネギ君達を手助けしてやるんじゃぞ、良いな』
「……あいよ」
『ではの』
そこで通話は切れ、仁はポケットに携帯をしまうと一言呟いた。
「……めんどーせぇ…」
今日一日の始まりを告げるように、仁の頭上を小鳥が囀りながら、通り過ぎていった。