―――時は、VS タカミチ戦 を、ネギが勝利で収めた少し後まで遡る―――
「う~ん、タカミチに勝ったのはいいけど―――」
「“勝たせてもらった” だ。間違えるなよ、ぼーや」
「うう……」
何かを言いかけ黙ってしまったネギを見て、アスナはしょうがないなと続きを促す為、少し前に出る。
「で? 高畑先生に勝ったのはいいけど……何?」
「あ、えっと……次戦うのは仁君だから、また対策を練らなきゃな~って……」
「クックック、ぼーやは不運だなぁ。一回目も二回目も格上と戦うことになるとはな!」
「あうう」
心底可笑しいと笑うエヴァンジェリンに、より一層落ち込むネギ。そんな彼を見て、若干慌て気味にカモが質問をした。
「なぁ、エヴァンジェリンさんよ。あいつに弱点とかねぇのか?」
「弱点はあるだろうな。だが、それを私が教えるとでも?」
「そ、そこを何とか―――」
「ま、弱点は無理だが……弟子が何も出来ずにボロボロになるというのは、はっきり言って面白くないし、師匠である私が惨めになるからな。あいつの “力” ぐらいは教えてやろう」
「あ、ありがとうございます、師匠!」
お礼を言ったネギの横から、訝しむような声でアスナが割り込む。
「ねぇ、エヴァちゃん。仁君てそんなに強いの? 確かに砲撃は凄いけど、はっきり言って高畑先生より強そうには……」
「甘いな、神楽坂明日菜。あいつの実力はタカミチに勝るとも劣らないぞ? バレないほど遠くから “蹴圧” を飛ばしてこれた時点で、それぐらいは気付いて欲しいもんだがな」
「あ……」
「それよりも! 仁の “力” て何なんや?」
「おっと、そうだったな」
コホンとエヴァンジェリンは咳払いし、不敵に笑いながら仁の力について語り始めた。
「まず、アイツは “魔力” も “気” も使えない、つまり素の力のみで戦っているのだ。これぐらいはキサマらも知っているよな?」
「あ、はい」
「そういえば、そうだったわね」
「……あれだけの力を持ていて、“気” が身に付かないのは不思議アル」
「……確かに、未確認生物レベルで奇妙やな」
「問題は、何故 “魔力” も “気” も無しに飛べるのか、ですね」
「そう、それこそが奴の “力” なんだよ」
「その力って、超能力とか?」
そこで一泊おき、エヴァンジェリンは口を開く。
「当たらずとも遠からず……やつの力は “自身・他人・無生物” 関わらず『飛ばす』ことが可能な力だ」
「マジか!」
「だから飛ぶこともできるし、矢を浮かせたり、京都で大岩を浮かせたり出来たわけね」
「なぁ、エヴァンジェリンさんよ、当たらずとも遠からずとか言ったが……本当のところは?」
「そんなもの本人に聞け。私はこれぐらいしか知らん」
「……だよなぁ」
実の所、エヴァンジェリンは京都から帰ってきた初日の夜に、仁の『独器』のことを聞いているので知らないわけでは無いのだが、自分ですら詳しく分かっていないのに、こいつらに話したって無駄に悩んだりアホなことを言い出すだけだろうと、嘘をついたのだ。
「でも、飛ぶだけだったら、あとは砲撃と鎌風に気をつければ楽勝よ! ネギ!」
「う~ん……でも仁君、 “脚力砲撃” でも障壁を破る威力を誇ってたのに、もし接近戦してきたら勝ち目ないかもしれないよぉ……タカミチと違って、接近しても鎌風があるし」
「でも、あのヘルマンのおっちゃんの時に鎌風の威力は大方検討付いてるで? あれよりちょっと威力が上がったぐらいで……」
「……仁君はあの時、僕達の邪魔にならないように鎌風を放つために、だいぶ加減してくれてたと思うんだけど……」
「うっ、否定できん……」
「しかも、何でもないような動作で客席ブチ砕いて蹴っ飛ばしてたからなぁ、接近戦も容易じゃねぇぞ、アニキ」
「タカミチの時もギリギリだったのに……今回はダメかも――――」
どんどん落ち込んでいくネギを見て我慢の限界に達したのか、アスナがガーッと吠えるように言葉を叩きつけた。
「もう! 高畑先生の時と同じでしょ! 負けてもともと、無理に気負うな!」
「そうですね。とにかく最初の一発を当てて、流れをつかむことが重要です」
「高畑先生の時と違って瞬動も何とか形になてきたヨ、あとは勝ちたいという思いを持つだけネ!」
「……うん!」
「確かに後ろ向きな事ばっか考えてもしょうがねぇな。そうと決まったら、もっと練習するぞアニキ!」
「勿論!」
タカミチの “豪殺居合い拳” の威力を見て、そしてこの数十分後、ネットで『魔法』が話題になり盛り上がっているのを見て、ネギは慌てながらも密かにこう思っていたという。
“砲撃と鎌風が直線的に使えないなら、中国拳法で押し切れるのではないか” と。
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能舞台にめり込んだ仁の蹴りを見て、その考えは甘かったと思わざるを得なかった。
『おーっとぉ! 開始早々仁選手の急降下キックが炸裂ーっ!! それを、ネギ選手はかろうじて避けたぁ!!』
あまり舞台を破壊していないからこそ、観客はあまり驚いていないのだろうが、ネギは仁の蹴りの威力に震えていた。
余計な破壊などなく、足型がくっきり残るほどの蹴り……すなわち、一点に集中された威力を持っていたことが伺える。
「……まだ、終わらねぇ」
「!?」
そして次の瞬間、仁はなんと
「うわっ!?」
「……ラっ!!」
その勢いのままに仁は飛び蹴りを繰り出してくるが、ネギは側転でこれを避ける。しかし―――
「オラッ!!」
「げふっ!?」
飛び蹴りの最中で未だ中に居るはずの仁が、何故かネギの近くにおり、そのまま無防備な腹に蹴りを繰り出して、派手に転がす。
(今……何が!?)
