麻帆良学園祭・中夜祭が世界樹の周辺で行われ、昼間の疲れはどこへやらと騒ぎまくる生徒達を尻目に、仁はとある山奥へと足を踏み入れていた。
理由は意外と単純。
180を超え、190代は普通にある身長からネギや小太郎と同じくらいの身長となってしまった体での、戦闘に慣れる為だ。
……『
(やるか……)
心の中で誰にともなく呟いた仁。
重心を落とし構えるが早いか、一般人では目視できない速度で足を振り抜くいた。
突風と風切り音が遅れて発生し、正面にあった木には深々と切り込みが入っている。
加減済み、且つ素の力でこれなら恐ろしい威力と言えるだろう。
が……仁本人は納得が言っていない様子。
(……やっぱ体が小せぇの軽いの、足も短いから威力出んのって……普通ならもちっと加減しても切り倒せるっちゅうに…)
体重と足のしなりがポイントであろう “鎌風” は、確かに彼の言うとおり小学生クラスの体では思うように威力が出ないのも当然の事。
ただ本気で打っ放てば木を切断できるという意味でもあり、そら恐ろしくなってくる。
仁は何の思考もせずに、続けて “脚力砲撃” を別の木に向けて放つ為に体の向きを変え、構えた。
脚を振るのではなく、正面に向けて蹴り放つようにして打ち出すのが “脚力砲撃” であり、馬鹿力と正確さ、そしてバランスがあればある程度の威力は確保できるため、仁がエヴァンジェリンに言った通り、『脚力砲撃はともかく鎌風は威力が出ない』のだろう。
「―――ッ!!」
またも目視できない速度で蹴り出し、正面の木へ圧を放った。
音速超えの証足る強烈な音が響き、関係ない樹木も衝撃波により揺れる。
対象であった木――――真正面の樹木は、足型のような大穴を開けられ、その後ろにある木も貫き、3番目の木へ深々跡を残し砲撃は止まった。
が、しかし仁は、これを見てもまだどこか納得がいかない様子を見せている。
(……脚の長さが足りねぇのか…? ……威力が思った以上に出てねぇ…)
どうやら今まで彼が気付いていなかっただけで、 “脚力砲撃” にも体長が関わっていたらしい。
気付いたからといってどうにかなる物でもなく、仁はため息と共に特訓を続ける
――――この男にツイていない部分があるのは、ため息ばっかり吐くからではないだろうか? 『ため息を一つ吐くたび、幸せがひとつ逃げる』とも言うのだから。
「シィッ! ………オラッ!」
遠距離攻撃を数回行ったあと、違和感の事ははひとまず置いておくことにしたらしく、仁はハイキック2発からの回し蹴りを開始合図に、近距離戦の特訓を始めた。
(……余裕があんなら……爺から教えられた
時刻は深夜0時40分。
しかし世界樹周辺の明かりは収まらず花火も止まず、仁の居る山奥からでも中夜祭ではしゃぐ者達の声が聞こえてくるようにも感じるのだった。
―――まあ位置関係の所為で見えてすらいないのだが。
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夜も明け、現在の時刻は4時10分頃。
(……早ーとこ行って仮眠でもとっとくか…)
仁は山から下り、龍宮神社前まで来ていた。準備自体はしてあったらしく、 “試合出場者はコチラ” という立札は有り、仁はその立札が指す方向へ歩を進める。
―――足枷はちゃんと付けてきたようだ。
「……はい、どーも―――って誰も居ねぇし…」
やはり朝早く来すぎた様で、仁以外には誰も来ておらず、大会関係者の姿も見えない。
まあ眠りが極端に浅い仁としては、誰もいない方が仮眠が取りやすいので、特に気にすることもなく其処らの床に座って目を閉じる。
そうして仁が寝てから恐らく一時間ほど経ったあたりだろうか、小さな足音に気づいた仁はダルそうな表情をする。
そうして数秒経った後、カラカラと戸を引き開ける音が聞こえ、仁が軽く目を開けて引き戸の方向を見やると、フードを被った何やら怪しい二人組が、仁以外いない上に彼は寝ているという事を見て、ホッと安堵したように入ってきた。
「お姉様……本当にこんな大会に参加してよかったんでしょうか?」
「何を言っているんですか
「お、お姉様っ……! 声が大きいですよっあの子が起きちゃいます……!」
「ととっ…すこし興奮しすぎたようですね……」
(………)
本当は彼女達がやってきた時の音で目が覚めているのだが、仁としては面倒くさい事お断りなので寝たふりを続けている。
暫く彼女達は会話を続けていたが、昨日仁のグループにいた金髪の青年・山下と道着を着た青年・中村、そして中華服のような服装の男・大豪院が入ってくると、彼女達は口元を隠して会話を止めた。
彼らが入ってくるのを皮切りに、怪しいフードをかぶった男・クウネル、スーツ姿の高畑、昨日とほぼ同じ中華服のアレンジバージョンを着た古菲、動きやすい服を選んだのか執事服を着た長瀬、そして顔と手以外の肌を見えない服で、龍宮が入ってくる。
皆それぞれに話をしたり、本番前の調整だと只管に拳や蹴りの鍛錬を行ったり(寝たふりをしたり)、皆思い思いに本番前の緊張感をやわらげていた。
