時刻は午前九時五十二分。
もうすぐ開催される “第78回麻帆良祭” を前に、仁は建物近くのポールに寄りかかり、軽く睡眠をとっていた。
付近からは、謎の少年だのまた現れるようになっただの、宛らUAMの如き扱いで、しかも眠りが浅い仁の耳にバッチリ届いているため、彼は寝るに寝きれないと顔を歪ませていた。
やっぱりどっかを借りさせてもらって寝たほうがいいかと、彼は視線をベッドのある保健室に向け、でも対処できない厄介事はゴメンだしな……、と欠伸をして再び保健室の中を覗いた……その途端、
「……何…!?」
驚きのあまり、仁の目が眠気を飛ばしたように見開かれた。何故ならば――――
先程まで誰もいなかった保健室の中に、ネギと刹那がまるで瞬間移動でもしたかのように、いつの間にか呆けた顔で佇んでいたのだ。
仁が欠伸で目を閉じたほんの一瞬の間に、彼らはそこに現れたのである。
(……なんで、飾ネギの奴がソコに居るんだ…!? さっきまで居なかったはずだぞ…!?)
仁をよそに彼らは呆けた顔のまま保健室を立ち去っていく。
(……付いていってみるか…)
元々ネギの援護を引き受ける要因となったのは、面倒臭そうだが面白そうだという理由もあるからで、更に言えば何にも知らないのにいつの間にやら面倒くさいことになっているのも、仁としては嫌なことなのだ。
最近気配を消して尾行することが多いと感じながら、仁は彼らの後について行く。カフェに入って考えを落ち着けたあとに、何かから隠れるようにマスコット擬きの後ろに回った彼らの会話に、仁は聞き耳を立てた。
「ええーっ!? タタッ、タイムマシーン!?」
「こ、声が大きいです、ネギ先生!」
(……はぁ…!? タイムマシーンだァ…!?)
いきなり飛び出してきたトンデモ科学な言葉に、さすがの仁も動揺を隠せない。が、彼らは彼らで忙しいのか、気付かれる事はなかったようだ。
「僕ね、僕ね! 恐竜時代に行ってみたいなぁ~~!」
「おいおい…」
「あ……はは、子供ですね……しかし、怪しくないですか? その
「まあな。あの
「何言ってるのさ二人とも! クラスメイトは信じてあげないといけないよ! それに、これがあれば問題は解決するし! 学祭だって回れちゃうし!」
年相応にクルクルと回りながらはしゃぐネギの背後から、ある人物が呆れ声をかけた。
「何をはしゃいでいるんだ? ボーヤ」
「うわわっ!?
(……げ、金髪婆ちゃんか……厄介なの出て来たな……オイ)
「(なんか侮辱された気がするな……)それよりもボーヤ、何か面白そうなものを持っているじゃないか? ん?」
「え、ええと、これはあの…その…」
「なーに悪いようにはしない……それを此方に寄越して貰おうか」
「オ前ノ物ハ御主人ノ物、御主人ノモノハ御主人モノダゼ、ガキ」
「あ、あの、あのっ……」
悪人というよりいじめっ子のねちっこいオーラを受け、どうしようかとネギ達が焦り始めたその時、
「フフフフ―――ふへぶらぁ!?」
「御主人!?」
「うわっ!? 何ですかぁ!?」
何者かに引っ張られているかのようにエヴァンジェリンがクルクル周り、ネギ達は今度はなにかと辺りを見回す。すると、仁が建物の陰に隠れながら、こっちだと手招きをしている姿が映り、チャチャゼロとエヴァンジェリンがこちらから注意をそらしている間に、そこへネギ達は逃げ込んだ。
「め、目が回ったぁ~……い、いつの間にやらボーヤ立ちもいないし……というかなんで逃げたんだ…」
「人混ミニ紛レラレチャ、オシマイダナ、御主人ヨ」
エヴァンジェリンはフラフラと歩きながらも、ネギの持っていた物はホントになんだったのかと、思考を巡らせるのだった。
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「ハァハァ……た、助かったよ仁君」
「……おう」
「逃げてよかったんですかね?」
「当たり前だろ。こんなもんがエヴァンジェリンなんかに渡ったら、そりゃもうテーヘンなことになるのは目に見えてるってもんだ」
「……そりゃ、タイムマシンだからな。あの吸血鬼が使ーたら、お先真っ暗だ…」
「だよね―――って仁君、これがタイムマシンだって知ってるの!?」
「……ずっと聞いてたからな。それに、お前らがいきなり保健室に現れたの見てたしよ…」
「なるほどな、それで付いてきたってわけかい」
「……あぁよ」
ネギ達は一先ず息を落ち着かせ、これからどうするのかと話し合い始める。
「僕としては、思いもよらずに時間的余裕ができちゃったし……やっぱり学園祭をゆっくり見て回りたいかな~」
