有るはずのない “本” 、得たくはない “確信”
仁は戸惑っていた。
何時も通りに人気のない場所をブラブラしていただけだったのに、此処ではあり得ない“ソレ” を見たからだ。
“ソレ” は仁の知識の中にはあったが、麻帆良学園にあるはずのないものであり、 しかし自分という前例があるからこそ、信じざるを得ないという気もあがっている。
仁にとっては願ってもない “ソレ” だが、一体何故此処に現れたのだろうか。……仁は無言のまま “ソレ” を手にし、ボソリ呟く。
「何でコレが此処にあるんだ……? これは―――――
―――俺の元いた世界の文献じゃねぇか……」
無造作に散らばった “文献“ を眺め、仁はもう一つ―――他の本は廃棄物同然で、それしかなかった―――無事な本を拾うと、その場を去っていった。
幸いにして、誰にも見られることなく、感づかれる事無く。
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「だー…クソ……解読めんどーせぇなぁ……」
文献とメモ帳を開き、解読しながら仁は頭を掻いていた。 元々、仁はそこまで頭の悪い方ではなく、寧ろ頭のいい部類に入る。
解読するのはめんどーせぇけど、何も分からないのはもっとめんどーせぇという理由と、独器の情報の大半が古来の文字で書かれた文献ばかりだったからという理由で、古代文字の勉学も独学で行っていたのだ。
住居に帰ってから十数時間解読し続け、破れて分からない部分やかすれて読めない部分も結構あったが、なんとか読める部分を解読することに成功し、文字を書く事に集中して詳しく読んでいなかったそれを、改めて読み始める。
例に漏れずこの文献も、どうやら “独器” に関するものらしく、収穫はあったと安心で仁はため息をつき、読み進めた。
「…… “化物が宿る独器達は、全部で三十を超えるだろう。 自分たちの世界が、星が、巨大だったことを喜ばずにはいられない。
この星が大きかったからこそ、そして互いの力が拮抗していたからこそ、化け物達はこの世界を滅ぼさずにいたのだと思う。
数々存在する大陸なかで、幾つかあるウチの大きな大陸、それ一つの3つ分け内一つを一晩とかからず滅ぼしてしまい、自らの陣地となしてしまう彼らにとって、たとえ一匹だろうともその力と巨躯を持ってすれば、破壊は無理だとも世界に巨大すぎる傷を残すにはあまりに十分すぎるだろう。”
……なんつーバケモンだよ。つーか拮抗してたんなら封印する順番とか考えなきゃいけなかっただろうに……よく封印できたな、オイ」
3つ分け内一つ―――つまり一つの大陸の三分の一を一晩とかからず滅ぼしてしまうとなると、その力の強大さは、途轍もないものだろう。
そして『自らの陣地となしてしまう』との弁を信ずるなら、単なる “破壊” ではない可能性がある。
……かと言って。
もし破壊ではない場合、本当の意味で『滅ぼす』気になった場合、どうなるのか考えたいモノでもないが……。
しかし、この内容が載った文献は薄い上にこの文章のある場所しか残っていなかった為、まだ続きがあるらしいこの文章を……しかし読み進めることはできない。
仕方なく、仁は次の解読文を読み始めた。
二冊目の元の筆跡は、筆圧の弱いものが書いたらしく薄かったが、これを読むことでそれが分かると仁は思っていないし、そもそもわかる必要がないので、無視して解読を続けたのだが。
「…… “自分は気付いたのだ。独器を使う内に、これの力の度合いにはある段階があることがを。” ……段階? “奥ノ手” の事か?」
興味深いもんが出てきたな、と仁は読み続ける。
「…… “しかし、これは自分の独器の特性のおかげでわかっていることかもしれないだろう。だが、記しておく。
まず最初に、これは《伝承による化物の説》が正しい事を前提にしたもの。力はともかく、中身が真実か定かでない事は了承していてほしい」
注意文句の後、いよいよ本題が始まった。
「一つ目は言わずもがな “化物の力を『使う』事。
そして二つ目が化物の力を独器に『付ける』事―――付けた力と同時に力を使へば、少なくともいつもの2倍の力は出るだろう……これを “奥ノ手” と呼ぶ者もいるらしい。 ここまでならば、到達する者は数いるだろう。尤も『使う』事と『付ける』事を極めるには、三つ目が必要なのだが” ……こっからは、俺の知らねぇ事だな」
