試合会場から少し離れた、塔部分の屋根の上……そこに仁は座っていた。
逆さまになって座ったりすることはあるものの其れは所謂 “クセ” の様なものであるらしく、別段コダワリがあるという訳では無いようだ。
少々離れているにも関わらず、スピーカーから流れる朝倉の声はそこまで十分に届いた。加えて仁は目も良いので、能舞台の上に浮かび上がっているムービーもちゃんと見えている。
『2回戦は二十分の休憩をはさんで開始いたします! なお、2回戦からは観客の増員による混雑が予想されますので、なるべく詰めてみていただけるよう、お願いします!』
浮かび上がっている映像にはトーナメント表が描かれており、どうやら仁の次の相手は “青ネギ・白ネギ・玉ねぎ・飾ネギ”こと、ネギ・スプリングフィールドらしい。
『では! 一回戦のハイライトを第一試合からダイジェストでご覧頂きましょう!』
(……?)
その朝倉の言葉と映し出されたダイジェストに、仁は疑問を持った……電子的措置のせいで、ビデオカメラや携帯電話などの電子機器は使えなくなっていたのではないか、と。
大会側が撮るのならばいいのだろうか? しかし、もしこの映像が万が一にも外に流出していたら、魔法がバレる可能性を高めることになってしまう。
仁が使っている力は『独器』の “力” であって魔法など関係無いし、仁が一回戦でやったのは蹴飛ばしたということのみなので(それだけなら古菲という事例もあるので、馬鹿力でも一応の納得はできる)、バレた=仁に何かしらの被害が及ぶということは、一応学園長の関係者とはいえ考えにくい(近右衛門が仁の事を、大多数の人に納得できる内容で紹介していたら話は別かもしれないが)。
仁自身も、この世界に存在しているであろうもう一人の『独器使い』・紬を、向こうからではなく自分から探し出すまでは、どんな機関であろうと捕まるわけにはいかないのだ。ましてや、今以上に力を使って “彼女をおびき寄せてしまうこと” も……。
(恩を返すとか言ってる割にゃ、随分と都合のいい思考だよな……俺ァ)
そもそも、紬をもうこの世には居ないと思ったから、余裕があったから、仁は恩返しをさせてくれと頼んだわけであって、もし紬が生きていると知っていたなら、近右衛門に恩返しをさせてくれと頼まず、決着を付ける為に紬の方へ向かっていただろうことが伺える。
が、その二つは言ってみれば、“魔法関係の裏世界の存続” という、仁には到底手の及ばぬ事と、過ぎ去った時という、もうどうにもならない事。
夢を見た後だからか過去の事ばかり考えていたが、今そんな事を考えていても仕方ないと、仁は2回戦のため自身の “力” について思い返していた。
(そういやぁ……いつから本格的に手ぇ抜いてたかな……)
依頼でアメリカあたりに行った際に、コスプレイヤーに混じり見覚えのある 《黒衣の女》 を見つけてから、保険として今まで殆ど使っていなかった “力” を含め本格的に使わなくなり、そして同じ世界から来たであろう本と、京都で “ピリッ” としたモノを感じてから更に手を抜き……最初はアメリカだったかもなぁ、と仁は考えていた。
(……長ネギの奴、手ぇ抜きに抜いたままで勝てるような奴じゃないしなぁ……つーか別に俺ぁ、出るつもりなかったのになぁ……めんどーせぇなぁ)
だからといって、あまりに極端に手を抜いて負けたら、エヴァンジェリンやアスナが五月蝿いだろうし、ネギや小太郎は納得がいかないだろう。
(
結局、何時も通りに+αするしかないか……と、仁は屋根から降り、能舞台へと足を進めるのだった。
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一回戦とは違い、ウォーミングアップを入念に行ってから選手席へと入った仁は、ネギと女子生徒が何やら慌てているのが目に入る。どうやら、現状を見たことでやっとこさ、魔法がバレそうなのを理解したらしい。
仁にとっては魔法や気での強化等は出来ないし、大袈裟に空飛ばなければいいだけなので、そこまで慌てていなかったりもする。
「あ! 仁君、いい所に!」
「……あ?」
「実はね、ネットの方で魔法がバレそうになってて、だからあんまり本気を出したり、派手な技とか使うのはまずいかなって状況になってて!」
「それはもう不味いんです! 私達、オコジョ街道の入口に立っちゃってるんです!」
少し慌て気味に話す二人に、仁はやっぱりか……とは思いながらも冷静に(前述通り、慌てる要素があまりないからとも言える)返す。
「……あ~……要は、砲撃や鎌風撃ったりしなきゃいいんだよな……?」
「う、うんうん! そう!」
「……とかいって、自分だけ魔法を本気で出すとか――――」
「しないってば!? 本気で不味いんだって!」
「……分ーったよ……」
仁の返答に、ネギは今のところは大丈夫とホッとしたらしく、隣の少女ともどもため息をついていた。
と、ここで仁が気になることがあったらしく、ネギに問いかける。
「……小太郎の奴ぁ、どうした?」
「えっと、それはその……」
「負けたか、クウネルってのに」
「……うん」
「まぁ、負ける時は負ける、しゃーねぇわ。まだ若いんだしよ」
「仁君、僕達と年近いのに、結構大人な考えしてるんだね」
「……」
何回か言ったが、そもそも仁の体が小さいのは『年齢詐称薬』のせいなので、実際はネギ達と同い年どころか、高校2年生である高音よりも歳上である。
「じゃあ、先に行ってるね!」
そう言ってネギが能舞台に上がるのに、仁が遅れて付いていこうとしたとき、後ろに居たチャチャゼロと言う、エヴァンジェリンの従者である人形に声をかけられた。
「オイ仁。オマエニゴ主人カラ伝言ガアルゼ」
「……あ?」
「“後の事はどうでもいい、とにかくボーヤをコテンパンにしてやれ” ダトヨ」
「……そりゃ、あんた等にとっちゃどうでも良いんだろうがよ……めんどーせぇ……」
「オイオイ仁の坊主、まさか本当に本気出すんじゃあねぇよな?」
「状況によるな。……参加する気がなかったのと、負けたいのとじゃ違げぇしな」
「?」
仁が言った事が分からなかったのか首をかしげるカモだったが、チャチャゼロは何を言いたいのかわかったらしく、面白そうにケケケと笑う。
やがてアスナと刹那、古菲が選手席に戻ってきたのを仁は一瞬見やり、自身も能舞台へと上がった。
『第十一試合は………今、話題沸騰の子供先生で、八卦掌と八極拳の使い手であるネギ選手と、馬鹿力で高音選手をお空の星にし、一回戦を最速で終わらせた謎の少年・仁選手との、少年対決になります!!』
「……長ネギよぉ」
「いや、長ネギじゃないって―――――」
「派手な技は出さねぇ、けど接近戦だからな…………やるからにゃ、力入れーぞ」
「え?」
ネギが聞き返した、その瞬間、
『それでは十一試合目……レディー、ファイト!!!』
試合が始まった。
そしてネギは、彼の “力を入れる” の意味を、肌で感じることとなる。
「え? 消えて……」
「ネギッ上っ!」
「な――――!?」
「……
上空から来た、蹴りと共に。