「確かに、そのタイムマシンで何回もやりなをしゃスケジュールに余裕は出来るけどよ、まだ使えるって決まったわけじゃねーんだぜ、アニキ」
「まずは超さんを探して話を聞くべきです。説明書もなしにこれを使っては危険ですから」
「決まりだな、超のやつを探すぜ」
「仁君はどうするの?」
「……俺は俺で用事があるからな……秘密も知れたし、ここまでだ」
「あ、あの!」
「……誰にも言ったりしねぇよ、安心しろ。……それに行ったところで信じねぇだろうし、かくいう俺も信じきれてねぇし……な」
「そ、そうなんだ…」
「じゃあな」
「うん! 次は格闘大会でね!」
手を振って去っていくネギ達を見やりながら、仁は渋い顔をした。
(……なんか、バックれにくい雰囲気になーちまったなぁ……)
出るかでないかをまだ悩んでいるらしい仁は、とりあえずは告白生徒阻止の為にパトロールだと、一息に屋根の上に登り、走りながら辺りを見回した。
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遠目に見えた今まさに告白をしようとしている女子生徒を、仁は風圧のみを飛ばす“脚力砲撃”で躊躇なく吹っ飛ばし、魔力溜まりから離れた壁面に当てて気絶させた。
(これで十六人目と……なんで何奴も此奴も、魔力溜りで告白したがんだ……)
近右衛門からもらった魔力溜まりの場所を記した地図を見ながら、仁はその魔力溜まり六ヶ所を転々とし、誰だろうと躊躇なく吹っ飛ばしている。
ほかの魔法使いと思わしき人達も意外と手段を選んでいないところを見るに、あながち非道いとも言い切れない。
(……気がついたらもう夕時かよ、オイ。……学祭巡れなかったじゃ―――いや、大して巡るとこないからいいか。コッチの方が金入るし、爺への恩も返せるし…)
と、仁が手を組んで伸びをしたその矢先、世界樹がぼうっと光り、一点から薄く光の柱が上がった。告白に成功した生徒が、ついに出てしまったようだ。
仁は、自分には何も出来ないだろうが行ってみるかと、あっという間に暗くなった空に紛れるようにして、空中を走りながらその場所へ向かう。
しかし、途中で明かりの灯った場所に出た為、仕方なくその場に降りてすぐさま走り出す。そして、大きな神社らしき建物の前を横切ろうとした、その時――――
「あ! 仁君、来てたんだ!」
(……ん? なんで青ネギの奴ここに…)
仁の言うとおり、大して慌てもせずに神社の前に立つネギが声をかけてきたのだ。よくよく見ると、何やら大勢人が集まっている。
(……何々……げっ、“まほら武道会、予選会場” だと…? 何で、こんな所に―――)
「凄いと思わんか仁! 格闘大会の賞金が、十万からさらに上がって賞金一千万円やて!」
「! ……一千万だ…!?」
妙なところに降りてしまったっとダルそうな表情をする間もなく、仁は予想外に釣り上げられた賞金を聞いて驚き、そんなまさかと張り紙を見て本当だったと知りさらに驚く。
学園祭が始まってから、仁は驚いてばかりである。尤も、驚くべきことが起きているので、当然といえば当然なのだが。
そばにいた夕映が、近くの人に話しを聞いた。
「すみません。何かあったのですか?」
「ああ。何でも、ある人物が複数あった格闘大会を纏めて一つにしちまったらしい。でも、そのお蔭で、伝説の格闘大会が復活したって話だぜ」
「伝説の格闘大会!?」
「ここ最近の麻帆良では、総合格闘技はあれど大きな格闘大会なんてなかったからなぁ、腕に覚えのある奴等が集まってるし、面白くなってきたぜ」
「はー……」
驚く彼らの後ろから、パトロールを終えた明日菜達がやって来た。
「どうしたのアンタ達? こんなところに来て」
「アスナさん、これを」
「ん? フムフム……って、賞金一千万円!?」
「そう! マジで優勝賞金一千万らしいぜ!」
「す、すごいわね」
「アスナさんも出てみたらどうですか?」
「一千万あれば、学費とかもろもろ全部払えるけど……でもな~」
「テコ入れのせいでギリギリまで参加者受け付けてるみてぇだし、行ってみろよ!」
「テコ入れとは?」
「なんでも、何者かが複数の大会をまとめて一つにしたらしいのです」
「と・に・か・く! 優勝して一千万だぜ野郎ども!!」
「へへっ、なんやしょぼい大会やと思てたけど……おもろなってきたわ!!」
(……人が集まってるせいで、飛んで逃げるとかできねぇし、人ごみのせいで後ろにも行けねぇし……チクショウが…)
一部明らかに乗り気でないものもいたが、とにかくネギ達は会場へと入っていくのだった。
次回から、武道会が本格的に始まります