惑うネギ。その答えを、選手席のメンツはしっかりと見ていた。
「今あいつ、飛び蹴りの格好のまま横に移動したわよ!?」
「そして、そのまま蹴りつけた……!」
「お、おいおい! あいつの力って飛ぶことだけじゃねぇのかよ!?」
騒ぐ選手席だが、意外にもそれに答えを出したのは愛衣と呼ばれていた、魔法生徒の少女だった。
「あの~……あの仁君って子の力は、 “魔力も気も無しに飛ぶことが出来る” 力なんですか?」
「ああ、そうだけどよ……」
「その飛ぶ力っていうのは、魔法や気を使って飛ぶのと、原理は同じなんでしょうか?」
「いや、違うと思うがよ」
「なら……“原理も違うのなら、飛び方とかも違う” んじゃあ―――」
「! オイオイ、まさか!?」
彼女の言葉で気付いたらしいカモが嘘だろ嘘だろと頭を振る。
「なんてこった! こりゃかなり面倒くせぇ力じゃねぇかよ!」
「何よ、どういうことなのよエロガモ」
「いいか、普通の浮遊術はファンタジーでも想像されているみてぇに前を向いて飛ぶほうが早いし、極端に言えば、空中でも移動出来るようになるってモンなんだ。だけど仁の坊主の飛ぶ力は、飛ぶことに “特化” してやがると考えた方がいいんだよ」
「だから、それが何なのよ?」
「憶測に過ぎねぇけどな、おそらく仁の坊主の “飛ぶ力” ってぇのは…………『いつでも発動できて、前後左右どんな格好どんな体勢だろうと自由に飛べて、加速・減速・急停止・急発射もお手の物』って代物なんだよ。多分な」
「? それがどうマズイのよ」
「言うよりも見たほうが早いと思う。見てりゃわかるぜ」
仁の右ミドルキックを八卦掌独特の “円の動き” で受け流すネギだが、仁は 『蹴りを出した格好のまま』 前に動き、左ニーキックを撃つ。それは障壁を貫いて、ネギの腹に命中した。
追いすがるように跳んできた仁に、ネギも負けじと “魔法の射手装填パンチ” を打ち出すが、仁は 『空中で』 僅かに体の位置をずらし、『脚が地に付いていないのに少し横にずれながら』 回し蹴りを撃たれ、それを防御しても 『再びその格好のまま体が上に動き』、 蹴りを当てられてしまう。
フェイントと思わしき防風を伴う蹴りの後、仁は上に飛び上がり眼下のネギに狙いを定める。避けようと瞬動を行うネギだが、『いつの間にかネギの真上にいた』 仁は、『落下中に急加速』 して―――
「
「う―――わああああっ!!?」
最初よりもより威力を増した蹴りが、ネギがかすりながらも間一髪で避けたことで舞台に突き刺さり、開始時よりもよりクッキリと足型を残した。
「防いでも体の位置を “飛んで” ずらして無理やり当てられ、“飛ぶことで” 無挙動でも前に出れて、しかも “落下の加速” も出来て、更には……」
「ああ、もし投げ技を決められても、“一緒に飛ぶか、叩きつけられる前に飛ぶこと” で、回避と攻撃を同時に行えるし、空中で交錯しても “飛び続けて” 前出れば押し切れる、ってわけだ」
「“空中戦特化型” とも言うべきですね……!」
「いくら八卦掌でも、そんな無茶苦茶な動きに対応する技なんて無いアル」
「タカミチさんとはまた別の意味で、またとんでもない奴相手にする事になるたぁな、アニキ」
『仁選手! 不可思議な動きと馬鹿力でネギ選手を追い詰める! ネギ選手は防戦一方! ここからどうするのか!?』
(くじけちゃダメだ! もっと、なにか策を考えないと! 魔法を出さないなんて言ってられない!)
(……結構やるな青ネギの奴ぁ……、もちっと力入れーか……!)
お互いに数秒程睨み合い、そして―――――
「はああぁぁっ!!!」
「……オオオォォっ!!」
同時に駆け出した。