と、丁度このあたりも賑やかになり、大会ムードとなってきたところで、引き戸がそーっと開けられ、まだ来ていない者達―――ネギ、小太郎、アスナ、刹那が入って来る。
「失礼しまーす…」
「お! 仁やんけ! 先に来とったんか!」
「……あぁよ…」
小太郎に名前を呼ばれたのともう寝た振りがいい加減ダルくなってきたので、仁ははっきりと目を開け(それでもダルそうなのに変わりはないが)返事をして立った。
「お前昨日おらんかったけど何しとったんや?」
「……試合前の調整ってとこだわな……」
「ははっ! そうか! 準備万端やんけ!」
高畑とネギ、アスナが何かを話しているのを横目に見ながら、仁は小太郎と取り留めもない会話を続ける。
その会話を終えた後、今度は高畑の方から仁に話しかけてきた。
「君が、ネギ君達をサポートし続けている人物―――で、合ってるかな?」
「……そうっすね…」
「ネギ君たちから聞いたところによると、誰からかの依頼で行っていたそうだが……誰からの依頼か聞いてもいいかい?」
「……ヒントぐらいなら…」
「ヒント、か」
「なんと言いますか……さしずめ“ぬらりひょん”の様な―――」
それを聞いて高畑は、苦笑と共に彼に返す。
「もう人物がある程度特定されちゃったんだけど…つまり君はその人と知人の間柄って事か?」
「そんな所、でしょうね。……いや、後一つ」
「……後一つ?」
「……… “命の恩人” てのも、ありますかね…」
「恩人、か」
「……はい」
仁の答えを聞いた高畑は少々思案したあと、苦笑と共にこう告げた。
「素性不明で疑っていたんだけれども―――これなら疑いと警戒のレベルをある程度下げてもいいかな。後の詳細は
「……そうっすね、そうしたほうが確実でしょうし」
「それじゃ、お互い頑張ろう、この大会をね」
高畑はどうやら仁の正体が知りたかったらしく、幾つかの質問を目をジッと見て話していたことから、害を与える人物かを判別したかったのだろう。
学園長からの依頼という事と、仁が悪人ではない事がある程度でも分かり、仁を見た際に多少あった緊張感が、今はないのが伺える。
『選手の皆さん、おはようございます!』
そして高畑がネギ達の元の戻るのと同時、朝倉と超が正面にあった階段から現れた。
『ようこそお集まりくださいました! 今より三十分後、試合開始となります――――が、その前にルール説明をさせてたいただきます! 本選は十五メートル四方の能舞台で行われる、十五分間での一本勝負!! 敗北となる条件は “ダウン10秒” “リングアウト10秒” “ノックダウン” “ギブアップ” の何れかとなり、時間内に決着がつかなかった場合は観客のメール帳票で勝敗を決めさせていただきます! 尚、試合時の反則等は昨日と同じく “刃物及び重価値等の飛び道具禁止” “呪文の詠唱禁止” となっております!』
朝倉がここまでの説明を済ませると、道着を着た青年が勢いよく手を挙げて質問をする。
「あの! 質問いいですか!」
『はい、なんでしょうか中村選手』
「呪文とか詠唱とかよくわからないんですが、技名は叫んでもいいんでしょうか?」
『え~っと…』
『技名ならば大丈夫ヨ、OKネ☆』
「よっしゃ!」
中村の質問の後、他に疑問・質問のある選手はいらっしゃいますかと朝倉は訪ね、他に2、3質問に答えると、もう質問する者はいなくなった。
それを見計らって、朝倉は締めの言葉を告げる。
『それでは選手の皆さん! それぞれの持てる力を存分に発揮し、優勝という栄誉を掴んでください!』
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選手控え室から出た仁は、そういえば俺5試合目だから結構間があくじゃねぇかと思い出し、暇つぶしに学園祭を回ることにしたようで、屋台で買ったモロコシといか焼きを頬張りながら歩いている。
少々時間が経ったあと、そろそろ第三試合くらい終わる頃かと龍宮神社特別会場・選手席に戻ってみると――――
「何言っとんねん、菲部長さんよ」
「うわっちゃあい!? な、何するアルかーッ!?」
「手加減しとるやつが腕の骨折るかいな」
「ほ、骨折れてるんですか、古老師!?」
「ちょ、ちょっとちょっと! 早く救護室に行かないと!?」
やたらドタバタしながら、4試合目の古菲が引きづられて出て行く所だった。あまりに早過ぎると仁が不審に思っていると、残っていた長瀬が彼疑問に答えるように口を開いた。
「なんで早く終わったのかといった表情でござるなぁ」
「……ああ…」
「その答えは単純明快、1~3試合目が速攻で終わってしまったからでござるよ」
「……あんたも、その速攻で決めた一人なんだろうがい…」
「ま、そうでござるな」
仁は大げさに肩を落として、やたら派手な試合だったらしくボロボロなステージを、未だ修復中な作業員を見るのだった。
次回、仁 VS 高音、開戦です。