自分が漁っていた古代語の文献は、どれも一般閲覧可能な物や表層部分をなぞったものばかりであり、仁はこういう代物を見たことがなかった。
面倒臭さに見合ったことが載っていればと、仁は紙をめくった。
「―――
“三つ目は化物の力を『引き出す』事。
こればかりは憶測でしかないが、自分が思うにいつも使っている独器の力は化物本来の力ではなく、封印しきれず漏れ出ている力を制御しているに過ぎないのではないかと推測している。
内に眠る力を引き出しそれをも操ることによって、独器本来の力を得ることが出来るのではないだろうか。
自分の持っていた独器が戦闘向きではないからこそ、そして自分が学者であったからこそ、憶測とはいえこれに気づけたことは収穫だろう。
そして四つ目だが、これは私は至っていない境地であり、他人の物とは言え、これを離れた場所からとは言え、見れた自分はとてつもない幸運だと言えるだろう。
……その際に負った重症のせいで所為で、私の寿命はもう僅かしかないのだが”
―――どーな代物だよ、四つ目って…」
離れた場所から見ただけで命を縮める重傷を負うなど聞いた事がない。だが、仁にはある心当たりが有り、それを思い出して数秒固まり、ありえないと首を振った。
「いや、まさかな……」
自分の考えを苦い顔で無理やり否定し、解読文を読み進める。
「…… “これは三つ目以上の憶測になるだろう、しかしあの姿から察するにあの段階、最終段階であろうその四つ目は―――
――――最大限に引き出した化物の力を、自らの体に―取り――事であろう。
自分が見た独器使いの姿は、独器に――されている化――その―――をしていた事、手加減ですらない何でもない手のひと振りで、軌道上にあった村が――――――だ事、軌道から外れていたはずの者……自分を余波のみで寿命を縮める大怪我をさせた事を考えると、引き出した―――の力を―――で、――化したとしか考えようがない。 その後どうなったかは意識が途絶えたので覚えていないのだが、噂にもなっていない所を見ると、その持ち主は死んだのか動けなくなったのだろう。
中途半端で申し訳ないが、私はこれで筆を置く。これを後世に誰かが読み憶測が確固たるものであることを証明する事、そして四つ目の存在を伝えてくれることを祈る” ……」
所々掠れて読めなくなっていた場所は省いており、その所為で何が言いたいのか、何が書かれていたのかが分かりづらい。しかし、心当たりがあった仁は、この文を見て間違いではなかったと確信し、間違いであって欲しかったと額に手をやった。
(……読めなかったが……恐らく四つ目の部分は――――『紬』が最後に見せた “アレ” だろうな……ここだけは、外れていて欲しかったっての……クソッ…)
仁は、自身が相打ちで勝利できたきっかけであり、相打ちに持ち込まれてしまったきっかけでもある、おそらく四つ目であろう “アレ” を思い出す。
(あの姿は……独器の
―――四つ目は引き出した力を 『取り込む』 事……! 力を取り込んで、独器の化物と一体化する事って訳だ……。村がどうこうって部分も、多分 “村が粉々にぶっ飛んだ” って奴だろうな)
「……だー…クソッ……!」
解読文を投げ捨てて髪の毛をわしっと握り、いつものとは違う鋭い目をした。それは、独器の力の恐ろしさを改めて認識したから……ではない。
(あの文献が散らばってた場所には……本棚の欠片みてぇなもんもあった……だからあれは俺の世界の遺跡から、コッチの世界に来たものに間違いねぇ。
……俺っていう事例があんだ。そして此奴が見つかったことで、俺だけがこっちに来てる訳じゃねぇと確信できた―――――
殺したはずの『紬』は、一応ということで探っていた黒衣の人物は…… “この世界に居る”。
今の自分と同じように、そしてどうやったかは知らないが…… “生きている”。
「……めんどーせぇ事に、なってきたな…」
帰ったときは薄暗く雲が掛かった早朝の空が、今は彼を嗤うかの様に青い空へと変わっていた。
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「仁……ネェ仁……何処ニ居ルノ? 前ハ感ジタノニ居ナクナッチャッタ……ドウシテ、カナ? マァ、別ニ良イカナ、今ハ。デモ何時カハ―――――
―――何時カハ見ツケテアゲルカラ、ソノ時ハ旅立タセテアゲルネ、仁♥」